想像は膨らむ
ゆじゅ達はマルツの町まで到達していたがゆじゅは疲れで目覚める気配はない。
「ふむ~、ドナウアー騎士団は今は味方と見ていいだろぅ、
ただ、何故追われているかがわからない~、
その理由をドナウアー騎士団が知れば彼奴らが敵にならぬとも限らぬ~、
事態は進展していないと見るべきだぁ」
充てがわれた大部屋にはゆじゅ、ケンジャ様、チマ、ステラ、ローレンツがいる。
ゆじゅと一緒にステラも同じベッドで寝ている。
誰も信じられないことから全員が泊まれる大部屋を所望したのだ。
チマは近衛の制服を修繕してもらっている最中で今は代用の服を着ている。
「何故狙われているかは分かるはずもない~、全員に狙われると計算して動く~、
ステラ姫の直属がいる椿宮に向かうまではわたし達以外全部警戒だ~」
ケンジャ様は大きなソファーに座りながらそう言った。
兵舎の一部屋である大部屋だが、急遽貴賓室として相応しい品が運び込まれた。
「そうですな、二千人を擁する赤応龍騎士団までが敵に回ったと言う事実、
どれだけ巨大な陰謀が動いていることか計り知れません、
ステラ殿下の直衛に囲まれるまでは全く安心できませんな」
「その椿宮って王宮にあるの?」チマが聞く。
「いいえ、王宮からは三キロ程離れた街中に孤立しております」とローレンツ。
「じゃあ、ルミナスが安全とも言い切れないんじゃない?
サイリスタの百人だって瞬殺されたんだから、椿宮の百人で安心と言い切れる?」
チマはサイリスタの経験をしたので百人程度の兵では安心できなくなっている。
「ルミナスに戻り次第陛下に事情をお伝えして一個中隊派遣して頂きましょう、
銀翼騎士団六個小隊ならば充分に過ぎる警備をしけます」
ローレンツは銀翼騎士団をバカにされた様で少しムッとしているが、
サイリスタで瞬殺された事は分かっているので、
銀翼騎士団の不甲斐なさを感じてもいる、敵は特別強いと思い油断はしていない。
「そもそも銀翼騎士団自体が信用できるの?
助っ人を呼んでもステラ殿下の直衛ではないんでしょ?」
「我が騎士団は幼き頃からの思想まで考慮して選別している!
そこまで信用していただけぬのであれば侮辱と受け取るが?」
「ローレンツさん…、違くて…、黒幕が王族だったらどうって事よ?」
チマが遠慮なく本音をぶっちゃける。
「…う、む…、それは…」
「ね、そうだとしたら助っ人の銀翼騎士団も信用できないでしょ?
黒幕は二千人もいる騎士団の団長が寝返るほどの大物なのよ、
しかも、不利と見るや躊躇なく自決した、普通じゃないわよ?
騎士団長が躊躇なく自決するほどの黒幕なんて王族を疑って当然だわ、
国王陛下も無条件で信用できるのかしら?」
「我が陛下を侮辱しなさるか!?」ローレンツはチマの言い分に怒る。
「国王を無条件で信じているのなら貴方のことも信用出来ないわね」
チマは更にローレンツを煽る。
「な、何たる暴言! 陛下は殿下を愛してらっしゃる、確実にだ!」
「事実と感情は切り離すべき~、最愛の人を殺すなんて普通にある~」
ケンジャ様までがチマに倣ってローレンツを煽る。
ローレンツは目に見えて体が震え怒っている。
「駄目ね、ケンジャ様の言う通り感情と行動は別よ、
とにかくルミナスに着いても援軍は呼ばないほうが最善、
敵が不明なら余計な人員は少しでも減らすべきだわ、
それでも増援を喚ぶのなら椿宮の外を守ってもらえばいいじゃん、
そうすれば敵でも味方でも椿宮にも影響はないわ、籠城すればいいんだし」
「ぐぬ、確かに椿宮の城壁は越えられぬ、
最悪の場合でも侍従や侍女に弓で武装させれば更に四十人はかき集められるな…、
少しの時間でも籠城できれば首都内のことだ、異常を感じた援軍が来るだろう」
どれだけ感情的になろうとも最適解を目指すローレンツはちまと同じ結論になる。
「銀翼騎士団の一部が敵に回ってもいいように~、援軍は百にしておくべき~、
それならわたし達エルフ組がいれば勝てる~」
「ケンジャ様が椿宮とやらの門を守れば一個小隊は倒せるわね」
「その場合アーダを使うからぁ、姫の守りはチマとケトシだけになるぞ~?」
「ゆじゅとケトシとあたしでしょ? 余裕で守れるわ」
「逞しいこと言うようになったな~、問題児が~」
「どうせ同僚を十人倒して問題児になったんですぅ、
高速詠唱を覚えた今は更に無敵になったんですぅ!」
「それは~、自慢ではないぃ…」
チマとケンジャ様の余裕の会話でローレンツも少し冷静になった。
(高速詠唱を覚える前にエルフを十人倒した?
