ズキきゅんにバレるの巻
「ゆじゅちゃん様子の方はどうかな?」
チャオロさんのお宅に来てから二晩経ったよ。
ゆじゅちゃんはこの家についてから熱を出しちゃった。
昨日はお昼に目が覚めたみたいなんだけどね。
夜になってかなりの熱でうなされちゃって自分では水も飲めないって。
朝ごはんにそう聞いたからね、
エブロきゅんとホウサちゃんと一緒に様子を見に来たんだ。
静かに部屋に入ってきたけどさ、
警護のサンサさんの装備がカチャカチャと。
寝ている人には耳障りだよねきっと…。
「ん~、まだまだ目を覚ましそうにないわね」
チマちゃんがこっちを振り向いて答えてくれたけど、
チマちゃんが食べてるのってチャオロさんがゆじゅちゃんにって用意した果物…。
ケンジャさんも一緒になって食べてるんだね。
「この疲労具合じゃぁ、一週間はかかるやものぉ」
この二人、ゆじゅちゃんが大変なのに何かのほほんとしてるんだぴょん。
「ケンジャさん達あんまり緊張してなさそうだけど、
本当に大丈夫なのかな?
ぼっきゅんの妹は熱が出たと思ったらコロッと死んじゃったから、
なんかちょっと心配だよ」
うん、三年前に二つ下の妹が病死しちゃったんだよね。
ちょっとそのことと被って見えちゃう。
「そうかぁ、だがゆじゅは病気ではなく疲れてるだけだから~、
これ以上は悪くなることはないぞぉ。
ゆじゅがケトシを出しっぱなしにしているから~、
ケトシに定期的に回復魔法を使ってもらっている~。
それで治らないのは純粋に体力がすり減っているからだぁ。
チマが果物を擦り下ろした汁をこまめに飲ませているからぁ、
順調に回復していくことだろ~」
「緊張してなくてごめんなさいね。
やれることは全てやって今は診ている事しかできないのよ。
持久戦になるだろうから休める時は休んでいるのよ。
気を揉んで治ってくれるのならばいくらでもするんだけれどね」
きゃ~、チマさんに嫌味言われちゃった。
よく見たらこの二人が食べてるの絞りかすだぴょん。
「ごみんなさい、口が滑ったぴょん…」
「いいのよ、あたしには謝ってもらう資格なんかないのよ。
ゆじゅがこうなったのはあたしのせいみたいなものだから。
この子はね、チビッ子い時は化け物みたいな強さだったのよね。
だからそれを基準にして見ちゃっていたのね。
あと気づかなかったけれど王族としての心も成長していたのね。
上に立つものとしてみんなを率いようとする責任感があったんでしょう。
でも自分の心の強さ以上に責任感を持ってしまったのね。
それがマルゴーサさんの死でドンと押しつぶされちゃったんでしょうね。
十年一緒に暮らしたあたしは気づいてあげるべきだったのよ。
近くにいすぎて全く見えていなかったあたしが歯痒いわ…」
「産まれてからずっとマルゴーサと一緒だった俺もショックだったけどさ、
こんなもんかって程度の思いしか感じてないよ。
家にこもりがちでマルゴーサに付きっ切りだったマイロにはきつかっただろうが。
家族の俺でさえこのくらいなのに、
なんで他人のゆじゅちゃんがこんなダメージ受けてるのかわかんないな…」
エブロきゅんがゆじゅちゃんを見つめながら言った。
「他人だからこそ余計に責任を感じたのよ。
少なくともあたしはそう思うわ。
ゴロドチャイクが海に沈んだ時に、
町の人の死を見て「他人じゃもの」って言い放ったのと真逆の考えだけどね。
それからのわずかな間に成長したのでしょうね。
成長は嬉しいけれど複雑な気持ちだわ」
チマさんはそう言いながらゆじゅちゃんの額のタオルを水で冷やしてる。
「ゆじゅちゃんがいないとあんまり話が弾まなくて、
ちょっと寂しいんだぴょん」
「そうですね、いつもゆじゅちゃんが話の中心にいたけれど、
いざ欠けてしまったら会話が途中で止まっちゃいますね。
ベアダにいたころはベアダ組だけで話が回っていたんですけれど、
旅をしている間にゆじゅちゃんの存在がおっきくなっていたのね」
ホウサちゃんと完全同意!
