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15.僕、決闘する



 僕はアイシャさんに言われるがまま、屋敷の庭に連れてこられた。今すぐに勝負をつけるつもりらしい。


「勝負は簡単よ。お互いに魔法のみを使用して、魔力が切れるか負けを認めた方の負けよ。私が負けることなんてあり得ないけど、もし負けたら…そうね、一回だけアンタのいうことを何でも聞いてあげるわ」

「わ、わかりました…」

「ただし!アンタが私に負けたら、冒険者の職業から魔法使いをとりあげるわ。適性試験なんだから、当然よね?」

「わかってます…」


 アイシャさんのあまりの剣幕に、僕はすでに泣きそうだった。というか今半泣きだ。


 誰か止めてくれよ!と期待したのだが、殿下夫妻とアッシュさんは呑気にテーブルを出して見物の様子だ。


「頑張れよ〜アイシャ〜!」

「ウィリアム〜!屋敷を壊さないでね〜!!」


 僕は深いため息をつく。やるしかないみたいだ。


「準備はいいかしら?」

「いいですよ」

「じゃあ…始め!!」


 来る!ととりあえず保護結界を作ってみた。しかし、アイシャさんからの反応はない。もしかして今、極大魔術の仕込み中か?

始め、と言ったからてっきりいきなりの攻撃かと思って、魔法を展開しちゃったけど…。


 僕はアイシャさんを見つめてキョトンと首を傾げる。


「何?攻撃してこないの?まさか魔法を使えないわけ?」

「は、はい?」

「まぁその程度の魔力じゃたかが知れてるかしら」


 ーーーこの人、何を言ってるんだ?


 とっくの昔に僕は魔法を使っているんだけど?もしかして僕の魔法見えてないとか?


「アイシャ!後ろだ!!」

「へ…ッ?!」


 僕は初手の段階でアイシャさんの真後ろに、氷で出来た剣を作り出す魔法アイシクルソードを展開していた。もちろん、攻撃された時の反撃用に用意したものだ。


 アイシャさんはアッシュさんの言葉に振り向き、僕の魔法を目に捉えた瞬間ズザザ、と距離を取る。


「む、無詠唱ですって?!」

「? 当たり前でしょう?」


 だって詠唱する時間も無駄だし、なんの魔法かも解ってしまうじゃないか。そんなの意味ないじゃないか?


 ジーナさん曰く。


『詠唱なんてのは、精霊の力を使うための過程にすぎないわ。一流の魔法使いや魔術師には要らないわよ。むしろ邪魔よ。詠唱をしている様じゃ、まだまだ三流ね』


 ということらしい。だから僕はむしろ詠唱を知らないくらいだ。


「フン!無詠唱が出来るとは想定外だったわ。だけど、それくらい出来ないと魔法使いとは名乗れないわよね!」

「ごもっともです」

「…本気で行くわよ!!」


 アイシャさんは体勢を立て直すと、僕のアイシクルソードをファイアボムで消した。もちろん、無詠唱で。


 やはり、魔法使いの戦いは無詠唱が基本なんだろう。


 バチバチと音をさせながら、アイシャさんの手にはサンダーボール、つまり雷の球が次々に浮かび上がる。


「サンダー・ラッシュ!」


 数十のサンダーボールが僕に降り注ぐ!それを防ぐシールドを展開。


 ーーーなんか思ったよりもゆっくりした攻撃だな。手加減してくれてるのかな?


「早い!なんて展開速度…!なら、これはどう?!」


 アイシャさんは自分のサンダーボールが全て防がれたため、新しい魔法で追撃する。風を弓矢の様にして放つ、ウインド・アローをより高度にしたラッシュ・ウインド・アローか。


 多分、アイシャさんは僕を思ってあえて、なんの魔法が繰り出されるかわかるように、魔力の流れや何の精霊を使うかを見せてくれている。


 無詠唱は詠唱が要らない。しかし、精霊の力を借りる以上どんな魔法を使いたいかを精霊に知らせる必要があるわけだ。これを「流れ」とか「使役魔力」だとかいうのだが、問題はこれなのだ。


