うん、逃げよう!
7/17 21時 ジャンル違いではと、感想を頂きました。
私も迷っていたので、ヒューマンドラマに変更してみました。ホラーの時と、内容は同じです。
「カナンが亡くなってもう1年だ。ヴィアンも母がいなくて寂しいだろう?」
なんだか嫌な予感。
「だから、新しいお母様を連れてきたんだ。嬉しいだろう?」
嬉しくないよ。突然何?
「こんにちは~。あら、貴女がヴィアンね。私はメルマイズよ、よろしくね」
現れたのは、ボッキュボンの私と年の変わらない少女だった。黄色の髪と茶目の瞳で、背の低い可愛い系だった。
私のように170cm近い女の、胸元くらいしか背丈がない。
「いやー、夜会で意気投合してな。こんなおじさんに冗談かと思ったんだけど、すんごくアタックされてな。照れるよ、はははっ」
そう、ですか。
メルマイズさんでしたっけ?
確かに父の若い時はイケメンの部類だけど、今は普通のおじさんだ。
うちは商売で儲かっている伯爵家だから、財産狙いかしら?
それとも爵位狙い?
父の子は私一人だから、男児を産めば家が継げるものね。
父だって、その気がなければ付き合わないだろうから、こんな性癖だったのね。
19歳だったかしら?
私より年下でなくて良かったわ。
ふーん、実家は男爵家ですか。
でもこれ、絶対私イビられるパターンよね。
だってメルマイズさんの笑顔が不敵だもの。
ああ、やだわ。こっち見ないで欲しい。
父に何を言っても遅いようね。
結婚式は準備して半年後に挙げるそうよ。
ああ、あちらは初婚なのね。まあ、そうでしょうね。
じゃあそれまでに、本性は出るのかしら?
◇◇◇
「ああ、ヴィアン。今日はメルマイズとデートなので、夕食はいらないよ。先に休んでいてね」
「フフっ、行ってきますわ。留守番よろしくね」
「わかりましたわ。行ってらっしゃいませ」
上機嫌で馬車に乗り込む父達を尻目に、私が勝手に侍従と呼ぶサイルティにお願いをした。
「このお金でメルマイズと、彼女の実家を調べて」
「おお、わかった。行ってくる」
闇に紛れて走る彼は私だけの侍従。
家人は誰も知らないの。
月夜の庭に、傷だらけで倒れていたのを偶然に助けて、衣装部屋で匿っていたら自然と懐いてしまった。
今も私と一緒に部屋で暮らしているわ。
その時はお母様が亡くなって寂しかったから、部屋に連れて来てしまったの。
まだ10歳くらいで、綺麗な顔立ちをしていた彼。
傷が多いのも心配だったけど、子供が誰かに追われているなんて、犯罪の可能性もあったから心配だった。
私はよく知らないけれど、悪い奴隷商人がいるから一人で出歩いちゃ駄目だと、お母様に言われたことがある。悪い人は子供を拐うらしい。
彼がもしそこから逃げているなら、尚更大変だしね。
だって可哀想だもの。
でも詳しいことは何も聞いていないの。
◇◇◇
戻ってきたサイルティに、メルマイズの調査結果を聞いた。
どうやら思っていた予想と遠くはないみたい。
彼女の家は武器商人、いわゆる戦争屋と呼ばれ、合法非合法合わせた商売をしているらしい。
下手を打てば、警らに捕まる危険な商売だ。
ああ、だから伯爵家を味方に付けて、隠れ蓑にするつもりなのだろうか?
じゃあメルマイズは、その代償の人身御供なのかしら?
彼女の体を父に差し出す代わりに、生家を守るための。
でもそんな奥ゆかしい感じではなかった。
なんと言うか、肉食獣の目つきだった。
父は騙されているのかしら?
◇◇◇
私ヴィアンは、母が死んでから外出が許されない。
ただ家庭教師が来る時に、応接室に移動するだけだ。
敷地以外に出るのさえ禁止されている。
「安全の為だよ」と父は言うが、今までと何が違うのだろうか?
