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エルブズ・フォース ~ ElvesForce ~  作者: ちびけも
オーリッツァ王国
50/84

壊れていく…

具合が悪く寝込んでいたので2日遅れてしまいました

 翌朝、建物の人等はリンマの声で目を覚ました。

時間はそれほど早くはなく町の人ならもう働きだしている人も多い。

リンマは興奮しつつも焦燥感ある表情という相反する奇妙な感じがし、

みんな何事かと大部屋に集まった。

人が揃った途端リンマは開口一番話を始めた。

「私、昨晩に夢の中で創世神様のお告げを受け取ったんです。

今日このゴロドチャイクの町が海に沈むという警告です」

その話の内容を聞いて部屋の中がざわつく。

「ただの夢と言い切れない違いがあるんで?」マルゴーサがそう質問する。

リンマはその返答に答えられず困った顔をした。

「それを証明する方法はないのかもしれませんが、

目が覚めた瞬間からこの事を町中に伝えなければ、

そう言う強い使命感に支配されています。

何かわからない力が私を押しているんです。

この町の人々は皆信心深い聖教徒なので、

徒弟の私が相手だとしても、

教会の人間の言うことを蔑ろにはしないと思います。

私はこれから町を回って夢の内容を伝えて回ろうと思っています。

もし勘違いだとしたら私一人が恥を被るだけで済む話なので、

兎に角動いてみようかと思います」

そう力説するリンマを見てミルカがケンジャ様の様子をうかがった。

精霊神ムコンドの話を思い出し気になったのだ。

ミルカはケンジャ様の様子を見るに同じ考えに至っていると思い、

どうするのだろうかと見ていたのだが、

ミルカとケンジャ様が目が合うと、

ケンジャ様は小さく首を横に振り他言しない様合図した。

確信してるんだなとミルカは分かった。

「私は今からでも警告を出しに町を巡りますが、

皆さんは教会の子供達と一緒に丘の上まで退避させて下さいな。

では私は今すぐにでも大広場で訴えてきたいと思います」

「トルビナさんは正装で挑んだほうが効果があるんじゃないか?」

ムレジも信じてはいないものの協力を惜しんでいない。

この時代、信託と言われたら絶対のものがある。

たとえそれが胡散臭い内容でも信託と言われれば全力を尽くす。

また、それが信仰している他の神だったとしても確執は持たない。

どの神でも神の予言という扱いで捉えられている。

「そうですね、急いで典服に着替えるとします」

「ズキ、チマ、フレヤとゆじゅはぁ、教会の子供を連れ高台に行ってくれ~。

わたしはぁ、リンマに同行する~」

「ウエイおぬしはぁ、高台に毛布と食料を集めるのだ~。

まず、官憲と官僚にお告げが会った事を告げに行き手伝わせるのだ~」

と、いつものようにハキハキと指示を出していくケンジャ様。

「ケンジャ様は退避しないの?」チマがケンジャ様に聞く。

「万が一の措置だぁ。

エルフの守護神ファイーナは頻繁に関わってくるから普通に思うがぁ、

創世神リディルは信託がある事が伝説になるくらい稀なのだ~。

だからぁ、信託を告げると売名行為と取られることがある~。

その場合はぁ、不信心者として責められる可能性があるぞ~」

「ケンジャ様は深読みが過ぎるが当たるから怖いんだよな」

ズキがそう感想を述べると、

「私はケンジャちゃんのそばにいる!」とイーヤが話に割り込んだ。

「イーヤ、本当のことだったら危険なのだ~、言う事を聞くのだ~」

「そうよ、ここでは年長組さんなんだから他の子のお世話をして頂戴」

ケンジャ様とリンマがそう促すがイーヤはケンジャ様に張り付いてしまう。

「いや! ケンジャちゃんといるの!」

「ケンジャ様も随分と懐かれたものじゃのお」

「あんたもあの位可愛ければよかったのに…」

「毒舌チマめ!」ゆじゅはそう言ってチマの頭を叩こうとするが避けられる。

「漫才をやっている場合ではない~。

しょうがない~、わたしが丘に向かうからズキとチマがリンマに付いてくれ~。

サポートにウンディーネを付けるから水害にも有利に動けるだろ~」

そうして各人の行動方針が決まり動き始める。

 リンマの後に続いてズキ、チマとウンディーネが広場へ向かっている。

「全く嫌なことを押し付ける召喚者だ」ウンディーネが一人愚痴っている。

「嫌なの?」とチマが質問する。

「私の人間時代の最後の記憶はどんなだと思っているんだ?

