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エルブズ・フォース ~ ElvesForce ~  作者: ちびけも
プロローグ ゆじゅの章
18/87

魔物討伐1

 十歳を過ぎてから成人の儀へ向けた準備が少しずつ始まったのじゃった。

次はズバリ魔物の討伐計画じゃ、いつもの四人で綿密に計画を立てた。

今回は命懸けなことなのでチマちゃんとズキは緊張していたのじゃが、

当の本人の妾と、あとケンジャ様は気楽なものじゃった。

なにせ四人全員の魔法解禁じゃからの。

みんな高速詠唱の各種魔法を扱えるし、

妾とチマちゃんは追いかけっこで(つちか)った連携もあるからの。

高速詠唱と言うのは普通の呪文とは違って、

ヒソヒソ声で意味不明に聞こえる発音をするのじゃが、

普通の詠唱よりも数倍、場合によって十倍以上も速く魔法を発動できるのじゃ。

声が小さいので相手に詠唱していることがバレ難いしとにかく便利なのじゃが、

文字にできる言葉ではないので、

教書で学ぶことはできず口伝だけの教えになるので、

習得者は魔法使いの中でもかなり少ないと言われておるのじゃ。

妾たちはケンジャ様から教えてもろうておったので運が良かったのじゃ。

そして何よりケンジャ様の高レベル魔法もあるので、

数の多い敵やかなり強い敵と出会っても相手ではないじゃろう。

その時はそう思うておったのじゃった。

 肉食動物と魔物の違い、肉食動物は元々この世界にいた生き物じゃが、

魔物は魔界という別世界からやってきた生き物ということだそうじゃ。

魔界から来た生き物は全部一緒くたにして魔物と呼ぶので、

例えそれが害のない草食でも魔物は魔物なのじゃ。

魔界という所がどんな場所かは分からないのじゃが、

妾はこの世界とあんまり変わらない所だと思うておる。

魔族という魔界で生活する人々もおるし、

魔物料理を名物にしている地域もあるらしいぞよ。

ただ魔界という世界はあらゆる生き物がこの世界から見て強いので、

魔物や魔族は警戒の対象になるのじゃ。

今回は実戦戦闘を経験するのが目的なので、

攻撃的な魔物を相手にするわけじゃ。

適当な肉食獣がおるのであればそれを相手にしてもいいのじゃが、

生憎とエルディー国には人を襲う様な生き物はあまりおらんのじゃ。

一応湿地帯にジャイアントルーパーという美味しい両生類がおるのじゃが、

水の中の敵と戦うのは今回の目的とは趣旨が違うのでのお。

その点、魔物ならば森や山の奥深くに行けばどこにでもおるのじゃ。

 魔物達はどうやって魔界から来たのか、

どうしてこの世界の全域におるのかは未だに謎なのじゃ。

逆に魔族は必ず世界各地に点在しておる『世界の裂け目』、

と呼ばれる場所から出現するそうじゃ。

世界の裂け目は増えも減りも動きもしないので、

大被害を受けたロアキン世界大戦以後は、

世界の裂け目は殆ど各国の監視下にあって、

いざという時に備えているということじゃ。

魔族=悪ではないので魔族がこちらに来ても別段追い返すことはしないが。

三百年程前、魔王ロアキンの時代の魔族イデが記した人界探索記という書物では、

魔族ですら魔物がこの世界に来る方法を知らないと言うことが明るみになった。

(とケンジャ様が言うておったのじゃ)

 今回の狩りの場所は南の国境地帯にあるセブの森という場所に決まった様じゃ。

魔物というモノはどんな種類が出てくるのかは全く分からんのじゃが、

場所や地域によって大体の強さは一定している様なのじゃ。

今回行く場所は初級よりもちょっと強めの魔物がいる場所らしい。

ズキが言うには上手く立ち回れば妾一人で、

レベル二魔法を使わなくとも倒せる程度だそうじゃ。

ただし何匹も同時にに出会う可能性もあるので気を付けることと念を押された。

また、旅の練習も兼ねるので森の中で何泊か野宿することに決まったぞよ。

妾の人生初外泊なのじゃ!

