一方のケンジャ様とチマ
アップを一日間違えてしまいました。
一方、ケンジャ様とチマちゃん。
この二人はどこだかも分からない麦畑のど真ん中に飛ばされていた。
「え、え!? 何!?」
戦いの喧騒が消え、月明かりで周りの景色が一変したと知ったチマが言う。
突きを入れようとしていた敵が突然消えた様に見えた。
だが今はだだっ広い平地の真ん中にいるのが分かった。
「敵の幻術!?」とチマは大きな声で焦って言った。
だが、袖を掴まれている感触に気づきそちらを見ると、
ケンジャ様がしっかりとチマの腕を掴んでいた。
そんなケンジャ様は返事をせずに蛍光の魔法を使い辺りを確認している。
次にケンジャ様は目を瞑り動かなくなった。
状況を理解できないチマはケンジャ様が動くのを待つしかなかった。
待つこと数分、ようやくケンジャ様が目を開いてチマの方を見つめた。
「ふむぅ、敵の魔道具が暴発してぇ、
敵も味方も散り散りになったぞ~。
姫はステラ王女、ローレンツ、ケトシと一緒にサイリスタに残された~。
ズキはここより百キロ程北にぃ、フレヤ、シュピーゲル、侍女と共にいるぅ。
わたしたちはぁ、サイリスタから三百キロ位北だのぉ」
「え、もしかしなくてもゆじゅがピンチ?」チマが焦る。
「取り敢えず小道に逃げ込んでえ、追手の気配はないそうだ~。
馬を駆って北上してぇ、ヴェーゼルの町へ向かうそうだ~。
アーダ、近くの町か村を探してきてくれ~。
わたし達は南下して姫に合流する~」
たった数分で全体の状況を把握したケンジャ様にチマは驚いた。
「どうしてそんな事が分かるの?」
「召喚獣達と意識を共有したのだあ。
シュピーゲルでは近隣探査ができないからぁ、
ズキ達は夜明けまで動けぬであろぅ。
放置するしか無いのぉ。
さて、わたし達もぉアーダを待つとしよ~。
二~三日は眠れぬかもしれぬぅ。
今のうちに少しでも休んでおこ~」
と言って小麦の苗を踏んづけてその場に座った。
麦踏みの季節はもう過ぎてしまっていたが遠慮はないようだ。
「魔道具の暴発って?」とチマが聞く。
「まぁ座れ~、瞬動のワンドと言う名の魔道具だぁ。
行ったことのある場所に一瞬で飛べる国宝級の魔道具だぞ~。
使用者は魔力をごおぉっそり取られて気絶するがなぁ。
それを持っていると言うだけでもぉ、
敵の組織の大きさがわかるのぉ。
そのワンドがどうやら壊れたらしぃ、もったいない~。
瞬動はレベル六の大魔法だぞ~、この世界に二つないかもしれぬ~」
ケンジャ様はそう言うと残念そうな表情をする。
「ケンジャ様ってゆじゅより魔道具のが…」とチマは言った。
「ふっふっ、心配してもどうしようもない~、休んでおこぉ」
そう言われるとチマは仰向けに寝っ転がった。
麦は三十センチ程まで成長しており少しは敷物代わりになった。
「そうね、ちょっと疲れたわ、寝ちゃっても良いかな?」
「わたしが起きてるからいいぞ~」とケンジャ様。
チマは初めての対人戦で疲れ果て目を瞑るとあっという間に眠ってしまった。
五時間程経ったであろうか、ケンジャ様がスクっと立ち上がった。
チマはその些細な音でビクッとなり目を覚ました。
緊張感が持続していたらしい。
ケンジャ様はチマが起きたことに気づいたのか話しかけてきた。
「アーダが大きな町を見つけたぞ~、多分マルツの町だぁ。
ここから南に十五キロ行った所だぁ、朝一で馬を借りよ~」
「あたしどの位眠っちゃったのかしら?」
「五時間位だのぉ、今は四時位だ~」
そう言うとケンジャ様はお尻をパンパンと叩いて泥を落とした。
そして蛍光の魔法を使うと方向を確認することもなくまっすぐと歩き出した。
「ゆじゅ達は今どうなってるの?」チマは後に続きながら言った。
「問題なく馬を借りてぇ、急ぎ北上してるぞ~」
振り返る事なくケンジャ様が言う。
「良かったわ、それにしてもここ畑よね、踏んじゃうの気がひけるわ…」
