リアルな夢を見た
それはリアルな夢だった。
俺が通ってた専門学校のビルの中にいると分かった。
数え切れないほどの大勢の人がいて、その中には見知った顔の同期や後輩もいて。騒がしかった。俺は1人だった。
誰かが一目散にどこかに走り始めた。それに続くように周りも走り始めた。俺だけが立ち竦んでた。人が少なくなった頃、誰かが俺の肩をポンッと叩いた。同期の村上だった。
「何してんだよ、早くいくぞ!」
その言葉で俺は後を追った。
気が付くと学校内にあるライブ会場のような場所にいた。
俺以外の生徒たちは大いに盛り上がっている。舞台や何かが映るモニターを見てる人たちの声がうるさいくらいに響き渡る。
響き渡る声に耐えきれず、俺は隅っこで冷めた目で会場をぼんやりと見た。
客席の暗めの照明と舞台を照らす明るい照明しか色が分からない。クラクラする。
「大丈夫かよ?」
村上だ。ダンサー志望の村上と舞台俳優志望の俺。ミュージカルの授業で仲良くなった奴だ。
たぶん、この会場のステージではボーカルコースの奴らがライブでもしているのかもしれない。
でもそんなことお構いなく、俺は会場を出ていこうとした。
村上が何かを言った。
俺はステージを見た。
そこで目が覚めた。
夢だと自覚するのに時間がかかった。
妙にリアルな夢だった。
専門学校を卒業した俺は自分の劇団を設立して小劇場で活動していた。
どんな役でも、どんな劇場でも、満員じゃなくても売れなくてもいいから芝居が必要な人のための劇団。
でもどこで間違えたのか、劇団員たちの認識に違いが出来てきた。
もっと売れたい、こんな劇団じゃやってけない、もっと大きな役を。
これ以上、この劇団を続けるのは無理だった。
それからの俺は夢も目標もなく、何となく警備の仕事を始めて仕事以外はダラダラと家で過ごす生活になった。
こんなはずじゃなかった。
今の自分を見るたびに学生時代を思い出す。だが、鮮明に思い出すんじゃない。年々薄れていき、ぼんやりとした記憶になっていっている。
あの夢で村上は何を言ったのか。
俺はまだあの舞台を求めてるのか。
まだ答えは出せずにいる。