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到着

 クラーサの村から出発すること三日目。

お昼になる少し前くらいに「見えた~~!」と突然チマが大声を出した。

「なんじゃらほい!?」と吃驚(びっくり)したゆじゅがチマを見て言った。

「着いた! とうとう着いたのよ! 神樹の森!」そう言って道の先を指差す。

「見えぬのお、…Lv1千里眼」千里眼を発動して遠くを見るゆじゅ。

「でかい樹が一本見えない? それが神樹よ」

そう言われてよくよく見てみると、

大きな森の真ん中付近に森の倍の高さ程の樹が一本そびえ立っていた。

ゆじゅは更にその樹に向かって視線を拡大する。

「げえっ! もしかしてあのでかい樹は、

エルディー国にもあるタルヴィッキの樹かえ?

あんなに大きく育つものなのかえ…」ゆじゅはそう言って驚く。

タルヴィッキの木とは横に太く早く育つ樹木で、

エルディー国では植樹をした人工林が何箇所かあり、

村人が木造家屋を作る材料として重宝している。

「子供達は知らんと思うが、

エルフの守護神ファイーナ様はタルヴィッキの木の精霊神なんだぞ」

ウエイが自慢気に語った。

「エルフに守護神様がいるのですか?」そう聞いたのはロダだった。

「あら? ロダ君の時代にはファイーナ様はいなかったの?」とチマが尋ねる。

「はい、初耳です、皆さんが旅をしているのは神様へのお参りだったのですね。

僕はてっきり逃走の旅かと思っていましたよ」と一言多いロダ。

「逃走か…、帰りのことを考えると憂鬱になるな…」とマイナス思考のズキ。

「まあそのことは神樹の森に着いてから考えようぜ」サンサは問題を先送りする。

「オラはボーベニルーディさん達がいれば無敵だと思いやすが」

つい先日ボーベニルーディ達の化け物振りを見せつけられたマルゴーサが言った。

「いくらオルジフさん達でも無理だと思うわよ。

アガタ国じゃ国王に狙われているんだから、軍隊がでてくるわよ?」

チマがそう言ってため息をつく。

「軍隊ですか…。流石に完全武装の軍人が相手だと、

数十人相手に拮抗するのが精一杯ですね。

防御を突き破れるのはオレークしか居りませんから」

オルジフは虚勢を張らずに分析をした。

軍人がどういう装備なのかは見たことがないので分からないが、

以前村に来た商人の持ってきた防具などを参考に軽く頭の中で計算してみたらしい。

革鎧の下に鎖帷子を着こまれ盾を持たれたら弓手組では手が出だせないだろう。

「だから着いてから考えようって。御神託があるかもしれないだろ?」

マルゴーサ、ロダとボーベニルーディ達は御神託というものが分からないが、

「御神託とは神様の助言ですよ」とのズキの言葉に納得した。

「俺はホビットとのハーフだが、

ホビットの守護神ロンデリーの加護を受けているので良く分かる。

サンサの意見に同意するさ」とムレジも意見を述べた。

「じゃあ、神樹の森に急ぎましょうよ!