「非常事態だぁ、やむを得ぬ~」とケンジャ様は気にせず進んでいく。
「向こうにケトシが残ったのは不幸中の幸いね、
ケトシのサポートがあれば最悪でもゆじゅだけは生き延びそう。
ゆじゅのあの野生児の本能が発動すればね…」
「最悪だとぉステラ王女殺害犯にされかねんぞ~?」
「げっ! それがあったか…。向こうは全員助からないと駄目なのね」
もちろんステラを守るためにローレンツも必要だから全員と言ったのだ。
「まぁ、今日のお昼にはぁ赤応龍騎士団とやらに合流できるそうだ~。
なんにしてもぉ、合流に最善を尽くすしかないだろぅ」
「まだ旅の序盤なのに大事に巻き込まれちゃったわね」とチマはため息をついた。
などと二人で会話をしながらテクテクと歩き続けた。
月が地に沈んだ頃にケンジャ様が立ち止まり「むっ!」と声を出す。
「どうしたの?」チマはケンジャ様の横に追いつき顔を見る。
「姫達が暗殺者に襲撃されたぁ、今逃走中だぁ」
ケンジャ様の表情が深刻になる。
「また!? 追手に追いつかれたの?」チマもかなり焦る。
「別口だそうだぁ」とのケンジャ様の言葉をチマは理解できなかった。
チマはケンジャ様が続けて話すのを待つがケンジャ様は暫く黙り込む。
そうして数分待ってようやくケンジャ様が歩きはじめ、話しだした。
チマも慌てて後を追う。
「ローレンツに言わせるとぉ最初の襲撃は兵士でぇ今が暗殺者だそうだ~。
馬を用意している気配はなくぅ、余裕で振り切ったと~」
「は? 待ち伏せじゃないの? 馬がないってことは野盗とかじゃない?」
「村でか~? 野盗が投げナイフするのか~?」
ケンジャ様が言いながらちらりとチマを横目で見て続けた。
「つまり~、複数の団体にぃ狙われているということだぁ。
まるで賞金でもかかっている様な動きだのぉ、とにかく今は大丈夫との事だぁ」
大丈夫と言われてチマは少し安心した。
「クトーの時といい暗殺者の間で投げナイフでも流行っているのかしら…」
「姫達はぁ移動速度を上げたのでぇ二時間もしないで騎士団に合流できそうだぁ。
そうなったらわたし達はぁマルツの町で待機するかも~。
ただぁ、わたしの魔力がそろそろ厳しいのでぇ、もう交信できなくなるかも~」
魔力が切れてしまったら召喚を維持できないからである。
「なにしても魔力尽きちゃうの?」とチマが聞いた。
「切れる~、三体同時召喚はきつい~」言葉とは違い見た目は平然としている。
「じゃあカーバンクル帰しちゃえば? 少しは長持ちするんじゃない?」
「むぅ、ズキには悪いがそうするか~、アーダ、シュピーゲル帰還!」
ケンジャ様は決めた瞬間にシルフとカーバンクルを帰還させてしまった。
「これでも~、多分あまり足しにはならぬのぉ。
先程の戦闘で魔力を使いすぎたぁ、まぁしょうがない~」
「うまくいくといいね、あ、空が少し明るくなってきたわよ、星の数が減ってる」
チマが空を見て言う。
「本当だのぉ、明るくなればもうマルツの町がみえるだろぅ」
そう言ってから十分もした頃に薄ぼんやりと町が見え始めた。
マルツの町はもう間もなく着ける場所にあった。
その町は城塞都市ではないがかなりの大きさの町である。
「ふう、やっとついたわね、ケンジャ様あとはケトシの報告待ち?」
「そうなるのぉ、町に入ったら宿でも探すか~」
二人は町に着いてから宿の目星をつけて公園で休むことにした。
ケトシの報告如何で次の行動が決まるからだ。
二人共公園のベンチに座りながらボーッとしている。
「ここはサイリスタみたいなボッタクリ宿はなさそうだったね」
チマは背もたれの後ろに手を回して空を見ながら言った。
見つけた宿の見た目はいたって普通の宿だった。
ほとんど独り言だがケンジャ様の返事はない。
(寝てしまったのかな?)とチマが思った瞬間ケンジャ様は勢いよく立ち上がり、
「なに~~っ!!」と今まで出したことのない様な絶叫を上げた。




