双角傭兵団
次の日、予定の町までそれ程時間がかからないと思われたので、
ボーリストレーム卿と相席で一行はゆったりと食事を摂った。
「わたし達が来てぇ引っ掻き回すだけになってしまった~、
ボーリストレーム卿、本当に申し訳ないのぉ」屋敷前でケンジャ様が謝罪する。
「いえいえ、王太子が味方と知れただけで収穫でしたよ、
この代を乗り越えればなんとかなる道筋が見えました」
ボーリストレームは笑顔で受け答えしたが心痛はかなりあるだろう。
「なんとかしたいが~、我が国も小国だからのぉ」
「元々うちの問題なのです、お気遣いなく」
「じゃあ出発しましょうか」チマがそう言って騎乗する。
各自次々に騎乗して最後にボーリストレームにもう一度挨拶をして出立した。
「俺が上空から偵察するからラウルは歩かせて進んでくれ」
リボルはそう言うと颯爽と飛び立っていった。
「返事くらい言わせろや毎回…」とラウルが愚痴る。
「凄いな! フレヤより軽く飛んでいったよ!」
「ああ、シルフが支援魔法で飛行の手伝いをしてるんだよ、
俺はあんなに優雅には飛べないんだ、悲しいことだが」
ラウルがフレヤに説明してあげる。
「フレヤも魔法支援で飛んでるんだけどな」と首を傾げる。
「連れているシルフが高レベルなのだろ~」ケンジャ様が答える。
町を出て穀倉地帯へと出る。
「この季節だとまだ麦の背が低いから物凄く広い地帯に感じるな」
ズキが周囲を見てつぶやいた。
「麦の背が低いから伏兵もできなく守るのが楽だよな、
森もないし防風林程度じゃ隠れられないしな」ラウルがズキに言う。
「ああ、開放感もあって気が楽になるよ」
「もう少し進むと休耕地になるからちょっと目視が悪くなりますよ~」とミルカ。
「まあ何かあってもリボルの奴が見つけてくれるさ、あいつ目と感が鋭いんだ」
「リボルさんのスペック高いのね」チマが興味を持ったようだ。
「俺はいつもあいつと比べられるからたまったもんじゃないがな」
「あれ、リボルさんが降りてくるぞ?」ズキが上空を見て言った。
「む、なにか異常があったな」ラウルの顔つきが険しくなる。
リボルは一行の前に着陸して言った。
「あの丘の向こう側麓に二百人程の一団が屯してるぞ、
見た感じ傭兵団ぽいけどどうする?」ケンジャ様に向かって尋ねる。
「丘の頂上から~、麓までの距離はどの位だ~?」
「なだらかなので三百メートル位あるな」とリボルが返す。
「待ち伏せなら戦術的にぃ麓には陣取らないと思うが~」
「だけど完全に道を塞いでるぞ? 何かしらの対応は必要だ」
「敵か味方かが分かれば対策とれるのだが~、
わたし達が頂上に着いたら相手に接触して来てもらえるか~?
おぬしならばぁ、矢には当たらないだろう?」
「敵だったらどうする? 俺達が突っ込むか?」
「敵だったらケンジャ様のレベル五爆轟塵でぶっ飛ばしちゃいなよ」
チマが過激なことを言いリボルとラウルが驚く。
「レ、レベル五??」リボルの目が点になる。
「ケンジャ様は使えるぞよ、百メートル位消し飛ぶのじゃ」
一度見せてもらった事のあるゆじゅが説明した。
「レベル五だと詠唱に数分掛かるんじゃないのか?」ラウルが懸念する。
数分もあれば余裕で接敵されるからだ。
「ケトシ」とケンジャ様がユジュの肩に引っ付いているケトシを呼ぶ。
「あいあい~詠唱速度上昇にゃん、アウクシト・ミテンチェス・セレリタテム!」
「ケトシ、早とちりだぞぉ、敵と分かったら強化してくれと言いたかっただけ~、
まぁ良い~、これで詠唱に一分もかからぬ~」
「まあね、それにもうもう頂上だしね、じゃリボルさんお願いできるかしら?」
チマがリボルに頼むとリボルは一気に上昇した。
そうして頂上にたどり着くと相手の全容が見えた。
確かに二百人程が陣取っている、二列横陣なので防衛陣なのは見て取れる。
「ありゃ、なんだあの下策な陣取りは」ズキが相手を見てツッコミを入れる。
「だが~、陣形を見るにぃ、敵だと確定かのぉ、
鶴翼に展開後包囲するつもりか~」
ケンジャ様が予め高速詠唱を始める。
「横に長いのお、ケンジャ様の爆轟塵だけじゃと半数しか討ち取れぬのお」
ラウルは会話を聞いて驚いてばかりだ。
レベル五を使えることも一分で詠唱できることも半数を討ち取れることも。
「アーダの風一閃を連射してもらうのがいいかしら?」
「地形がうねってるからアーダの攻撃はあんまり効果がないかもしれないぞ」
