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霧の中の鳥・3

 仲間と引き離されたと気づいたフレヤは近くの者を呼ぶべく大きく叫ぶ。

三十秒ほど叫んでいるとパラパラと人が集まりだし、

この班にはフレヤの元、ウエイ、ミルカと四人のボーベニルーディが集った。

「突風で方向感覚まで狂わされてしまったわい、

みんなだいぶ遠くへ離れたみたいだから引く以外にないわな、

攻撃してくるのがゆじゅの嬢ちゃんじゃ、戦うわけにいかんからな、

ボーベニルーディの方々、ここの現在位置は分かりそうですかい?」

「ええ南へ行くと獣道があるのでそこを進むと早いはずです、

方向も木の形と向きでなんとか把握できます」

「それよりい、鳥が出た時も私の魔道具マギキー・エクセレーブニシーがあ、

全く反応しなかったのですう、精霊神相手という予想が外れてしまいましたあ」

そう会話するウエイとミルカを囲う様に、

ボーベニルーディ達は弓をしまい左手の盾を掲げ慎重に進んでいく。

少し歩くと先頭を歩くボーベニルーディが「先回りされてますね」と地面を差す。

地面には見えにくいようにアースノッカーの障害が置かれており、

もしそれで転んだとした先には風玉と言う魔法が仕掛けられていた。

遊びにくらいしか使い道のない生活魔法だが、

顔などに直撃したら充分かすり傷を負う。

「いや~んな予感がするよ!