ゆじゅ殿下の方が強いとも言っていたな、想像もできんぞ?)
「取り敢えずステラ殿下直属の百名については信用できます、
ステラ殿下以外では陛下であったとしても命令権がないからです、
ステラ殿下直属兵二百はステラ殿下に忠誠を誓って親衛隊になったのです、
言い方は悪いですがステラ殿下ファンクファブなのですよ」
「それならいいけれど、成り切ったスパイの可能性は警戒するわよ勿論」
「お客人にそこまで気を使わせてしまい恐縮な事です、
私も黒幕によっては守る自信はありません…、
椿宮に行けたなら私は外の増援部隊の指揮に徹しましょう『私も信じるな』です」
「そう言えばローレンツさんはステラ姫直属じゃないのよね」
あらためてチマがローレンツに問いただす。
「ええ、私は中期休暇を頂いた際に同じサイリスタに行くのならと、
ついでにステラ殿下を警護補佐するよう命令を受けたので、
ステラ殿下直下の部下ではありません、第五王子の直衛を賜っていますが、
第五王子はまだ六歳であらせられまして、母君も権力闘争では末端、
私の直属の上司である第二副団長からの下命がない限りは味方できます、
逆に第二副団長から下命が来たなら敵は第三王子と思って下されば」
思う節があるのかないのか、真面目な顔で答えるローレンツ。
「第一王子が既に立太子しているんだろ~? 第三が動く理由がない~」
そんなローレンツに対してケンジャ様が言う。
第三王子は端から敵になるとは思っていないようだ。
「ですね、ステラ殿下は継承権の末端ですしね…」
「継承権の問題じゃないわ、ステラ姫そのものに秘密があるんじゃないかしら?」
チマが知らずに核心を突くが内容までは分かる訳がない。
「秘密? 体のようぉ(弱いの丁寧語)ステラ殿下に何がおありと?」
「ん~、血筋?」と何気なく聞くチマ。
「しかし、母君はセルキ国の没落貴族ですぞ?」
「その先祖は~?」と聞くケンジャ様。
「いえ、代々セルキの貴族としかお聞きしておりませんが…」
「つまり~、狙われる意味は結局わからないぃ、諦めて防御~」
「ふぅ、ゆじゅ殿下の言われたとおりステラ殿下は一生狙われるのですね…」
ローレンツがため息をついた。
「なんだ、ゆじゅも血統の線にたどり着いてたのか」とチマが言うと、
「あの時にそこまで考えていたというのですか?」とローレンツが聞いた。
『あの時』が何を指すのかチマには分からないが、
ゆじゅが何を考えたかは大体予想がついた。
「一見バカに見えるけど紙一重の天才なのよあのガキ、
一生狙われると言ったのなら血統の線と思ったんでしょうね」とチマ。
ローレンツの一言でゆじゅが結論に達していたのだろうと当たりをつけていた。
チマは続けて言う。
「ゆじゅが言ったのなら可能性高いわ、ステラ殿下の先祖に原因があるかもね」
「自信がお有りなのですね…」ローレンツは納得がいかない。
それもそうだ、十三歳の小娘の言葉を真に受けるほうがおかしい。
「あれは~、体験しないとぉわからないぞ~? 姫の直感、
ちょっとした隠し事などぉ、目聡く見つけるからのぉ」
ケンジャ様も納得がいっているようだ。
「それを信じるとするならば長期的に防衛策を練り直さねば…」
ローレンツはケンジャ様に言われても信じることはできないが、
可能性として対処の必要を感じた。
「母方の先祖の情報も調べることね、ゆじゅの言ならかなり信じられるわ」
「その程度ならここのドナウアー騎士団からでも調べられます、
北西に早馬を飛ばせば、我らがルミナスへたどり着く頃には結果がでるかと」
真剣な顔持ちのローレンツが言うとケンジャ様が答える。
「今すぐ動かせ~、家系をたどるのだぁ」
