16.僕、護衛する
僕は現在絶賛馬車に揺られている最中である。何を隠そう、今日は「神誕祭」なのだ。
「いい?アンタがシャノンの護衛で、私が神官長のシャル様の護衛だから」
「それもう五回目ですから…」
「間違ってもシャル様には無礼なことしないでよ!?したらアンタのこと無視するから」
アイシャさんは馬車に乗り込むなり、僕に何度も何度もこの話をしている。もう正直言ってげんなりするくらいに。
なんでも、神官長シャル様は男ながら、とんでもない美貌の持ち主で、聖職者だというのにお見合いの申し込みは国内外問わず、おまけに神官長だけあり回復魔法ではシャノン様に次ぐ実力なのだとか。
シャル様とシャノン様は兄妹らしく、女性陣はシャル様を。男性陣はシャノン様を一目見ようと躍起になるのだという。
教会の最高権限を持つ神官長シャル様の才覚は素晴らしく、次々に不正を暴いたり、改革を推し進める。一方シャノン様は、民にひたすら回復魔法を使って献身的にあちこちを回る。最高の神官達なのだそうだ。
ちなみにこの話は五回目だ。
「着いたわ!さ、行くわよ!」
「はい…」
おわかりだろうが、アイシャさんもシャル様に会って話すのを非常に楽しみにしている。楽しみというか、もはや執念すら感じる。
アイシャさんは僕の執事ミハエルのエスコートもそこそこに、馬車から降りて気持ち悪いくらいキラキラした笑顔と足取りで教会の中に入っていく。
何というか、護衛任務なのか?これ…?
「ん…?」
僕はヒヤリとした何かを感じた。ぐるりと周りを見回すが、群衆と歓声でよくわからなくなってしまった。
ーーーもしかして、見られている?
なんとなくそんな感じがするとしか言えない。僕はほんの少しだけ首を傾げると、アイシャさんの後を追う。
教会の前はすでに関係者で一杯だった。しかし、もう話はついていたのだろう。僕達はこのまま今日の護衛対象の二人がいる部屋まで案内された。
「ご機嫌よう、シャル様、シャノン様」
「ああ来た来た。一年ぶりだね、アイシャ」
「アイシャったら遅いですわ」
「シャル様がお元気そうで、私も嬉しいですわぁ♡」
部屋にいたのは、正しく美しい二人だった。聖人が持つという銀色の髪の男性が恐らくシャル様で、金色の髪を持つ女性がシャノン様だろう。
シャノン様は冒険者の間では非常に有名だ。僕は見たことがなかったけれど、自ら冒険者となりS級神官として様々な国や民の依頼に応える聖女だ。
ーーーうーむ、なんか見たことあるような気もする?
ポワポワと顔を赤らめるアイシャさんを横目に、二人は優雅にお茶を飲んでいる。
「それで…君が、シャノンの護衛かい?」
「B級冒険者のウィリアムと申します。精一杯勤めさせてもらいます」
「そうそう、リアムだっけ?聞いてるよ。私は神官長シャル・チャーチ。こちらは妹の」
「シャノンです。今日はよろしくお願いしますね」
「どうも」
ふむ。流石は最高峰神官ということか、魔力の流れがとてもいい。見せないようにするレベルまでは達する必要がないためか、魔力が光の精霊から止めどなく供給されているのがはっきり見える。
実力的には…妹のシャノン様の方が上かな。光の精霊と相性がいいんだな。でも魔力量はシャル様の方が上だね。
恐らく、二人とも光の精霊との相性が常人より抜群にいいんだな。
「これだけ光の精霊が居るなら、護衛は必要ないかもしれませんね」
僕は自分の元に来た光の精霊を見ながら、そんな風につい口に出してしまった。
「…君、精霊が見えるの?」
「まぁ。私達と同じ人がいたなんて…」
「あ、いや、その……」
シャル様とシャノン様は驚いた様に言った。アイシャさんはびっくりというよりは余計なこと言うな!って顔だ。
「入ってきたときから一杯精霊つけてるから、魔法が得意なんだとは思ったけど。あはは、さすがだね」
「私達は光の精霊と特に相性がいいんですよ。今までお兄様にしか通じなかったから見えることは誰にも話したことがありませんでした。びっくりです!」
僕はそれを愛想笑いするだけで答えた。なによりアイシャさんの顔が笑っているのに鬼の形相だったからだ。
ーーーよ、余計なことを言ったら殺される!
