第15話
(どういうことだ?いつ、どんな条件を満たしたんだ?)
「昼前まではなかったはずなんですけど…。」
(つまり…まさか、俺との会話のせいか?魔王を倒すとかなんとか言っただけで条件を満たしたというのか?いや…でもそれ以外には特になかったはずだが…。)
「理由はわからないが、勇者の職業獲得など今まで聞いたことがない。おそらく超レア職だろう。レベルをあげてみたらどうだ?」
(おもしろい、これは予想外だ。勇者の誕生にこの俺が立ち会うとはな…ククッ)
「はい。…20レベルまであげてみました。なんか、すごいです。」
「ほう。それは楽しみだな。とりあえず、戦ってみたらどうだ?」
「はい!やってみます!」
装備を交換した後の戦闘では、ロイは一撃でスケルトンを倒せなくなり、ウィルに至ってはそれこそ何度も何度も切り付けてやっと倒していた。
変わらないのはニーナだけだ。むしろニーナはなぜか強くなっていた。【小回復】を放てば先ほどと変わらず一撃でスケルトンを消滅させ、素手で殴るだけでスケルトンを破壊していた。
(これが勇者の力か。まさかこれほどとはな。)
あきらかに反則級の職業であると思える。まぁ“魔王”だってそういう意味ではあまり変わらないが。
ほとんどニーナのおかげだが、昼から1時間ほどの戦闘で整列していたスケルトンたちは一体残らず消滅させられた。
「す、すごすぎます…。」
ニーナは自分の力に衝撃を受けているようだ。ロイとウィルも素手でスケルトンを殴り飛ばすニーナを見て若干ひいている。
「思った以上に強力だな。しかし、それくらいで俺は倒せないぞ?もっと鍛えるんだな。」
「わかりました!」
最終的に三人のレベルはロイが35、ウィルが33、ニーナが36になったようだ。
二日間でこれだけあがるのならば、効率を重視してつきっきりで補助すればもっといけそうだ。
「今日はもうスケルトンがいない。明日は一日ゆっくり休んで、明後日からまたレベルあげだ。」
三人を街に送り、玉座の間に帰還する。
みなに勇者が現れたことを告げるとそれぞれ驚いてくれた。アルジアだけが、「勇者か~、戦ってみたいです!」とはしゃいでいた。
次の日は特にやることもなかったのであちこちをラミリリスと共に飛び回り、いつでもどこでも転移できるように下準備しておいた。
予定ではロイたちのパワーレベリングはいったん打ち切り、アウグスト王国の北の魔王を調べにいくつもりだったのだが、ニーナに勇者の職業が獲得できてしまったため興味が湧いてしまったのだ。
約束の日の夜明け前、ルシフは平野に向かって手をかざしていた。【軍勢召喚】発動。
今回召喚したのはレベルにして55のダークソルジャー6000体とレベル75のダークナイト2000だ。
黒い重鎧という点では同じだが、ダークソルジャーが片手剣を持っているのに対して、ダークナイトは両手剣を持ち、鎧からは闇の気配が濃密に漂っている。
鎧の中身は黒い霧で、兜から見えるないはずの目は濁って赤い。アンデットではなく悪魔に近いのだが、痛覚はなく死んでも闇の世界に帰還するだけのはずだ。
闇の兵士たちを満足そうに眺めたルシフは、ロイたちを迎えにアウグスト王国に向かう。
ダークナイトを見た三人は、ここで初めてスケルトンを見た時ほどではないが少し泣きそうな顔をしていた。約倍の自身とレベルが違う相手の威圧感に押されているのだろう。
もしかしたらまたスケルトンの相手をすると思っていたのかもしれない。
「とりあえずの相手はこっちのダークソルジャーだ。大丈夫だ。」
そう言ってルシフは宝物庫で選びなおした上級の聖属性の装備を渡す。
ロイには光輝くフルプレートアーマーと片手剣。
ウィルには光輝く短剣と弓と軽鎧。
そしてニーナにも光輝く片手剣と軽鎧を渡した。
「まずはそれでやってみてくれ。ちなみに今回は回復魔法ではダメージを与えられないから気をつけろ。」
三人は一つずつ着心地は手の感触などを確かめながら装備した。
(なかなか危機感をもっているようだな。)