いつの間にか輪の中心になっていたくらいゆじゅちゃんは存在が大きいんだよね。
「そういえばフレヤの声が全く聞こえないわね。
あれの地声は壁を越えて聞こえるくらい大きいのに。
ホウサさんはフレヤと話している所をよく見かけるけれど、
結構気が合うのかしら?」
「そうですね、
フレヤさんに魔法を教わっているうちにかなり人となりが知れました。
気の良い人で話がはずみますね。
フレヤさんは昨日からチャオロさんの研究室にチャオロさんといるみたいです。
何をしているのかまでは知りませんが意気投合しているみたいですよ」
「あの二人が交わるとぉ、変な化学反応を起こしそうだ~…」
「ぼっきゅんはちょこっと様子を見に来ただけだからもう行くぴょん。
ゆじゅちゃんを起こしちゃうと悪いからね。
今だとズキきゅんが稽古してると思うから見学してくるね~」
「私は今日の魔法の練習が終わっちゃったからもうちょっとここにいるね」
ホウサちゃんがそう言うとエブロきゅんも椅子に座って腰を据えたので、
ぼっきゅんだけで庭に行こっと。
外へ出てみるとズキきゅんだけが木の棒を持って構えてたよ。
少し待ってみても全然動く気配がないな。
「ズキきゅん何してるのかな~?」と聞いてみる。
「コノか。ここ暫く剣の相手がボーベニルーディ達とばかりだったから、
基本の型が崩れてきた気がしてね、
剣を振る前に基本型を頭の中でなぞってたんだ。
エルディー国だと槍術と並行して普通は片手剣を左手の盾と併用して使うから、
左構えから始まる型を覚えるんだけど、
アガフォン達のツーハンドソードはフォム・ダッハが逆位で、
そこからバインドでツヴェルクハウを頻繁に狙って…」
「あ~あ~! ズキきゅんが謎の呪文を唱え始めたぴょん!」
「うぅ、すまん。簡単に言うと彼らは構えが普通と左右逆でやり辛いんだ」
大好きな分野になると一人語り始める人って結構いるよね。
ズキきゅんは剣術がツボだったか~。
「でもズキきゅんは盾を持ってないよね?」
「盾の持ち歩きは旅先じゃ不便だからな。
背中から取り外して両手で装着してなんて緊急の戦いじゃやってらんないだろ?
だから土魔法の鋼玉甲って魔法の甲手を盾代わりに使ってるのさ」
そう言った後に何やら一人で頷いて棒をゆっくり振り始めたので、
邪魔にならないように静かに眺めてよっと。
……。
………。
飽きたぴょん!
その素早さ、なんと十数えるまで持たない!
ぼっきゅんに忍耐を求めちゃダメダメよ。
「そういえばズキきゅんは女の子に振られちゃったんだよね。
ぼっきゅんを慰み者にしてもいいんだよ?」
って言った瞬間ズキきゅんがズッコケたきょん。
「二十年以上前の話を持ってこられてもな…。
それに今は俺以外誰もいないから振りをしなくてもいいんだぞ?」
「振り? どういう意味なのかな?」
全く意味が分からないぴょん…。
「偽物の匂いはなんとなく分かるんだよ」
「偽物って? 匂い?」
「コノは女装してるけど普通に女の子が好きなんだろ?」
はわわ! とんでもない返しが飛んできたぴょん!