 この流れは、魔法使いならば大体が見える。風ならば、近くにいる風精霊の魔力が体内に流入するのが見えてしまうのだ。それでは、無詠唱にした意味がない。


 ジーナさん曰く。


『いい?魔力の搾取は魔法を発動する瞬間にしなさい。魔力以外を全て用意しておいて使う瞬間に引き出す。そうすれば流れを最小限に抑えられるわ』

 

 だから、魔法使いならば流れを敢えて見せたり、敢えて違う魔法に見せかけて騙しながらやるのが正しいテクニックだ。


「ラッシュ・ウインド・アローですね」

「な、なっ!?」

「うーん。どうしようかなぁ」


 本当は同じ属性のウインド・バリアで風を弾くのが楽なのだが、そうすると屋敷に被害が出るかもしれない。それは居候の身としていただけない。


 僕は結局迷って、ファイア・バリアを選択した。炎を球状に展開して魔法攻撃を防ぐ結界魔法だ。これなら被害は出ないだろう。


 アイシャさんは何故かとても驚いている。


「くっ…ラッシュ・ウインド・アロー!!」

「…」


 多分、この魔法は間を繋ぐだけの繋ぎの魔法だろう。ジーナさんならこの間に別の魔法を用意している。


 何が来るかわからないが、対策だけはしておこう。と、今度は僕から攻撃をすることにした。この隙に極大魔術を仕込むぞ。


 無詠唱による各属性のランスで攻撃。


 ーーー当然防がれ…え?!


「きゃああぁああっ?!」

「えっ?ちょ、なんで?シールドで相殺は?!」


 ランスを放つと、相殺するシールドの展開をしなかったアイシャさんに魔法が全て直撃した!


 倒れて気を失ったアイシャさんと、呆然とする僕。


「ど、どういうこと…?」

「そこまで!!アイシャ、大丈夫か!アイシャ!!」

「ダニエル、医者を呼んでくれ」

「あなた、そこの部屋へ!ベッドの用意をしてちょうだい!」


 アイシャさんに駆け寄るアッシュさんと殿下夫妻。繰り返すが、呆然とする僕。


 ーーーどうしてこうなった?!












「ん…ぅん…?」


 可愛らしい声を出して、アイシャさんはゆっくりと目を開けた。部屋にいたすべての人が、ほっと息をついたに違いない。


 アイシャさんは、僕の攻撃を受けて気を失った。医師の見立てでは命に別状はなく、少し休めば回復するということでしばらく待っていたのだ。


 正直、目を覚ますまで生きた心地がしなかった。全員からの「やり過ぎだろ」という目がつらかったのだ。


 ーーーえっと、これ僕が悪いの?


 というのはもちろん言わなかったが、気まずい雰囲気には違いがなかった。


「アイシャ!目を覚ましたか!」

「あれ…私…?」

「お前はリアムからの魔法を食らって、気を失ったんだ。覚えているか?」


 アッシュさんのその言葉に、ハッと気がついたアイシャさんは、まるで滝のように怒涛の勢いで喋り出した。


「魔力がほとんどないのにあのレベルの魔法を出せるなんて一体どうなってるの?!しかも尋常じゃない展開速度に複数属性の同時展開!!おまけに私の魔法がなんなのかまでわかるなんてアンタどういう魔法使ってるわけ?!」

「え、えと…あの…」

「ていうか!ファイア・バリアでラッシュ・ウインド・アローを受けるなんて何考えてるわけ?!普通風か土でしょうが!!!あーもー!!しかも全然増幅しなかったし!!!馬鹿みたいに制御してるじゃないの!!!」

「あ、う…あの、ちょっと落ち着いてください…」


 僕は突然のマシンガントークに冷や汗を垂らしながら、アイシャさんをどうどうと落ち着かせることに専念した。


 詳しく説明したいのだが、僕が説明するとまた火をつけてしまいそうだ。


 そんな様子を知ってか知らずか、殿下がのほほんと聞いた。


「よくわからないんだけど、ウィリアムがやったことは凄いことなのかい?」

「そ、そうです!はっきり言って、化け物です!!」

「ええ…そんなふうに言わなくても…」


 アイシャさんは、みんなにわかるように説明しはじめた。


「まず、無詠唱魔法。これはまぁある程度の実力があればできる。問題はその展開速度よ!普通どんなに早くたって3秒、下手したら1分かかることもある上級魔法を1秒とかからず展開してるわよね?」