ズキがそう言った直後、リボルに向けて多数の矢が放たれた。
そして集団がゆじゅ達に向かって走り出した。
リボルは上昇して退避しこちらに向かってくる。
「Lv5爆轟塵!」ケンジャ様の発動とともに敵中央部に光球が飛んでいく。
次の瞬間に衝撃波で視界がゆがみ、一拍置いて爆音が轟く。
「総員遠隔魔法連射~」とケンジャ様の命令が飛ぶ。
敵の中央は壊滅したが左右にまだかなりの兵員がいる。
ゆじゅ、チマ、ズキ、フレヤが発動待機してあった魔法をそれぞれ発動する。
アーダも風一閃を等間隔で発動し続ける。
「ギネイ・イ・ディナミ・ギス・ケイ・キケス・トン・エクスロゥLv2つぶて!」
リボルも範囲攻撃魔法を撃って援護する。
ケトシの詠唱速度上昇の魔法の恩恵を身に受けて感じて驚く。
続けてケンジャ様がレベル三のムシャーレを発動して十人程を倒す。
近接攻撃しかできないラウルはエルフ一行の攻撃力を見て絶句している。
(俺達必要ないんじゃないか…?)などと思う。
あっという間に敵の数は五十程にまで減った。
その残りも潰走を始め勝ったかと思われた時「後ろ!」ラウルが叫んだ。
一行が後ろを見ると百人以上の敵が迫っていた。
無いと言っていた防風林に敵が潜んでいたのだ。
「しまったぁ下策な陣立てをしている時点で~、挟み撃ちに気づくべきだった~」
ケンジャ様が失策を悔やむ。
何もできないミルカが馬乗であたふたとしている。
「俺達に任せて!」リボルがそう言い飛んでいくとラウルも後を追う。
「フレヤも行く!」と言ってフレヤは地面スレスレの低空を滑っていく。
「ケトシは周囲警戒~、残りは前の敵を追い落とせ~」と前方に追撃弾を飛ばす。
後方の敵は飛竜とフレヤ達の体当たりで体勢を崩す。
崩れた所でフレヤが得意の滞空固定砲台になる。
『ピュンッ!』後ろから高威力の矢が数発飛んできて一行を襲う。
後方で崩れずに体勢を整えていたのが弩の部隊だった。
ラウルが突撃するが一歩及ばず攻撃されてしまった。
弩の矢はアーダの舞風でも防ぎきれずにズキの背中とケンジャ様の尻に刺さる。
「いだだぁ~」とケンジャ様が痛さで飛び跳ねた。
返しのない矢だったのが幸いし二人の矢はすぐに抜くことができた。
即座にケトシが回復魔法を使う。
ゆじゅとチマが二人の怪我に気を取られているうちに前方の敵が近づいてきた。
今回敵は準備の整わないまま時間切れで待ち伏せを敢行した。
通常戦力の逐次投入は愚策なのだが今回はケンジャ様の爆轟塵を回避できた形だ。
前方から更に二百に近い兵が迫ってきた。
「いかん~、前方増援だ~、これはぁ撤退するぞぉ北から逃げろ~」
全員良馬に乗っていたのが良かった、
難なく敵をすり抜け足回りの悪い畑を逃走する。
ミルカも上手く馬を乗りこなしている。
リボル達が撤退に気づき合流した。
「リボル~、殿は任せたぁ、ボーリストレーム邸宅まで撤退する~」
また弩の矢が飛んできたが今度は距離が離れていてアーダの舞風で逸らされる。
敵が深追いしてくる様子はなかったが襲歩を止めずに町まで走り切る。
町についた所で馬の力が尽きたのか速力が大幅に下がった。
ここまでくれば安全だろうと馬の速度を落としボーリストレーム邸宅へと戻った。
昨晩ボーリストレーム邸宅の見張りをしていた男は、
怪我をしながらも生き延びることができ束の間の喜びを噛み締めていた。
ゆじゅ達が戻ってきたと聞きボーリストレームが急いで外に出てきた。
「どうなされましたか?」
「大部隊に襲われた~、四百はいたぞぉ」ケンジャ様が息を切らしながら言う。
「なんですと! 我が領地でそんな輩がいたのか!」
ボーリストレームは直ぐ様部下へ下命する。
「エクルンドの部隊は周辺索敵、怪しい集団を見逃すな、だが近づくな、
ミューバリは隣の兵舎の部隊長に通達、周辺の村の常備軍をかき集めろ、
警備役人以外は警邏隊も含めて全てだ!」
「すまん~、領地の畑を踏み荒らした~」
「そんな些細なこと問題ではないでしょう、
アガタ国め、領地内に兵を入れるとは!」ボーリストレームは怒り心頭だ。
「敵の持っていた盾の印に見覚えがあるぞ、あの印は双角傭兵団かと」
リボルがボーリストレームへ伝える。
「その傭兵団の人数は分かるか?」とリボルに聞き返す。
「増員していないなら七百弱だったと思う」
「くそっ、私の部隊よりずっと多いじゃないか…」
「え~と、ケンジャ様だっけ? 俺と飛竜に乗って上から爆撃したらどうだ?
