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ズキ君タイミング良すぎ

 時は夕方まで遡り、

ドスドスドス…、ズキ達が借りた農耕馬は重い体重に太い脚、

人が早歩きする程度の速度で移動を続けている。

農耕馬なので走る訓練は受けていないからこの速度で進むしかない。

魔法の暴走で飛ばされてから数日が経過し王都ルミナスまで大分近づいていた。

手綱は今はズキが握っておりレーネが後ろにピッタリと抱きついている。

「レーネは道中頼りにするって言ってたけど、

アガタ国は治安が良いから襲われる心配はなかったな、

この辺もずっと穀倉地帯だし野盗が隠れる場所もない、

このまま次の町まで行ったら宿を取ろうよ」

今は夜になっていて、既に町の明かりが見えている。

日も暮れ道から外れないように前を見ながらズキが言った。

「分かりましたもう間もなくサンフテ・ヒューゲルの町ですね、

次でようやく首都ルミナスに辿り着けますわね」

「フレヤは今日は外でいいよ~? ズキ個人の支出でしょ、お金は大切にね!」

「悪いなフレヤ、レーネさん恐ろしいことに今回は個人出費なんですよ、

国から予算が下りなかったので実費で旅をしてるんです」

「今回はということは、いつもはどこからかお金が出るのですか?」

「ああ、以前の飢饉のせいで今年は殿下一人しかエルフの儀式に参加しないので、

経済大臣が許してくれなかったんだよ、ケンジャ様が怒ってぶん殴ったそうだが」

「どちらまで旅をなさるんですか?」

「ノミン王国にある神樹の森って呼ばれる場所まで行くんですよ、

往復で四千キロに渡る長旅です」

「まぁ、そんなに大変な旅を実費でなんて酷いことで…」

「ホントだね、でも殆どの資金はケンジャ様が出してくれてるんですけどね、

ケンジャ様はかなりの金持ちなのでちょっと甘えてしまってます」

そこまで言った所で町へとたどり着いた。

 道を歩いている人に宿屋の場所を聞きその場所へ向かった。

宿屋に着くと馬を厩舎に置き「今日もお疲れさん」とズキは馬をさすってあげる。

宿の入り口でフレヤが「じゃ、フレヤはここにいるね!」

そう言って体を丸めて眠る体勢になった。

二人はフレヤに手を振り中に入るとカウンターと食堂がある平均的な宿だった。

食堂には中年の四人のグループと一人で座っている若い男の計五人がいる。

カウンターには髭を生やした中年の男がいたので、

その男に「大部屋に二人入れる?」とズキが聞く。

「ええ入れますよ、二人で銅貨六枚、食事は別料金です」と男が言った。

「では早速食事二人分お願いします」

「食事代は二人分で銅貨一枚と錫貨三枚になります」

そう聞きズキは随分高いなと思ったが、

宿泊費と食事代を払い二人は空いているテーブルについた。

「やっぱり馬がいると移動が楽だね、旅も馬でしたかったよ、

俺が旅をした時も歩きだったんだけど若かったし、

少年士官学校で体を鍛えてたからな~」

「あら? ズキさんは今もお若いではありませんか、

エルフは若い姿のまま体力が衰えていくわけではないのでしょう?」

レーネは首を傾げながらそう言った。

「恥ずかしいことにただの運動不足です…」

ズキが頭を掻き恥ずかしそうにうつむいて返答した。

実際、ゆじゅの警護役になってからは剣の練習も怠っているザマだ。

「そうは思えない強さですけれどね」レーネがそう言って微笑んだ。

早々に食事がテーブルに出され二人はゆじゅの話等をしながら食事を済ました。

 食事を終え二人が立とうとした時だった、

隣のテーブルにいた四人がズキとレーネを囲んだ。

四人のニヤニヤした表情にズキは嫌な予感を覚える。

案の定四人はタイミングを合わせたように同時に剣を抜き、

「おい、お二人さんよ有り金とその剣おごってくれませんかね」

やはりかとズキは思うと「フレヤこい!」と叫んだ。

間を置かずに入口のドアがバンッ! と開きフレヤが走り込んでくる。

四人はその音に驚き入口の方を見たが、

ズキはその隙きを見逃さず剣を抜かずにその柄でみぞおちを突き、

あっという間に二人を倒してしまった。

フレヤはそのまま止まらずに走り続け残った内の一人に体当たりをかます。

体当りされた方は三メートル近く吹き飛ばされ頭を打ち気絶してしまった。

最後の一人は「このトカゲめ!」と叫び剣を振るが、

フレヤは避ける素振りも見せずに体で剣を受けた。

ズキは相手の剣を持つ腕が伸び切った所を見計らい剣の鞘で腕を思い切り叩く。

ボキッという鈍い嫌な音が響き男は剣を落とし、