こういう時ゆじゅちゃんなら後ろから追い立ててきそう…」

「ふひひ! …Lv2風刃乱舞!」

フレヤの予想通りにパーティの後ろからゆじゅの攻撃の声がした。

今回はゆじゅの攻撃にフレヤの防御魔法は詠唱する暇がなく、

フレヤは身を張ってパーティの前で盾となった。

殿(しんがり)をしていたボーベニルーディも盾を使ってパーティに危険な攻撃だけ落とす。

「きゃ~っ!」とフレヤの後ろでミルカの叫びが聞こえると、

皆は一斉にミルカの方に視線をやった。

地面に倒れているミルカが足を引っ張られ霧の中へ消えていく所だった。

「しまった! 後ろは違う場所から声を出す空蝉の魔法と置き魔法の複合罠だ!」

引き止める間もなくミルカは消えてしまった。

「あのお姫様、気配を感じないぞ!」「音も出してない!」

ボーベニルーディ達は自分達でも対処の負えない相手だと感じ緊張した。

「ぎゃあ、この子の笑い顔怖いですうっ…!」

というミルカの声を最後に静寂が戻る。

「姫様はこちらの動きを霧の向こうから完全に把握していますね、

女性の方は奥の方へ走って行ってしまったみたいです、

俺達もこのままじゃ逃げ切れるとは思えない、

俺達が囮役に徹して時間稼ぎをして分散した他の者を逃がすのが良策かと」

シードルと言う名のボーベニルーディがした提案をウエイはすぐに受ける。

「そうだな、最悪フレヤが生き残ったら合流点まで飛んでいってくれ、

それまではなんとか盾役をこなしてくれるとありがたい」

そしてフレヤから振り返り再びシードルと顔を合わせようと振り返ると、

目の前に広げられた手が見えた。

「つぶて!」とゆじゅの声でレベル宣言のない魔法が繰り出され、

魔法の直撃でウエイは気を失う。

「…Lv2風羽根!」と次の詠唱でゆじゅは上空へ消え、

一瞬木の枝に降り立つ小さな音の後に下品な笑い声が聞こえ遠ざかっていった。

 二つ目のグループはサンサ、ムレジ、オルジフ村長、マトヴェイ、

そしてボーベニルーディの弓兵。

「やはり罠だらけです村長、

それもギリギリ怪我をする程度の小さな罠なので見つけるのが難しい」

先頭をゆっくり歩く弓兵がオルジフ村長に報告する。

「罠にボーベニルーディの特徴は?」

「ありませんね、とても独創的で雑ながらもきっちりと動作します」

「藪の中なら近づいた者の音が分かるかと来てみたが見事に読まれていたか、

取り敢えず藪から離れるぞ、またさっきの風で罠の山に押し込まれたらたまらぬ」

その村長の言葉に従って方向を変えて歩き出したが、

暫くするとパーティの後ろの方からゆじゅの笑い声が聞こえた。

殿のマトヴェイが精神を研ぎ澄まし移動音を捉えようとする。

足音は全く聞こえないのだが、いくら歩いても笑い声は遠くならない。

「‥Lv1アースノッカー」の声が後ろからしたと思うと、

ムレジが「うぉ!」と言ってバランスを崩したたらを踏む。

その動きのせいでボーベニルーディが三人で作っていた三角から少しはみ出した。

その瞬間を狙って「‥Lv1風鞭(ふうべん)!」と前方から魔法の発動が聞こえ、

ムレジは「あああ!」と言う叫びと共に霧の中へ消える。

「…Lv2水針!」ゆじゅはトドメとして、

硬質化した水の針をムレジの背に無数に撃ち込んだ。

「ぐぁっ!」と痛みに悶える声がした。

「ムレジは大将を守れ、…Lv2風羽根!」

その声で再び静けさがやってくる。

「声の場所は信用できないな…」マトヴェイは今の状況を分析した。

「足音もしないぞ…」村長が続けた。

「足音がしないのは靴底に風魔法で膜を張ってあるからだな、

だが何故遠目から範囲攻撃を仕掛けてこない?」とサンサが疑問に思った。

再びボーベニルーディの三人が三角を作りサンサがその中に位置取る。

四人は警戒しつつも移動を再開した。

「Lv2水針」と微かに聞こえた声にマトヴェイが反応してサンサを盾で守る。

範囲魔法だが指向性のある飛び方をするので攻撃は飛散しない。

針の飛ぶ音を捉えたマトヴェイはそれを確認してから確実に盾で防いだのだ。

「すまない、助かった」サンサがマトヴェイに礼を言うが間髪入れず、

「……Lv3追風! ‥Lv1フラッシュバン! ‥つぶて!」とゆじゅの攻撃が来る。

ゆじゅは大音響で耳を潰してから一瞬で三角の陣形の中を走り去り、

途中サンサにつぶてを置いていく。

レベル三の移動強化状態のゆじゅを視認することはできなかったが、

近距離で発射したにも関わらずマトヴェイはつぶてを目視で防いだ。

目眩ましの効果は霧の中では効果がなかった様だった。

「‥Lv1風刃!」と立て続けに攻撃が来るが今度は弓兵が盾で止める。

「この姫様強いな…」誰にとでもなくマトヴェイが呟く。

「‥Lv1マジックバリア! ‥Lv1マジックバリア! ‥Lv1風刃!」

次にゆじゅがそう言ってから高くジャンプした様にマトヴェイには見えた。

ゆじゅは空中に張ったバリアを足場にして三角跳びでサンサに攻撃を仕掛ける。

霧の中に薄く張られた半透明のバリアはマトヴェイにも認識できず、

ゆじゅの突然の方向転換に対してバランスを崩しサンサを守りきれなかった。

速度重視で撃った風刃は見事サンサの頬を掠り頬に赤い筋ができた。

「抑え込め!」オルジフ村長がそう言うと同時に、

三人はサンサを拘束して手際よく猿轡(さるぐつわ)と手枷をした。

この三人、どうやら自分達は狙われていないと判断した結果の手際だった。

「完敗だな…」マトヴェイはそう言いつつも満足気な表情をしていた。

 三つ目のグループはチマ、ズキ、パトリと、

ボーベニルーディのアガフォンと弓兵二人の六人。

チマが危険を承知で叫んで集まってきたのが五人だったので、

他の者達はかなり遠くへ離されてしまったのだろう。

ニヤニヤしてるパトリにチマが苛立つ。

「何笑ってんのよ~」

「え~、だってさ、面白そうじゃん」

「この状態がどうしたら面白いのよ!」

「ははは、ごめんごめん、でもチマちゃん、

大声出すとゆじゅちゃんに居所ばれるよ?」

「大丈夫、僕達が防御します」とアガフォンが言った。

「あんた達、あのゆじゅの化け物さを知らないから言えるのよ…」

「今朝方見た限りではそれほどの気を発しているわけでもなく、

気を消しているでもなく、充分対処できると思いますが」

「それを見たことあるから油断しているのね、

化け物よ、あれは人じゃないわ、何もかも神業なのよ、

貴方その剣で瞬きする間に警戒している相手を傷つけずに素っ裸にできる?

