表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

第1話

以前書いたものを書き直しながら投稿しています。



「…今日は何日だ?」


久しぶりすぎてうまく言葉がでるか不安に思い、そもそも言葉とはこれで合っていただろうかと考えていると、右横から返事があった。


「今日は西暦4052年2月1日でございます。魔王様。」


もしかして自分の周りだけ時が止まっていたとか、思考加速のようなスキルをいきなり発動してしまい自分の体感時間だけ長く感じてしまったのかなど真剣に悩んでもいたのだが、普通に2000年ほど時間が経過していたようだった。

 どう考えてもおかしい。通常であれば数日に1度くらいはラスボスであるはずの俺を倒しにプレイヤーがやってくるはずだ。

 最後の記憶は、何週間にもわたりそれまでなかったほどのプレイヤーたちの猛攻を受け、なんとか返り討ちにしたあと玉座に座ったところで終わっているから、2000年間この玉座でただただじっとしていたのか。


「最後の戦いから2000年も経ったというのか。なぜあれから誰もやってこないのだ?」


「申し訳ありません…。私にはわかりません。魔王様。」


 2000年以前から共に過ごし戦ってくれていた、今は少し落ち込んだような顔をしている女性はラミリリス。

すらっとした体に合わせて全身を隠すすっきりとした黒いドレスを着、その整った顔立ちは誰もが見惚れるほどの美女である。ただし唯一肌が見える顔は不健康に思えるほど白く、眼は赤い。話すときには口の中に鋭い牙がちらりと見えた。

吸血鬼。それがラミリリスの種族名である。


「そうか。長い間ここに閉じこもっていたのだ。それもしょうがないだろう。気にすることはない。」


「ありがとうございます。」


「ずいぶん暇な時間をいっしょに過ごさせてしまったようだな。途中でなにか話しかけてくれてもよかったのだぞ?ラミリリス」


「暇だなどとそんなことはございません。魔王様に付き従うことは私の喜びであり、玉座の間で二人きりで過ごさせていただけて私は満足しておりました。」


 さぞ退屈だっただろうと思って申し訳なく思ったが、ラミリリスは全くそんなことなかったらしく表情を緩めてそう答えた。もしかしたら久々に名前を呼んだからかもしれない。


「それならいいのだが。…さて、これからどうしたものか。」




 …ん?先ほどから感じていた違和感。以前はこんな自由な思考を持っていただろうか?


 大魔王ルシフ・ダークネス。俺はこの世界のラスボスとして神々に創られた。人を滅ぼし闇で世界を覆うために。神々から与えられた最後の試練は、この玉座の間でやってくるプレイヤーを迎え撃つことのみ。

 この世界で最も重要な役割を持った俺はかつてから本来知ることのないはずの知識を、たまにあった神々との交信の時に知ることができた。それは世界の成り立ちはシステムと言ったものである。

 そういった知識もあり様々なことを考えてはいたはずだが、今のほうが自由な思考ができるというか、なにかの制限がはずされたような気がする。

 実際のところ、かつてならどういう思考をしようとも最終的に玉座の間でプレイヤーを待ち続けるという選択しかしなかっただろうが、今なら玉座の間から出ていくことも可能だろう。


 ラミリリスにしてもそうだ。こんなに感情豊かだっただろうか?

考えれば考えるほどにいろいろなことが異常に思える。

現状を確認する必要があるな…。


「現状確認のため、竜たちを迎えに行ってくれ。そうだな…墓地南の平野に集合だ。」


「はっ。かしこまりました。」


 そう言ってラミリリスは【転移】を使って姿を消した。魔法は問題なく使えるようだ。

さてと、俺も行くとするか。


 2000年もじっとしたのだからもしかしたら思ったように体が動かないかも、なんて心配は杞憂に終わった。まるで準備運動をしていたかと思うくらい軽い動作で玉座から立ち上がる。

 それから今いる闇の塔から南にある枯れ果てた大地に意識を向け、【転移】を念じる。空間の跳躍を感じた次の瞬間にはただただ茶色に荒廃した大地が目の前に広がっていた。


 今まで縛り付けられていたのが嘘のように、当たり前のように玉座の間からでることができた。とは言え別に玉座の間にいるのが苦痛だったわけではないが。

 魔王を倒しにやってくるプレイヤーたちは誰もが恨みは復讐などという暗い気持ちで挑んできたりしなかったからかもしれない。プレイヤーたちからは力試しにきたというような雰囲気があり、強者との戦いは心躍るものがあった。

 特に最後の怒涛の攻略の時にはみな誰もが全てをかけて挑んできていたような気がする。自身のもつ最強の装備に鍛えたスキル、製作スキルでしか手に入らないレアな回復薬まで惜しむことなく使いまくり、死さえも恐れずに立ち向かってくる姿は、ルシフにとってはなぜか眩しく見えた。


(あの時の戦いは楽しかったなぁ。あんな風に俺もいつか輝ける日がくるのかな?)


などと考えていたら、すぐ横で空間が歪むのを感じた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