以前は母方のお祖母さまから、手紙やらプレゼントが届いたけれど、今は梨の礫だ。
私が手紙を出しても返事すら貰えない。
サイルティは外にいる護衛の目を潜り抜け、深夜になってから行動を開始する。
私が依頼した以外のことも、いろいろ調べているようだ。
私は何となく自分の立場がわかってきたが、それが怖くて認められないでいた。
シュレーディンガーの猫状態だ。
真実を知れば戻れない。
今は真実を知らない状態だ。
いつまでも、このままでいることは出来ないのに。
◇◇◇
最近になり、家庭教師が来る時以外、部屋から出ることを禁止されるようになった。
食事は以前から部屋でしていたが、敷地の庭にも出ないように言われてしまった。
メイドは外扉にあるテーブルの上に、食事を運ぶだけで、部屋の掃除に来ることもない。
ずいぶん前から自分で行うようになった。
汚れた衣類やシーツは、廊下に出せば洗ってくれる。
いつの間にか洗われたものが、テーブルに畳まれ戻っている。
お陰でサイルティのことがバレることもない。
ここ最近、配膳される食事量が減っている。
1日3食から2食になり、内容もお粗末になった。
肉や魚のない少量の食事が続く。そして美味しくない。
舌に突き刺さる刺激があるのだ。
なのでサイルティが外出し、屋台で買ってくれた物を食べていた。食事はトイレに流し、証拠隠滅した。
サイルティがいなければ、怪しくても空腹で食べていただろう、きっと。それでなくても、少量の食事だ。毒が効かなくても痩せ衰えていくだろう。
部屋のトイレは水洗であり、汚れが着かないように加工されている。浴槽にもお湯がでるので、衛生面には問題はない。
入浴後に浴槽を洗い、時々トイレの掃除もしている。
床掃除はサイルティが来てから、彼がしてくれるので大変助かっていた。
衣類は、一人で着られる物を父が与えてくれた。
これは母が亡くなってすぐのことだ。
だから、だいたいの事を一人で出来るようになっていた。
単純に思う。
父は私が、自分から引きこもっている状況を作りたいのではないのかと。
◇◇◇
サイルティが、祖母に書いた手紙を出しに行ってくれた。
どうして会いに来てくれないの?
どうして手紙を出しても、返事をくれないの?
どうして私は、外に出して貰えないの?
半ば諦めの気持ちで書いた手紙は祖母に届いたようで、祖母が会いに来てくれた。
「ヴィアンは母親を亡くしてから、ずっと引きこもっているのです。誰にも会いませんよ」
父が大きな声で祖母に言う。
「バカなことお言いでない。ヴィアンから会いに来て欲しいと手紙が来ているんだ。通して貰うよ」
「嘘だ。手紙なんて届く筈ない………」
顔を青くした父がブツブツ言っているうちに、祖母は護衛と部屋に来てくれた。今サイルティは衣装部屋に隠れている。
「ああ、ヴィアン、会いたかったよ。どうして連絡をくれなかったんだい?」
出会い頭に抱き締められた。
久しぶりの体温に涙が出る。
「私はずっと手紙を出していたわ。受け取ってないの?」
訝しがる表情を窓から見える父に向けて、祖母は溜め息を吐いた。父は外から、こちらを窺っていた。木の陰にいるから、気づかれていないと思っているようだ。
「やっぱり、とんでもない男だったんだね。
ヴィアン、驚かないで聞いておくれ。
社交界での貴女の噂は酷いものなんだ。
母親が死んでから部屋に引きこもり、メイドや侍女に暴力を振るい、後妻にも暴言を吐いているとね」
私は想像していたことを現実にされて、言葉を失った。
ああ、やっぱりそんなことをしていたんだ。
少しだけ信じていたのよ。
昔は優しいこともあったから。
「お祖母さま、私は父に部屋から出ないように言われているの。家庭教師が来る時だけ応接室に行くけれど、庭に行くのも禁止されているわ。手紙だって、屋敷の者でない人の手でやっと届いたのよ。