三人がいつものように頷き合うと、ルシフはダークソルジャーに(攻撃は当てるな。ゆっくり、隙ができるように攻撃しろ。)と心の中で命じる。
まずはロイが様子見に前に出た。近づいて来た先頭のダークソルジャーの首をヘルムごと跳ね飛ばす。剣を振るときにスピードがあがったように見えたので新たに得た技を使ったのかもしれない。
一応首は落とせたが、中身に実体のない悪魔はそのくらいのダメージでは倒れることはなく平然とロイに襲い掛かる。
ロイはなんとか身を捻って躱すと、続けざまに数回切り込む。そこにウィルが弓矢で攻撃した。さらにロイが何度か切り付けるとダークソルジャーの鎧が地面に崩れ、黒い霧となって消えた。
今度はニーナが前にでると、次に来たダークソルジャーを袈裟懸けに切りつける。切りつけられながら剣を突き出してくるダークソルジャーの攻撃を少し横にずれて躱してから、今度は胴体を切り裂く。続けて上段から切り下すと、ダークソルジャーが崩れ去った。
「俺たちも負けてられないぞ、ウィル!二人で一体ずつ倒していこう!」
ニーナを見てロイとウィルもやる気をだす。
それから三十分ほど戦い、一度休憩をいれる。
ニーナは片手剣にも慣れてきたようだし、ウィルはどうやら弓より短剣のほうが得意なようで途中からロイと切り合っているダークソルジャーの後ろから短剣で攻撃していた。
「どうだ?なにか問題があれば言ってくれ。」
ルシフがそう聞くと、「実は…」とウィルが話し出した。
「昨日職業を決めました。敵の隙をついて素早く短剣で攻撃するイメージをしたら、【盗賊】を獲得したので、それを15レベルまで上げたんです。そしたら【暗殺者】も獲得できたので、それを10まで上げました。そしたらなんか速く動けるようになって、短剣がもう一本あればいいなって思うんですけど。」
「なるほど、暗殺者は盗賊の上位職なのだろう。ちょっと待っていろ。」
そう言って宝物庫に転移してもう一つ短剣をとって平野に戻る。
弓を返してもらい短剣を渡すと、「ありがとうございます!」とウィルがお礼を言った。
「それじゃあ、再開しようか。」
短剣を両手に持ったウィルは先ほどより手数が増え、明らかに倒す速度があがった。
それでもスケルトンのように次々と殲滅できるわけではなく、レベルアップの頻度が少ないので疲労が溜まりやすいようだ。
ちなみにHPが全快でも疲労感は感じるらしく、レベルアップした時だけ疲労感が和らぐそうだ。どうやら疲労度はステータスで数値化されないということか。
三人によるとスケルトン相手よりも受ける威圧感が違うらしく、精神的にだいぶ疲れるらしく、三十分戦って三十分休憩を繰り返して昼飯を食べる。
「あたし、【料理人】になりました!」
と言ってニーナが白い粒を三角形に固めたものを差し出してきた。
おそらく【勇者】は【魔王】と同じく上限レベルが100の特殊職業だろうと思われたのでできるだけ勇者のレベルをあげてもらおうと思っていたのだが、どうもニーナはそうは思っていないようだ。
すでに【回復術師】を何レベルかあげていただろうからもともと100レベルまで勇者をあげることはできなかっただろうが。
「おいしい料理を作りたいって思ってたら獲得できました。今レベル10です!」
「10…だと?」
貴重な職業レベルをあげるためのポイントを10も使ってしまったらしい。生活職の上限レベルは低いものが多く、おそらく10が【料理人】のレベル上限だろう。
(まあ、勇者になりたくて勇者になったわけではないからな…)
少し残念に思いつつ、どうせ100レベルまで上げれないんだからいいか。と思うことにした。
呆れた顔を隠そうとせずにもらったおにぎりという食べ物をかじると、予想していた以上のおいしさに衝撃を受ける。
(これが【料理人】の効果なのか…)
「…うまいな。」
「そうですか!【料理人】をあげたかいがありました!」
たしかにこれは上げる価値のある職業かもしれない。と真面目な顔をして考えるルシフを見ながらニーナは嬉しそうにしていた。




