第6話 帝都
帝都アルヴァンは巨大なクレーターの内側に造られた大きな街である。
中心に皇帝の居城があり、その周りを囲むように街が広がり、盛り上がった土を防壁として活用した天然の要塞と化している。
いつもならその防壁の上から周囲を見渡すと、北側にはあれた大地、南側には緑豊かな大地が広がっている。
最初に気づいたのは北側を監視している警備兵だった。
滅多に雨すら降らない北の大地で雷が光ったのだ。よくよく目を見張ってみていると、黒雲が北から押し寄せ、その下では雷と暴風が荒れ狂っている。
轟音を鳴らしながら近づいてくるそれに、次第に街の中にいる人々も気づき始めた。
その黒雲の下を進軍してくる闇の軍勢に気づいた者は、まだいなかった。
「皇帝陛下!大変でございます!」
そう言って皇帝の休む部屋の扉を開けたのは、国の軍事を担当する大臣であった。
「何事だ?外が騒がしいようだが。」
「それが、異常な黒雲が雷を鳴らしながら北から帝都に近づいてきております。」
「黒雲…?今までそんなことはなかったはずだな?至急他の大臣たちと、それにレント将軍を招集しろ。」
「かしこまりました、陛下。」
大臣は慌ただしく部屋を出て行った。
皇帝は手早く侍女に身なりを整えさせてから会議をするときなどに使う大きな机が置かれている部屋に急ぐ。
途中窓から見えた北の空は、すでに黒雲で何も見ることはできなかった。
会議室に入るとすでにほとんどの者は集まっているようで、皇帝が入室すると全員が立ち上がり礼をしようとする。
「礼などよい。それよりもあれはなんだ。あの黒雲は明らかに自然現象ではない!」
「はっ、それが黒雲についてわかる者がおらず…。」
「陛下、これはただ事ではありません。あの黒雲からは禍々しさを感じます。勝手ではありますがすでに第三軍団と第四軍団を外壁に向かわせました。」
現状はわからないが、万が一に備えレント将軍がすでに防衛を固めていると答える。
その時、伝令兵が部屋に飛び込んできた。
「報告します!黒雲より闇の軍勢が現れました!」
「なっ、なにっ!?」
「闇の軍勢だと!?」
「数は!規模はどのくらいなのだ!」
「はっ、推定では二万ほどかと!」
「ばかな!いったいどこから!?」
「まさか、北の地の魔王が実在したというのか?」
「レント将軍、勝てるのか?」
大騒ぎになった会議室で皇帝が将軍に問うと、将軍の返事を聞き逃すまいとその場が静かになった。
「…我が軍団は一軍二万の兵士で構成されており、中には飛竜を駆る竜騎兵も存在します。二万程度であれば、間違いなく勝てるかと。相手が普通であれば、ですが。」
それを聞いて多くの者は安心したが、「どうして急に…。」と全員が考えていた。
「念のために第一軍団と第二軍団もいつでも増援に迎えるよう手配します。その後私も全線で指揮を執りたいと思います。それでは、失礼。」
レント将軍は急ぎ足で部屋を出て行った。今回の異常事態が起こってからずっと胸騒ぎを覚えていた。
北門のある城壁の外側には、闇を纏った兵士たちがずらりと並んでいた。
すでに黒雲は帝都上空を覆いつくしており、今から何かが起こるという不気味な気配がある。
なぜか攻めてこない闇の軍勢をただ眺めるだけではなく、帝国側は防衛の準備を進めていた。
幸い近々東のアウグスト王国や南の都市国家連合へ侵略するための軍備は整えていたし、近年では数はまだ多くないが飛竜の飼育にも成功していた。
飛竜といっても人一人乗れる程度の大きさだが、その機動力を生かしながら空から攻撃できるというのは侵略するうえで非常に大きなアドバンテージを持つ。
その虎の子の飛竜部隊まで全て待機させ、念のために城の周囲と北以外の城壁にも五千人ずつ兵を配置する。二万人はさらに北の増援として待機させている。
どれくらい時間がたったのかと思い始めたころ、闇の兵たちが少し左右にずれて中心から城壁の前まで隙間を作るように動いた。
その隙間を通ってくる怪物を見て、恐怖を感じないものはいなかっただろう。
体からどす黒い青い炎を噴き上げながら歩いてくそれは、巨大な捻じれた角を二本頭から生やした身の丈十五メートルはある悪魔だった。
その悪魔は門の前までやってくると、人の言葉で話しかけてきた。
「我が名は大魔王、ルシフ・ダークネス。この世界の全てを支配するため、時の向こうから蘇った。…人族よ、己の罪に焼かれ、滅びるがいい。」




