14.僕、名付ける
感動の出産から一夜明け、ようやく母子ともに安定したということでユニコーンペガサスの親子との面会ができるようになった。
国を代表する聖なる馬の出産に、皇帝陛下や貴族からお祝いの品がたくさん届いているのだそうだ。
厩舎の前には既に使用人達と殿下夫妻が集まっていた。
「可愛い〜!」
「翼を広げたわ!なんて綺麗なのかしら」
「性別は男の子だって」
早速、仔馬は屋敷のアイドルになったようだ。
「ウィリアム!見てご覧、とっても可愛いよ」
「赤ちゃんのうちはまだ角が小さくて愛らしいのよ」
「お二人とも、おはようございます。どれどれ…」
母親に寄り添う、すらりとした仔馬。その羽根と角はまだ小さい。母に似て凛としてかっこいいじゃないか。
仔馬は人間にまだ慣れていないのか、近寄って来ない。母馬は僕を見て、カポカポとやってきてくれた。
〈ウィリアム。無事に仔が産まれてくれたぞ!お前のおかげだ。感謝してもしきれない!〉
「一時はどうなるかと思ったけど、本当によかった!僕も嬉しいよ」
〈我が仔よ、こちらにおいで。我が主人と我が親友に紹介しよう〉
おそるおそるやってきた仔馬は瞳が水色で、母馬とはまた違う美しさがあった。
〈お母さん…こ、怖いよ…〉
「ふふ、可愛いな。ウィリアム、触ったら怒るかな?」
「怖いって言ってます。慣れるまではまだ触らない方がいいと思います」
〈すまないなウィリアム〉
僕達が実際に仔馬に触ることができたのは、一週間後のことだった。すっかり僕達に敵意がないことや世話してくれる人だとわかったのか元気に庭を駆け回っている。
殿下夫妻と母馬は、数日前に主従契約を結んだ。奥様は母馬を、「マリア」と名付け毎日殿下と庭や空を楽しんでいる。
マリアはとても穏やかで、知性もありきちんと誰が偉くて誰が使用人かまで理解している。
「マリア、ちょっといいかい?」
僕が仔馬に餌をやっていると、殿下がマリアの元にやってきた。
マリアは嬉しそうに嘶いて、殿下のもとに走る。
〈主人!どうしたのだ〉
「マリア。嫌なら言って欲しいんだけど…仔馬を誰かにあげたら怒るかい?」
〈な、何?我が仔を……そうか……〉
どうやら、仔馬を皇帝陛下に差し出すつもりのようだ。ブルル、と口を震わせながらマリアは考え込んでいる。
殿下夫妻とマリアは契約を交わしたので、殿下はマリアの言葉がある程度わかるようになった。だから、直接話をすることもできるようになったのである。もちろん、完璧ではないのだが。
仔馬の方も話を聞いて、慌ててマリアの元に駆け寄った。
〈嫌だ!母さんと離れたくない!〉
〈…我とて同じだ。しかし…主人の頼みは絶対だ〉
〈嫌だ!ヤダヤダ!!〉
余りにも残酷な提案に、僕も悲しくなってきた。皇帝陛下が聖なる馬を大切にしてくれることは信じているが、親子を引き裂くには余りにも早すぎる。
僕はしょんぼりするマリアと嫌がる仔馬を見て泣きそうになっている。
「そんな…殿下、皇帝陛下への献上はもう少し経ってからでも…」
「…ん?兄上に?献上?……あっはっは!なーんだ、ウィリアムもマリアも勘違いしているね」
「へっ?」
〈何?!〉
殿下は僕の話を聞いて、ようやく僕達の勘違いに気が付いたらしい。
いつものように微笑みながら、殿下は僕を見て言った。
「あのね、私が仔馬をあげたいのは君だよ、ウィリアム。兄上からも了承を得ることが出来たんだ」
「えっ…」
「君には何から何までお世話になっているし、君とレイの関係を見ていれば素晴らしいテイマーだってよくわかる。それに、マリアにとっても君がこの家にいる限り、子供に会えるから良いだろうと思ってね」
急な話に、僕はとても驚いた。この国の聖馬をこうして世話できるだけでも幸せなことなのに、仔馬を?僕が?
ぐるぐるとどうしようと考える。
ーーーやっぱり、誰か皇族にあげるべきだ。
僕は改めて、はっきりと僕ではない誰かにあげるべきだと伝えた。
「うーん。それならやっぱり兄上に…」
〈ウィリアムならいい。ウィリアムなら我が仔をやっても良い〉
「ええっ?!マリア、ちょっと!」
〈我が主人は素晴らしいな。我もウィリアムならば仔を預けてもよいと思っていたのだ!〉
「そうなのかい?ふふ、じゃあ決まりだね!」
ーーーええぇぇぇ?!そんな決まり方ある?!
