少年士官学校
十三歳半ば、俺は少年士官学校へと進学し、入ってからは訓練時間も増え内容も濃くなっていた。
森への冒険からもう一年経つがコミの左足は完全には戻らなかった。私生活では気にならいくらいだったけど、剣の実技の時は左足の不具合が痛々しいほどに目に見てとれた。
二強のうちのコミが脱落したことで俺が剣技では一番になった。それでもコミは二位の座を不動のものとし学業も伸び始め成績は良かった。
「左足くらいなんとでもなるよ」と俺に対抗心を燃やし続けていた。コミは空いた時間を訓練に費やすという嘗て俺がやってたようにしてた。
俺と言えば互角に戦える相手がいなくなり、モチベーションが下がって訓練を怠っていた。
コミの瞳には光が宿っていて決して剣術を諦めていないことが分かった。少年士官学校へ入ってからはコミとは部屋も変わったが、相変わらずの親友として付き合っていた。お互いに一緒にいて気持ちの良い関係は二人にとって新鮮だったんだ。
二人は刎頚の友などと言い合って更に仲が良くなっていき、コミは左足のコンプレックスを跳ね除け一年程で剣技は俺に追いついてきた。
俺がサボってたからなのだけどライバルの復活が快くもあった。
ある日コミが俺に話しかけてきた。
「今ならジャイアントルーパーを倒せるんじゃない? 行ってみませんか?」
その言葉に俺は少し躊躇した。
「今度見つかったら退学モノだぜ?」
「三人も戦士がいるんですよ? 負けるはずありませんよ」
「三人ってもしかしてフラーも頭数に?」
「フラーさんは最近土魔法も覚えたそうで戦力になるでしょう」
「でもつぶてや土塁壁じゃ攻撃が弱すぎる」
「足に攻撃を集中すればきっと行けますよ」
確かにそうすれば倒せるだろう。でも何故無理に倒す必要があるのか。
「何故そんなに挑戦したがるんだい?」
その疑問にコミは当たり前のように答える。
「以前より強くなったと証明したいだけですよ」
俺はその返答にちょっと納得できない感じがした。
「でも、まずはフラーの気持ちを聞いてみないことには始まらないよ」
「もちろんですよ」とコミが答える。
自ら戦いを求めているコミに違和感を覚えたのはこの時が初めてだった。
「じゃぁ、次にフラーと話せる時に聞いてみようか」
と俺は言ってみたがあんまり気乗りはしていなかった。
後日フラーに話してみると二つ返事で行こうということになった。フラーも自分の新しい力を試してみたくてしょうがなかったのだった。そして夏休みがやってきて計画が実行に移されることになった。
またもや剣を無断拝借して森に分け入っていった。今回は森の中では危険な生き物には出会わなく、すんなりと池まで辿り着けた。
さて、ここからジャイアントルーパーを引き寄せるのだけど、コミが囮として名乗りを上げた。俺とフラーはコミの左足を気遣って止めたのだがコミは頑なに「やる」と言って俺達の言い分を聞かない。結局俺はコミの言うとおりにすることにした。俺とフラーが水辺から少し離れた所、コミが水辺に位置取る。
だが三人とも考えが甘かった。ジャイアントルーパーは既に水辺の間際にいたのだ。
水中からいきなりジャイアントルーパーの舌が伸びて、その舌は再びコミが怪我をしている左足へ絡みついた。
予想外の出来事に「助けてくれ!」とコミが叫んだのが聞こえた。
「ギネテ・イ・ディナミ・ティス・ギスキ・ニキステ・トネフロウ!」
以前とは違いフラーはレベル一の土属性魔法つぶてを詠唱した。風属性魔法の風刃よりも詠唱が短いからだ。それと同じくして俺は剣を持ちジャンプして頭から刺そうとしたけど、頭骨が剣を遮り皮を切るにとどまってしまった。
次の瞬間フラーのつぶてが発動してジャイアントルーパーの喉元に当たり、ジャイアントルーパーは痛みで暴れたんだが、上に乗ってる俺は放り出されそうになるのを耐えてより奥の後頭部に体重を乗せて剣を刺す。
後頭部から刺さった剣が頚椎を切断した手応えがあった。その後頭部へトドメの一撃でジャイアントルーパーは沈黙した。
フラーのアシストがあったとはいえ俺がジャイアントルーパーを倒した。戦闘自体はあっという間に終わってしまった。あまりにもあっけなく倒せたのだった。
コミが死にかけたので不謹慎だったけど倒せた事に俺は大変興奮したんだ。ジャイアントルーパーは衛兵レベルでは手に負えなく騎士がパーティを組んで倒す相手と言われていたからだ。
フラーは俺のことを褒め讃えたが俺はコミの方に気を取られた。
「コミ、怪我はないか!?」と俺が言うと、
コミは無表情で「ちょっと挫いたかもしれないと答えた。
またコミを担いで帰った訳で先生に理由を問われて二度目の冒険もバレた。
先生にはこっぴどく叱られたけど学校では英雄として持て囃されることになった。
フラーは今回の事について、ピンチになったコミを助けたヒーローと捉えたらしく、『誰よりも強いズキ』として恋い焦がれて俺は告白を受けることになる。
俺は俺で女性又は恋人というものが解っていなかったけど、
「好きです、付き合ってください」と言われて断る理由はない。
フラーは間もなく成人の儀のため小旅に出ることになるけど、俺達はフラーが戻ってきたら恋人となる約束をした。思えばこの少年士官学校時代が最良の時だったのだと思う。
そしてフラーは成人の儀へと旅立ち、コミとの時間が戻ったかに思ったけど歯車はいつのまにかずれていたのだった。




