反撃の時
翌日は朝食後から会議室に主要な人物が集まった。
第二王子の腹心リードレはエッガース中隊長が尋問している。
会議室にいるのはステラ王女、ローレンツ、ゆじゅ、チマ、フレヤ、
ズキ、ケンジャ様、ヴィリーとレーネである。
「まずは昨日皆様お助けいただき感謝いたします、
特にズキさんとヴィリーさんは重症を負われたそうで謝罪いたします」
ステラが椅子から立ち上がり深々とお辞儀をする」
「礼よりも金の方が有り難いがね」とヴィリーは図々しく要求する。
「ご安心ください、それは勿論都合致します、
それでヴィリーさんは情報ギルドに所属だそうですが、
ヨーナス兄さんに関して有利な情報はないでしょうか?」
「まあ、色々あるがな、別料金になるぜ情報関係は仕事なんでな」
「ええ希望の額をお支払いいたしますわ」
「んじゃま、まず姫さんトコのヒルシュって侍女、ヨーナスのスパイだぞ」
「なんと!」ローレンツが慌てて部屋の外へ出て騎士にヒルシュ捕縛を命じる。
「次にはっきり言わせてもらうと第二王子は女関係がだらしない、
貴族の嫁に対する浮気が多数あるぞ、
その辺を攻めれば失脚させられるんじゃないかね、
中でも一番はフラーケ上級貴族のとこだな、
フラーケ上級貴族の嫡男さ、あれ第二王子の子だぜ、
チクればフラーケ上級貴族はこちらの味方になってくれると思うぜ」
とヴィリーが爆弾発言をする。
「そ、それは確かなのですか?」とステラは驚きの表情を隠せない。
フラーケ上級貴族はステラとも血縁関係にある間柄なのだ。
また王城で要職にもついている大物である。
「ああ間違いない、フラーケ上級貴族が所領に帰っていた時に妊娠している、
逆算すれば分かると思うんだが上級貴族様は鈍いのかね、
その時に第二王子が婦人と逢瀬を重ねていたのは確認している」
「その話、血を見るわね」とチマが呆れて笑っている。
「書くものを貸してくれんかね、浮気相手の一覧を作ってやる」
そう言って作られたリストは二桁にものぼった。
「この御方達に接触すれば外堀は埋まるだろ」
「身分の低い貴族は泣き寝入りするんじゃない?」
自分の家の権力のなさを知っているチマが言った。
「表立って動いてもらわなくても裏から支援してもらうだけで十分でしょう、
フラーケ閣下は正面から動いてくれそうですがね、
それに妻を取られた恨みというのは理性では片付かないものですよ、
私の同期もそれで破滅してしまったので分かります」とローレンツ。
「ではその貴族の方々にも協力を頂きましょう、
この会議が終わり次第手紙を書くのでレーネも代筆を手伝ってくれますか?」
「おまかせを、微力ですが我が家にも協力を仰ぎましょう」とレーネが微笑む。
「わたし達は~、ステラ姫と一緒にいて守るとしよう~」
「もう一つ、王太子にプラスになる情報もあるぜ、
それを使って王太子を味方につけるのもいいだろう」とヴィリーが追加する。
「それはどんなことでしょうか?」
「隣国、セバートーラー親国の軍師が王太子の行動にかなりの好意を持っている、
王太子は現国王とは違って誠実だからな、おっと父親の悪口すまんな、
引き抜けるって伝えてやるといいぜ、軍事以外に政治にも有能なやつだ」
「そんなことまで分かるんだな、ヴィリーの所のギルドは凄いな」
ズキが心底感心する。
「ああ、大陸南部の事なら仲間に聞けば大抵分かるぜ、構成員も膨大な数だ」
ゆじゅが一瞬ピクリと動いたが誰も気付いていない様子だった。
「ではそれも手紙で伝えておきましょう、
後でその方について詳しく教えて下さいませ」ステラが再びお辞儀をする。
「第二王子の監視員には変化があったら知らせるよう言っておいた、
再び姫さんを拐う計画が出てくれば連絡が来る手筈だ、
俺っちがいるからな、今度は先手を取れるだろう」
「頼もしい方ですね、私の専属になって頂きたいものですわ」
「俺っちはサンフテ・ヒューゲルの町に愛着あるから遠慮させてもらうぜ、
ま、ギルドの別の構成員を紹介するならいいぜ」