父は安全の為に部屋にいろと言ったけど、私の為なんかじゃないわ。
きっと私から軟禁していることがばれないようにする、自分の “安全”の為だったんだわ。いつの間にか雇われている護衛のような男が、いつも私を監視しているもの。
私殺されるのかしら?」
「なんてこと! 思っていたよりずっと酷いわ。もう此処には置いていけない。私と行きましょう、ヴィアン」
祖母は死にそうな顔をして、私の両肩を掴んだ。
私もここに居てはいけないと思っていた。
やっと助けてくれる人が来た。
見捨てられていなかった。
嬉しい。
けれど……………
「お祖母様、お願いがあるのです。
このままだと、真実が浮き彫りに出来ません。
お母様の死に、疑問があるのです。
だから、1日待って貰えませんか?」
私はサイルティが渡してくれた調査書を渡した。
お祖母様は顔を歪めて聞く。
「これは事実なの?」
「ええ、きちんとしたものです。不安ならばお祖母様も調べて見てください。私がまだ強い軟禁を受ける前に、依頼した結果なんです。お祖母様に手紙を出してくれたのもその人なんです」
「そう、そうなのね。信じるわ。だって貴女の味方だから手紙を届けてくれたと思うもの。でももっと深く調べるのは許してね。この情報は強みになるから」
お祖母様は、1日だけここに残るのを許してくれた。
「念の為に、邸周囲に護衛を2名程置いていくわ。
危ない時は大声で叫びなさい。必ず助けてくれるから。
ああ、本当は危険なことなんてさせたくないのに」
「大丈夫ですわ。きっと証拠を掴みますから。そして明日はお祖母様の元へ行きます」
私は確かな決意で告げると、心配そうな祖母はしぶしぶ応じてくれた。そして邸を後にしたのだ。
◇◇◇
その夜、何か月も見ていなかった父が、部屋に訪問して来た。
「今、少し話せるかい?」
「ええ、良いですわよ」
父は私の顔をしげしげと見つめ、元気そうだなと言う。
お陰様でと返せば、何でだ? と不思議そうに呟くのが聞こえる。
サイルティは外窓の下に隠れ、様子を探ってくれていた。
私はまだ殺気を感じない父を見て、窓に近づきサイルティに大丈夫と合図をする。すると彼は頷き、闇に消えた。
父が此処にいれば、執務室は手薄になる。
証拠を探すには、うってつけのチャンスなのだ。
今日はメルマイズも生家に戻り、彼女の部屋にも誰もいないのだ。そちらも見に行けるかもしれない。
「今日はお祖母様が来て驚いたな。お前は知っていたのかい?」
「いいえ、全くですわ。いつも手紙も来ないし、私の手紙を送っても返信もありませんでしたから、驚きました」
私も意外でしたわと、拍子抜けしたような顔で言う。
「そうか、手紙はいつもどうして出していた?」
父が探りを入れてくる。
私はいつものテーブルに置いていたら無くなったから、出してくれたんだと思ったと答えた。
「そうか、わかったよ。ありがとう」
そう言って部屋を出ていくが、口角がひきつるような笑みだったのは、余裕を無くしていたせいだろうか?
◇◇◇
「手紙なんて、私は出していません。本当です、信じてくさい」
執務室を調べていたサイルティは、慌ててカーテンの中に身を隠した。
入って来たのは、伯爵とメイドだ。
「じゃあ何故、手紙がババアに届いた。出したんだろう、お前が」
「いいえ、いつもの通りに置いてあれば暖炉で焼きますし、最近手紙なんて見てません」
死にそうな蒼白の顔は、真実を告げているように見える。
けれど、彼は信じない。
「計画に穴が開いたらどうする気だ。せっかく順調だったのに。……お前はもういらない。信用出来ない。どうせお情けでもかけたんだろ? 阿呆が!