ケンジャ様もそこに答えがあると考えたようだ。
同じくゆじゅを信じてのことなのだろう。
「分かりました」ローレンツは大声で続ける。
「誰か、誰かあるか!」ローレンツのその声に吃驚した部屋番が扉を開ける。
「なにでありましょうか、銀翼騎士団大隊長殿」
「すぐに団長を呼んでくれ」
「はっ」言われたドナウアーの団員は部屋を出て走っていく。
「しかし~、血筋が原因なら理由がわかったところでぇ、狙われ続けるな~」
ケンジャ様が諦め気味な口調でローレンツに言う。
「だが、敵ははっきりするかもしれません」とローレンツが即断する。
「ふむ~、他国のことなのでぇ深く足を突っ込まないがなぁ」
「出来得る限りの力をもって守ってみせますとも、
第五王子とその母君はお味方になりましょうし、さすれば私も全力をだせます」
ローレンツは余計な気負いを背負っているなと思うケンジャ様だが黙っておく。
「所で、ゆじゅとステラ姫は半日寝っぱなしで、
室内でこんなに騒いでいるのに起きないね」
チマがゆじゅの方を見ながら言った。
「両殿下のお疲れは並大抵ではありませんでしたから、
このまま朝まで寝てしまわれるのではないでしょうか」
「あたし達は徹夜だったけれど殆ど歩きだったからね、
半日以上馬に乗ったのならしょうがないか、ってかローレンツさん元気ね」
「正直な所疲れてます、いますが寝るわけにはいきません、姫殿下を守らねば」
「昨日のイメージとは違ってローレンツさんすっかり熱血キャラね…、
ま~、いきなり力尽きないように頑張ってちょうだいな」
チマちゃんは半分呆れ顔である、どうも熱血キャラが苦手なようだ。
そして二分程沈黙が来た後にドナウアー騎士団長クヴァントがやってきた。
「私をお呼びだそうで?」と遠慮深そうに部屋に入ってくる。
「おお、クヴァント殿、お願いがあるのですが、
ステラ姫殿下の母方の系譜を調べてほしいのです、
此度狙われている理由を少しでも探っておきたいので」
「系譜? それならこの建物にいる太守が持ってます、ステラ殿下の叔父なので」
「なんと、それは知りませなんだ」
「ええ、姉弟で揃ってアガタへ移民したんですよ」
「では早速家系図を借りてきて頂けぬか?」ローレンツは身を乗り出して頼む。
「急ぐんですね?」とクヴァントが言うと部屋から取って返した。
「あのクヴァントという男~、今朝一番で駐屯地へ行った折りにぃ、
説得が大変だろうと思ったのだがぁ、二つ返事で軍を出してくれたのだ~、
見知らぬ亜人の戯言とは取らずに『空振りだったら何より安心とだけで済む』と、
最悪を考えて動いてくれたぁ、頭の回転が速い男だの~」
ケンジャ様が素直にクヴァントを褒める。
「こちらは回転が遅くて申し訳ない」とローレンツ。
「ゆじゅに比べればあたしたちもどっこいどっこいよ」
「ちまと一緒にするな~、わたしも賢いぞ~?」
「年の功ね」と言い切るチマ。
「殴るぞぉ」ケンジャ様が杖を構える。
「いつもは自分でババアって言ってるくせに…」
「え、ケンジャ様はおいくつで?」とつい聞いてしまったローレンツ。
「…三五四歳だぁ…」ケンジャ様は不本意な顔をして言う。
「そういえば白金竜とお会いになったと仰っておりましたね」
「四歳でロアキン大戦に巻き込まれて親が死んだ~、
以後しばらくルミナスで魔族に育てられたのだ~、良い魔族であったぞ~」
年を言うのは不機嫌になる反面、育ての親の魔族の話になると嬉しそうだった。
「へ~、あたしも知らなかったわ~、だからケンジャ様は名前が魔族風なの?」
「そうだぞ~、魔族が名付けてくれた~、ドラド大山脈攻略戦で死んだがなぁ」
「うあ~、ドラド大山脈攻略戦って魔族が全滅した作戦でしょ?