上手く魔物を倒せたらズキが魔物料理を作ってくれると言う。

ズキは士官学校時代のサバイバル訓練で、

セブの森で一週間(十日)生活した経験があると言うので、

こういったジャンルならいつものメンバーの中で一番頼もしい存在になるのじゃ。

 予定が決まったらみんな早速準備に入ったのじゃ。

着替えはいつも狩りで着る地味な服と予備下着が一着ずつ、毛布は一人一枚。

三日分の携帯食料に水筒一つにハンカチが一枚。

お通じの後は現地に生息しているムーアの葉っぱを使えと…。

他は、パーティ全体で必須装備の火打ち石や松明など、

そういうものはズキが持ってくれるのじゃ。

今回は他にも色々と装備が嵩張(かさば)るので、

魔法メインの妾は弓矢やナイフなどの武具は持たぬ。

風魔法の風刃でナイフの代用ができるしのぉ。

思いつくものは用意したつもりじゃが、

自信がなかったので他の人の様子を見に行ってみることにしたのじゃ。

 まずは同室のチマちゃんの様子を見てみた。

チマちゃんの荷物は結構嵩張っていたのじゃ。

外泊の期間全てを(まかな)うだけの食糧、そして多数の下着、

他に明らかに余分なお菓子がいっぱい。

目立ったところではナイフが二本、そのうちの一つはかなり大振り。

普通のナイフは生活で使う用、大振りのは戦闘用だそうじゃ。

左手のナイフで相手の攻撃を受け流して主装備のレイピアで突く、

と言うかなり珍しい独自スタイルの戦闘方法なのじゃと。

他には火打ち石などのサバイバルセットも用意していた。

仲間とはぐれても生きていけるように準備は怠らないのじゃと。

楽観視しているのかシビアなのか、

装備を見ただけではよく人物像がわからない内容じゃった。

 次にケンジャ様の所に行った。

ケンジャ様の部屋へ入るとケンジャ様は悠々とマーロニー茶を飲んでたのじゃ。

妾が用意はどうしたのか聞いてみると片手で持てる程の鞄を見せてくれた。

入っていたのは下着が一枚とコップが一つと他は干し肉だけ。

着替えはいらないのかと聞いてみたのじゃがケンジャ様は、

「他の者には内緒なのだがぁ、わたしは熱属性魔法が使えるのだ~。

生活魔法の水球で体ごと洗った後にぃ、

風、熱の合成魔法で乾かして終わりなのだ~。

熱属性が使えるのはくれぐれも内緒なのだぁぞぉ」

そう、エルフの間では何故なのか熱属性魔法は禁忌なのじゃ。

一般にはエルフは熱属性の才能がないと言うことになっているが、

それは過去のエルフ族がそう子孫に教え込んだ結果とケンジャ様が言うたのじゃ。

そういえば妾も熱属性魔法があることは知っていたのじゃが、

知りたがりの妾が今までに覚えてみたいと思うたことはなかったのじゃ。

妾にも熱魔法の才能はあるのかのぉ。

 最後にズキの部屋に行ってみた。

何とも細々(こまごま)したものがたくさん置いてある雑多な部屋じゃった。

荷物を見てみるとでっかい背嚢(はいのう)が!

「殿下と変わらない位の重さがありますよ」とか言うておる。

中は一度出したら仕舞い直すのが大変じゃろうと思って見なかったのじゃ。


 いよいよ冒険の当日!