「どうしてそう思ったぴょん?」
ズキきゅんが棒で肩をトントンと叩きながら返事をしたの。
「ふふ、語るに落ちたな。
否定しないで質問で返してきた時は大体図星で咄嗟の返事が思いつけない時だぞ。
何から話せばいいのかな…。
チマってことある毎に『あの男イケメンね』って言うだろ?
あれ、『恋愛対象外』って意味だって気づくのに俺は数年かかったな。
確かにイケメンでチマも好意的印象を持つらしいんだけど、
自分は恋愛をしちゃいけないって思って相手と距離を置こうとしてる感じがする。
個人的な事柄だから訳は聞いてないけどな。
あ、俺がこう言ってたことはチマには内緒な。
んでさ、コノが俺と話す時、そんなチマの様子と同じ雰囲気を感じるんだよ。
攻めた台詞を言ってても、これ以上はダメってラインが透けて見えてるぞ。
学生時代にホンモノと同室で過ごしたことがあるけど、
ホンモノはこれ以上はダメってラインを軽々と踏み越えてきて苦労したな…。
寝てる間にズボンを脱がされないように念入りに紐を縛ったりとか…。
おっと脱線した。実はコノが好きなのはホウサなんじゃないか?
んでもホウサが好きなのはエブロだろ。
大方ホウサに気を使わせないように自分を誤魔化すために女装を始めたとか?」
はうあぁ! 全部当たってるよ!
ズキきゅんはニブチン男子ってフレヤちゃんは言ってたのに!
「あうぅ、当たりだぴょん…。
女装のきっかけは言われたまんまだけれどね、
やってみたら自分の可愛さに楽しくなって今はかなり本気で着てるんだけれど。
ホウサちゃんもぼっきゅんを女の子として扱ってくれるようになって、
距離が近づいたのは嬉しい誤算だったきょん。
水浴びを見れたこともあったしご利益ご利益♪」
ぼっきゅん何言ってるんだぴょん!
「はいエロトーク頂きました~っ!
弱みを握った俺様にはもう逆らえません~っ!
さあて何をさせようか、まずはお約束の裸踊りでもしてもらおうかな~。
それともやっぱり公開エロ小説音読会いっておく? いっておく?」
ズキきゅんが豹変してぼっきゅんの周りを煽りながら高速スキップし始めたよ…。
子供っぽくて今までの印象と全然違うんですけど。
滅茶苦茶ムカつくんですけど…。
「う~…」どうしていいのか分からなくて唸るしかないぽよ。
「なんだ、こんな冗談で頭がフリーズしちゃったか。
てっきりエブロ辺りに弄り倒されて耐性ができてると思ったけど、
結構丁寧に扱われてたんだな」
それは違うんだけれどね。
「エブロきゅんはご想像通りにイジってくるけれど、
ズキきゅんのあまりの変貌ぶりに戸惑ったんだよぉ。
まさか今みたいな子供っぽさ見せるなんてビックリ!」
そう言ったらズキきゅんは照れ隠しなのか頭をポリポリ掻いてる。
「こっちが本来の俺なんだけどな。
近衛の兵装で馬鹿丸出しにできないからな~、窮屈な仕事だよ」
「いつもはちょっと固すぎる気もするけれど。
さっきの話ホウサちゃんには内緒にしておいてぴょん」
「勿論言わないさ、当たり前だろ。
それはそうと、ケンジャ様を呼んできてくれるかな?
今日は剣の方は終わりにしてケンジャ様に見てもらいたい魔法があるんだ」
「うん、行ってくるきょん。待っててちょ~」
フォム・ダッハ:剣先を真上に立てる構え
バインド:相手の剣を弾く叩きつけでここから技が派生する
ツヴェルクハウ:バインドから派生するカウンターの水平首切り
ズキは開幕に自分から見て右側から攻めてこられるので、
盾は無力化してるし型は乱されるしといいたかったらしいにゃ
半年以上の療養を経て連載再開だじょ~