集団でいるなら上空からすぐに見つけられるだろ?」
ラウルがそう発言するがリボルに窘められる
「敵は弩部隊がいる、フロランスの加護のある俺の方が適任じゃないか?」
「なんてこったい、俺全く良い所ないじゃんかよ…」
「うむ~、良い案だぁ今なら敵も遠くに行ってないだろうし~、すぐ行こ~」
ケンジャ様が案を即決で採用する。
「じゃ、後ろに乗ってくれ、ラウル安全帯を着けてやってくれ」
そう言われてケンジャ様が後ろにちょこんと座ると、
ラウルが飛竜に装着されていた帯をケンジャ様にしっかりと繋ぎ止める。
「おっけ~、準備できたぜ」ラウルがリボルの肩を叩く。
「それじゃ飛びますみんな離れて、ケンジャ様はバランスに気をつけて」
全員が飛竜から離れたのを見るとリボルは滑走を始め勢いをつけて飛んでいった。
「戦ってばかりな気がするぞい…」ゆじゅがチマをちらりと見た。
「異常よね…、昨日は大隊と戦えるなんて言ったけれど超無理だったわね…、
相手の包囲が完成してたら助からなかったわよ」
「あとはケンジャ様に任せようぞ、空からケンジャ様の攻撃なんて恐ろしや」
「本当、敵に同情しちゃうわ…、でも人の命って軽いね…、
ケンジャ様の爆轟塵みて寒気がしたわ、さっきは必死で気づかなかったけれど、
ほら見てこんなに手が震えているわ、この震えはケンジャ様への恐怖よ」
そう言って手を差し出すと目に見えて震えているのが分かる。
ズキも吐き気を堪えているようだがゆじゅは何か実感がわかない。
「人の命の重さは平和な時にしか量れないんですよお」ミルカが言った。
「平和なんて…、それじゃあ命の重さは幻想にすぎないって事?」チマが問う。
「必ず無くなるモノに価値をつけるかは結局人それぞれですねえ」
「大切な何かが欠落した意見に聞こえるけれど?
それがなんだか分からないけれど、あ~何かモヤモヤするわ~…、
何であろうとどんな時でもゆじゅの命は大切だわ、あたしよりも!」
「その大切を守るためにケンジャ様に習って他の生命を狩るしかないですねえ、
誰かを大切に思えば代わりに他の人の価値が相対的に無くなるのですよお」
「ぐぬっ…」珍しくチマが言い負けていた。
「む、難しい話をしておるのお…」
「ゆじゅ~! 何があってもゆじゅは守ってあげるからね~!」
チマはそう言ってゆじゅに抱きついた。
「あれ、そういえばフレヤがいないぞ?」とズキが辺りを見回して言う。
「あのドラゴンかい? リボルと一緒に飛んでいったぞ」ラウルが答える。
「ケンジャ様だけじゃなくてフレヤも行ったのね、敵は壊滅間違いないわね」
そう言ったチマにボーリストレームが質問する。
「あの方はそんなにお強いのですか?」
「めっちゃくちゃ強いわよ、さっきは一人で六十人以上倒してたわ」
その答えにボーリストレームは言葉を失う。
三時間程過ぎてからリボルとケンジャ様が戻ってきた。
一行はとりあえず客間で雑談しながらケンジャ様の帰りを待っていた。
「おかえりなさいませませ、どうじゃった?」ゆじゅがケンジャ様に駆け寄った。
「吹っ飛ばしてきたぞ~、計算してもぉ朝の戦闘入れて全部で六百人位だった~。
ちょっと数は足りないがぁ、後は力押しで進めるだろ~、
明日夜明けに改めて出発する~、ボーリストレーム卿、今晩も泊めてくれ~」
「……あ、ああどうぞゆっくりして下さい、
追手が来ないように後ろは我々が封鎖しておきますので…」
六百を吹き飛ばしたと聞いてボーリストレームは目眩を感じた。
「あとフレヤはぁ、ステラ姫の所まで使いに出した~、
王太子を使って~、政治的にも妨害せねば~」
「焼け石に水だと思うけれどね」とチマ。
「確かにアガタの現国王は人の話を聞かない人物と言う話だからな」
ボーリストレームはそう言うとため息をついて項垂れる。
「でも、振られた方のズキがなんで追われる側な訳?
普通逆じゃない? ズキもそのエルフの行方を探していたんでしょ?」
「俺に聞かれても分からないさ、とにかく追われてるとしかわからない」
「明日の出立には私の方からも十騎程護衛に出しましょう、
それ以上はアガタからの流入を一時的に閉鎖して援護します」
その日はそれ以上の話はなく全員が切り上げた。