と意気込んでいたのじゃが、目的地までいつもの馬車で移動と何も変わらず、

いきなりテンションが下がってしもうた。

そんな妾の姿を見てケンジャ様が、

「ケトシを貸そうか~? 元気がでるぞぉ?」と。

「あれは疲れるだけなのじゃ…」聞くだけでげんなり。

ケトシとはケンジャ様の召喚獣で猫の精霊獣なのじゃが、

一度話し出すと尽きることのない自分語りを始めるので、

とにかくうるさい存在なのじゃ。

話が噛み合った時は楽しい時を過ごせるのじゃが大抵は話がずれる。

幼い時、チマちゃんとのバトルでケトシがチマちゃんの手下になった時は、

ケトシの手強さを存分に味わったので、

戦闘になったら頼もしい存在になるのじゃろうが。

「どの位で森に着くのじゃ?」と誰に対してでもなく聞いてみる。

「半日位なので~、二時過ぎ位に到着だぁ。

森に入ってぇ、キャンプできる所を目指してぇ、今日は終わりだ~」

と意外にもケンジャ様が答えた。

「ケンジャ様もセブの森に行ったことがあるのかえ?」

「あるぞ~、魔法の修行でたま~に使うのだぁ」

「ケンジャ様の相手をできる敵がいるのかえ?」

「いないぞ~、どれだけ木っ端微塵にできるかぁ、試すだけだぁ」

「ケ、ケンジャ様ってわりとえげつないのね」

横からチマちゃんが話に入り込んできた。

「ふっふっふ、誰しも想像よりもぉ残酷なのだぁ、特にわ~た~し~」

「ケンジャ様は謎の人物なのじゃあ、昔話はしてくれないしのお」

「そうよね、ケンジャ様って自分の過去のこと話してくれないのよね」

「秘密なのだ~、何故秘密なのかもぉ、秘密なのだ~」

「言われるほどに知りたくなるわよ、そんな言い方をされると」

「そうなのじゃ~」と妾も相槌。

「一つだけ言えるのはぁ、わたしの秘密を知ったものはぁ、

必死にその秘密を~、守ろうとし始めるだろぉ、命に関わるのだぁ」

間延びした緊張感のない話し方じゃったが、

知っただけで命に関わると聞いて及び腰になってしまったのじゃ。

「ひぃ、妾はまだ死にたくないのじゃ~」

「あたしはもっと知りたくなったかも」

「残念なことにぁ、チマでは秘密の内容にぃ、

耐えきれないだろ~、知るだけで気が狂うぞぉ」

「狂ってるからケンジャ様は変な喋り方なのかえ?」

妾がそう尋ねるとケンジャ様はむっとして口を尖らせたのじゃ。

「これわ~、生まれつきだバカタレ!」

そう早口で言うて両手杖で妾を叩いたのじゃった。

早口で喋れるじゃないかえ……。

そんな感じで女子三人で半日間取り止めのない話をしていたのじゃ。

ズキは窓の外をずっと見ていて(ほとん)ど会話に加わることがなかった。

いつものことじゃが愛想のない男じゃのぉ。

 馬車の中でお昼のサンドイッチを摂ってからだいぶ経った頃、

セブの森が見えてきたとズキが言うた。

そこは入り口からして鬱蒼(うっそう)と草木が生い茂った濃い森じゃった。

「この中かえ、どうやって入るのじゃ?」とズキに聞いてみた。

ズキは馬車の上から荷物を下ろしながら答えたのじゃ。

「入口の(やぶ)はナイフで叩き落とすんですよ。

藪は入口部分だけなので中に入ったら草は余り生えてませんよ」

「ム、ムーアはどうするのじゃ?」

「キャンプできる場所は木がなく開けていてムーアはそこに群生してますよ。

ただし、移動中にもよおしたらピンチですね」と言うて笑ったのじゃ。

移動中の歩き喰いというお下品なことにチャレンジしてみたかったのじゃが、

ズキの言葉を聞いて諦めたのじゃ。

全員の荷物を下ろし終わってから中へと入って行くことになった。

「殿下、ここはもういつ魔物が出てくるか分からない場所です。

くれぐれも気を抜かないようにご注意を」

ズキはそう言うと右手にナイフを持ち藪を打ち払い始めた。

チマちゃんはナイフを取り出す気配を見せなかったのじゃ。

「チマちゃんはナイフを使わないのかえ?」