娼館で残りの借金を返すんだ。そこの護衛、連れていけ。ああそうだ、お前が従順に躾てからでも良いぞ。但し避妊はしろよ、後々面倒になるからな」
「はい、良いんですか? ありがとうございます」
喜色満面の護衛騎士。
「いや、嫌です。娼館に行くくらいなら、どんなご奉仕もしますから。助けてください!」
泣きながら縋るメイドに、伯爵は目もくれなかった。
「ほら、俺の部屋に来るんだ。たっぷり躾てやる。これ以上、裏切ったりしないようにな」
「いや、やだ、やだ、旦那様、旦那様ぁ」
バタンとドアが閉まり、メイドと騎士が部屋を出た。
「馬鹿な愛人だ。そろそろ切ろうと思っていたから、まあ丁度良いか。ハハッ」
どうやら彼女は、金を借りる為に愛人になっていたらしい。彼は裏切ったついでだと言い、娼館へ引き渡して資金を回収する腹積もりのようだ。
高笑いして明かりを消し、部屋から出ていく伯爵。
「最悪だな、あの男。本当のクズだぜ」
思わず口に出るサイルティ。
「まあ目的の書類は手に入ったしな。ここはもういいな」
そして彼は、メルマイズの部屋に向かうのだった。
◇◇◇
「おお、あるある。宝石やらアクセサリーがたくさんあるぞ。
あれ? この宝石箱、カナン・ビスチャーニと掘ってあるぞ。あいつの母さんのじゃねーか。まったくがめついねぇ。ついでにこいつの宝石も貰っていくか。慰謝料だ、なんてな」
あいつの部屋には、宝飾品もドレスも何にもなかった。
きっと全部、この部屋の女に取り上げられたんだろう。
こっちの宝石箱の中に、あいつのもあるかもしれない。
だから合法だな、うん。
そしてヴィアンの部屋へ戻るのだった。
◇◇◇
「なあ、お前。まだこの家に未練あるか?」
「……ないわね。証拠探ししていただけだし」
「そっか、じゃあもう良いんだな。証拠は集まったから、家を出よう。あの女の部屋から、お前の母さんの宝石を取り返したんだよ。後、執務室から書類も取って来た。バレたら危ねえから、今から出よう」
「ああ、これ。すごいね、サイルティ。うんもう行こう。外にお祖母様の護衛が待機してるんだ。見つからないように裏口から出よう」
「ああ、そうしよう。あ、この家の護衛は、今お楽しみ中だから、家の守りは薄そうだぞ、良かったな」
「? あ、うん。ありがとう。じゃあ行こうか」
私はドキドキだったけど、あっさり外に出られた。
父はメルマイズがいないので酒を煽って眠っており、護衛とメイドも部屋にいるらしい。
こうして私とサイルティは、お祖母様の護衛と共に隠していた馬車に乗り、お祖母様の邸に向かったのだ。
◇◇◇
「無事だったのね、良かった」
お祖母様の邸に着く早々に、心配で眠れていなかったお祖母様に抱き締められた。すごい力で潰れそう。
(でもありがとう、お祖母様)
そして執務室に移動して、人払いをして貰った。
「苦しかったのね、ごめんごめん。それで書類はどうだった?
あらっ、この書類まであるの? クズがごねて、これから時間がかかると思ってたのに。貴方、凄く優秀じゃないの。良くやったわ!」
私はサイルティをいつも助けてくれた友人だと紹介した。お祖母様は「手紙を届けてくれた子ね。ありがとう」と、あっさり受け入れてくれた。
お祖母様の横から書類を見ると、
爵位継承書類、除籍書類、養子縁組書類と3つもあった。
え、どう言うこと?
継承権の書類は、伯爵家は元々母が当主だったから、今は父が臨時の当主になっている。私が成人したら、継承権を移行することになっていた。
そして除籍と養子縁組の書類もある。
私を除籍すれば父は爵位もなくなり、生家の子爵家に戻らなければ平民になるわ。こんな書類を書くとは思えない。
「えーと、ヴィアン。俺、他人の文字を真似るのうまいんだよ。だから代筆的なやつだ」
サイルティは鼻を擦りながら、目をそらした。
「えー、見つかったら大変じゃない!」
彼が私のせいで捕まったりしないか、不安で泣きそうな声が出る。
「大丈夫よ。いざとなったら、私が本物だと証言するから」
お祖母様は、大丈夫よと自信満々に拳で胸を打った。
「えー、お祖母様まで、そんな」
大事な人には、危険な目にあって欲しくないのに。
「良いから、見てごらん。こっちが貴女の父親の、それでこっちはサイルティのさ。区別つかないだろ?