「シャル様、そろそろ」
「ああ、そうだよね。行かないと」
神誕祭のスケジュールは、教会の聖堂前で祝福の言葉を述べ、馬車に乗って城下町をパレード。城に行き皇帝陛下とまた祈りを捧げて、帰ってくる流れだ。
一番危険なのは、行きと帰りのパレードだ。沿道の観衆や高い建物などの中をいくのだから、当然だろう。
既に教会の聖堂前には沢山の信者が待っていた。もちろん、教会の敷地には入れないのだが、それにしたって凄い数だ。なんでも、世界中の信者が二人見たさに集まっているらしい。
「教会の中は強力な結界が張ってあるから安心だけど、一方外に出たら私達は無防備だ。よろしく頼むよ」
「もちろんですわ、シャル様!」
これから神官長シャル様の祝詞があり、シャノン様によって聖書の一節が説教される。その後移動だ。
ーーー気を引き締めていかないとね。
僕が周辺の様子を探っていると、隣にいたシャノン様がおもむろに話しかけてきた。
「あの…ウィリアム様。つかぬことをお聞きしますが、私と面識はありませんか?今日初めて会った気がしないというか…」
「ええっ?!そんなはずは……」
シャノン様が僕を見たことがあるなどと顔を赤らめて言ってきた。これはアレか?よくあるナンパの手口に似てるな。
僕はシャノン様と面識がないか考える。そもそも、冒険者になってから神官と一緒に依頼をした記憶が一度しかない。あれは忘れもしない王子の…あれ?
ーーーあ、あの時の、あの神官か?!
テイロブフェアリ王国でレオン王子と行動した時にいた神官の顔によく似ている気がしてきた。あの神官は、最後まで僕を心配してくれていたから覚えているんだよね。
「ああ、えっと、この間アッシュさんの部屋でお会いしましたよ!よく覚えてますね?」
「アッシュ様の…あ!そうそう!その時の冒険者がウィリアム様でしたのね」
「ええ!いやぁ、偶然ってあるんですね〜」
僕は必死に別の答えを捻り出した。これで正体がバレることはないだろう。
時間ですよと急いでシャノン様をシャル様の隣にやって、ホッと一息ついた。式もつつがなく進んでいる。
驚くほど順調にパレードまで進んでしまい、正直やることがないくらいだ。護衛といっても、多分お飾りなんだろう。それはそれでありがたいね。
そして。
「何にもなかったわね〜」
「そうですねぇ…」
「でもいつものことよ。毎年そうなの」
道中を無事に何事もなく終えて、僕達は再び教会に戻ってきたのだった。
どうやらアイシャさん曰く、毎年特に何も起こらないのだそうだ。
「さ、帰るわよ。私達の仕事はここまで。これで一千アラン貰えるんだから最高の仕事よね」
「一千アランも貰えるんですか?これだけで?!」
「知らなかったの?…そういえば説明しないで連れてきちゃったかも」
今回の護衛を無事に遂行すると、国から五百アラン、教会から五百アランの報酬が支払われるのだとか。
シャル様とシャノン様は既に教会の奥に引っ込んでしまい、僕は帰るだけということらしい。アイシャさんはもちろんだがドーラム家の馬車に乗り込んで帰っていく。
実はアイシャさんは隣国の有名な貴族の令嬢らしい。令嬢って感じじゃないけどね。
帰ろう、と教会の外に出るとなんと馬車が待っていた。ミハエルが扉を開けて待っている。僕の姿を発見したミハエルは、ツカツカと歩み寄ってきた。
「ウィリアム様。お急ぎください」
「ミハエルさん!待っていてくれたんでッ」
「早く乗ってください」
ミハエルに馬車に押し込まれ、乗った途端に馬車は勢いよく動き始めた。
「待って待ってミハエルさん!?」
「舌を噛みますよ」
「ちょっと!!説明してくださいよぉお!?」
僕は目の前で時計を気にしつつ座っているミハエルさんにどういうことなのか問い詰めた。
ものすごくにっこり笑って、ミハエルさんは言った。
「ウィリアム様には晩餐会に出てもらいます」
「は、はぃぃ?!」
「旦那様のご希望かつ護衛ということで、王城からの招待状もございます。正直私は出ても粗相をするだけではないかと思うのですが…まぁ貴方のことですから、意外とサラッとやるんでしょう。本当に手がかかる方ですね」
全く状況が掴めないのだが、これだけは言わせて欲しい。
ーーーあの…僕、一応君の主人じゃなかった?
「さて、どうしたらマシになりますかねぇ。顔以外は全く貴族らしくないですからね。顔だけはいいです。顔だけ」
「扱い酷くない?」
「あ、御者を急がせましょう、ウィリアム様」
にっこりと悪魔のように笑うミハエルと、子羊のように震える僕。思わず僕は叫んだ。
「これから僕どうなっちゃうのーーー?!」
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