「おバカ丸出しね、狭い場所で二人もナイフを振り回したら危ないじゃない」

「そうじゃ、風刃なら一発じゃぞい」

「魔力は温存しておくのだぞぉ」とケンジャ様が言うた。

「そうね、群れをなすタイプの魔物とであったら、

何十匹も相手に戦うことになるかもしれないわ。

そんな時、あと一発あったらなんて言うことになるかもしれないし」

ケンジャ様がうんうんと頷いた。

「そんなにたくさん襲ってきたらズキ一人では壁役が足りぬのではないかえ?」

「ええ、だから先日見せたこの短剣を持って来たのよ。

この短剣を使って壁役ができるようにするの」

「なんと! そこまで考えていたのじゃのぉ」

などとその時は感心したのじゃが、

実はその時、チマちゃんにとっても初めての実戦で、

この日になるまでに緊張で何回も何回も頭の中で予習して過ごしていたと、

後になってから教えてもろうたものじゃ。

 数分で藪は取り除かれて中に入れるようになった。

数歩中に入っただけで周りの明るさが半分になって、

不安と緊張が妾を襲ってきたのじゃった。

今までも狩りで森へ行ったことは何度もあるのじゃが、

この森は今まで行った森とは明らかに空気が違ごうて、

森自体が警戒を(うなが)しておる、そんな気がしたものじゃ。

「狩る側ではのうて狩られる側になった気分じゃ」と小さく(つぶや)いた。

「その感覚は間違ってはいませんね。

自分らも相手もお互いが狩る側であり狩られる側でもあるんです。

それが戦いというものなんです」

ズキは先頭を歩きながら振り向かずにそう言うた。

その後は誰も会話しないで黙々と森の中へと入っていき、

二時間弱ほどした所で周囲が明るくなり、

何事もなくムーアの群生地が見えてきてキャンプ地へ着いたと思ったのじゃ。

ムーアという植物は里芋に似た葉をしていて目立つのじゃ。

じゃがズキはその場に立ち止まって群生地の方を凝視していた。

少しの間そこに止まっていたらズキがひそひそ声で話しかけてきた。

「奥の方、ムーアの葉が揺れています。

きっと草食性の魔物、リクタクが葉を食べているんです。

狩ってみましょう、静かに群生地を回り込んで、

姿が見えたら殿下が風刃で攻撃して下さい」

草食性とはいえ初めての魔物の予感に妾は興奮したものじゃ。

ズキは腰を落としてゆっくりと歩き始めた。

妾もその後ろを同じような格好をしてついて行ったのじゃ。

ケンジャ様は妾の後ろ、チマちゃんが殿(しんがり)じゃった。

ムーアの群生地を半周近く周ったときにズキが足を止め軽く指さした。

数歩歩くとズキの指さした方に草色の毛の生き物が見えてきた。

想像よりも大きく豚位の大きさの生き物だったのじゃ。

豚よりも頭と口が大きくて何となく愛嬌のある顔をしておった。

妾はズキを追い抜き更に数歩進んだ。

生き物の全体が見えたとき妾は歩みを止めて高速詠唱をしたんじゃ。

かなり心に余裕はあって獲物を逃すことなど頭の片隅にもあらなんだ。

現実も頭の中の想像をなぞるように進行していき、

ズキがリクタクと呼んだ生き物の喉元を風刃が正確に()き切ったのじゃ。

生き物は声も上げないでその場に崩れ落ち首から血を流した。

血は普通の動物と変わりのない赤い色じゃった。

「ナイス、リクタクは攻撃されたと気付く暇もなく即死したでしょう。

俺は近くの小川でリクタクを(さば)いてきますので、

ケンジャ様がサポートについて来てくれませんか?」

「いや~、チマがこの森初めてなのでぇ、初心者二人を残すのは悪手だのぉ~」

「じゃ、チマ、俺の援護を頼む」

「わかったわ」

そう言うて二人はリクタクを引きずってムーアの群生地から離れていったのじゃ。

「わたし達はぁ、キャンプする場所を作るので~、地面を掃除するぞぉ」

と言われても如何(いか)にすれば良いのか分からないのじゃ。

何のことはない、ケンジャ様が風の精霊シルフのアーダさんを召喚して、