面倒臭くなれば、酔いながら書いていたと証言してあげるわ。
任せて!」
「いやいやいや、なんでドヤ顔なの? 二人して!」
「もう腹くくれ、ヴィアン」
「そうよ、あんな悪党なら良いのよ」
とかなんとか言って、私はお祖母様の養子に入った。
何故かサイルティも、お祖母様の養子に入っていた。
私はとても心配なのに、2人はビクともせずに平気そうだ。だから何だか力が抜けて、“まあ大丈夫かぁ”と、呑気に思えてしまうのだった。
◇◇◇
サイルティは没落貴族の三男だったらしい。
らしいと言うのは、覚えていないからで、幼い時に売られたのだそう。
少し成長してから、引き取られた先で聞いたんですって。
そこが詐欺師の家で、錠前開けとか、文書の偽造とか、気配隠しとか、格闘とかを仕込まれたそう。
「もうそれ盗賊じゃない?」と言うのを、喉の奥で飲み込んだ。
私の家に忍んだのは、後妻の金遣いが荒かったので、金を持っていそうと思われたんだって。忍び込もうとしたら、護衛に目茶苦茶打たれたそう。暗がりで何とか逃げたけど、私の部屋の前庭で意識が無くなったんだって。
私が見つけたのは、そんな時だったみたい。
それで私は何も聞かないし、サイルティも何も言わないから、そのままズルズル過ごしてしまったらしい。
私はサイルティが弟みたいで、放り出せなかった。
母が死んで、寂しかったせいもあるかもしれない。
サイルティは自分の年がわからないそう。
だからやっぱり、10歳前後かもしれない。
サイルティは失敗して帰れば、殺されるくらい折檻されるから、何も言われないならと留まっていたそう。
何か月も戻らないから死んだと思われて、万が一の為に詐欺師達ももうこの近辺から逃げている筈だと言う。
「他の奴もそう言う扱いをされてたから。きっと、そうだと思う」
真顔で言うのが切な過ぎた。
私が彼にお金を渡してメルマイズの調査を頼んだ後、彼はお金を帰してきたのだ。
(やっぱり依頼所に行くのは、無理だったのか)とがっかりすれば、自力で調べられたから使わなかったと言うのだ。
調査した物も、きちんと渡してくれたから信じられた。
とても綺麗な字で書かれていたのだ。
「この家よりガード弛いし、いろんな奴が出入りしていて疑われなかったぞ」なんて言うのだもの、驚いたわ。
それから彼が、「調べ物なら任せろ。捕まらない程度でやるから」と笑ってくれたのだ。
その後に、恩返しだから遠慮するなと付け加えて。
だからお祖母様の手紙もお願いしたの。
最後の頼みの綱を、彼に託して。
こんな未来が来ると思っていなかった。
あの時は食事も減らされ監視もきつくなったので、私が死んだら彼も逃げられなくなると思って依頼したの。
回復したサイルティに「逃げて良いんだよ」と言ったら、「見殺しにするくらいなら、俺も一緒に死んでやるよ」と、動かなかったから頼んだのよ。危険だってわかってたのに、あの時はごめんね。
でももう、サイルティは本当に自由なんだね。
ならもう心配ない。
今日から私がお姉様だ。
苦労させた分、甘やかしてあげるね。
なんて考えているのがわかったのか、顔を赤くするサイルティが言う。にやけた顔を向けたのが、良くなかったのだろうか?
「なんか俺の方が兄っぽくない?」
「えー、お姉様って言ってくれないの?」
言って笑ってしまう。
お祖母様も笑っていた。
「不服かもしれないけど、今日から私がお母様よ。よろしくね」
サイルティは照れながら、「はい、お母様」と、
私も照れながら、「お母様、よろしくお願いします」と伝えた。
はっきりした誕生日がわからないから、記念すべき今日をサイルティの誕生日にした。
サイルティは「俺の誕生日か、嬉しい♪」と走り回った。
夜は更け疲労困憊なので、もう眠ることにした三人。
そして翌朝、城に書類を提出し受理された。
◇◇◇
お祖母様、いいえお母様は子爵家の爵位を持っていた。既にお祖父様は鬼籍に入り、カナンお母様亡き今、近しい家族は私とサイルティだけだと言う。
土地も持たない、身分証明だけの貴族だと笑うお母様だけど、カナンお母様の伯爵家はお祖父様の家系なのだそう。
だけど父が、何処まで腐敗させているかわからないので、一度国に帰すことにした。
そのまま継いで、国が違法とする密輸品が摘発されれば、連座責任に発展するからだ。
父には告げず、『伯爵家の当主代理に経営は困難であり、次期後継者は子爵家に養子に入ったので、爵位を国に返還します』等の旨を書類に添えて城に持参した。
勿体ない、他に親戚もいないのかと聞かれたが、継いでくれる人はいないのでと押しきった。
