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エルブズ・フォース ~ ElvesForce ~  作者: ちびけも
プロローグ チマの章
12/87

不名誉除隊

 チマが次に目を覚ました時は、兵舎の自分の部屋であった。

目を覚ました事をルームメイトのイーニが気付きどこかへ走り去っていった。

しばらくして、廊下を複数の人が小走りで近寄ってくる音がした。

チマは起き上がろうとしたが力が出ず、入り口の方を向くのがやっとだった。

入り口からはイーニに続いて部隊長、

そして同い年くらいの見たこともない少女が最後に入ってきた。

小さな少女の背丈くらいの大きさの長杖を持った少女だ。

長杖には大きな宝石がはめ込まれておりひと目で高価な魔道具だと分かる。

チマは様子から何かやらかしたことを感じた。

隊長が寝ているチマに寄ってきて膝を落とす。

チマに向かって「話はできるか?」と聞いてきた。

チマは「…は、はい、なんとか」と少し(ども)りながら声を出すことができた。

自分のこもった声に少々驚くチマ。

隊長の険しい顔を見て大きな事が起きたのだと気づく。

「全く錯乱しやがって、お前を縛り付けるのに何人がかりだったことか」

その言葉でチマの体が動かないのは拘束されてるからだと気づいた。

幾重にもロープでベッドごと雁字搦(がんじがら)めにされていた。

続けて隊長が静かな声でそして低い声で話す。感情を押し殺しているようだ。

「自分がやった事は覚えているか?」

「あ、あたしは友人と森に行って…」喋ってる最中(さなか)に隊長が(さえぎ)る。

「そこじゃない、兵舎に帰ってからだ」

言われてみるとチマの記憶は森で途絶えていた。

「い、いえ、どうやって帰ってきたのかも覚えていません」

はぁ、と隊長がため息をつく。

「お前はな、夕方に帰ってきて食堂へ行き、

自分の弁当を他の兵に向かってぶん投げたんだ。

それがきっかけで食堂で大乱闘にまで発展してしまった。

お前は森での出来事を叫びながら大暴れしたんだよ。

まったく、魔法まで繰り出しやがって。

拘束するまでに最終的に九人がお前に病院送りにされたんだぞ。

本来なら軍法会議ものなんだが、お前の話を総合すると、

どうやら森で妖精に魔法をかけられて狂乱状態にさせられていたらしい。

ということでお前の狂乱状態に対処するため、

わざわざ魔法の権威として宮廷魔道士様においでになって頂いたのだ」

そう言って隊長は初めて見る少女を指差した。

チマは宮廷魔道士が国に存在することは聞いていたが、

まさかこんな少女だとは想像もしていなかった。

(同い年くらいよね、これが宮廷魔道士? 信じらんないわ…)

