神様御乱心
神樹の森を形成しているタルヴィッキの木はエルディー国のとは違った。
一本一本の高さが五十メートルくらいあり太さも十メートル以上。
両方共にエルディー国で植林している物の倍くらいの大きさだ。
それ以上に大きな木もチラホラと見受けられた。
それらが大きく枝を広げているので木々の隙間はかなりあり、
森と言うには一風変わった印象を受けた。
かなり歩いた所に神樹の町はあった。
初めて来た者達は案内をしたトカという男に到着したと言われずば気付けない、
町はそんな森そのものの姿をしていたのだ。
家はダルヴィッキの木をくり抜いて作られたものが殆どで、
それ以外に木材で建築された家々も壁が蔦で覆われていて自然に溶け込んでいる。
初めて訪れた者達はキョロキョロと辺りを見回して感心した。
「あ、木の根元付近に取手が付いている!
もしかしてあれ扉なんじゃね?」とエブロが指さして言った。
「よく気付いたわね、あれが建物の入り口なのよ。
切り抜いた木の表面をそのまま扉として利用しているのよ。
中は結構広くて何階も階層があるから一つ一つが相当大きいわよ。
あたし達が案内される成人の儀に赴く人のための待機所も同じ作りよ」
知ったかぶりをしてそう言うチマも待機所以外には入ったことがない。
この町はそれ程に閉鎖的なのだ。
「町に入ったのに人の姿がないんですね」
「うっ…」
ホウサの質問に答えられずに言葉が詰まるチマ。
「町の周囲は倉庫になってるからこの辺にはあまり人は来ない。
居住区まではあと十分程かかる」
先頭を進むトカが振り返らずに答えた。
「この町には何人くらい住んでおるのじゃろ」
とゆじゅは素朴な疑問を発したがトカは「防衛上秘密だ」とだけ答えた。
しばらく歩くとチラホラと人の姿が見えたが、活気はなく村のように感じる。
最初自然と一体の神樹の町に感動した面々は他に目新しいものに期待したが、
寂れた村のような質素感にがっかりしつつ目的の待機所に到着した。
まあ、木の中の家に入った時は秘密基地に来たみたいで、
少年少女達はワクワクした。
待機所の中には他に誰もいなく、
自分達でなんとかしろという無責任さを感じさせた。
トカは室内にある明かりを灯す魔道具を起動させるとさっさと出ていった。
魔道具は天井に吊り下げられ昼のような明るさを灯す。
トカが触れたのは入口付近にあったので、
灯りとスイッチが二つでセットの魔道具なのだろうとウエイは思った。
夜に待ち伏せに使うのに便利そうな魔道具だななどと想像する。
一階には大きなテーブルが四つ設置されていて五十人は過ごせるスペースだ。
部屋の天井と壁は保護のためなのか樹脂が塗られており琥珀色をしている。
一行は荷物を壁際に置くと椅子に座り一息ついた。
「何? なんのおもてなしも無し?」とエブロが毒づく。
「ああ、俺達が来た時もこんな感じでほったらかされたな」
ズキが自分が来た時を思い出して言った。
「私の時もそうだったな」とサンサもズキに同意する。
「辛気臭い町だしな~んか期待外れだったな~」とエブロ。
「私も町長さんに面会くらいするのかと思っていました」
ホウサがテーブルに両肘を付き顔を手に乗せながら言った。
「活気が無いのは外部との交流がないからだな、
自給自足しているから市場とか立たんのだよ」ウエイがそう説明した。
「そうね、あたしは町中を散歩したことがあるけれど、
全く見どころのない町ではあったわね。
成人の儀も神樹の前で司祭役の人がなんか言っている間だまって立ってるだけ。
それも五分くらいで終わっちゃったからさ、
そんな事のために半年も旅をするんかい! って呆れたわ」
チマが自分の経験を語る。
「で、その散歩の時にキックを決めたのじゃな?