ゆじゅに聞いたわ、あの子ロアキン時代に詳しすぎ」
「うむ~、姫は歴女の道をひた走っているな~」
「大体、レコア英雄譚の本をゆじゅに渡したのってケンジャ様でしょ」
「違うぞ~、姫が国王からひったくったのだ~」
「あの辞書みたいにデカい本全七巻ひったくったの!?」
「うむ、チマが来る前だったか風舞と追風併用でかっ飛んでいったぞ~、
物を持つのに風舞を応用するとは将来楽しみだとおもったぞぉ」
「やっぱりあいつ化け物だわ…」
ローレンツは話においていかれボーッとしている。
「ローレンツさん、ゆじゅって十年前は今の数倍強かったのよ?」
「えっ? ゆじゅ殿下は今十三歳であらせられますよね?」
「うん、三歳位の時は化け物だったの、今は落ち着きがでて若干頼りないけれど、
本能を開放したら多分とてつもないことになるわよ」
「妾の悪口が聞こえた気がしたぞよ?」とゆじゅがベッドから起きた。
「ほら、本能が起きろと囁いたのよ!」チマが言った。
勿論冗談なのだが。
「もう起きていいのか~?」とケンジャ様がゆじゅに言う。
「腹時計が0時じゃと言うておる、八時間も寝たぞえ」
「た、確かに今0時です、凄いですね…」とローレンツも驚く。
「ね、こいつガキの皮被った化け物なのよ!」チマが呆れた笑いをする。
「まだ、本能が残っているのだのぉ」ケンジャ様は嬉しいようである。
育ての親としてゆじゅが将来どんな成長を遂げるのか楽しみなのだ。
ローレンツは腹時計と聞き、手際よく扉まで行き歩哨に夜食の用意を頼んだ。
それを聞いたゆじゅは「あっぱれな心意気じゃ」などと言っている。
「ま、でも、今のゆじゅは弱いわね、一緒に居て怖くないもん」とチマ。
「昔は怖かったのかえ?」と白々しく聞くゆじゅ。
「あたりまえでしょ、廊下歩いてていきなり素っ裸にされる身になりなさい!」
「妾は裸なんぞ平気じゃぞ? 脱ぐかえ?」そう言って上着を脱ぐ素振りをする。
「脱ぐな!」チマがゆじゅの元へ走りより頭を引っ叩く。
「姫が起きたらグダグダだのぉ、真面目な話をしていたのが馬鹿らしく見える~」
「少し前から起きていて話の内容は把握しているぞえ、
ステラさんが逃れられぬのじゃろ?」ゆじゅは真面目な表情で言う。
その時、扉が開いてクヴァント団長が入ってきた。
「おまたせしました、こちらがステラ殿下の母方の家系図になります」
そう言って一枚の長い紙をテーブルに開いた。
十数代に渡って家系が刻まれている紙だ、鹿革紙ではなく漉き紙だ。
クヴァントも含めた五人はだまって系図を追うが、
知らない名前の連なりを見ても誰も反応できなかった。
しばらく系図を凝視していた皆だがゆじゅが口火を切った。
「これじゃの」と言ってゆじゅが一人の名前を指差す。
その指の先にはレイン・クルームと字がある。
「これが何? 誰これ?」とチマが聞く。
ゆじゅ以外はその名に心当たりが無いような様子だった。
「なんじゃ、レイン・クルームを知らんのか?、
魔王ロアキンを倒した英雄レコアのパーティの魔法使いじゃぞ?
それがこの家系図にあるのがそもそもおかしいぞよ、
レインはロアキンを倒した後にアガタ国の姫と結婚したのじゃからな、
婿入りした後はミュンテフェーリングを名乗ったのでそれ以前の子じゃろ」
さらっと凄いことを言いのけるゆじゅ。
「「「なんですと~!」」」と一斉に叫ぶ他の四人。
「と言うことは~、ステラ姫はレインの私生児の子孫かぁ…」
「他に狙われる理由はわからぬし、何故狙われるのかも分からぬが、
心あたりがあるとすればこれしかないじゃろ」としたり顔のゆじゅ。
「う~む、ロアキン時代に直接私生児を狙うならわかるがぁ、
何故その子孫が狙われるのだろう~?」ケンジャ様は首を傾げながら頭を巡らす。
「流石にそこまでは分からぬぞよ、レインについてアガタに関係あると言えば、
白金竜を封印したことと姫と結婚したことじゃ、姫との間に子も二人いるぞよ、
その二人の内の兄の子が国王になり今のアガタ国王の先祖じゃの」
「うあ、さすが歴女、アガタ国民でも知らないわよ普通…」チマは驚く。
「でも~、レインの子孫だとしてもぉ王位継承があがるわけではない~」
「では白金竜に関係するのではないかえ?」
「もしや、白金竜の封印を解く魔法陣~?」ケンジャ様がハッと気づく。
「白金竜を復活させアガタ国の権勢を強めると?」
ケンジャ様の言にローレンツが聞く。
「ステラさんに封印を解かせるのか、生贄にするつもりなのか、
血筋が問題なのじゃったらそんな所じゃのお」
「レイン殿の血を一番濃く受け継いでいるのがステラ姫殿下…」
ローレンツも恐怖を覚えながら声が出る。
「ないない! 白金竜って確か伝説の魔法で封じられたんでしょ?