「確かにその二手を打てば外堀は埋まりますな、
まず王太子を真っ先に味方に引き入れるべきでしょう、
王太子は本日定例昼食会に出かけるかと思われます、
できうることならその前にお話をするべきかと」
ローレンツがそう言った時に部屋の扉をノックする音が聞こえる。
相手はエッガース中隊長だった。
「失礼します、リードレの尋問が終了しました、
素直に自白しまして、内容は概ねヴィリー氏の内容と一致しました」
「暴れたりはしていないのだな?」とローレンツが問う。
「はい、大人しいもので観念していると思われます」
「ではステラ殿下、早速にでも王太子に面会に行かれるが宜しいかと、
私もステラ殿下とともに同伴いたします、
リードレも連れて行って王太子に詳細を語ってもらいましょう」
ローレンツがステラにそう提案する。
「ケンジャ様は共におると言っていたが、
妾たちも行ってもいいのかえ?」とゆじゅが聞いた。
「はい、兄上に会うのに仰々しい警護は失礼になりますので、
少数でも強いゆじゅさん達に来て頂いたほうがよろしいかと」
「俺っちはここで待ってるわ、役に立たなそうだからな」
ヴィリーはそう言うと侍女に休憩室まで案内される。
「ではレーネ、貴族達への根回しをお願いします」
「了解致しました」レーネもそう言って退出していった。
そうしてステラ達とゆじゅ一行はリードレを連れ王太子の宮殿へと向かった。
王太子の宮殿の一室にて。
「ふむ、ステラが襲われた経緯は理解したぞ、
ヨーナスの腹心リードレが言うのならその通りなのだろう、
で、危機を回避する方策を模索したいと」
王太子がステラの方を向いて話しかける。
王太子に一通り説明してリードレからも証言させた所だ。
ゆじゅ達はステラの後ろで黙って聞いていた。
「暫く待ってくれ」と言って王太子は手を顎にやり考え事を始めた。
だが暫くという程待つまでもなく王太子がニヤリと笑う。
ステラは長兄がそんな笑い方をするものなんだと初めて見る表情に驚いた。
「弟を失脚させて権力を奪うことができれば解決するだろ?
良い案を思いついたぞ、ゲスな作戦だけれど弟を負い落とせるだろうな」
「どんな事でも今は縋りたい気持ちです、お兄様教えていただけますか?」
「ヨーナスの女癖は知っているか? それを利用して罠にはめよう、実は……」
そうして王太子が話し始めた作戦をみんなは聞かされた。
ズキが顔をしかめたのをチマは見逃さなかった。
数日後の夕方、とある街中某所にて一人の男が通りを歩いている。
背筋が伸びていて身なりも高級、ひと目で身分の高い人物だと分かる。
ヨーナス第二王子その人である。
護衛は一人も付けておらず一人で移動している。
散策するふうではなく目的地に向かって一直線に進んでいる感じだ。
本来なら護衛無しで街中にでるなどありえないことだが、
ヨーナスにはよくある日常だ、女性と逢瀬をする日には単独行動するのだ。
その様子を見つめる目が沢山ある、ステラ王女達とエルフ一行だ。
ヴィリーがヨーナスの監視役と連絡を取って魔道具でヨーナスの姿を映している。
ステラ王女達は王太子の建物に避難していた。
どういうわけなのかは知らないが魔法陣の維持が限界らしいく、
なりふり構わず急いでステラを襲う可能性があるので、
情の深いと言われる王太子の元に駆け込んだのだ。
ステラは王太子とはあまり接したことがなく、よそよそしい風体だ。
「そうそう、フラーケの一件は僕の方から伝えておいたよ、
怒り狂って僕まで殺されてしまうかと思ったよ」
「まあエルマー兄様、お手数おかけいたしましたわ、
あまりお会いしたことがありませんでしたけれど、噂通り優しい方ですね」
「ははっ、半分は僕も楽しんでいたんだよ、
あのヨーナスがやらかしたと聞いていじってやりたくてね、
だから僕は全然優しくなんかないさ、
だがそれだけでもヨーナスは大失態なんだが今日の計画が成功したら、
ヨーナスはもうこの国にいられないな、ふふ」