痛みに顔を歪め床に膝をついて右手を押さえた。

ズキがフレヤを呼んでから四人を倒すまで十秒も掛からなかっただろう。

カウンターにいる店主らしき男は何事もなかったかのように無視している。

「さて此奴(こいつ)らどうするか、役人を呼ぶか」

誰かに言ったわけではなく独り言だったのだがそれに答える人物がいた。

もう一人の客らしき男だ。

「無駄だよ、こんな瑣末事で巡察官が動くわけないさ、

たとえ人が死んだってそれが民間人だったら放置するような奴らだぜ?」

「そんな、この国の巡察官はそこまで腐敗していませんよ!」

レーネが大きな声で反論する。

「他はどうかしらんがこの町じゃそうなのさ」

「じゃあ、コイツラの処遇は…」ズキが困った顔で言った。

「見逃してやっちゃくれないかな? 此奴等(こいつら)にも事情があるんさね、

慰謝料として此奴等の剣を奪って売っぱらっちまえばいいさ」

「事情って? あんたは此奴等の仲間なのか?」ズキは険しい表情で男に問う。

「仲間じゃないがこの町に一緒に住んでるから顔は見知ってるな、

先日この町の悪徳領主様が途方もない額の人頭税を取り立てて、

この町の人間は生活もままならなくなってるんだ、

このままじゃ秋の収穫までもたないかもしれないな」

男は曇った表情でそう語った。本人も困り果てているのだろう。

「なんと、そんな事になっているのですね、ズキさんどうしましょうか」

レーネは文化的にも社会的にも先進国だと思っていたのだが、

自分の住む国でそんな事が行われている事にショックを受けているようだ。

「どうしようって言われてもな…、

もう一度確認するが役人は動かないんだな?」ズキは男に聞いた。

「ああ、今この町は巡察官が全く働いてないので無法地帯さね、

小さな町で顔見知りばかりなので辛うじて道徳崩壊はしてないがな」

「じゃ、あんたの言う通りにするしかないな…」

そう言ってズキは四人の剣と鞘を奪い取った。

「しかしあんた強いな、さすがステラ殿下襲撃で生き延びただけある」

知られているはずのない事実を言われズキは驚いた。

いくら噂が広がるのが早いとは言え、

早馬でさえ情報はまだルミナスまでも達していないだろう。

それに襲撃時にエルフ一行がステラの所にいたことも、

ズキがその一人だということも知られているわけがないのだ。

ズキは急速に警戒して身構えた。

「お前何者だ、何故そんな事を知っている!?」

「俺はジーチョ・ラ・アーグレっちゅう情報屋ギルドの一員さ、

サイリスタの事はこの魔道具でギルド中に流れてきたんさね、

というか『何故そんな事を知ってる?』なんて自白してるのと同然だな」

そう言って手のひらサイズの四角い金属を取り出してズキ達に見せた。

「それにしたって俺がステラ殿下と一緒にいたエルフだと何故わかった?

サイリスタから三百キロも離れている、

襲撃から数日でこんな所にいるんだ、ありえないとは思わなかったのか?

それに情報がわかるといっても顔はわからないだろ?」

「それが分かるんさね、この魔道具は音だけじゃなく映像もみれる、

それに王族担当の情報員が各王族に派遣されていて、

そいつらが遠くからでも覗き見できる魔道具を持ってるんさね、

だからサイリスタで事件が起きた時、その魔道具とこの魔道具を使って、

ギルド中で事態を見聞きしていたんだ、あんたの活躍もね」

その言葉にレーネが驚いた。

「では、ステラ殿下はいつも監視されていたのですか?」

「ああ、されていたし今もしているぞ」

「殿下は無事なのですか!?」レーネが勢いよく立ち上がり大きな声を出した。

「無事さね、エルフ三人と一緒にルミナスの自宅に籠もってるぞ、

それまでに何度も襲われたんだが何とかしのいでルミナスにたどり着いた」

「はぁ、良かったですわ、ここ数日殿下の身が心配で気疲れしてましたの」

「ゆじゅ殿下達も無事だったのか、良かった」

「まぁ事態は好転していないんだがな」と男は含みのある事を言った。

「どういうことだ? 宮殿にいるんだろ?」

そのズキの問に男は爆弾発言をする。

「ここの領主様さね、第二王子ヨーナスがステラ殿下誘拐を画策している」

ズキとレーネは驚いたが、カウンターにいた宿屋の店主はもっと驚いた。

これ以上聞いたら命に関わるかもと思い、

店主はそそくさと厨房に逃げ込んでしまった。

「なんだって!? じゃあサイリスタの襲撃犯もそういう事なのか!?」

「その通りさね」そう言って男は足を組み直した。

「しかしなんでそこまで教えてくれるんだ?