水の精霊って事は漏れなく溺死した記憶を持っているんだぞ?

自分が死ぬときの事を思い出させるような事はさせないで欲しいものだ」

「うぁ、それは嫌ね…」チマも様子を想像してしまい相槌を打った。

と言っても溺れた経験はないので精々鼻がツンとした事を思い出しただけだ。

「それにしても町が沈むって理解できないんだがそんな事あるのか?」

ズキは想像の範疇外な様だ。

内陸にあるエルディー国に住んでいるとその辺の知識がない。

「起こるとしたら十中八九津波だろうが、

ここ大陸南岸には津波の原因になる地震や火山はないんだがな。

だから私は眉唾な話だと思っている」とウンディーネは信じていない様子。

「火山ってなんだ?」

「そんなことも知らんのか、勉強不足だな。

山には二種類あるんだ、リディルが創ったものとその後にできたものだ。

後にできたものは溶けた岩が地中から吹き出してできると聞いた。

何故そんな事が起こるのかは私も知らんが、兎に角私は空振りだと思う」

「残念ながら起こるわよ」直後に四人の頭上から女声の声が聞こえた。

皆が驚いて上を見ると半透明な姿のアーダが上空を漂っている。

「アーダか、何故そう思う?」ウンディーネが聞き返す。

「私この話を聞くの初めてじゃないもの」

「どう言う事だ?」ウンディーネは更に聞く。

「さあね、これ以上は私が話すことじゃないわ」

そっけない返事をしてアーダは高度を上げ周りを見下ろす。

アーダは精霊神ムコンドとケンジャ様のやり取りの場にいたのだ。

話すべきならケンジャ様が話すだろうと思い黙っていた。

ただウンディーネの警戒心が低すぎたので、

このままでは危険かもしれないと思い少々おせっかいを焼いた。

「って言うかアーダって話せたのね、今まで知らなかったわ…」

などとチマが言うくらい無口なアーダの性格を知るウンディーネは、

警告を受け止め警戒度を上げた。

精霊達の会話を聞いてしまったリンマも焦りをつのらせた。

教会の人間と言ってもリンマはこの町の出身である。

このゴロドチャイクの町全体が聖教を信仰していて、

その中でも責任感の強かったリンマは前の司祭の手伝いをする様になった。

勿論町と住人への愛着は高い。

今日リンマが目覚めて最初に感じたことは嫌な夢を見たという事だった。

神託だとは思いたくなかったが心を突き動かす力が押し寄せた。

力に押され今歩いているのだが、まだただの夢だと信じたかった。

だが目の前にいる精霊は起きると確信している。

故郷が無くなるのだという実感が広がり続け遂に溢れた。

「町の皆さん聞いて下さい! 昨晩私は神託を受けました。

この町が今日海に沈むという神託です!

今すぐに高いところまで逃げて下さい! 神託です、逃げて下さい!」

まだ目的地の広場ではなかったが大きな通りにはいたので人も多い。

リンマは広場まで待ちきれなくてこの場で声を張り上げてしまった。

「あら、リンマさんかい、今日大波がくる神託?

言っちゃ悪いけど、おりゃあ出来事の当日に神託が出た例を知らないよ?

それに創世神様が予知の神託を出したことって確かないんじゃないか?」

リンマを知っているらしい中年の男が全く信じない返事を返した。

通りにいる人達もリンマの声で立ち止まり注目を集めているが、

その人々も同じような感想を語っているのをチマは聞いた。

(あちゃぁ、内容が異例なのか。こりゃ誰も信じないわ)