風で地面をひと()ぎしただけじゃった。

妾達は一本の木の下に腰を下ろしたのじゃ。

「弱い魔物はぁ、こういう日差しのあるところが苦手なのだぁ。

なのでお昼は安全だぞぉ」

とケンジャ様が話しかけてきたのじゃ。

「じゃとすると、夜は安全ではないと……」

「そうだぞ~、夜は交代で見張りだぁ、姫は見張りしなくてもよいぞ~。

子供に夜起きていろというのは無理だぁ」

「やってもよいぞ?」

「いやだぁ、わたしはまだ死にたくないのだ~」

「三百年以上生きてるのに贅沢じゃのお」

「ほっほっほ、子供には分からないことなのだが~、

大人にとっては過去のことなど~、一瞬にしか感じないのでぇ、

いつまでも若者のつもりなのだぁ」

「じゃ、じゃあ、レコア英雄譚の最後のセリフ、

『もう充分に生きた』って言うのは…」

「創作だぁ」

「はうぅ…」

「姫はレコア英雄譚が好きだからな~。

そんな姫にぃ、面白いことを教えてあげるぞ~」

「なんじゃ~?」

「レコアは気づかなかったけどぉ、魔王ロアキンにはぁ、黒幕がいたのだ~。

黒幕はまんまと寿命まで生きたのだぞぉ」

「な、なんじゃとお!? まさかケンジャ様が黒幕なのかえ?」

「ふっふっふ、姫、おバカ丸出しだぞ~、わたしはその頃十代の小娘だぁ」

「じゃ、黒幕は誰なのじゃ?」

「な、い、しょ♪」

「うぁ~ん、ずるいのじゃあ!」

「ケンジャ様はどうして黒幕の存在を知っているのかしら?」

背後からいきなりチマちゃんが会話に入り込んできた。

「もう帰ったのかぁ、早いな~」

「リクタクは食べられる所が太腿だけだから捌くのが簡単なんです」

と一緒に戻ってきたズキが言うた。

「余分なところは~?」

「肉食獣に気付かれないように、土魔法で穴に埋めましたよ」

「よしよし~」

ケンジャ様がズキの頭をなでなでしてあげた、

すぐになでなでするのがケンジャ様の癖なのじゃ。

「それじゃ早速夕飯の支度しますね」

そう言うてズキは大きな背嚢を漁り出したのじゃった。

「で、なんで黒幕の存在を知っているのよさ」

チマちゃんが話を戻したのじゃった。

「う、忘れていなかったかぁ」

「とても興味があるもの、誤魔化されないわよ?」

「ズバリ! 言うとなぁ、ルミナスの白金竜(はっきんりゅう)から聞いた~」

「え、っていう事はケンジャ様ってロアキン世界大戦の時にルミナスにいたの?」

チマちゃんが興味深そうにケンジャ様の方へ顔を近寄せたのじゃ。

『ルミナスの白金竜』というのは、

創世二年から四百年以上に渡ってルミナスという町を守り続けた竜の事じゃ。

まだルミナスが村だった頃からあらゆる敵を退けルミナスを守り続けた。

そうするうちにルミナスの安全神話ができあがってのお、

人々は安全なルミナスに大量に流入しルミナスは世界最大の都市にまで発展した。

じゃが創世四百三年に登場した魔王ロアキンに対しては何故か一度も戦わず、

無抵抗でその軍門に下ってしまい、

ロアキンはルミナスを拠点に世界侵攻することになったのじゃ。

その侵攻が後にロアキン世界大戦と呼ばれる。

じゃから当時、人間は白金竜を裏切り者として激しく憎んだ。

最後は英雄レコアのパーティに封印され歴史から姿を消した。

最終的に戦禍の中心にありながらルミナスは一切被害を受けることがなくて、

『もしロアキンと戦ったなら戦闘の余波でルミナスは壊滅した。

世界を敵に回してでもルミナスのみを守った』

と後々になって解釈される様になったのじゃ。

最後、ルミナスが首都のアガタ国は白金竜の名誉回復宣言を出すに至ったのじゃ。

「うむぅ、白金竜のいた建物のぉ、目の前に住んでたぞ~」

「ほへぇ、伝説の時代の生き証人じゃのぉ」

妾はその時吃驚(びっくり)したし、今でも凄い事だと思っておるのじゃ。

レコア英雄譚に出てくるボスキャラ、白金竜と知り合いだったなんぞ。