ここからだと二時間もあれば入り口には辿り着けるでしょ。

そこまで行けば神樹の森の守護者をしているエルフ達に守ってもらえるわ。

後ろを見ても誰もいないしこのまま到着できるでしょ?」

チマはここまでくれば一安心と元気が出てきた。

それに対してベアダの子供達四人の不安は拭えない。

帰る場所が既にないのだから…。

 それからの道中は目的地が見えたことから皆それは嬉しそうにしていた。

そんな中、ウエイが皆に注意事を聞かせ始める。

「みんな、浮かれるのはしょうがないが神樹の森は何個か注意点があるぞ。

昔大陸に奴隷制があった時代に神樹の森が何度か襲われたと聞いた。

エルフの美貌や戦闘力に価値を見出されたんだな。

それ以降神樹の森のエルフ達は他種族に排他的になった。

ここにいるエルフ以外の皆は護衛ということで滞在を許されるだろうが、

エルフの同行なしで町を歩き廻ったりなんぞしたなら問答無用で殺されるぞ。

それと森のエルフ達は精霊神ファイーナの熱狂的な信者だ。

ファイーナの悪口を言ったら何されるか分からんぞ」

それに対してチマは「あたしが行った時はみんな親切だったけどな」と言った。

「まあ何にせよ注意することに越したことはないぞ」

とその後もあれは駄目これも駄目と言葉が続き、

いつの間にか「だから最近の若いもんは」などと愚痴に変わり、

(だから年寄りは困るんだ…)と皆が思いながら聞き流した。

 更に二時間くらい歩くと神樹の森が目の前に迫った。

神樹以外の木もそびえ立っているので、近場にいると神樹は木々に隠れている。

「しかしここはエルディー国より大分南じゃろ?

なんで広葉樹のタルヴィッキが生えておるのじゃ?」

ゆじゅが素朴だが高度な疑問を投げかける。

ここは広葉樹の南限を超えた場所にあり、

今まで旅をしてきた道のりも針葉樹だった。

「う…」と言葉が詰まるズキは周りを見渡すが誰も答えを知らないようだ。

誰も分からんのかえと残念がるゆじゅだった。

 更に何十分か森の横を歩いているとウエイが「ここだ」と言った。

そこは少しだけ木の密度が低いだけの獣道のようなものだった。

「なんじゃあ? 道とは呼べぬものじゃのお」とゆじゅが感想を言う。

「え~、ここに入るの~? ぼっきゅん怖いな~。

虫さされが怖いんだぞっと」とコノは入るのが嫌そうな顔をした。

「俺が来たときも思ったんだが、よくここだと分かるな。

俺だったら気づかずに通り過ぎているところだ」ズキも言う。

「この木を見てみい、印の傷が入っとるだろ」ウエイは一本の木を指差す。

顔の高さの場所に確かに人工的な傷がつけられていた。

「いや、その傷を見つけるの小道を見つけるより至難でしょ…」とチマがボヤいた。

 一行が森の中へ入ってから間もなく「囲まれているな」とアガフォンが言った。

シードルも「かなりの手練だな。門番にしちゃ充分すぎる強さだ」と同意する。

シードルがそう言い切るかどうかのタイミングで、

一行の前方に一人のエルフの男が木の上から軽々と飛び降りてきた。

褐色の肌で北方の出身だと思われる。

「今年も成人の儀のチビ共がやってきたか。それにしても今回は護衛が多いな」

男は皆を軽く見回すとそう言った。

「これこれ、本人の目の前でチビ言うな。

妾はエルディー国の王女じゃからな、護衛が多いのじゃ」

追われていると言う事は面倒が起こりそうな気がしたゆじゅは無難にそう答える。

「陰口は本人のいないとこじゃないとね!」とフレヤ。

「トカさんね、お久しぶりと言っても覚えてないでしょうね。

十数年前に来たチマと言います」

とチマはこのエルフのことを知っているらしい。

「お、覚えてるぞ、ディクマの子チマだな。

町でナンパしてきたエルフをハイキック一発で撃沈した子だろ?

見事な一発だったと暫く語り継がれていたぞ」

「ぎゃ~っ、墓穴をほった~!」

「名を覚えられるほど暴れたのかえ…。

どこ行ってもガキ大将なんじゃのお…」と呆れるゆじゅ。

一方アガフォン達は「俺達よりも強いな」

「戦えば三人はやられるな」などと物騒な会話をしていた。

「でチマちゃん、知り合いなら紹介してはくれぬかえ?」

ゆじゅがチマの方を見て言う。

「ハクの子トカさんって言ってね、

とても珍しく北の居住地から成人の儀に来てここに定住した方よ」

「ほほう、妾はトーベの子ゆじゅと申す。宜しく頼むぞい」

そう言って丁寧に挨拶をした。

「取り敢えず町へ案内しよう。

その人数だと宿は儀式の待機所で充分だな。

あと、エルフ以外の者は単独で町に出ないほうが良い。

ここはかなり排他的なのでな、私は外の出身なので違うんだが」

と説明してから一行を案内し、一行はそれに付いていくのだった。

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