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暖かな布団


「さぁ 寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい!! ここに居るのはそんじょそこらの虎にあらず!!」


集落の広場の辺りに陣取ったミコトは辺りの人を集めるべく大きな声で売り文句を喋り続けた。

何事かと集落の人間が眉をひそめながら序々に集まってくる。

ミコトはある程度集まったかと見届けると、今度はパンパンっと大きく手を叩いた。


すると田を耕す道具を虎が付け、ミコトが後ろから耕し始めた。

虎は牛ほどの力が持続的に出るわけではないが、一生懸命道具を引いた。


「なんとこの虎!! ある雑技団で大人気だった優れ者だ!! どんな農作業だってすぐに覚えちゃうし。おまけに人間の言葉も理解できちゃう凄い虎だよ!!」


ミコトと虎の動きを集まった人々は無言で凝視している。


(こんな形で嫌々、やってきた芸の”覚える”能力が役に立つとはな)


虎は道具を引きながら微かに笑った。


「どうか皆様!! 是非 この虎の世話を見たいという方、どうぞ、前のほうに!! どうぞ、どうぞ!!」


ミコトは作業を止め虎の首に腕をまわしながらもう片方の腕で前の方に人々を誘導した。

そうする集まった人の中から一人、クワを持った男がずいっと前に出てきた。


「早点儿从这个村出去!  与虎和人一起不能居住吧!!」


男がそう言うと、他の人々まで一斉に言ってきた。


「请出去!」 

「请出去!」

「请出去!」


ミコトは大陸の言葉が全くわからない。

きっと、喝采を受けもう一度今のことをやって見せろとか言っているのだと思っていた。

しかし、虎の表情違っていた。

ずっと人間と暮らしてきた虎には大陸の言葉もそして、その意味も良くわかっていた。」

悲しそうな目で虎は、地面を見た。

残る道は一つしかない。

さっきミコトが言っていた、他の虎の棲息する森に行って野生に戻ることだ。

しかし、生まれたての赤ちゃんから檻の中で暮らしてきた虎にとって、それはもう飢え死にを待つ死刑と一緒だった。


その時だった。

どこかの民家の鶏が飛び出して、柵から逃げた。

半分飛び、半分走って、街道の方に向かう!


「我的鸡!」


誰かが鶏を見て叫んだ。


ドドッ!!


虎がまるで突然本性を現したかのように、鶏の方に向かって走り出した。

ミコトはビックリしてただ茫然と突っ立っていた。


あれよあれよと言う間に虎は鶏に追いついた!


バクリ!!


虎は勢いよく鶏に噛み付いた。

遠目でよく見えないが、あれでは鶏もひとたまりもない。

人々からは悲鳴まで出た。 恐ろしさのあまり、目を伏せるものもいた。


「と・・・虎さん?」


ミコトはポカンと虎の行動を見続けていた。

虎はきびすを返すとこちらの方にゆっくりと歩いてくる。

次は自分のせいだとばかり人々は散り散りになって逃げ始めた。


だが虎もまた歩速を早め、人を追った。

そしてさっき「我的鸡!」と叫んだ男の行く手にバッと身軽に立ちはだかった。

男は恐怖で動けない。

人々は遠目から男と虎に集中した!

虎の大きな口が男の目の前で開かれた!!




次の瞬間、人々が観たものは


鶏だった。

虎は食べてしまったはずの鶏を口から出した。

鶏には傷一つ付いていない。

男は何が起こっているのかわからずその場でしゃがみこんでしまった。

鶏も鳴きもせず、くちばしを開いて茫然としている。


虎はそうすると、またゆっくりと翻し、ミコトの方に戻った。


『行こう。ミコト。 もういいんだ』

「虎さん?」


虎は何も言わずミコトの横を通り過ぎ、この集落に入ってきた道の方に向かって歩いていく。

ミコトはよく理解できぬまま虎の背中を見た。

その悲しげな背中に、ミコトは何も言わずついていく事にした。


「请等候」


その時、さっきクワを持って人々の先頭で、虎とミコトに最初に文句を言った男が声をかけた。


「是真的不可思议虎・・・完全是人!」

{本当に変な虎だなぁ・・・まるで人間だ!}


ミコトは言葉の意味がわからず、目を瞬かせた。

虎は振り向かずただ足を止める。


「请住在我的家。 被大量不给予肉」

{ウチに来るかい? 滅多に肉なんか食わせてやれんがな}


ミコトはあわてて虎の背中をゆすって聞いた。


「と、 虎さん なんて言ってるんですか? 」


虎は少し振るえながら目をつぶり言った。


『生きて・・・・いいってさ・・・・・』

「ほ・・・本当に? 本当に?!!」


ミコトは涙を貯めて何度も聞いた。

虎はミコトの頬をベロベロと舐め、そして、そう言った男の方に歩いていった。


グルグルと大きく喉を鳴らして・・・・



その後、ミコトは心配で何度もこの集落をこっそり訪れているらしい。

元々、歳老いていた虎は、それからそこまで長生きはしなかった。

だが、虎が生きているあいだ、その集落では一匹のイノシシも狼も出ず、

作物は実り豊かであり、人々の笑顔の中に虎はいつもいたと・・・・。


まるで人間のように、家の中のあたたかな布団の上で最期を迎えたと聞く。


<終わり>


最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想など頂けたたら、ひっくり返って喜びながらゴロゴロ言うくらい喜びますので

是非、お寄せください。

ありがとうございました。

ミコトの旅はまだつづきます。

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