実際に血の薄い遠縁しかいなくて、その人達に迷惑をかける訳にもいかない。
国に管理して貰う方が、領民の為にも良い筈だ。
◇◇◇
その後、子爵家の邸を売って隣国に越すことにした。
小麦と豆と酒の商会を持つお母様は、毎月一定の収入が銀行に入る。
今まで雇っていた護衛とメイド達は、付いてきてくれるが、侍女はわりと高齢だった為退職し、この国で子供と暮らすそうだ。
私とサイルティは、それぞれに家庭教師が付いて学んでいる。
私は今までも学んでいたから、それほど不便はない。
サイルティは、文字の読み書きも計算も得意だが、歴史とマナーが絶望的である。
「こんなの知らなくても生きていける」と騒ぐが、
私が「情けない弟ね。こんな程度で弱音なんて」と言えば、「こんなの軽くやってやるよ」と奮起してくれる。
可愛い弟なのだ。
そして戦闘も実践経験があるから、伸び代が広い。
「鬼気迫るね」と褒められて、嬉しそう。
ぐんぐん強くなって、騎士団へスカウトされそうな勢いだ。
「やっぱり体動かすの良いな。楽しいよ」
「そうね。似合ってるわ」
微笑むサイルティを見ると、私も嬉しくなる。
そして数年後、社交界デビューしたサイルティは、羨望の眼差しを受ける。
「素敵ですわ、サイルティ様」
「ええ、本当に。文武両道で美しいなんて」
「生粋の貴族と言う感じですわね」
「本当ですわ。騎士団でも出世頭だそうよ」
「「「良いですわね~」」」
なんて言われる日が来るのだ。
「噂なんて、適当だなヴィアン」
「本当のことも言ってたでしょ? サイルティ」
「俺はヴィアンがいれば良いよ。それで良い」
「もう、いつまでもシスコンだと、彼女も出来ないわよ」
「………にぶちんが」
「何? 聞こえないわ」
「もう、良いから。黙っててよ」
「はい、はい」
「いつも仲がよろしいですわね」
「美形姉弟、麗しいですわ」
「目の保養頂きました!」
なんて噂される毎日が、楽しく過ぎていくのだった。
◇◇◇
知らないうちに、伯爵代理を外されていたヴィアンの父。
「何かの間違いだ」と騒ぐが書類に不備はなく、伯爵邸からも追い出された。
「あんたが伯爵じゃないなら、もう用無しよ。それにメイドが盗ったのかしら、私の宝石箱もないわ。最悪よ!」
「今までいろいろ貢いだのに、酷いよメルマイズ。こんなに愛してるのに!」
「慰謝料取らないだけマシだと思いなさい。じゃあね」
「そんなぁ」
項垂れているところに、騎士団が駆け寄る。
「(娼婦に落とされた)元メイドからのタレ込みだ。
お前は妻の食事にヒ素を混ぜて、殺害。
娘にも同じ毒を混入したそうだな。
そして娘へは、母の死から立ち直れない、使用人に暴行する等と、素行が悪い噂まで流して軟禁してたそうだな。
それに男爵家の、きな臭い事業にも手を出していたそうじゃないか。
取り調べは長くなるな」
元メイドは「自分は無理やり協力させられ、さらにミスをしたら娼婦に落とされた」と、涙ながらに訴えてお咎めを逃れた。実際に娼婦にされたのは、ギャンブルの借金のせいだが、同情を誘い難を逃れた。逃れたのかな?
そうこうしているうちに、ヴィアンの父は40年の鉱山労働の刑、メルマイズの男爵家は取り潰されて借金も残り、家族ごと同じように20年の鉱山労働をすることになった。
「最悪、あんたなんかに関わるんじゃなかったわ」
「本当だ、殺してやりたい」
「そんな、酷いよ。俺だって裏切られたのに」
「なんで私まで」
「ママ可哀想。こんな奴殴ってやる、エイッ」
「ガコーン、酷いよスコップで殴るなんて」
「お前ら、真面目にやれ! サボれば飯抜きだからな!」
「「「「はい! 監督!!!」」」」
彼らはわりと、真面目に働いているそうだ。
食事を抜かれるのは辛いもんね。
「「「「なんで、こうなるの?」」」」
全員自業自得である。
7/4 13時 日間ホラー(短編) 11位でした。
ありがとうございます(*^^*)
7/13 13時 日間ホラー(短編)9位、22時7位でした。
ありがとうございます(*´▽`*)♪♪♪
7/18 22時 日間ヒューマンドラマ(短編) 58位でした。ありがとうございます(*^^*)
7/19 11時 日間ヒューマンドラマ(短編) 36位、13時に21位でした。ありがとうございます(*´∀`*)♪♪
7/20 8時 日間ヒューマンドラマ(短編) 20位でした。13時、13位でした。ありがとうございます
(*´∀`*)♪♪♪
7/21 9時 日間ヒューマンドラマ(短編) 9位でした。ありがとうございます(*>∀<*)♪♪♪