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01.『冷酷悪魔』からの求婚状

新作はじめました!

契約結婚×継母×もふもふものです。


 正直、普通の結婚は諦めている。

 けれど、それを家族に言うことはできず、シャルロッテ・ベルテが二十回目のお見合いに挑んだのは、三日ほど前のこと。

 シャルロッテは丁寧な字で長々と書かれた手紙を、小さく畳みながら愛想笑いを浮かべた。

 家族の視線が集中する中、頬を掻く。


「まあ……その、つまり。だめだったみたい」


 手紙は半分ほどまで挨拶の言葉が並び、たった一行お断りの言葉を入れたあと、挨拶文へと戻っていった。

 時間をかけて書いたであろう手紙に意味はない。要約すれば「お断りします」というそれだけなのだから。

 シャルロッテは向いに座る父、母、そして隣に座る弟を順繰りと見て極めて明るく笑ってみたが、効果はない。わかりやすく肩を落として落胆する家族に、シャルロッテは肩を竦めた。


「姉さんのよさがわからないなんて、あいつら全員目が腐ってるんだ!」


 弟のノエルは突然立ち上がり、額に青筋を立てて苛立ちを露わにした。目をつり上げて怒るものだから、シャルロッテは苦笑してしまう。

 お見合いがうまくいかないのは、相手の目が腐っているからではない。シャルロッテが少しだけ、変わり者だからだ。


「仕方ないわ。ノエルはあんまり怒らないで。可愛い顔が台なしよ」


 シャルロッテは隣に座るノエルの頭を撫でた。シャルロッテと同じ癖のあるストロベリーブロンドの髪が揺れる。エメラルドグリーンの瞳がわずかに揺れたあと、静かに座った。

 尖った唇から、彼の気持ちが静まったわけではないことを物語っている。

 シャルロッテは姉のことを自分のことのように怒ってくれる弟を持ったことが嬉しかった。


「姉さんはちょっと趣味が変わってるだけで、美人だし、性格だっていいし……」


 ノエルは納得がいかないのか、ブツブツと隣で文句を言い続けた。

 気の弱い両親がその様子を見て眉尻を落とす。


「きっといつか、運命の相手が見つかるわ」

「そうだそうだ。それまでずっと家にいたらいい」


 シャルロッテをどうにか励まそうとする両親が痛ましい。シャルロッテは二十二歳。この国――ニカーナ帝国の貴族の結婚適齢期はちょうど二十歳を過ぎたころ。帝都に住んでいる貴族の多くは十代のときに婚約者を決めてしまうことが多い。

 二十二歳で婚約者も恋人もいないシャルロッテは少し浮いた存在だ。

 その自覚はある。

 実際、既に普通の結婚は諦めてもいた。両親や弟が「絶対いい人が見つかる」と言うからそれに付き合っているだけ。


(でも、それもそろそろ終わりにしないと!)


 このままでは国中の貴族に手紙を書いて回りそうな勢いなのだ。最近では十歳年下の少年の釣書を見せられ、叫んだこともある。いたいけな少年の未来を権力で潰してはいけない。


「お父様もお母様も安心して。ずっと、この家にお世話になるつもりはないわ!」


 シャルロッテはニカッと歯を見せて笑った。

 両親と弟は同時に目を見開く。その顔を見て、親子だなぁと内心笑ってしまう。呆けた顔がよく似ている。


「姉さん、まさか……。家を出るつもり?」

「ノエルだって、あと数年もすれば結婚するでしょ? その時、未婚の義姉が同居していたら嫌じゃない?」

「絶対大丈夫! 結婚のために姉さんを追い出すなんて絶対しない!」

「はいはい。でも、ノエルはベルテ家のためにも結婚しないとだめ。それに、ここじゃ私の夢は叶えられないし!」


 シャルロッテが「夢」と言った瞬間、家族の肩が同時にびくりと跳ねた。

 わかりやすい。そして、やっぱり親子だなと思うのだ。


「それは……そうだけど。じゃあ、どうするつもりなのさ?」

「私だって色々考えているのよ。一つ目の案は、領地の田舎に小さい屋敷を買って、ひっそり暮らす。とか」


 ベルテ伯爵領は帝都からは遠く、寒冷地にある。一年の半分が雪に覆われるため、領地の管理のほとんどは現地に住む者に任せていた。その代わり、領主であるベルテ家は帝都で多くの貴族と繋がりを作ることに注力している。

