双角傭兵団再び
一行は神樹の森を旅立ち一路西へと向かった。
相変わらず開発の進んでいない土地を歩き、
二日目には同数程の野盗に襲われたが、
ボーベニルーディの弓組の前には近づくことすらできず全滅していた。
そして野宿をして旅立つこと三日目。
午前中に一行は雑談をしながら歩いていた。
「へへ、俺のメイン魔道具の出番が待ち遠しいぜ。
レベル二の業火球を何発も撃てるんだぜ!」
エブロが魔道具の腕輪を掲げて自慢をしている。
「マイロ君の風刃のダガーも中々凄い性能だと思うな。
一日に二十発も詠唱なしで連射できるなんてな。
瞬発力じゃこの中でも一番なんじゃないか?」
ズキがマイロの魔道具を褒める。
レベル一とはいえ二十発を連射できるとなればかなりの戦力だ。
買うとしたら相当の金額になるのだろう。
ズキに言われたマイロは恥ずかしさで俯いた。
「風刃のダガーは魔力を消費するのがなあ。
マイロの魔力がもっとあればもっと強いんだけどな」
エブロがそう言って弟に対抗心を持って言った。
「それでも魔法で発動する半分の魔力で済むんだろ?
それってかなり凄い事だぞ? 正直言って羨ましいな」
そう言うズキは確かに物欲しそうな顔でマイロのダガーを眺める。
「じゃがホウサさんの魔道具の多彩さのが妾には衝撃じゃ。
強い魔道具が十五個じゃぞ。歩く財産じゃのお」
「そうね全部売ったらいくらになるのかしら」
「浅ましいかな強欲のチマめ。 強さではなく金で計るとは…」
「貧乏人なんですぅ! 庶民なんですぅ! 全てはお金なんですぅ!」
「私もお金で考えてしまいました…」とミルカ。
「貧乏人仲間じゃ」
「王族が上から目線で何か言ってるわ。悔しいわねミルカさん」
「私は別に悔しくはないですが…」
「なんですって~! 嫉妬は庶民の権利なんですぅ!」
「チマ~、お馬鹿丸出しだぞぉ」とケンジャ様が呆れている。
「あぅ…」
「サンサさんの堅牢のチョーカーも地味じゃが頼もしいのお。
パーティ全員に恩恵があるのが大変によろしいのじゃ。
どのくらい防御力があがるのかえ?」
「これか、レザーアーマーを着た時くらいの効果があるぞ。
矢が刺さっても二センチくらいのダメージで済むはずだ。
打撃特性に特効があるから近接戦闘でも結構役に立つはずだぞ。
実際に試したわけじゃなくて鑑定結果を聞いた話なんだがな。
試すのは流石に怖かったからな」サンサはそう言って軽く笑った。
「ぼっきゅんの治癒の指輪も役に立つよ!
ヤオイ穴が切れてもだいじょうブイ!」
「ヤオイ穴ってなんじゃ?」
「ゆじゅは知らなくていいんです!」とチマが慌てて止める。
「そうだな~、ケトシが呼び出せない今、
唯一の回復手段だから治癒の指輪は重宝するぞ~」
ケンジャ様もさり気なく話題を戻そうとする。
「その点俺の槍は当たらなければ効果が発動しないから弱いな」
ムレジがそう言って背中の槍に手を当てた。
「いやいや、その会心の槍は当たればアーマーを貫くじゃないですか。
三十センチの木を貫通して見せてくれた時は吃驚したよ。
みんな中々に凄いアイテムを持っていると思うよ」
ズキがそういってムレジを褒める。
「妾も何か魔道具が欲しくなってきたぞえ。
移動補助の魔道具なぞ妾に合うと思うのじゃが」
「これ以上高速化を狙っているなんて。
ゆじゅのレベル三追風で充分にお釣りがくるでしょうに」
そんな会話の中、歩きつつシードルが後ろを振り返ったのをゆじゅが見た。
何かと思いゆじゅも釣られて振り返ると後ろ二百メートル程の距離に、
百人程の装備の整った集団が騎乗して行進しているのが見えた。
「シードル殿、後ろの集団が気になるのかえ?」
とゆじゅがシードルに話しかける。
「はい、殺気などは出していないのですが、
騎馬なのに我々を追い抜くでもなく先程から後ろを付いてきてます。
それで三日程でケンジャ殿の出番があるという話が気になりまして」
シードルがそうゆじゅに説明した。
「よし見てみるかえ。 …Lv1千里眼」
そう言ってゆじゅが千里眼で後ろの集団を見る。
集団は揃いの装備を整えているので一見して野盗などではないと分かる。
集団はめいめいが雑談をしているのが見え、敵の感じがしなかったが、
ゆじゅは一つの装備に目を留めた。
「あ…、あの盾を見た記憶があるぞえ…。
……、間違いなく敵じゃな…。
以前エルディー組と一戦交えた、確か双角傭兵団じゃったか、