できないでしょ、ゆじゅは十年も前にそれができたのよ!

それから十年も経ってるのよ、その力想像できる? 三歳でそれよ? 三歳!」

チマは過去を思い出すだけでも嫌気がさす。

パトリはチマの体験談なのだろうと思うと笑いを堪えるので必死だ。

「あっと、ウエイ、ミルカ、ムレジ、サンサはやられちゃったみたいだね、

どうやらボーベニルーディのことは無視してるぽいよ、

あとズキとチマで全滅だね、にっしっし♪」

「なんだ、場所が分かるのか?」ズキがパトリに聞くと、

「もっちろ~ん、ぶっちゃけるとね、

森中の音は全部聞こえてるから鳥の居場所も分かるよん」

「それじゃあ仲間の方に案内してくれるか?」

「ん~、大体四百メートル先に三人いるね、暴れるサンサを担いでるよ、

でも四百メートルも二人共辿り着けるかな?」と言ってニヤリとするパトリ。

「…Lv1アクセル、…………」チマは淡々と全員にアクセルを掛けていく。

掛け終えるとズキがパトリに合図してパーティは歩き出した。

歩きだして間もなくゆじゅが襲ってきた。

「Lv3土塁壁!」の声と同時にパーティの間に長い壁が盛り上がり、

チマ達は速攻でボーベニルーディ達と分断されてしまう。

どこまで続いているのかさえ分からない壁だ、

ボーベニルーディ達との再合流は諦めるしかない。

「…風刃!」とチマが声の方に向けて反撃をする。

「ヒュ~、チマちゃん容赦ないね~♪」

「レベル無しにして加減しているわよ、足に当てれば動きを封じれるわ」

「ズキは速攻退場じゃ! ‥Lv1風刃!」ズキの真後ろから声がして、

風刃がズキの肩を掠ったのを見たチマは二人相手は面倒だとズキを蹴転がした。

逆の方向から声が聞こえて吃驚したチマは、

「…Lv1風羽根!」そう詠唱して木の枝の上に乗って、

「パトリも手伝いなさいね!」とパトリを(たしな)める。

「ほいな~♪」パトリは左手を網に変形させて十メートル以上先のゆじゅを狙う。

網の先は高速で霧の中へ消えたが、

間違いなくゆじゅの場所を把握しているとチマは感じる。

「あの子距離を置いてきたよん」パトリがゆじゅの動向を報告した。

チマは嫌な予感がして「…Lv1マジックバリア!」と前方に盾を出す。

直後バリアに複数の風刃がぶつかってきた。

「ふふふ、チマちゃんはオオカミ少女の刑じゃ!」

と頭上からゆじゅの声が響く。

『パラパラ…』チマの制服の上半身がキャミソールごと切り刻まれる。

そしてブラジャーのフロントがはだけ、上半身はほぼ裸になる。

(オオカミ少女って素っ裸で凶暴化ってことか…)

この上ない屈辱の予感がして一層集中するチマ。

だがボーベニルーディのマトヴェイですら太刀打ちできない相手である。

勝負になりさえしなかった。

「パトリ! 右手を壁にして土塁壁の横に立てて!」

パトリが言われた通りにするとL字型の防御壁ができチマはそこに陣取った。

「あいつが右から来たら網投げて! 右からの攻撃は網を壁に変形!

