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婚約破棄とは? -とある近衛騎士から見た二人-

作者: 種桃

美々しい騎士21歳 アーノルド殿下 13歳

 今、俺はとても困っていた。

 王宮近衛騎士という、国に仕える騎士の中でも見た目と実力が抜きん出た者だけが就ける名誉ある仕事柄、仕事中は表情筋を固めて動揺を悟らせない特技を身に着けてはいたが、真横から感じる桃色オーラに、俺は動揺し、とても、困っている。


 俺の名は、カルロス・クレバー。


 ホワイエ王国の王宮に勤める近衛騎士で、元は伯爵家の3男で、学園卒業後に王立騎士団に所属、近衛騎士になれた時点で騎士爵を頂いた。

 ありがたい事に、学園での剣術の成績と、騎士団に所属してからも、何があっても腐らず努力を続けていた事、また、騎士団に所属する庶民出身者達との交流を評価して頂けた事での近衛騎士団への移動だったそうだ。

 顔採用の側面を全く否定できない近衛騎士団であるから、見た目も悪くないと国に保証されたようなモノでもある。嬉しいような、微妙なような…。何となく素直に喜べないのは、きっと俺が小心者だからだろう。


 そんな俺が、困っているのは何故か。

 現在、王子宮に住まう、第一王子アルバート殿下(13歳)の中庭散策の警護に当たっているのだが、隣に立つ2歳下の後輩近衛騎士が警護の域を超える熱心さで殿下を見つめているのに気づいてしまったのだ。


 後輩騎士の名は、カレンデュラ・アンソニー・ユーニア・デルモント(21歳)


 侯爵家の4男で、近衛騎士の中でも抜きん出て美々しい見た目の男である。

 こいつが学園の騎士科に入学した当時、人々は、卒業後は間違いなく将来は近衛騎士一択だろう、と予想し、噂した。勿論、騎士としての実力があれば、だが。

 そして、彼は、彼を見た全ての人々が予想した通り…いや、それ以上に、騎士としての実力を証明して見せた。家の七光りだと陰口を叩かれる隙もないほど鍛錬をし、近衛騎士の地位をあっという間に手に入れたのだ。

 

 だがしかし、こいつは実力もさる事ながら、何といっても見た目がヤヴァい。


 美しい男、という者が世に沢山いる事は分かっていた。現に、近衛騎士のメンバーは種類は違えども皆、顔が整っており、交代で日々鍛錬に打ち込んでいる為、そこらの貴族とは体格も違う。騎士団に入隊する時点で、皆、騎士の誓いを立てる為、行動も大抵は品行方正だ。(例外もいるが、あまりにも素行が悪ければ、除隊処分される事もある)


 そんな国の男前集団の中で、”美しい”ではなく”美々しい”と言われるのが、カレンデュラである。


 高位貴族の方々の中でも珍しいプラチナブロンドの髪に、同じ色のまつげに縁どられた宝石を思わせる緑の眼。神が慎重に造形したのだろうと思わせる鼻梁は高く、その下には同じく思考錯誤されただろう、美しい形の薄くも厚くもない唇が配置されている。

 未だ21歳と若く、成長期を思わせる未成熟な色気が何故か常に漂っており、プラチナブロンドだからなのか、なんだか光っているような錯覚を起こさせる見た目なのだ。

 そんな訳で、誰が言い出したのか”美々しい騎士”が、カレンデュラの密に着けられたあだ名だ。

 

 そんな見た目の奴なので、社交シーズンにはお誘いが凄いらしいが、一度として護衛任務から外してほしいと言われたことはない。むしろ、率先して組み込まれるように立候補していた。

 本人曰く、近衛騎士になりたくて頑張って来たのに、何故下らない事で仕事を休まねばならないのか、との事だ。

 カレンデュラにとって、未来の嫁との出会いイベントは、くだらない事であるらしい。

 

 変わってるなーとは、思っていたのだ。この視線に気づくまでは。

 王国一、美々しい見た目の騎士は、仕える王国の第一王子に片思いをしていたのだから、そりゃ、出会いなんか求めてはいないはずだ。彼の中では既に出会っているのだから。

 

 そう気づいてから、注意してみると、アーノルド殿下を見ているカレンデュラの周りには、いつものキラキラだけではなく、フワフワと小花も散っている気がする。

 キラキラとフワフワの雰囲気で、護衛にも拘らず、存在感が凄い。


 アーノルド殿下も、視界の端にキラキラフワフワされているのが気になるのか、たまに振り返っては俺たちを見て、首をかしげている。

 その度に、長めに整えられた濃い金茶色の柔らかい髪が、まだ幼さの残る柔らかそうな頬にかかる。すっと通った小さな鼻。目は王家特有の濃いサファイア色で少したれ目だ。桜花のような唇。従姉妹殿で在らせられるエルーナローズ大公女殿下と姉妹に間違われるのも無理からぬ可憐さだ。


 まだ13歳であるからか、動きが愛玩動物っぽいのもポイントなのだろう。

 そうと気づけば、カレンデュラの雰囲気が、殿下の愛らしいと思える仕草一つ一つに盛大に反応しているのが分かる。というか、分かってしまった…。護衛任務に特化している近衛騎士は、普段から周囲の空気を読む鍛錬もしているのだ…。今まで同僚以外の周囲にばかり気を張っていた為、全く気付かなかった。


 そんなキラキラフワフワの美々しい騎士を気にしながらも、殿下は中庭の散策を終えると侍従に連れられて残りの授業を受ける為に室内に入られた。

 交代時間まで、殿下の居られる部屋の扉を守るのが俺たちの仕事である。

 カレンデュラは、先ほどの殿下の事を思い出しているのか、たまにキラキラにフワフワ混ぜて警護に当たっていた。キラキラしかない時もあるので、そんな時は気を引き締めているのかもしれない。  

 何とも言えない気分のまま、俺は交代までの時間、周囲の警戒をするのだった。

 

 後日、他の同僚にそれとなく聞いてみたところ、7~8割位のメンバーは気づいていたそうだ。

 だが、我が国では宗教的にも、同性同士の恋愛や婚姻が禁止されている訳ではない。

 ただ、幼児性愛や性犯罪はかなり厳しく、残酷な刑罰が用意されている。

 その為、曲がりなりにも近衛騎士であるカレンデュラの片思いは、身分違いの叶わぬ思いではあろうとも、初恋だろうからそっとしておこう、という事だったようだ。性犯罪に走らないように、監視の意味も込めて。

 身内から犯罪者を出すわけにはいかないし、これは仕方ないだろう。


 叶わぬ初恋、ねぇ…。


 なーんか、そんな可愛いモンじゃない気がするんだが…まぁ、人の恋路を邪魔する奴は…なんて言葉もあるしな。


 俺は、他の同僚と同じく、そっとしておく、つまり、性犯罪につながりそうな事を阻止する以外はほっとく事にした。

 何がどうなろうとも、他人がどうこう出来る事じゃないしなぁ、というのが、俺たち同僚の相違だったのだ。



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