その少女が近づいてきて(おもむろ)に大きな木の杖でチマの頭を叩いた。

そして間延びした口調でその少女が話し始めた。

「意識がある時でないとぉ魔法の効果が確認できないのでぇ、

おぬしが起きるのをぉずっと待っていたのだ~」

頭にぶつかった時に出た音は金属同士をぶつけたような澄んだ音だったが、

その音はあっという間に歪み始め耳障りな雑音になって消えていった。

「ふむぅ、まだ精神系錯乱魔法の術中だのぉ。

金属音は魔法の影響下を示していてぇ、それならばなんとかなるのだが~、

その後の雑音~、これは多重魔法をかけられている~。

わたしでは解けぬのだ~、誰か、足の早いものを使ってぇ、

士官学校からぁムサフィーリ教官を呼んでくれぬか~? 結構急ぎなのだ~」

急ぎとは思えないスローペースな話しぶりに緊張感が抜けるが、

隊長は一番足の速い隊員に伝えるよう迅速にイーニを伝令に出した。

イーニは復唱するや否や駆け出していく。

その後隊長はまたチマに向き直りこう言う。

「錯乱魔法の被害者としてお前を対処するので軍法会議はないと思うが、

兵役不適格として不名誉除隊は免れんぞ、覚悟しておけ」

不名誉除隊のレッテルは一度貼られたら一生ついてまわる。

徴兵制のこの国では不名誉除隊は陰口を叩かれるに充分すぎる。

『あいつだけ義務をこなしていない』

『戦うのが怖くて逃げたんだ』などなど。

不名誉除隊になると履歴にも傷がつきその後の就職にも不利になる。

(ああ、平貴族の一人娘として何処かへ嫁ぐか、婿を貰うしかないのか…。

ってか、不名誉除隊の不良貴族に婿に来てくれる人なんかいないでしょうに。

あたしのせいで家は断絶しちゃうのか~、…ま、いいや)

元々前向きなチマである、なるようになると先を考えるのをやめた。

だが、その考えを引き戻したのは宮廷魔道士だった。

「安心するのだ~、おぬしの次の就職先はぁもう決めてあるのだ~」

と宮廷魔道士が気の抜けた声で言うと部屋全体が弛緩(しかん)した感じになった。

「あたしみたいなのでもできる仕事があるの?」とチマは宮廷魔道士を見る。

「とてつもなく元気が条件の仕事だがぁ、お主なら楽にこなせるだろぅ」

 三十分弱経った頃であろうか、

ムサフィーリ教官と言う初老の人間の男が息を切らせながらやってきた。

教官はチマを見るなり自分の左手に筆で何かを描き始め、

一分程でチマの額をペチッと左手で軽く叩いた。

その手際から、移動中に大体の事を聞いていたのだろう。

叩かれた額から小さく銀の光が波打ち始めた。

周囲の人達はその幻惑的な光に一瞬見とれた。

ムサフィーリ教官と呼ばれた男が言う。

「この色は精霊魔法ですね、通常の解呪魔法は効きませんし、

効果時間も永続的かと思われます。今なんとかせねば悪化する一方かと」

とチマの顔が青ざめるような事を平然と言った。

少し考えるとムサフィーリは再び話し始めた。

精神系に対抗する精霊、空間系の精霊を召喚して対消滅させてみましょう。

それにしてもかかっている魔法の数が多いな、上手く計算せねば…」

そう言うとまた左手に文様を描き始め今度は五分ほど描き続けていた。

描き終えるとやはりチマの額を左手で叩いた。

その瞬間、部屋中に「きゃはは!」と言った笑い声が沢山聞こえ、

声はだんだん遠くなりどこかへと去っていった。

イーニ達はその笑い声に驚愕しながら部屋の中を見渡したが、

声の主たちの姿を見ることはできなかった。

チマはその声に怒りで表情を埋め尽くし全身に鳥肌が立った。

「これで消えたと思いますが、最後にもう一度確認の魔法陣を使いましょう」

と教官は言い三度左手に文様を描いてチマの額を叩いた。

今度は何も起きなかった。

「これで完璧に魔法の効果は抜けましたぞ。

もう体の拘束を解いても大丈夫でしょう」

部屋にやってくるなり即自分にかかっている謎の魔法を解いてしまった。

なんて有能な人なのだろうとチマは思った。

一方、宮廷魔道士は教官がやっている事に一々頷いて見ているだけ。

結局何もしていなかった。なんのために来たのやら…。

何にせよムサフィーリという人のお陰で拘束はすぐに解いてもらえた。

ようやく自由になったチマはほっとため息をついたが、

安心した瞬間にアーヴェの事を思い出してしまい気が重くなった。

自由になったチマに宮廷魔道士が手紙を渡す。

「衛兵を首になったらぁすぐにでもぉ、

王城に来て門番にこの手紙を渡すが良いのだ~。

今よりも楽で給料が良いぞぉ」

宮廷魔道士はそう言うと教官と一緒に部屋から出ていった。

教官は出る際に一礼をして行った。本当によくできた教官であった。

隊長は「今日はもう寝ておくように。音沙汰があるまで兵舎内で謹慎(きんしん)だ」

と言って部屋を出た。

イーニも「チマちゃんを捕まえるのにあたしも参加したんだから疲れたよ」

そう愚痴ってすぐにベッドに潜り込んでしまった。

チマは今日の事を一生悔やむのだろうかと思いながら寝返りをうった。

(アーヴェの両親には今日の事を話さないと…。怒り殺されるかも…)