出会いがない~、とか言っておる癖に自分で出会いを蹴り飛ばしておるわい…」
ゆじゅは呆れ顔でチマを横目に言った。
「見るからにアホな奴だったのよ…」
などと普段通りの取り留めの無い会話でその日を終えた。
翌日の朝にトカと司祭役が訪れて神樹に向かうことになった一行。
司祭役が少し強面だったので子供達やフレヤは口数少なくついていく。
一時間程歩いた所で巨大な木の幹が見えた。
誰もが、あれが神樹なのだと分かる程に巨大だった。
更に少し歩いた所で司祭役の人が足を止め、
「なんということだ!」と声を張り上げた。
その声に一行だけではなく案内役のトカまでが驚いていた。
「何かございましたでしょうか?」とトカが尋ねる。
「神樹の下を見よ! ファイーナ様が示現なされておられるぞ!」
目を大きく開いた司祭役が震える声で、だが大きな声で言った。
一同も目を凝らしてみると確かに人が立っているのが分かる。
「人の姿は見えますが、何故それがファイーナ様だと?」
再びトカが尋ねる。
「以前夢で神託を受けた時と同じ姿だ。
淡い緑の髪の色、御召し物と佇まい。間違いなくファイーナ様だ。
ファイーナ様が示現なされたなど聞いたこともない。
此度の成人の儀は何があるのだ?」
司祭役は動揺しながら言った。
「ファイーナ様であられればお待たせするわけにも参りません。進みましょう」
トカがそう言い司祭役の背中を押すと司祭役はフラフラしながらも歩き始める。
一行も後に続き間もなく司祭役がファイーナと呼ぶ人物の前に辿り着く。
それは腰まである若草色の髪の毛をし、
白とベージュで作られた服を着た女性だった。
近くでまじまじと顔を見ると人とは思えない美しさを持っている。
エルフとは違い耳は短く人間と見た目の区別はつかなかった。
表情は非常に穏やかで微笑みながら一同を見渡した。
威圧感はないのだが一同はその雰囲気に気後れをした。
司祭役も何か挨拶をと思うのだが硬直してしまい全く動けない。
そんな空気の中、厳かにその女性が口を開いた。
「神樹へようこそ、胸貧しき民族の者達よ」
女性はそう言いチラリとチマを見た。
『バチンッ!』
女性の頬に吸い込まれるようにチマ得意のビンタが飛んで行った。
「い、今あたしの胸を見たわね!?」
チマがそう言いながらダンダンと地団駄を踏んだ。
それを見た司祭役がワナワナと震え、
「き、貴様! ファイーナ様になにをする!」と叫ぶ。
「あなたはお黙りなさい、今日あなたの出番はありません。
進行は私ファイーナが直に行います」
ファイーナはきつい目をして進行役を睨んだ。
そして独り言のように続ける。
「ああ甘美、甘美だわあ。胸貧しき者の嫉妬は私の糧ですわ」
そう言うファイーナ自身もそう胸があるようには見えない。
「いかん、エルフの神様はお馬鹿丸出しじゃ…」
ゆじゅが眉を顰めて呟いた。
「ムッキ~ッ! ま、またあたしのこと見たわね!」
「チマちゃん…、神様にマジ怒りの顔しておるぞえ…」
「だってこの中であなたが一番胸の才能が無いのですもの、ホホホ」
ファイーナは最初の厳かな雰囲気は見る影もなくゲスな表情で笑った。
「胸の才能ってなんじゃ……」ゆじゅが呆れる。
「チマよ、神託を授けましょう。
あなたの胸に惹かれる男は一生現れないでしょう」
ファイーナがチマの胸を指差して告げた。
「な、何と言うアホな神託じゃ…」
トカや司祭役も含め一同はポカンと口を開き頭の中が真っ白になる。
脳天気なフレヤですらである。
チマ一人が顔を真赤にして怒り、ファイーナに掴みかかる。
「オホホ、悔しかったら私以上に胸を膨らませて御覧なさい。
エルフである限り私以上の胸を持つ可能性はありませんが。
胸貧しき種族だからこそ私はエルフの守護神となったのですよ?」
チマは引き倒してやろうと思うがファイーナは岩の如くびくともしない。
神の力とでもいうのだろうか、神の力の無駄遣いである。
「ファイーナ様は胸に相当なコンプレックスを持ってるみたいね、にっしっし」
想定外の事に動じず楽しんでいるものが一人いた、パトリだ。
霧の森の時といい、どうもパトリは低次元な諍いが好物のようだ。
押そうが引こうがビクともしないファイーナ。
業を煮やしたチマは諦めたが最後っ屁でもう一度ファイーナにビンタをした。
「きっと他の神様にチマさんみたいに見下されたんだきょん」
コノが何気なく言った台詞がファイーナの逆鱗に触れる。
「そこのあんた今なんつった?」と口調まで変わるファイーナ。
「ごめんなさい!」慌てて謝るコノ。
「ちっ、胸が育たない呪いかけてやるか」
「ぼっきゅん男だから構わないけど…」
「じゃあそっちが育たなくなる呪いだあ!」
「はぎゃあ! 許してきょん!!」両手で必死に股間を隠すコノ。
「俺の評価基準は胸じゃないけどな」空気を読まないエブロが言う。
「ガキの、しかも男には分かんない話なのよ!」
ファイーナはエブロに駆け寄りエブロにヘッドロックして頭をグリグリする。
「いでえぇ! やめてくれえ!」
エブロが逃げようとしてもヘッドロックがガッチリキマってる。
「くそルドミラのこと思い出させやがって!」
「ルドミラとは確かドワーフの守護精霊神だな」
現実逃避気味のウエイが説明した。
「ああ、ドワーフの神か。聞くだけでデカそうだな」とサンサが相槌を打った。
「グダグダじゃのお…、成人の儀はいつ始まるのかえ…」
ゆじゅがそう言って大きなため息をついた。
「何ていうか、自分で話を振って墓穴を掘る所とかチマちゃんに似てるね…」
フレヤがゆじゅにそう言う。
「確かにのお。似た者過ぎて相性が悪かったんじゃの…」
結局ファイーナが静まるまで暫くかかるのだった。