ボスキャラとしては間が抜けていて魔法陣を踏んづけて封印されたのじゃが…。

じゃがレコアのパーティのホビットのアベルグートが、

命を()して白金竜を魔法陣に導いた。

結果、アベルグートも一緒に封印されるという、

後々から見れば必死の作戦じゃったから成し得た事じゃろう。

「その辺の過去は話しても大丈夫なのね、全ての過去が秘密なのかと思ったわ」

と、チマちゃんが言うた。確かにそうじゃ。

「いや~、実は危ない~。

今の会話が世間の噂になればぁ、わたしは死ぬかも~」

そう言われてチマちゃんはちょっとだけ考え事をした。

「……分かっちゃったかも、ケンジャ様って実は追われる身なんじゃない?」

「おぉ、当たりだぁ」

「その黒幕に追われてるのかしら?」

「黒幕は全く関係ないぞ~」

「じゃあ、なんで黒幕は内緒なわけ?」

「む~、親友とのぉ、絆のためだな~」

チマちゃんが眉を(ひそ)めたのじゃ。

「意味が分からないわ?」

「親友とぉ、わたしだけの秘事(ひめごと)なのだぁ」

「子供の時の約束みたいなもの?」

「ちょっと違うのぉ」

ケンジャ様がそう言うた時にズキがやってきたのじゃ。

「ちょっと早いが夕飯できたぞ」

そう言いながら妾たち三人に生肉の刺さった串を手渡した。

妾達はしばらく生肉を凝視してから一斉に言うたのじゃ。

「「「………は?」」」

「えっ?」

「「「は?」」」

妾達三人は唖然として再び生肉を凝視してしまったのじゃ。

「ん?、どうした、食べないのか?」

「「「はぁ??」」」

妾はからかわれてるのかと思うたのじゃが、

次のケンジャ様との会話でズキが本気だったと分かったのじゃ。

「ズキ…、こ、これは料理ではないぞぉ?」

「塩胡椒はかけましたよ」と真顔でズキは答えたのじゃ。

「そうか~、ズキはその次の『焼く』ができなかったな~、失念してたぁ」

との発言に妾とチマちゃんは気を()かれた。

「なぜできないのじゃ?」

「ズキは幼い時にぃ、火事に巻き込まれてから~、

火は見るだけでも苦手なのだぁ」

「じゃ、じゃあもしかして、士官学校時代のサバイバル訓練の時って、

本当にこれを食べたのかしら…?」

相変わらず唖然とした顔でチマちゃんが聞いたのじゃ。

「食べたぞ、少し腹は下したが」

「下っちゃらめぇ~~!」とチマちゃん。

「分かった~、わたしたちで焼くからぁ、ズキは少し離れているのだぁ」

ケンジャ様がそう言うとズキは落ち込んだ様子で距離をとった。

同時にチマちゃんが焚き火用の枝を取りに行ったのじゃった。

 そして(よい)(とばり)が降りた頃に肉が焼けたのじゃった。

チマちゃんが離れたところにいるズキに焼き肉を届けた。

「じゃあさ、見張りはどうするのかしら?

ズキがこっちに近寄れないんじゃ交代ができないわよ?

交代毎に大声で呼んでみんな起こしちゃうの?」

「焚き火は消して~、見張り番が蛍光を使うしかない~」

蛍光は明かりに使う広く知れ渡って誰もが使っている初歩の光属性生活魔法で、

これが使えたとしても魔法使いや魔道士とは呼ばれない程当たり前のモノじゃ。

「夏場でよかったわ、暖が必要な冬だったら計画中止だったわね」

チマちゃんは生活魔法の蛍光を唱えてから焚き火の火を消したのじゃ。

火が消えてから、バツの悪そうな顔でズキが戻ってきた。

「今は気にすることはないけれど、

ゆじゅの成人の儀までには治しておいてよね。

あたしたち四人で旅をすることになるでしょうから」

「なんとか頑張ってみる…」とズキは(しおれ)れてしまったのじゃ。

妾は食事を摂ったら眠くなってしまったので、

初日のことはこれしか覚えていないのじゃ。

ああ、リクタクのお肉はジューシーで柔らかくてとても美味しかったのじゃ。

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