マリアは急に仔馬を僕にくれると言いはじめ、殿下も本気で僕に仔馬をあげるつもりらしい。慌てて僕は遠慮すると言ったのだが。
抵抗も虚しく、僕はそれを受け入れざるを得なくなった。
何故なら、仔馬がいいとはじめて言ったからだ。
〈ウィリアムはいい奴だから…使い魔になってもいい!〉
〈うむ。よくぞ言ったぞ我が仔よ〉
「わ、わかったよ。でも、嫌ならいつでも言っていいからな」
半ば強制的に、僕は仔馬と従魔契約を交わした。名前をつけるだけの簡単な縛りだが、きちんと使い魔として使役できる。
仔馬の名は、もう一人の相棒(使い魔ではないけど)レイからもじって、「ケイ」とした。
「よろしくな、ケイ」
〈しょうがないから使い魔になってやるよ〉
「はいはい」
こうして僕は、新たな使い魔もとい相棒を手にしたのである。
◇
「ウィリアム様、旦那様がお呼びです」
「えっ?なんだろう…わかりました。すぐ行きます」
ユニコーンペガサスの件を無事に終えたことだし、早くダンジョンに行こうと準備をしている時だった。
殿下が僕を呼んでいるそうだ。ミハエルさんに連れられ、殿下の部屋へと向かう。
「お待たせしました。何か…あれっ?!」
「よっ!」
「アッシュさん!!!」
そこに居たのは、殿下以外に『常勝無敗のアッシュ』こと冒険者ギルドのギルマス、アッシュさんと…女の子だ。
アッシュさんと会うのも久しぶりで、とても嬉しい。隣にいる女の子は…学生かな?魔法使いのローブを着ているけど、小柄で幼い顔をしている。
「ウィリアム、アッシュが君に頼みたいことがあるそうだよ」
そう殿下は言った。
「そうそう。オメェに頼みがあるんだよ!ギルドからの特別依頼ってことで、どうだ?」
「ええっと、僕はそういう依頼が嫌だからB級冒険者で登録したんですけ」
「いや〜!もうすぐ神誕祭だろ?護衛依頼がめっちゃ来ててギルドは人員不足な訳だ!おまけにお前みたいに実力のある奴なら尚良しってわけだ!!」
アッシュさんは僕の話を聞く気がないのかもしれない…僕の言葉を途中で遮り、ペラペラと依頼内容を話し始める。
どうやら、神誕祭で僕に護衛して欲しいらしい。
ーーー僕、護衛が務まるほどの実力ないんだけど…。
「あ、あのですね…僕に護衛任務は荷が重いというか…分不相応というか…」
「あ〜そうそう。お前ダンジョン攻略が趣味なんだよなぁ?」
「へ?!」
「依頼を受けてくれたら、『癒しの谷』の通行許可書を用意するんだけどなァ?」
「な、何だって…?!」
S級ダンジョン『癒しの谷』は、文字通り谷の中腹にあるダンジョンだ。入る事自体は簡単で、冒険者なら誰でも入れる。
『癒しの谷』は、癒しと付くだけあり神官の聖地とされ、なんとダンジョンの中に教会の様な聖堂があるのだ。これを目当てに神官達はこのダンジョンに行くようなものだとか。
問題は、その聖堂までしか通常の冒険者は入れない、ということなのだ。聖堂から先は険しいダンジョンとなっているそうで、S級相当の冒険者と神官しか入れないようにされている。S級の冒険者でも戻らないことがあるという非常に危険な場所だ。
「ぐ、ぐぐぅ…!ずるいですよッ!!」
「受けてくれるか?」
「……わかりました。やります」
なんか似たようなことが最近あった気がするが、ダンジョン攻略のためなら仕方ない。うん、仕方ないよね。
僕は依頼を受けることにした。
アッシュさんと殿下はよかったよかった、とうんうん頷いている。そして、殿下が聞き捨てならないことを言った。
「ね、だから言ったでしょ?ウィリアムはダンジョンをちらつかせたら行けるって」
「殿下の入れ知恵かーーーぃ!!!」
「あはは」
思わず突っ込んでしまったではないか!殿下にいい様に転がされているようだ。
「まぁまぁ、いいじゃねぇか。それで、詳しい話しなんだけどよ。お前さんには、神官を護ってほしいんだ。聞いたことあると思うけどよ…S級神官シャノンの護衛だ」
「神官…ですか。神官にどうして護衛が?」
「教会も色々あんだよ。よくわかんねぇし、俺達が首を突っ込むこともねぇ。それと…紹介が遅れたな。お前と一緒に任務に当たるS級魔法使いのアイシャだ。頼りになるぞ」
僕に与えられた任務は、神官の護衛だそうだ。何故護衛が必要なのかはわからないが、それでいいみたいだ。
アッシュさんははじめて隣にいた少女を紹介してくれた。まだ幼い少女がS級魔法使いだなんて、相当な実力のある人なのだろう。
「アンタが常勝無敗のアッシュに勝ったって冒険者?魔法も使えるって聞いたけど、全然魔力を感じないじゃない」
「は、はぁ…?なんか、すみません…?」
「冒険者が魔法使いを職業に選ぶ時には、適性試験があること、知ってるわよね?特別に私が見てあげる。嬉しいでしょ?」
「へぁ?」
アイシャちゃんは小さな胸を張って僕に適性試験をしようと言ってきた。
そう言われてみると、やると言われたのに結局やってなかったな。せっかくなら受けたいけど、アイシャちゃんと戦うのは気が引ける。
「あの…アイシャちゃんの気持ちはありがたいけど、子供には手をあげられないよ」
「あっ馬鹿お前!」
「…ちゃん、ですって?子供………?!」
アッシュさんは頭を抱えている。
アイシャちゃんはぶつぶつ呟きながら、ブルブルと震え、顔に血管を浮き出させている。
ーーーどうしたんだろう?トイレでも我慢しているのかな?
「私はッッッ25歳よぉぉぉぉッッッ!!!」
「ヒェッ!」
「今すぐ殺す今すぐ殺す今すぐ殺す今すぐ殺す…!!」
「ひぃいっ!!」
僕は地雷を踏んだ。言いたいことはそれだけだ…正直すまんかった…。
アイシャさんの魔力がみるみる膨れ上がり、まるで魔王の様な形相に変わっていく。
「決闘よ。受けてくれるわよねぇ???」
僕に答えることを許された言葉は、これしかない。
「……は、はい」
ーーー誰か助けてぇ!!
そんな思いも虚しく、僕はアイシャさんの決闘を受け入れることとなったのである。
ウィリアムちょろすぎ
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