「ズキ、ウンディーネ、このままリンマさんに付き合うけれど、

いざ事が起きたらリンマさんだけ抱えて速攻で逃げるわよ。

なんとなくだけれど、この神託は町の人を救うためのモノじゃない気がするわ」

チマは二人だけに聞こえるように小さく囁く。

「ざわめきの内容を聞くと確かに(はな)から信じさせる気のない神託みたいだわね。

予め四人に風羽根を掛けて体重を軽くしておくから走る時注意してね」

答えたのはアーダだった。

姿は見せずその声だけが聞こえるとチマは自分が使うよりも強い浮遊感を感じた。

ウンディーネは「了解」とだけ気怠げに返事をする。

一方ズキはリンマが説得を始める前だというのに、

チマ達が早々に人々を見捨てる算段を始めたのを聞いて激しく動揺した。

「待って、この人達を見捨てるのか?」と思いが口に出る。

ウンディーネだけがその声を聞き答える。

「優しいのは普通だったら良いことだが、おまえ自分の立場忘れてるだろ。

士官学校出なら心を捨て理で動く訳は聞かされただろ。

士官なら必要なのは部下の命を切り捨てる覚悟だが、

姫付き近衛のおまえはゆじゅ以外の全てを切り捨てる覚悟が必要。

庶民を助ける義務は王族や領主に委ねろ。

それについて納得できるできないを判断する権限は職務上おまえにないぞ」

ズキが士官学校時代に散々聞かされたことをウンディーネに言い直された。

教官に納得できないと言ったら「納得する義務がある」と突っぱねられた。

「夢じゃないんです、確かに創世神リディル様が御降臨なさって仰ったのです!」

「ほお姿を見たのかい、さぞかし美しかったろう」

男がリンマを小馬鹿にしている声がズキの耳に入り、

ズキは士官学校時代の回想からハッと目覚め、そちらに気を戻した。

「え、えぇ…」とリンマが口ごもる。

「ん? どうしたんだ? リディル様はどんな姿だったんだ?」

「姿の事ではなく、神託の内容を聞いて! 逃げてと言っているんです!」

何かリンマの様子がおかしいとチマが感じた。

「おりゃどんな姿か聞きたいんだよ」

男は話を戻してしまい会話にならない。

「…、言えば丘まで逃げてくれますか?」業を煮やしたリンマが言った。

「ははは、リンマさんと一緒に散歩と洒落込むか、良いだろう」

周りの人達も男の質問に同意してどんな姿か聞いてくる。

(分かりきった嘘を言うわね。

口下手なのに後に引けないリンマさんを(からか)って、

一通り聞き終わったあと嘲笑う気満々じゃないのよさ。

こうなったらエルフの精霊神ファイーナも神託を下したとか大嘘()くしか…)

などとチマが思っていると、リンマは深くため息をついた後呟いた。

「深く美しい紫の瞳を持つ、純白の毛をなびかせた大狐でした」

これを聞いた瞬間チマは心の中で『馬鹿!』と叫んだ。

信仰する神を動物だと言ってしまったのだ。

もし真実だとしても言ってはいけないことだったのに。

この後どんな反応が来るのかは目に見えていた。

信仰を全否定されたような発言に周囲の人らはざわめく。

質問をしていた中年の男が何も言わず突然にリンマに殴りかかった。

リンマは固まって動けなかったが男の拳はするりと空振りした。

続いてどこからかリンマに向かってレンガが飛んできたが、

これもリンマの手前でそれていく。

アーダの舞風だと思いつつ、

チマとウンディーネは退路の確保に、キはリンマの前へとそれぞれ動いた。

「このままリンマさんを連れて逃げれば、

暴徒化した人達が人数増やしながら丘まで追いかけてきてくれるわね。

そのままケンジャ様にマジックバリア張ってもらって、

丸一日立てこもり作戦ってのは?」

「作戦とか物は言いようだな。逃げる以外に道があるのか?

何かあるなら今すぐ閃いてくれ。少なくとも私には思いつかん」

サイリスタの十字路でアガタ近衛相手に大立ち回りをしたこのコンビ、

相手がほぼ非武装なので剣の柄を握る素振りだけで威圧して退路を確保している。

「貴様異端か! よりにもよって狐だと!?」

集まった人の中から憤怒の叫び声が幾つも上がり、

次第にその声が広がっていった。

投石が幾つも飛んできたが全てアーダの魔法でそらされる。

人だかりは六十人以上になり、

チマも余裕がなくなり退路を塞ぐ人に向け攻撃魔法の詠唱を始めようとした時、

地面が『ズッ』と動いた。町が海に引き寄せられるように。

全員がめまいを感じた様な状態になりリンマへの攻撃は止んだ。

「これがウンディーネの言っていた地震ってやつ?」とチマは聞く。

それに対してウンディーネは思い切り力を入れて叫んだ。

「これは海底地すべりだっ! ズキ、チマ、その女を連れて早く逃げろ!