これで攻撃場所を限定したわ、おっと…Lv1マジックバリア」

下半身部分にバリアを置きズボンを死守する。

「これでどうよ!」と誇るチマにゆじゅが言う。

「壁の上におるんじゃが…、Lv2風刃!」ゆじゅが仕込んでおいた風刃を撃つ。

「ちっきしょ~~~っ!」との叫びと共にチマの意識は薄れていった。

チマが四足で森の奥へ走っていくのを見て、

地面に転げ回って大笑いするパトリであった。

 夕方近くになってパトリが森を出ると他の生存者は既に揃っていた。

「やっほ~、私が最後の生き残りだよん~♪」そう言って手を振る。

「随分と時間がかかりましたね」オルジフ村長が言ってくる。

「まあね、一応お仕事はしてきたから、

鳥をひっ捕まえて右目を調べたけど、右目には魔法の芯核は無かったよ、

呪いは呪いだったんだけどね~、精神魔法じゃなかったってことだね」

さらっと大きな事を言った。

「ってか最初から私一人でよかったんじゃん? 楽しめたけどね♪」

それを聞いてガクッと肩を落としたボーベニルーディ達だった。

 居残りのマルゴーサ達は帰ってきた者達からの報告で、

最悪に近い結果に終わったことを知った。

良い知らせもあった、縛って連れてきたウエイとサンサの二人は、

森を出て暫くすると自我を取り戻したのだ。

今はすっかりくつろいでお茶を飲んでいる。

「森で凶暴化している五人はパトリさんが強引に連れて帰れば治るとわかった、

その事はパトリさんが帰りに請け負ってくれましたので一安心です」

オルジフ村長も少し余裕が出た気がした。

「でもそれだとこの村の問題は解決しないということですよね、

パトリ、本当に呪いだったの?」ホウサが聞く。

「うん、呪いとしか言いようがないね、

潰れた右目から凄い怨嗟が溢れ出してたよ」

「だとしたら私が治せるかもしれないです」

ホウサはそう言って自分の大きな荷物を漁りだした。

荷物の中から小さな片手杖を取り出すと机の上に置いた。

「精霊神の一柱が創った魔道具ベネディクトゥス・ワンドです、

祝福の力で全ての呪いを解呪できるのですが二つ問題がありまして、

一つはこの杖は私と契約しているために私が森に行かなくてはなりません、

もう一つは、私にはこの杖を扱うだけの魔力を持っていません、

魔力を供給してくれる魔道士が他に必要になります、ロダさん、貴方の事です」

ホウサはそう言うと静かにロダを見つめた。

「僕!? 僕は魔法なんて全く使えないですよ!?」

突然に話を振られて吃驚(びっくり)するロダにホウサが語る。

「でも、その体は魔力溢れる大魔道士様の体なのです、

使う時に杖を一緒に持ってくれるだけでいいのです、

道中はパトリに守ってもらいます、それとフレヤさんも守って頂けませんか?」

「うん、いいよ! 今日のリベンジだね!」フレヤは二つ返事で返してくれた。

「この場で僕にしかできないのなら行くしかないでしょう!」

ロダも快く引き受けてくれる。

「怖いけど……」…快く…。

「でもぼっきゅんはホウサちゃんが心配だよ、

怪我をして傷が残っちゃったらどうするのよさ」

コノが心細そうな表情で見つめてくる。

「僕も姫様と一戦交えましたが、あれは霧の中では正直勝てる気がしないですね、

危険な気もしますが、…でもそちらのウエイさんとサンサさんを見ると、

傷口を見ても分からないくらい浅い傷で済んでます、

森にいる他の四人の護衛の方も確実に狙ってかすり傷にしているのが分かります、

少なくとも今までの霧の森の被害者とは異質で、

姫様は戦いの最中も普通に会話できていたと聞きました、

ボーベニルーディに至っては全員見逃されましたしね、

他の四人については姫様に傷つけられた以降は姫様の言葉に従っていました、

僕は悪く転がってもかすり傷で済むんじゃないかと思いますよ、

断言はできませんけどね」

マトヴェイが自分の経験や仲間の報告をまとめた意見を言った。

「私にも乗り越えないといけないものがあります、

その為にも経験を増やしていかないと…」

ホウサは別のことを語っている様子だったが決意は硬かった。

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