そう覚悟を決めようとしていたがもう疲れが限界で眠りにつくのであった。

 丸三日謹慎した後、チマに対して不名誉除隊の辞令が出た。

手荷物は既にまとめてあったので辞令を受けた時点で兵舎を出た。

イーニにはお別れを言いたかったが勤務中だったのでお別れができなかった。

なので今までの感謝の置き手紙だけを残していった。

もう二度とこないであろう兵舎をゆっくりと歩きながら見回した。

窓の外では教練が行われており中には見知った顔もいる。

(あ、あの人…、結局片思いだけで話すことすらできなかったな…。

有能な分隊長になったあの人と不名誉除隊のあたしじゃ不釣り合いね…)

「あ~あ、アーヴェの親になんて言い訳しようかな~」

(宮廷魔道士が新しい仕事って言ってたけれど、

剣しか取り柄のないあたしに何の用だろう。…暗殺要員とか…ないわ~…。

今日中に内容は分かるだろうけれど気が重いな~、アーヴェの事もあるしな…。

よし、アーヴェの家に説明に行くか『娘さん死んじゃいました~』って…。

やばい、到着する前に真面目に考えないと!)

そして気が重いがアーヴェの家へと向かった。

 アーヴェの家の前に着いても考えは(まと)まっていなかった。

(時系列で語ってみよう…)

そう決意しチマが家のドアを叩くとアーヴェの母親らしき人物が出てきた。

アーヴェと同じように肌が褐色がかっていたので家族だとすぐにわかった。

家の場所は知っていたが実際に家族に会うのは初めてのチマだった。

チマはアーヴェの母親に事の顛末を要点を踏まえて話した。

「あ、あの、あたしアーヴェの友人のチマと言います。

昨日、アーヴェの足が治る場所、

つまり魔法で治してくれる妖精に会いに二人で禁断の森に行きました。

妖精には会えて、治してくれると言われたのですが、そ、そのう……」

「なんだい、はっきり言っておくれよ!」と母らしき女は機嫌が悪そうだ。

(やばい、アーヴェが帰ってこなくて怒ってる…)

「その、アーヴェは精霊と一つになったというか…、

…精霊に食べられちゃいました…。で、でも心はそのままで、

完全に死んだわけじゃなくて旅に行ってくると!」

そうチマなりに頑張って説明したのだが、

アーヴェの家族の反応はチマの想像の範囲外だった。

「おい父ちゃん、あのガキくたばったってよ!」

「おぅ、これで楽に生きられるな」家の奥からそう男の聞こえてきた。

そして母親はバンッと強く玄関を閉めた。

チマはあまりの反応に硬直してしまった。

(なんて家族、アーヴェのことを重荷にしか思っていなかったのね。

アーヴェも家の中でつらい思いをしていたでしょうに。

だからよく散歩に出ていたのかな、うん、きっとそうね。

こんな家から開放されたのならシルフになって本当に幸せだったのかも…)

そんな悲しい思いが()ぎってしまうチマだった。

兵舎を出たときよりも足取りが重く感じる。

 あとする事はお城の門を叩くことだけとなった。

(不良娘をわざわざ呼びつけるなんてろくな仕事じゃないのは確定ね、

なにをされちゃうんだろう。どうせあたしにはお似合いの裏の仕事よね。

なにはともあれ、すぐ仕事が貰えたのは良いことだけれど、

徴兵で稼いだ賃金じゃ引っ越すお金もないぞ。

住む所はどうするんだろう?

宮廷魔道士に借りようか。

あの若さで宮廷魔道士になるなんて政治力持っていそうよね。

弱み見せたらだめかな、でも住む場所ない~)

などと考えながら町で一番高い場所にあるお城の方へと向かっていった。

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