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エルブズ・フォース ~ ElvesForce ~  作者: ちびけも
プロローグ ズキの章
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幼年軍学校

 俺は幼年軍学校の六年生になった。兵舎はもう自宅同然で慣れたもので、抜け出して買い食いなんかしてた。

 部屋は四人部屋だけど一人が学校をやめたので今は三人で生活している。部屋の二人とは五年の付き合いになるけど、どことなく距離を感じる。

 俺は剣術と槍術の授業には自信があって常に一番の成績だったけど、勉強の成績は人並みといったところかな。

 ある日、火の上を飛び越え恐怖心を克服するなんて俺を狙い撃ちにしたような訓練があって、俺だけ全くできなくて火に近寄ることすら無理だった。

 教師は俺の過去の資料で両親が目の前で火事で死んでいく所を見てしまい火に異常な反応を示すことを知ってるから対応に頭を悩ませ、同級生の間では松明ですら怖がる腰抜けとして馬鹿にされていた。

 幼い頃の村の子供達はだれも幼年軍学校には入らなかったので、俺の過去を知っている生徒は学校にいなかったから火を嫌う理由は教師以外には知られてない。自分でも火を怖がる様子は異常だとわかっているので、他の生徒達に馬鹿にされるのはしょうがないと思ってる。いちいち喧嘩するのもつまんないので悪口は聞き流すことにしてた。


 そんなこんなで孤立気味の日々だったけど、ある日幼年軍学校に転入生がやってきて俺達の部屋に住むことになった。

 幼年とは言っても士官養成コースの軍学校に編入なんて初めて聞いた。

「エギーの子コミと言います。一年間だけですが宜しくお願いします」

 転入生は柔らかい笑顔だが丁重な挨拶で自己紹介をした。エギーの子コミと言う名前のその人物は大陸に主に四ヶ所あるエルフの居住地の一つ、トゥゴマ公国のベアダの町という場所出身で両親の都合でエルディー国のマッサに引っ越してきたそうだ。ベアダの町では騎士訓練学校に通っていたから、この幼年軍学校に編入を許可されたそうで、俺は新しいルームメイトととの生活が始まることになった。

 コミの剣術は上手かった。剣術筆頭だと思っていた俺の自信は粉々に砕けた。俺は空いた時間を使って今まで以上に練習をして、なんとかコミに追いつこうと頑張っていたけど、結局コミと打ち合うのが一番だと気付き二人一緒の練習が増えることに。

 俺は剣技を競い合うのを心地よく思い、コミもそう感じているのが分かった。次第にお互いかなりの時間を一緒に過ごすようになり、三ヶ月も立つ頃には親友と呼べるほどになっていた。

 その頃にはコミと互角に戦える様になり他の生徒とは力量に差が出てきた。学年でも一際の強さの二人はいつも競い合うように戦っていたが、強さに反し俺が臆病者と言われてることにコミは疑問を抱いたようだ。

「なぁズキ、聞いてもいいかな?」

 昼食に行く前に部屋で汗だくの服を着替えていて二人になった時、申し訳なさそうな表情をしてコミが尋ねてきた。

「なんだい? (かしこ)まった顔をして」

「ズキは剣術や喧嘩も強いのにどうして臆病と言われてるんだい?」

「ああそれか、大したことじゃないよ。俺は火を見ると体が固まって動けないんだ。だから本当に臆病者なのさ」

俺は大したことじゃないと言わんばかりに堂々と答えたけど、コミの態度が変わるんじゃないかと内心ドキドキしていた。

「なにか理由があるのかな?」

 今まで臆病者と一方的に笑い者にはされたけど、火を怖がる理由を聞いてきたのはコミが初めてだった。

「両親が火事で焼け死ぬのをこの目で見たんだよ」

 俺はあっけらかんとした顔で言った。

 実は当時の記憶は殆どない。なので両親のことは他人事のように感じていた。両親の記憶も今ではあやふやで、失ったという感情は持ってない。自分では怖いと感じるわけじゃないけど、火を見ると体がこわばってしまう。条件反射のようなものだと思うことにしていた。だから当時の話をすることにためらいはないけどコミは聞いてはいけないことだったと思ったようだ。

