一 序章
私は飛堕川和夫、どうやら心臓発作で死んでしまったようだ。
幽体離脱して自分の体を上から見つめている。
良く映画で見る光景だ。
ぱんぱんの3Lサイズのパジャマ、良く此処まで太ったものだ。
苦しさに酷く歪んだ顔は元々酷いのでこの世のものとは思えなかった。
足も暴れたのか右側の足が、くの字に曲がっている。
以前は二階に部屋があったが、肥満で階段の上り下りが大変なので下の居間
の続きの部屋で暮らしていた。
それにしても醜いなと自分の顔を見ていると襖が開き母親が入って来た。
ちょっと間があり「ぎゃー 和夫が死んでいる! 貴方来て!」と叫んだ。
慌てて父親がやって来た。
そして恐る恐る仰向けに倒れている私の胸に耳を当てた。
「心臓が止まっている、心臓発作だ!」
「如何しよう?貴方!」
「取合えず救急車を呼ぼう」暫くしてサイレンの音がして救急隊員が
三人やって来た。
心臓蘇生を十分ほどしたが「心臓が止まっています。午後十時二十九分に
御臨終です。私達は引き上げますが、所轄の警察に連絡しておきます」
と言って引き上げていった。
警察と監察医らしい人が来た。
私の体を触診して叩いていたが「肥満による心臓発作です。事件性はありません」
と死亡診断書を書き置いて帰った。酒は関係なかったのか?
隣保班の人が五人程来て私の体の下にブルーシートを刺し込み旨い具合に
私の体を持ち上げ隣の仏間に連れて行った。
「やけに重たいなあ?」
「それが百五十キロあるそうだ」
「それに少し臭くないか?」
「デブだからじゃないか?」
「いいや、臭いが違う、これは糞の臭いだ。苦しむと出るようだ」
「じゃー 早く置こう」勝手な事を言いながら私を新しい布団の上に置いた。
テーブルのクロス引き要領でブルーシートを抜いた。
そして両親が来て礼を言い、母親が私に布団を掛けた。
「これから如何すれば?」と母親が隣保班の人に聞いた。
「後は葬儀屋とお寺に来て貰い葬式の日程を決める」
「もう十一時半になりますが来て貰えるのですか? 増してやお坊さんは?」
「菩提寺はありますか?」
「無いです。葬儀は初めてですので」
「じゃー 葬儀屋だけで良いですよ。葬儀屋に付いている寺は
沢山ありますからね」
母親は全国に展開している葬儀社に電話した。
直ぐに坊さんも一緒に来て枕経を揚げ、葬儀社の人は火葬場に連絡して
日程が決まった。
上で見ながらさすがプロだと感心してしまった。
読んで頂き有難うございました。