王太子はヨーナス第二王子が蹴落とされる様を思い含み笑いをした。
そして直ぐに真顔になって続ける。
「しかし、ここまで詳しく監視されてるんだな、
当然今の僕も誰かに見られてるんだろ? 怖いな」
それに対してヴィリーが飄々と答える「有名税だとでも思ってくれや」
「ふっ、有名税か、それじゃしかたないな」と言って笑う。
観察されていることは別段気にしていないようだった。
「むぅ、建物に着いたようだぞ~」映像を見ていたケンジャ様が言う。
「ゆじゅ、ここからは子供は見ちゃ駄目よ、退室してやすんでなさい」
「なんでじゃ~? 妾も見たいぞよ、やっつける所がみれるんじゃろ?」
「ここからは大人の時間なの、絶対見ちゃ駄目!」
「ひ~、ちまちゃんのマジ怒りがでたのじゃ…、後で教えてたもれ…」
そう言って不本意ながらゆじゅが退室していった。
「侍女が対応しているようだのぉ、あの侍女は険悪感をもっているな~、
よほど具合の悪い逢瀬なのだろ~」
「これからが楽しみですね」と王太子が言う。
(此奴、本当に性格がわるいのでは~?)とケンジャ様は思う
「あの女が相手ね」とチマが映像を見て言う。
「いやだな、ここから惚気が始まるのか」ズキが言った。
ズキは未だに心の傷が治っていないようだ。
「なんと、会話まで聞こえている、これでは王族のすることは筒抜けだな」
王太子は魔道具の性能に驚異する。
「魔道具って恐いわよね、王太子様はよく耐えられるわね」
チマが王太子に尋ねる。
「はは、王族にプライバシーなんてないさ、
君の所のゆじゅさんも君と一緒に住んでいるんだろ?」
「ん、まぁ、そう言う事ならプライバシーは無いわね…」
「僕もお風呂に入るだけで何人も手伝いが来るんだよ、裸なんか見られ放題さ、
あれ? これは初めての逢瀬ではないんじゃないか?」王太子が様子を見て言う。
「今回王太子がセッティングしたんじゃないのか~?」
魔道具から会話が聞こえてくる。
会話の内容は想像の予想を超えていた。
仲睦まじい会話が聞こえてくる、どう考えても初対面ではない。
「なんと、この女性とヨーナスは以前から繋がっていたのか、
この女性が父上の寵愛を受けているのを分かっているのにそこまでするのか」
王太子がヨーナスに憤慨した。
「そこまでは俺っちも知らなかったぜ、まぁ、ヨーナス殿下はやりすぎたな」
十分程経って二人は服を脱ぎ始めた。
チマは初めて見る事柄だったので興味津々に凝視している。
「おい、チマ、おまえもゆじゅと一緒に出ていくべきじゃなかったのか?」
「あたしは大人だからいいのよ!」ムキになるチマ。
「どこが大人なんだか…」ズキが両手を広げ呆れる。
ヨーナスと国王の愛人が致している時に異変は起きた。
魔道具から第三者からの大声が聞こえる。
「きたな」と王太子が言う。
続けて「これでステラは安泰だぞ」と王太子はステラに微笑む。
「で、ではあの声はお父様…?」
「ああ、今日の逢瀬に合わせて父上を呼んでおいた、
ヨーナスと鉢合わせするようにな」と言って腹筋を抑えられないように笑う。
男が無理矢理に部屋に入ってくる、国王その人だ。
国王は二人の姿を見て一瞬理解できなかったようだが、やっと浮気だと分かる。
裸の二人を見て顔を真赤にする。
「貴様ら~! 何やっているんだ~! 二人共恩ある身でなにさまだ~!」
そう、婦人は貴族として没落後国王の恩寵を受けて援助を受け生活していた。
第二王子に至っては育ててくれた恩がある。
「ふっ、ふ~、ふっ」国王はあまりの怒りで声が出ない。
そこで見ていたケンジャ様が言う。
「あの二人ぃ、殺されてしまうんじゃないのか~?」
それに対して王太子が答える。
「父上はそこまで愚鈍ではありません、私事で人を殺す愚かな真似はしませんよ」
「でも、あの怒り方は尋常じゃないわよ?」とチマが聞く。
「大丈夫です、これでも人を見る目はあります、信じてください」
まぁ、死んだとしても他人事である、ちまはその辺は冷酷だ。
「ヨーナス! 貴様フラーケの家でもやらかしたそうだな!