海を見ろっ! もう津波が見えている! 早く逃げろっ!」

ここにいる全員に聞こえるように精一杯叫んだ。

「皆さん逃げて下さい、ズキさん離して! 皆さんを助けないと!」

リンマはズキの手を振りほどこうと暴れた。

「こいつ暴れるなよ!」

ウンディーネはそう言うとズキに変わりリンマを担ぎ上げてしまった。

続いて「ズキ、チマ、追風を使え! これじゃ間に合わん! …Lv1追風!」

そう言って先頭を切ってウンディーネは走り出す。

チマは辺りを一回見回した後「Lv1追風!」とウンディーネを追った。

三人は町中を走り抜ける、すれ違う人達は助からないだろうと思いながら。

「後ろを振り返るな! 前だけを見て全力だ!」

ウンディーネがそう言った時、後ろでサラサラという音が聞こえた。

それは確かに町の中から聞こえる、波の音だ。

地面が動いてからまだ二分と経っていない。

なのにもう波は町に襲いかかっているのが後ろからの音で分かる。

バキバキッと材木が崩れる音が聞こえる。

音は次第にチマ達に近づいている、波の方が速い。

ウンディーネに後ろ向きに抱えられているリンマは、

町が溶けていく様を見ることになった。

波だけでなく液状化で建物が沈んでいく。

本当に一瞬で町が沈んでいき足を取られ動けなくなっている人達を見る。

故郷が消える姿に叫び声すら出せない程リンマは放心している。

アーダが町の人々に追い風を与えて補助しているが足元が沈む。

最終的に丘に辿り着いた町の住民は運の良いごく僅かな人だけだった。

 丘にいたゆじゅ達は町が沈んでいく姿を呆然と見つめていた。

コノとホウサは見るに絶えず目を逸らして俯向(うつむ)いている。

イーヤ達教会の孤児は町を見つめ泣いている。

「沈むって文字通りだったのぉ…」ゆじゅが呟いた。

ケンジャ様は何も語らず町を見つめ続けている。

「あ、あそこズキさん達だよ!」エブロが叫び指差す。

「良かったのじゃ、逃げ切れたのじゃのお…」

丘にいる人々は殆んどが丘近くに住んでいる人だけだった。

かろうじて逃げ切れた町の人々に混ざってズキ達が登ってきた。

丘に逃げ切れた者は全員で百人いるかどうかで、町は全滅といえた。

リンマは担がれたまま頭を抱えて硬直している。

「ほら着いたぞ、降りろ!」ウンディーネはそう言ってリンマを降ろす。

「広場まで行ってたら助からなかったわね…」チマが肩を落として言った。

「全く忌々しい! 私は水が大嫌いなんだよ!」ウンディーネが愚痴る。

ウンディーネの状態が安定していないのを見たケンジャ様が話しかけた。

「ウンディーネ、ご苦労だった~、帰還して良いぞぉ」

そう言われると返事もなくウンディーネは光の中に消えていった。

ケンジャ様はこの時にウンディーネを帰したことを一生後悔する事になる。

「リンマさん危なかったわね」イーヤがそう言ってリンマに近づいた。

「…何もできなかったの…」リンマは涙を浮かべて唇を噛み締めた。

誰もが絶望感に包まれていたが、まだそれでは終わらなかった。

イーヤが目眩を感じ下を見ると足元が溶けていた。

『ズルッ!』

イーヤが不自然に横に動いたのをケンジャ様が見た。

「あ~っ!」そう叫んでイーヤに手を差し伸べようとした時、

マルゴーサとサンサがケンジャ様を(つか)(おさ)えた。

イーヤはどう見ても間に合わない距離だった。

「やめろ~っ! イーヤッ! イーヤッ!」

もうウンディーネを再召喚する事すら思いつかず藻掻く。

ケンジャ様は藻掻いたがガッチリと掴まれていて動けるのは目だけだった。

その目はイーヤが濁流に沈んでいくのを凝視していた。

イーヤは何か叫んだが濁音で聞こえなかった。

最後に両手を開いたのが見えた、

そして見えていた手が濁流に消えていった。

「ケンジャ~! また救えなかったよ~!」

ケンジャ様はそう言って暴れようとする。

「ケンジャ~!」と何度も叫び過呼吸になっていった。

ひとしきり暴れきった後、人形の糸が切れたようにガクッと意識を失った。

ケンジャ様が乱心する様をエルフ全員が呆然と見ていた。

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