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病の村

 一行は暗殺団を退け更に援軍を得てボーベニルーディの村を出た。

まだトゥゴマ公国からの追手の懸念もあったが、

他国へ兵は出さないであろうしトゥゴマ公国近辺には傭兵団がない。

なので追手が掛かっていても少数だと思われるので、

少し進んだ後に南下して南街道に戻ってきた。

だがその辺りでフレヤの調子が悪くなってきて足は遅かった。

「さあ、あそこがレトレ王国とノミン国の国境でやす、

神樹の森までいよいよってトコっすね、

オレっちは商人時代にこの南街道は数え切れないくらい来やしてね、

いや~、あのみすぼらしい木柵の国境線は未だにそのままなんすね」

コボルトのマルゴーサが丘の上から遠くの柵を指さした。

その柵は遠目からでも傾いたりと朽ちているのが分かり、

実用性は全く無く指標として残されているのみだった。

それもこれもレトレ王国とノミン国は国土に対して人口が少なく、

自国を開拓するだけで精一杯なので協定で安全が保証されているからだ。

「蹴っ飛ばしたら壊れそうだなってか、もう傾いてる所もあるじゃん」

エブロが国境線を見た感想を言った。

「防衛線じゃなく境界線っすからね」と返すマルゴーサ。

「マルゴーサさんって商人だったのね、

幼い頃からベアダで知り合いだったのに気づかなかったきょん」とコノが言う。

現在十五歳のコノは物心ついた頃には既にマルゴーサは記憶の中にあった。

マルゴーサはかなり長い間商人をしていた口ぶりだった。

「僕もマルゴーサが商人だったって知らなかったよ」

日頃は無口なマイロも話に興味を持ったようだった。

「ええ、マイロ坊っちゃん達が生まれる十年前にはベアダに定住してやしたよ、

それもこれもこの先の街道で商隊が野盗に襲われて壊滅しやして、

それで逃げ出した所にウエイ殿に拾ってもらったんでやす、

以後、いつか野盗にも負けない商隊を自分でつくろうと、

ウエイ殿の食客として剣や弓をならってましたんで、

ですがマイロ坊っちゃん達が生まれて愛着が湧いてしまいやしてね、

既に商売に未練はありませんや」

愛嬌のある茶色顔に白柄の犬の表情を和らげエブロとマイロの双子を見る。

「へ~、俺もマルゴーサ叔父ちゃんの過去はしらなかったな~」

エブロも興味深そうに話を聞いた。

「ええ、今も商人仲間とはよく会うんすよ、よく情報交換なんか…、

あ! そう言えばこの国境付近に最近また野盗が出没するって聞きやしたね、

大人数と聞きやしたから当分は警戒を強めないといけやせんね」

「警戒は万全ですよ、動体探知陣の魔道具はロダさんに預けてあるので、

二百メートル先まで探知できますし、

フレヤさんの舞風があるので弩の射程外でしょうから」

ホウサがそう言ってみんなの緊張を解す。

フレヤも調子が悪くとも魔力に異常があるわけではないので、

ちょっとした魔道具を使うくらいなんともないのだ。

「大人数と言ってもこちらもフレヤも入れて二十三人もいるのじゃぞ?

そこまで心配せんでもよいのではないかえ?」とゆじゅが聞く。

「いやあ、野盗と言っても食いっぱぐれの傭兵団とかの場合もあるんすよ、

そうすると百人以上が襲ってくる事もあるんで油断はできないっす」

「ふむう、ケンジャ様であったら蹴散らすのにのお、

一晩経ったらロダに戻ってしまったからのお…」

「役立たずで御免なさい…」とロダが申し訳無さそうにする。

「ロダも好きで出てきておる訳ではないのでしょうがなかろうて」

「蹴散らすと言えばゆじゅはレベル三魔法を使えるようになったんでしょ?

爆轟塵とか範囲ムシャーレとかは使えないの?」とチマが聞いた。

「爆轟塵ならばケンジャ様が使うのをよく見ていたので高速詠唱できるぞい、

ムシャーレは旅を始めてから一回見ただけなので無理じゃ~、

じゃが爆轟塵は高速詠唱でも遅いので扱い辛いぞよ、ケトシがおらんしのお」

「霧の森で鬼のような詠唱してたじゃないのよさ…」

「あれはアハーディの加護のおかげなのじゃ、

アハーディは味方全員に詠唱速度増加の加護を付加する能力があったのじゃ~」

「確かにケトシがいないだけでエルディー組の戦力は激減するな…」

ズキはそう言って深刻そうに考える。

常に最悪を想定して考えてしまうのは士官学校時代の名残であろう。

「オルジフ殿以下ボーベニルーディの皆が強いので大丈夫じゃろ、

弓使い十四人に魔法使い五人じゃぞい」と言って元気よく歩くゆじゅ。

「あ~、ぼっきゅん達魔道具使いが人数に入ってない~!」

コノはそう言って頬を膨らませる。

「なるべく限界までは子供達は戦わぬ方が良かろうて、

四人共防御系の魔道具を持っていたじゃろ、それで自分を守るのじゃ、

妾は例外で以前に急な近接戦で余儀なく戦ったのじゃ、

落ち込む間もないまま連戦に継ぐ連戦で感覚が麻痺してしもうた、

人を傷つける後味は体験しないままの方が良いぞよ」

「そうです、我々ボーベニルーディが皆を守りますゆえ」

オルジフはそう言って胸をトンと叩く。

「ゆじゅにしては珍しくまともな事を言うわね」

「思ってみればオルジフさん達は思い切った決断をしたな、

狙われてる奴等と一緒に旅をするなんてさ」

先頭を行くエブロが後ろ歩きに歩きながら言った。

「確かに人生最大の決断ですね、

うちの村は辺境ですが、それでも冒険譚の話は流れてくるんですよ、

男ならば冒険に身を置きたいと一度は思うのではないですか?