「悪いこと聞いてゴメンな…」

コミはうつ向いて(ばつ)の悪い顔をした。

「なあに、両親の顔すら覚えてないほど昔の話だよ、気にするなって」

逆に俺がコミを慰めるような形になってしまった。


 話は変わり、同級生に一人だけ女の子がいた。髪の毛は肩くらいまである金髪でちょっとだけ可愛い。

 テパの子フラーといい親のテパは七十年以上近衛兵を務めた経歴で、男子が産まれなかったことを悔やむばかりに女子のフラーを幼年軍学校に送り込んでしまったと聞いた。

 フラーは弓や剣術についていくのが精一杯だったが、親の期待に答えるために頑張っているのは誰がみても分かり、同級生みんなが陰ながら応援をしていた。

 フラーは俺が近づく度に逃げるように離れてくので俺を嫌ってると思ってた。その行動が照れ隠しだったのは数年後にやっと気付いた。

 やがてフラーも逃げなくなり俺とコミはフラーに弓や剣を教える仲になった。俺もコミも大人に比べるとお世辞にも弓や剣が上手いとは言えなかったが、フラーは先生より教え方が上手いと言い二人の教授を真摯(しんし)に受け止め学んだ。

 そして何時しか三人のグループが結成された。いつも三人で行動し昼食なども共に摂った。

 フラーは平凡といわれているけど魔法の扱いには慣れていて光風水の魔法を使えた。俺達は属性魔法どころか誰もが使える生活魔法すら無理だったので尊敬した。魔法はフラーの父テパが宮廷魔道士に教わりフラーもそれを受け継いだ。と言ってもテパは魔法の才能がなくレベル一までしか扱えなかったのだが、フラーは九歳の頃に魔法を覚えたのでかなりの才能があるのだろう。

 人間が一生かけてレベル三まで使えたら人間国宝級な程魔法の習得は難しい。エルディー国で唯一のハイエルフの宮廷魔道士でさえ、三百年以上生きてレベル四までしか習得できていないという。

 この世界では基本的に高レベルの魔法の呪文ほど秘匿される。敵対勢力とかに呪文が知られてしまったら一大事だからね。

 噂では魔法のレベルは十まであると言うけど宮廷魔道士が三百年でレベル四までしか使えないんだとしたら、創世元年から七百年生きたとしてもレベル十なんて夢の夢では?

 ただ単純な生活魔法程度なら誰でも日常生活で使うくらい浸透してる。例えば明かりを灯す蛍光とか安全に飲める水を出す水球とか、そんな誰しもが使える程度の簡単な生活魔法のはずなんだけど俺もコミもそれすら全く使えないのを気に病んでいた。


 年末になり幼年軍学校の卒業も近づき学校名物の剣術大会がやってきた。卒業者たちで剣術の対戦を行うのだけど同級生はあまりやる気がない。俺とコミの一騎打ちになるだろうことが判りきってるから。

 トーナメント表は日頃の剣術成績順で割り振られるから、俺とコミは別ブロックにわかれてシード枠をもらった。

 開催場所は校庭で六年生は全員校庭を囲むように置かれた椅子に座る。この日は休校日になり他の学年の生徒達は校舎や寄宿舎の高い場所に陣取り、みんな興味深そうに大会を見物しようとしてた。

 剣術の打ち合いは毎日のようにやっていたけど、全校生徒四百人以上が注目する中でやるのか。

 そうそう、全校生徒四百人って言ったけどエルフは数えるほどしかいないんだ。他の殆どの種族は周辺国からの留学生。エルディー国が周りの国と仲良くしたいって理由で国のお金で受け入れているんだ。他の国の人達はエルディー国が持ってる風や土の魔法の知識と技術が只で貰えるからと群がってきてる。


 隣りに座ってたコミが微笑みながら話しかけてきた。

「ズキ、君さっきから手を握ったままですよ、緊張しているのですか?」

そう言われて初めて自分の緊張に気づいた。

「観客が多いからね、この勝負で少年士官学校の代表挨拶の役が決まるし。将来的にも内申に響くだろうし、そう思うと本気を出せるかちょっと分かんないな」

「なんだ君は代表挨拶なんてやりたいのかい? 僕はできることなら入学式もサボってダラダラと寝ていたいけどね」

「俺は一度くらい尊敬の眼差しで見られてみたいね。なんせ臆病者と扱われてるもんだから」

 そんな言葉にフラーが大声で否定した。

「ズキ君は臆病者なんかじゃないよ! 強くて優しいもん! 隣のクラスのテト君なんかね、お父さんが怖くて休みにも家に帰らないんだよ? 誰にだって怖い事はあるのよ、ズキ君は怖いものが目立つだけなんだよ!」