フラーケの嫡男は貴様の子だと言うじゃないか!」
その言葉を聞いてヨーナスは顔を青ざめる。
「あ、う、その…」
第二王子がテンパっている。
「その、なんだ!? なんでお前たちが契っているのか?」
「父上、お待ちを! これは誤りです、この女が誘ってきたのです」
と最悪の言い訳を言う第二王子。
「何を言うの!? 最初無理矢理に手籠にしておいてその言葉ですか!?」
女も言い訳をするものの真実は闇の中。
「貴様らはもう一言も喋るな! 信じられぬ! 何も信じられぬ!」
修羅場を見せられたステラ一行は複雑な心境だった。
「兄上の言う通りになりましたが、心苦しいですわ…」
「おや、殺されかけてもそんな事が言えるなんて随分優しいのですね、
生き死には後悔がたたないものです、敵と見たら遠慮なく殺るべきでしょう」
「そうですか、私は納得出来ないのですが…」
「それはステラが自身の命を軽んじてるからです、
自分の命を軽んじて物事は進みませんよ」
ん~、と王太子とステラの会話を聞くチマ、
自分の命が一番だと思うチマはステラの言葉が理解できなかった。
あんな第二王子死んでもいいと思っている。
そんな第二王子まで助けたい心情がわからない。
「おいや、雑談もいいが映像を見ろよ、佳境だぜ」ヴィリーが言う。
映像は国王の怒号で埋め尽くされていた。
「あ~あ、こりゃ終わりだな」とズキが言う。
「貴様! 王族返上の上国外追放だ~!」
その一言でステラの安全が確立された。
「ははは、言った通りになっただろ、僕もヨーナスが嫌いだったから良かった、
ステラ、覚えておけ、僕は気のいい人と言われているがやるときはやる、
決して敵にはなるんじゃないぞ?」
その言葉にステラは寒気を感じた、勿論敵対する気はないが。
「物凄い勢いで決着が付きましたね」とステラが語る。
「そのタイミングで父が来るように仕込んだからね」と王太子が笑う。
「お兄様は冗談抜きで恐ろしい人だったのですね、今まで気づきませんでしたわ」
「言ったろ、いい人間じゃないって、王太子なんてやってるとそうなるんだよ」
「お可哀そうに、身分が違えば自由な生活を満喫できたのですね」
「ああ、それは否定しないよ、王族の性だ、王太子としてそう振る舞うしかない」
「でもこれでヨーナス兄様を駆逐できました、感謝いたしますわ」
「そうだな、そもそも白金竜を制御できるかもわからない、
そんな無謀な策を強行しようなど駄馬にも劣る!」
「でも白金竜は律儀だったからなぁ、思うようになったかもしれんぞ~」
とケンジャ様が言う。
「あなたは白金竜をご存知で?」と王太子が聞く。
「かなりの知り合いだぞ~、計画が上手く行けば予想通りになったやもしれぬ~」
「…なんと、そんな事態になっていたのですか、油断しておりました」
「まぁ、罠にハマった~、万々歳だ~」
「そうですね、私も後釜を狙うヨーナスを落とせて宜しかったです」
そうやって事変は本当にあっという間に急展開したのだった。