情報屋ギルドなんだろ? 情報は有料なんじゃないのか?」

当然の質問だ、只で教えてくれるはずはなく何か要求されて然るはずだ。

「これはギルドの意向じゃあなく俺っちの独断だ、

さすがにこの宿屋にあんたが来て吃驚(びっくり)したさね、

だが同時にチャンスだとも思った、あんたにやって欲しいことがあってね」

「ほうら来た、金を要求されるよりも難題を突きつけるんだろ?」

「当たりだ、ギルドの予想ではステラ殿下の誘拐は成功する、

そしてこの町に連れてこられるだろう、

あんたにはそのステラ殿下の救出をやって欲しいんさね」

「それがお前に何の特があるんだ?」

「俺っちのためと言うよりこの町のためだな、

ヨーナス王子が失脚してくれればこの町の領主から外されるだろう、

そうなればこの町は救われる、ここに住んでる俺っちもだけどな」

男はそう言ってニヤリと笑った。

「俺だけでそれをやれと? そんな事ができると思ってるのか?」

「フレヤもいるけれどね!」

「その通り、そのドラゴン君もいれば可能だと思っているんさね、

根拠だが、まず第一にこの町にヨーナス殿下がいる訳ではないという事、

だからこの町には銀翼騎士団はいない、

第二にステラ王女誘拐は勿論密かに行われるために関係者は少数という事、

監禁場所の警備も最小限だということはこの目で確かめてきた、

最後に今回の誘拐計画の担当ヨーナス殿下の腹心のテレーザ・リードレだ、

このリードレという女は政治屋でそれ以外のことに疎いんだ、

警備に必要な人員構築が全くできていない、任命した警備隊長自体が間抜けだ、

はっきり言って俺の目から見ても監禁場所は穴だらけさね、

どうだ? やれそうな気がしてきただろ?」

しかしズキは渋い顔を続ける。

「レーネさんの前で言うのは気が引けるが俺がやる意味を感じないな」

「そんなズキさん、ステラ殿下を見捨てるのですか?」

レーネの表情にかなりの焦りが見える。

「利点はあるぜ、あんた等エルフは長旅ながら貧乏なんだろ?

さっきの会話は聞こえてきていたぜ、

ステラ殿下を救出できれば殿下の全面支援を受けられるぜ?