その傭兵団の印が描かれておるぞえ」
「げ、あいつらか~。ケンジャ様吹っ飛ばしちゃう?」
チマも後ろを振り返りケンジャ様に言った。
「むぅ、あそこの斜め前の丘、あそこに陣取るかぁ。
水平に爆轟塵を使うと狙いを付けづらい~」
そう言って道から少し外れた前方の丘を指差す。
「ではギリギリまで丘に近づいてから道を外れて一気に走って登りましょうか。
警戒したと思われたら襲ってくるでしょうから。
気配で後ろを警戒しますのでなるべくみんな後ろを振り向かずに歩きましょう」
オルジフがそう提案した。
一行はその提案に従い何気なく歩き続ける。
その後方の双角傭兵団。
「やっとこさこっちのことを把握したようだな」
先頭を進む三人のマントを付けた内の一人が言った。
「気付いてくれなければそろそろ追い立てようかと思っていた所だ」
もう一人が返事を返す。
「ようやく新兵共の仇が討てるな。
あいつら集めたばかりの新兵共を皆殺しにしてくれやがって。
まあ給料を払う前だったから痛くはなかったがな」と最初の男が笑った。
「しかし新兵共、丘下に陣取って一方的にやられるとは馬鹿だったな。
戦力の逐次投入なんかもやらかしていたと聞いたし」
「だが一人に六百人がやられるとはな。
壮絶な戦力の魔道士だな…。
今回も相当な被害を覚悟しなきゃなんねえ」
と三人目の男が警戒する。
「しかしハグマイヤー団長の予想通り西に進んだな。
奴等がこっちに気付いたタイミングも良い。
このまま素直に丘に登ってくれればいいんだが」
「登るさ。大魔道士が敵を把握したんだ、俺達を狙うなら定石通り動くさ。
そして罠にいらっしゃいだ」
ハグマイヤーと言われた男が答えた。
「予想じゃどのくらいやられる?」
「多くて四百だな。
騎兵で揃えたからそう何度も大魔法を撃つ暇はないだろう。
ま、実際は二百弱だと当たりをつけてる。二発は撃つだろうからな」
「多いな…。今回は新兵と違って半分は古参なんだから、
古参の被害が少ないことを願おうか」
「これで負けたら笑えねえな」
「笑ってるじゃねえか」
「負けるとは思ってないからな」
そう言って前の一行を睨むのだった。
一行は丘の麓近くまで来た。
丘は二十メートル程度の高さしかないものだったが陣取るには充分だ。
そして傾斜も浅いので一気に走って登れる。
「今だぁ、走れ~」
一行は予定の場所まで来るとケンジャ様の合図と共に道を外れ走り出した。
頂上までは約百五十メートル。
騎馬隊を相手だと登りきってケンジャ様がレベル五を唱えるのにギリギリだ。
一行は後ろを振り返らずにひたすら登った。
足の遅いミルカとケンジャ様が遅れるが、
ボーベニルーディ達が殿をして守った。
そして真っ先に丘を駆け登ったチマが見たものは、
丘の向こうに整然と並ぶ兵達の姿だった。
斜め後ろの林からも兵が湧き出てきあっという間に丘を包囲した。
「ケンジャ様、待ち伏せよ!」チマが叫ぶ。
敵はその数総勢千六百にも上った。
「罠だったか!」アガフォンが林から湧き出る敵を見ながら言った。
そして丘の上で一周を見渡しその数に息を呑む。
最後尾のケンジャ様も登り切り全体を見て唖然とする。
「こ、これは~、十六転陣! やられた!」
「十六転陣? 聞いたことがありません」
ズキが士官候補生時代の記憶を辿るが該当する陣形は知らなかった。
「一人の魔道士を倒すためだけの~、防御無視の陣形だぁ。
四つの主攻と十二の助功が入れ替わりつつ襲ってくる~。
一箇所を突破して逃げようとしても七部隊を倒す必要があるのだぁ。
これは勝てん……」呆然と立ち尽くすケンジャ様。
だが諦めずに頭をフル回転させて対策を考える。
陣形が整えば攻めてくるだろう。時間はない。
(これしかないか~……)ケンジャ様は決断した。そして即断で実行した。
「姫、これを持つのだ~」
ケンジャ様は自分の腰の短剣を抜くとゆじゅに握らせる。
「はえ? なんじゃ?」とゆじゅは不思議がる。
(圧倒的数の敵を前にして短剣?)謎の行動だと思う。
「もうちょっと上、そうここに構えて力を込めて~」
そう言ってゆじゅの構えを調整する。
「よし」とケンジャ様が一言言うといきなりゆじゅに抱きついた。
「は?」とゆじゅの頭が真っ白になった。
肉を刺した感触が何度も頭の中で繰り返された。
そしてゆじゅの手に温かい液体が滴るのだった。