それを更に解呪する方法なんて知ってる人がいるわけないじゃない」
チマが速攻で否定する。
「言われてみればそうだのぉ、だが~、国の書庫に情報が残っていたら~?
可能性としてはぁ、無視できぬぞ~?」
「じゃ、ルミナスを中心にしたあの魔法陣がステラ王女と関係あるって?」
チマはそんな伝説時代の話を持ってこられても納得できていない。
「先程から仰っている魔法陣とはなんでしょうか?」クヴァント団長が聞く。
「あのね、クトー王国を旅していた時に魔物の死骸の山を見たの、
聞いた話だとルミナスを中心にしてその死骸の山がいくつも積み重なってるって、
その死体の山を線で繋ぐと魔法陣に見えるって言ってた人がいたのよ、
あ、あいつ、アガタ国王から依頼されて調べてるって言ってたよね?」
チマが説明しつつテスタの会話を思い出した。
「ぬぅ、全くもって証拠のない仮説だがぁ、気になる線だのぉ」
ケンジャ様が眉を顰めて考える。
「国王が魔法陣を調べているのならば国王は敵ではないのではないかえ?」
ゆじゅがふと気づいて言ってみた。
「出来具合を調べてるとは考えられないの?」チマは否定的に答える。
「話を聞いていると荒唐無稽に思えますが、皆はそれを前提にお話するのですね」
クヴァントがまるで信じていない風に言い放つ。
「確かに突拍子がなさすぎる、話が飛びすぎでは?」ローレンツも否定する。
「でも見つかった魔法陣らしきモノがルミナスを中心に発動するのは、
あいつ、テスタの話を信じるのならば確かよ?
その魔法陣と同時期にアガタ国の姫が誘拐されそうになるなんて偶然?」
「いえ、昨夜の逃走中、確かに我らは暗殺者に殺されそうになりました、
あれは絶対に誘拐ではないと断言できます」ローレンツが前日の様子を思い出す。
「そっか殺されかけたんだっけ、じゃあゆじゅの線は外れね…、
ゆじゅの言葉で踊ってしまったわ」
「そうじゃったのお、ケトシがおらなんだら死んでおったのお、
今思い出すと冷や汗がでそうな事態じゃった」
とゆじゅも昨晩の事を振り返る。
「ケトシちゃん大活躍したのね、いない所で褒めておいてあげましょう」
「チマちゃんはケトシに厳しいのお」
「一度褒めて酷い目見たのよ、ドヤ顔で自分褒めしてたわ…」昔を思い出すチマ。
「ということは~、振り出しだのぉ、深読みしすぎたか~」
「では、今後の動きとしては椿宮まではドナウアー騎士団に守ってもらい、
椿宮の中は直衛百名と使用人達で警護するとして、
外回りを私の指揮する銀翼騎士団の援軍が担当ということでいいですかな?」
「ドナウアーの名誉にかけてお届けいたします」クヴァントがそう言い敬礼する。
「朝になったら出発だぁ、馬なら二日でルミナスに行けるだろ~」
「ステラ姫はこのまま朝まで起きなさそうね、ゆじゅももう一度寝ておきなさい」
チマはゆじゅにそう言うとゆじゅが嫌な顔をする。
「またノクティス・ルーナエ・カルメンかえ…?」
「わたしも~、魔力が戻ってないからぁ、ケトシは呼べぬ~、
姫は寝ずともよいのでぇ、静かに横になっておれ~」
「その前に、夕食まだかえ?」
「あ、忘れてた、さっき頼んだのよね!」
暫くして届いた食事をみんなで食べ、全員布団に入ったのだった。