相当額の資金援助を受けられる、旅中の護衛を雇えるほどにな」

確かに相応の資金援助があれば旅中が楽になる、ズキが決断するに充分な提案だ。

「分かったがステラ殿下とレーネを連れて逃げることは不可能では?」

「あんたは馬には乗れるんだろ?」

「乗れるぞ」

「なら馬を二頭用意しよう、ステラ殿下も馬には乗れる、

二人でルミナスの王城まで逃げてくれればいい、

そちらの女性は私の方で預かろう」

それに対してレーネが答えた。

「いえ、それならば私は手持ちの馬でルミナスへ向かいますわ、

間に合えばステラ殿下と護衛の方々に注意を(うなが)す事ができますし」

「そうか、馬を持っているのならばそちらの方がいいさね」

「で、ステラ殿下を助けたとして第二王子とやらを失脚に追い込めるのか?」

「救出作戦には俺っちも同行する、そこで私は腹心リードレを捕まえて監禁する、

王城でステラ殿下がここに誘拐犯がいると陛下に伝えてもらえばいい、

そうすればリードレを速やかに引き渡せる、

誘拐犯がリードレだと判明すれば芋づる的にヨーナス殿下に捜査の手が及ぶさね」

「流れは分かった、で聞きたいんだがそもそもステラ殿下は何故狙われるんだ?」

「ヨーナス殿下は白金竜の復活をさせて支配下に置こうと目論んでいるんさね、

怪しい奴等と組んでこの町を中心に巨大な魔法陣を築いた、

その魔法陣の発動の為にはステラ殿下を生贄にする必要があるんさね、

ステラ殿下は白金竜を封印した魔道士レインの血を一番強くひいている、

だから封印を解くのに濃い血を引き継いだステラ殿下が生贄にいいんだ」

「魔法陣とは?」

「その怪しい奴等が魔物の死骸を六芒星の形に配置する組み合わせを三個作った」

そう言われズキとレーネは死体の山の事に思い当たった。

「その魔物の死体の山ならフィントドルフで一つ排除したぞ?」

男はズキの言葉を聞いて少々驚いた顔をした。

「ほうフィントドルフか、一番内側で他の魔法陣と接続する為の中核だな、

ならヨーナス殿下の目論見自体は既に破綻しているということになる」

「しかし、お前は詳しいことを知っているな」

「ヨーナス殿下担当の情報員が怪しい奴等との密談を傍受したんさね、

その密談でルミナスの白金竜復活作戦の全貌が分かった、

俺っちはヨーナス殿下の直領地のこの町担当だから、

その密談に関わる情報を全て提供されたって言う訳さ」

そう言い終わると男は胸ポケットからタバコを取り出し、

テーブルに置いてある明かりを使って火をつけた。

そして旨そうに吸い煙を吐き出した。

「そんな事までバレるものなのか、お前のギルドはとんでもない組織だな」

「世界に一番影響を与える国だからな、

アガタ国の情報収集には金に糸目をつけず全力でやってるんさね、

覗き見をする魔道具は目が飛び出るほどの値段がするって聞いたことがあるな」

「けど俺はお前のことを知らない、お前の話もどこまで本当なのか疑わしいな」

「まあそうだろうな、そう言えば自己紹介もまだだったな、

俺っちはヴィリー・ホフマンだ、ヴィリーって呼んでくれ」

「で、そんな情報を持ってるんならなんでステラ殿下に忠告しないんだ?

そうすればステラ殿下サイドも対応ができるだろうに」

「情報屋だから本来なら只で情報を渡す事はしないが国民として放置できない、

だから勿論伝えたんさね、だが上の方まで話が通っていないらしい、

俺っちはどうやらステラ殿下サイドの窓口が既に敵側に寝返っていると見ている」

「陛下の方へ報告したらどうだ?」

「門前払いされたそうさね、全く馬鹿な話さ、王族の命に関わる話だってのに」

ヴィリーはお手上げのポーズを取りながらそう言った。

「じゃあ今からフレヤを飛ばしてステラ殿下に直接忠告すればいい」

ズキのその発言にヴィリーは首を横にふる。

「残念だが間に合わない、計画は今晩にも決行されるはずだ、

理由は魔法陣の維持がもう限界だからだと聞いた、何故限界かは知らん、

いまからドラゴン君を行かせたら戦力を減らす愚を犯すことになるぞ?」

ズキはしばし考えた後にヴィリーに聞く。

「事前対策ができないのは分かった、だが椿宮には百人も騎士団がいるんだろ、

何故誘拐が成功すると考えてるんだ? 常識的に考えて無理なんじゃないか?」

「王族が住む宮殿には王族と側近しか知らない非常時の隠し通路があるだろ?

しかし今回は敵も王族だ、隠し通路の場所がバレているから、

誘拐はそこを使われて行われることが予想されている、

警備には引っかからずに誘拐は成功するだろう」

ヴィリーは磁器製の皿にタバコを押し付け火を消した。

ズキはそれを見てマナーの悪いやつだと思う。

「じゃあ道中で待ち伏せをするのは? 相手の拠点に攻めるよりいいと思うが」

「それだとリードレとの繋がりを証明できない、

あくまでも最大の目的はヨーナス殿下の失脚だ、

そうしないと何度でも白金竜復活計画が続くことになるぞ?

ステラ殿下は一生狙われることになる」

「それは困りますわ、ズキさんこのヴィリーさんの案をとって頂けないですか?」

「軽く言ってくれるな~、こっちは命がけになるんだぞ…」

ズキは困った様子で頭を掻いた。

「俺っちの命も懸かってるんだがな」ヴィリーも苦笑いをしている。

その表情を見てズキは命懸けという言葉は本当なのだと感じた。

(ならばこの男の事は信じても良いかもしれない)と思う。

「しょうがないな、やるしかないか」とズキは覚悟を決めた。

「ステラ殿下が拐われたら担当の情報員から連絡が入る予定さね、

俺っちも今日はここに泊まることにする、

相手は馬車で移動するだろうが明日中にはこの町へたどり着くだろう、

着いてすぐにでも儀式を始める可能性も高い、

到着を確認し次第すぐにでも突入するとしよう、

俺っちは最悪ステラ殿下が亡くなっても構わないんだが、

自分の突入が遅れて間に合わなかったら口惜しい気持ちになるだろうからな」

「拠点の構造や警備の配置は把握しているのか?」

「ああ、ここに詳しく書かれた図がある、作戦会議と行こうか」

「では私は今すぐにでもルミナスへ向かいますわ、

今から向かえば明日朝にでもルミナスへ到着できますから」

「首都近郊だからといって女性が夜に移動するのは危険じゃないか?」

ズキはあんまり賛同していない様子でレーネに言った。

「殿下のお命が懸かっているのですもの、たかが侍女の安全とは計れませんわ、

少しでもできることをしなければいけません」

「分かった、十分に気をつけて行ってくれ」

ズキにそう言われるとレーネは一礼をして宿を出ていった。

そうして残ったズキ、フレヤとヴィリーは話を詰めていくのだった。

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