 ゆえに、ベルテ家が領地を訪れるのは、夏のほんの少しのあいだだけだ。シャルロッテも毎年視察についていくのだが、夏は避暑によく、のんびりとした所だった。

 ノエルは顔を真っ青にする。彼は寒いのが大の苦手だ。暖かいと言われる帝都の冬ですら「寒い寒い」と言っている。それ以上に寒い場所に住むことを想像したのだろう。


「もしくは、牧場主と結婚する、とか?」


 帝都から少し離れると、牧場がたくさんある。

 牛や馬、羊などを育てているのだ。

 結婚をしないのであれば、弟の邪魔をしないよう領地に引っ込み静かに暮らす。

 結婚するのであれば、牧場主との結婚が一番理想に近いと思っていた。

 ノエルは青い顔を更に青くさせて叫ぶ。


「なんで姉さんはそんなことまでして、動物と暮らしたいんだよ!?」


 泣きそうになるノエルの顔を見上げながら、シャルロッテは苦笑をもらした。

 仕方のないことだ。

 ニカーナ帝国では、この反応が普通だった。


「仕方ないじゃない。好きなんだもの! 夢なんだもの!」


 シャルロッテは悪びれもせず言った。

 幼いころからの夢なのだ。

 

「それは知ってるけど。犬や猫と一緒に暮らすなんて、さ……。あ、ごめん」

「謝らなくていいわよ。それが普通の反応だって知ってるもの」


 ニカーナ帝国の人間は動物が嫌いだ。それは、この帝国の歴史が大きく関係している。ニカーナ帝国は海に囲まれた大きな一つの島だ。かつて、ニカーナの人間は海の向こう側の大陸に住んでいた。大陸には人間以外に多くの獣人たちが暮らしている。獣人たちは人間に比べ身体能力が高かったため、人間を奴隷として扱っていた。

 人間たちはそこから逃れ、この島で人間だけの国を作ったのだ。

 ニカーナ帝国では幼いころから獣人とは恐ろしい生き物だと教わる。獣人は人間と動物両方の姿になることから、身近にいる犬や猫なども毛嫌いするのだ。


「動物が好きなんておかしいかもしれないけど……。それでも私は犬と一緒にお昼寝したり、猫を膝に乗せて撫でまわしたりしたいのよ!」


 シャルロッテが叫ぶと、母の顔が紙のように白くなる。ふらりと倒れそうになる母を父が支えた。


「お忙しい中恐れ入りますが。お手紙が届いております」


 白髪を綺麗に整えた執事が、届いたばかりの手紙を銀盆サルヴァに乗せて、そっと父の前に差し出した。

 

「手紙など後で――……アロンソ家か」


 父は眉根を寄せた。温厚で、娘の趣味に苦言を呈することもない。そんな父が嫌悪を表情に出すのは珍しいことだった。

 手に取った手紙を開くと、父の表情がみるみるうちに険しくなる。


「父上、手紙にはなんと?」


 ノエルが焦らされるように聞いた。


「求婚状……だそうだ」

 

 それだけ言うと、父の視線がシャルロッテに向いた。白くなった母の顔はみるみるうちに青に変わる。

 そして、ノエルの手がわなわなと震えた。


「あの『女の敵』が姉さんに求婚っ!?」


 ノエルの声が部屋に響く。


本日は5話くらいまでUPしていくつもりなので、ぜひ読んでくださいませ。

ラストまでプロットできあがっているので、時間空けずにアップできるかと思います。

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