私達は村人に教えることは教えましたので、

今回を切っ掛けに自分が冒険の主人公になろうと思った次第で」

そう喋るオルジフは如何にも嬉しそうな表情をしている。

そんな案配で適度な緊張を持った会話をしつつ無人の国境を抜け次の村に着いた。

 一行は村に入ると違和感を持つ。

「あまり人の姿がみえないな」ムレジが辺りを見渡して言った。

「見える人影も何か疲れている様な雰囲気に見えないか?」

サンサも様子がおかしいことに気づく。

「とにかく村長のもとへ言って挨拶だけはしないとな、

この大人数で村に入ったら騒ぎになりかねんぞ」とウエイが言い、

近場の村人に村長宅を尋ねる。

「失礼、村長のお宅はどちらかな?」

その言葉に村人は力なさそうに指を指し答える。

「あそこの大きな集会場、そこに村長一家が住んでる」

村人はそう言うと興味なさそうに過ぎ去っていった。

指を指された方を見ると明らかに大きな建物がありそこへ歩いて行く。

建物は二階建てではないが高さはそれなりにあり、

特筆するべきはその広さだった。

「小さな村にしては村人全員が入れるような大きな集会場だな」とズキが言う。

建物正面には扉が二つあり、一つは中央にある両扉、

もう一つは表札のある片開け扉でドアノッカーがあり、

ゆじゅが小走りでドアまで行きドアノッカーをゆっくりコンコンと叩く。

『優雅な叩き方じゃのお』と一人満足するゆじゅだが待っても扉が開かない。

少し待ち、もう一度叩こうかという時にようやく扉が開かれ初老の男が出た。

「村長さんかえ?」と直球で聞くゆじゅに対して男が答える。

「ええ、私が村長のクラーサと申しますが」

そう言った初老の男も気力が抜けたような目をしている。

「妾達は旅の一行じゃがこの村付近で大所帯のキャンプをすると驚かしそうで、

まず村長さんに挨拶をしておこうと思い立ち寄らせてもらったのじゃ」

ゆじゅはそう言って軽く会釈した。

ボーベニルーディの村の一件で暗黙の内にゆじゅがリーダー役になっている。

クラーサと名乗った男は扉から少し身を乗り出すと一行を流し見た。

「ああ、この位の人数ならばこの集会場に泊まれますよ、

どうぞお泊りを、布団はありませんが野宿よりは良いでしょう」

クラーサはそう言うと扉の中へと入っていく。

ゆじゅが続いて入るとすぐ左にもう一つ扉があり、

クラーサはその横に置いてあるランタンを手に取りその扉の中へ入った。

「ほほう、ここからも集会場に入れるのじゃのお」

ゆじゅはそう言いキョロキョロと見渡す。

クラーサは集会場の各所にある灯りを灯すと集会場の全容が見えた。

「ほええ、高い屋根じゃのお、家の謁見の間位の高さじゃぞい」

数本の梁の上に母屋と垂木が見える簡素な作りをゆじゅは見上げた。

 一同が集会場に入ってからあまり時間が立たないうちに、

村長の娘と思われる女性がみんなにお茶を配って回った。

「こりゃどうもありがたい、大人数分の湯呑があるのですな」

と言ってウエイがお茶を受け取ると、

女性は「ええ、村人の定例集会でいつものことなので」と返す。

そんな中ゆじゅが村長に改めて挨拶をする。

「初めましてなのじゃ、妾がこのパーティを率いているゆじゅと申す、

クラーサ殿、寝所を貸していただき皆に代わり感謝するぞえ」

「おやまあ、エルフとしても随分と小さな少女が率いているのですね、

余程御高位の方と見受けられますが」

「一応王女じゃ、ちっこい国じゃがのお、

それよりクラーサ殿、この村の人々は随分と覇気が無いようじゃが?」

ゆじゅが村長にまたもや直球で質問した。

「やはり分かりますか…、この土地ならではの風土病でしてな、

我々は魔女の呪いと呼んでいるのです、

心毒とでも申しましょうか、井戸水が毒なのは分かっているのですが、

それを飲むと無気力になってしまうのですよ、

村人の具合は体力のないものから弱ってきており、

このままではいずれ死者もでてしまうことでしょう…」

とクラーサ村長は疲れた風に語る。

その時扉から小さな女の子が入り込んできた。

「お祖父ちゃん、今魔女のお話してた?」と四歳位の少女が村長に聞き、

村長の股の間にちょこんと座り込んだ。

「オルドジシュカ、今お客様がいるから、

後で相手してあげるからママの所に行ってなさい」

そう言ってクラーサ村長は背中を軽く押すが、

少女は「いや~、赤い聖騎士さんと紫の魔女のお話して~」と駄々をこねる。

「むう、しょうがないな、ご質問の答えにもなりますし、

皆さんにも聖騎士と魔女の話を致しましょう」と村長がゆじゅを見て語りだした。

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