「うーん。考えたことなかったけど、3秒も掛けてたら戦闘じゃ死んじゃいますよね?」

「……いちいちムカつくわね…まぁいいわ。アンタ、どうして私が使う魔法が解ったの?まさかとは思うけど、『予知』系の魔法が使えるの?」


 僕は再び首を傾げる。どうしてって、魔力の流れを見たからに決まっている。


 そう僕が言うと、アイシャさんは僕を馬鹿にしたような顔をした。


「あり得ないわよ!今まで魔力を可視化している人なんて聞いたことがないし、見えたとしたら論文物よ!!」

「ええ?!嘘でしょ…?みんなこれ見えてないんですか?」

「そういう芝居はいいから!」

「いや、芝居とかではなくて…あっ、じゃあ僕の魔力の流れが見えるようにしますね」

「は、はぁ?!何言ってーーー」


 何かジーナさんから聞いていた話しと違うな?


 ジーナさん曰く。


『一流の魔法使いってのは、魔力を感じとれて魔力を見れて当たり前、魔力を秘匿できて半人前、周りの魔力を操れて一人前よ?極力隠しておきなさい。判る人には、何にもしなくたって判るの』


 って話だったぞ?少なくとも僕はそう習ってきたから、自分の魔力や精霊から借りる魔力は最低限かつ秘匿している。


 僕はぽりぽりとこめかみを掻きつつ、隠していた魔力を「調整」した。これなら誰でも見えると思うけど。


「これなら見えます?緑色が僕の持つ魔力で、水色が精霊から供給される魔力です。ね?見えるでしょ?」

「ぎゃぁあああぁぁぁぁッッッ!?」

「あっ!おい!またアイシャが失神したぞ!!!」


 ええ?!また?何で???


 悲鳴を上げて再び失神したアイシャさんを、アッシュさんが揺り起こす。今回は数秒後に目を覚ました。


「はぁ、はぁ、何て魔力量…どこの魔王よ…てゆうか本当に可視化できるなんていやでもこれは新しい論文として…ぶつぶつ」

「ちなみにアイシャさんの魔法は魔力の流れで大体想像できたんです。ファイア・バリアを使ったのは、屋敷を壊さないようにです…って、説明しなくてもわかりますよね!」

「…もういいわ…アンタがマジで化け物ってことはよーくわかったわ」


 ちなみに、魔法には相性があるので風の魔力に火の魔力を掛け合わせると風によって火の魔力が「増幅」する。ファイア・バリアに風の魔力が加わると、爆発が引き起こるわけだ。


 それを爆発ではなく、バリアを取り巻く火の渦に変換してやれば、威力をそのままにバリアが強化されつつ攻撃を防げるわけだ。便利なんだよね。


 アイシャさんは改めて負けを認める、と言った。


「アッシュがアンタに負けたのもわかるわ…『規格外』過ぎるもの。はぁ、とにかく私は約束は守るわ。覚えていると思うけど、アンタの言うことを、なんでも!一度だけ!聞くわ!」

「あ、そうでしたね。ううーん、すぐに浮かばないので、考えておきます!」

「…はぁ。もう訳わかんない…アッシュ!帰るわよ!!」


 怒涛の様に始まって怒涛の様に終わったアイシャさんとの決闘は、僕の勝利で終わった。


 とりあえず冒険者ギルドの魔法適性試験に合格したらしい。僕はホッと胸を撫で下ろす。


 ーーーあれ?なんか忘れているような…?


 そう、僕は護衛任務について中途半端に聞いた状態だったのだ。これでは明日からどうしたらいいかさっぱりわからないのだった。

 

 「僕、明日からどうすればいいの…?」


 どうやら前途多難らしい。とほほ。

次は再びヒロインの登場です!(やっと)


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