「うぁ、びっくりした!」と俺は少々のけぞった。

いつの間にかコミとは反対側の隣の席にフラーが座っていた。

「フラーはこの大会にはでないんだっけ?」と俺が言う。

「私は剣術じゃなくて魔法の専門を目指してるから」

「確かにフラーさんは魔法の才能がありますね。魔法よりも剣術のが優先される今の学校もちょっと納得がいきませんね。条件次第では剣士は魔法使いには歯が立たないのですが」

俺を挟んで二人が会話を始める。

「いえ、魔法の詠唱時間は致命傷だと思いますよ。私を守ってくれる人がいなければ魔法の発動はできないのですから」

「始めから距離が開いていたら剣術士にはなすすべもありませんよ」

自分には使えない魔法というものにコミは過剰に反応しているように見えた。

「でもその条件が厳しすぎるのよ。例えば街中で近くの相手がいきなり敵対したときとか。戦いになった時には既に相手の剣の間合いなんですから、戦術論でも習いましたけれど魔法が役に立つのは戦争で陣地が分かれてるときだけだわ」

 戦術論。丸暗記するのが精一杯の子供に、臨機応変な対応をさせるその授業は学校でも一番難しい授業だった。フラーはそういう分野で成績を伸ばし筆記試験では上位を取ってた。

「あ、そろそろ最初の試合が始まるぞ」

 俺がそう話の腰を折ると二人共試合に目を向けた。そして開会の挨拶もなくいきなり試合へと入っていった。

 最初の試合が間もなく始まったけどお世辞にも上手いとは言えなかった。ちょっと見ただけでも二人の間にはかなり力の差があって、すぐに決着が着くと思ったけど外れた。強いほうが緊張で力んでいて、更に相手の攻撃を極度に恐れてる。弱い方はやけっぱちになって大ぶりの攻撃を繰り返す。まるでグダグダの泥仕合になっていた。結局強い方の対戦者がフェイントを入れて相手がそれに掛かり勝負はついた。子供だからでは済まないひどさだと思った。自分と比較して相手にならないような戦いをするこの人達は、本当にこのまま少年士官学校へと進んでいくのだろうか。

「泥試合でしたねえ。お互いがまるっきり実力を出せていませんでした」

コミはそう評価した。俺とはちょっと違う意見だった。

「そうかな、少なくとも負けた方は力を出し切っていたみたいだけど」

「もしあれが本気でやった結果なのだとすれば士官学校へ進める器量があるのか疑ってしまいますが…」

「フラーみたく剣術以外でも成績を残せるんだから、剣術にこだわることはないと思うけど?」

 おんなじことを思っていたとバレるのがなんとなく恥ずかしかったので、わざと反対の意見を言ってみた。

「そうでした僕が魔法を使えないのでどうも剣術を重視してしまいがちで」

 その言葉は俺にも突き刺さった。俺も同じ理由で剣を基準に考えるクセができていたんだと気づいたんだ。

 その後も一回戦は続きそして終わり、シードの俺の順番がやってきた。コミとフラーは「頑張って~」と送り出してくれたけど、頑張るまでもなく三合打ち合っただけで俺の勝ち。続いてコミの出番になったけど結果は俺と似たような感じ。

 そしてそれは決勝戦まで繰り返して、やっと俺対コミの決着の時が来た。

構えの位置につくとコミが話しかけてきた。

「今年の、そして幼年軍学校最後の勝負になりますね。同じところに進学するにしても、ここで一区切り付けましょうか」

その言葉を聞いていた俺は返事とかではなく、どうして年不相応に大人びた喋り方をするんだろうなんて考えてたが、「かまえ!」の言葉が聞こえ余計なことは頭から消えた。だけど、俺の記憶はそこで途絶えた。

 翌日の昼頃に目が覚めた。そこは医務室で俺の動いた音が聞こえたのか保険医が近寄ってきた。

「貴方の名前は? 誕生日は?」など聞いていった。

 一通りの質問を受けた後に俺に何があったのか聞いた。

保健医が言うには俺はコミといい勝負をしていたけど、頭に木刀の直撃を受けたらしい。それで昏倒して丸一日眠っていたと。

 言われて頭を触ってみると物凄いたんこぶができていた。たんこぶの痛みより、あぁ負けてしまったのかと言う思いのが強かった。

 木刀での一撃だったので骨にヒビが入っている可能性もあり、その後数日は安静にしているように言われた。

 入院中にコミとフラーが見舞いに来てくれて試合の話をしてたけど、俺は試合の内容を全く覚えていなかった。聞かされた話だとかなりの接戦だったらしいけど、コミは今まで一度も見せたことのないとっておきの隠し技を使ったって。

ずるいや…。

そして幼年軍学校を卒業した。

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