第13話
「ひとまずは街から離れる。着いて来い。」
少し緊張しているように見える三人にルシフはそう声をかけ、開いたばかりの大門をくぐると少し離れた森の中に入っていった。
街からの視線が届かない位置までくると、ルシフは三人に話しかける。
「これから我が領土に案内する。多少驚くことがあるかもしれないが、俺から離れなければ大丈夫だ。」
三人が神妙に頷いたのを確認し、ルシフは【転移】を発動する。
次の瞬間には五人はスケルトンが整然と立ち並ぶ眼前に飛んでいた。
「う、うわあぁあああ」
「え…」
「きゃぁああああああ」
叫んだり固まったりする三人。ずいぶんと驚いてくれたようである。ニーナなんかは思わずルシフに抱き着いて目に涙を浮かべていた。
「大丈夫だ。いきなり襲い掛かってきたりはしないさ。」
落ち着いてそういうルシフに、三人は少しずつ冷静さを取り戻してきたようだ。ニーナは顔が青から赤に変わったが、それでもルシフのマントから手を放しはしなかった。
「今日はこのスケルトンたちを相手に戦ってもらう。装備は俺が用意しておいた。これを使ってくれ。」
そう言いながら三人に武器と防具を配っていく。
ロイにはうっすらと光輝いている片手剣とプレートアーマー。
ウィルにも同じくうっすら光輝く弓と短剣と軽鎧。
その輝きは聖属性の光でアンデットには抜群の効果がある。
ニーナにも同じ聖属性のローブと、先が十字になっているメイスを渡した。
「どれもアンデットには効果的な武具だ。俺とガレアスもすぐ後ろで見ているから、三人でスケルトンどもを倒せ。」
そう言ってルシフとガレアスは三人より少し後ろに下がる。
ロイたちは急いで渡された装備を身に着けると、顔を見合わせて頷きあった。
それを見たルシフは心の中で近くにいるスケルトンに命じる。
(避けられる程度の攻撃のみ許可する。あまり抵抗せずに自然に倒されろ。)
手前にいたスケルトンが動き出した。命令通り動きは鈍く、狙いもわかりやすい。
小鬼相手にやってみせたのと同じようにロイがまず前にでる。スケルトンの一撃を躱して剣で叩き切るが、一撃では倒しきれなかった。そこに後ろからウィルの矢がとぶ。矢は頭を丸ごと吹き飛ばしスケルトンはバラバラに崩れ粉になった。
二体目のスケルトンもロイの一撃では倒せず、今度もウィルがとどめをさした。
ニーナは補助魔法をかけたり攻撃がかすったときに回復をとばしたりしている。
どうやら今の力では二発でキル確定程度のようだ。聖属性の攻撃だけあるな。
それから一時間程度してから休憩をはさんだ。三人ともスケルトンの攻撃パターンにだいぶ慣れてきたようだ。特にロイとウィルは後半余裕こそないものの危なげがなくなってきたように見える。
それに比べるとニーナはかなり疲れているように見えた。最後はMPも尽きたようで、座り込まないように我慢するので精一杯だったようだ。
(これはパーティーのシステムとしての機能が働いていないようだな。)
かつてのプレイヤーたちは仲間でパーティーを組み、モンスターを倒した際はパーティーに属するすべての者で倒した経験値を分配していた。
だがおそらく今の三人では攻撃を加えているロイとウィルにしか経験値が分配されておらず、ロイとウィルだけレベルアップによる能力値アップと、レベルアップ時のHP・MP全回復という現象により疲労を感じていないのだろう。
「いい調子だ。この調子ならニーナの補助は必要ないだろう。ニーナ、これからはスケルトンに【回復】を使え。」
アンデットであるスケルトンには聖属性の回復魔法は一番の弱点だ。
そう言ってニーナにMP回復のポーションを飲ませる。これも宝物庫にあったものだ。まだニーナのMPの最大値が低いため、低位のポーションでも十分全回復できただろう。一応ニーナにいくつか渡しておく。
それからの一時間は先ほどとは比べ物にならないほど順調だった。
ニーナの回復魔法の効果が絶大だったからだ。ニーナに貸したメイスで魔法攻撃力が上乗せされ、さらにコートには効果は小さいが魔法攻撃力アップの効果がある。
まさかの一撃でキル確定だったのだ。
まだ近くまで来ていないスケルトンまで攻撃の範囲を伸ばしロイとウィルの数倍のスピードで殲滅していた。
まだ低レベルということもあってレベルアップのスピードが速く、MPが尽きる前にレベルがあがりMPが全回復というのを繰り返して無尽蔵に【小回復】を連発していた。
その後一時間戦って少し休むことを繰り返し、三人は昼までスケルトンを倒し続けた。
「よし、いったん休憩にしよう。二時間ほどゆっくり休むといい。」
三人とも多少の疲れはあるようだが、レベルアップのおかげか意外に元気そうだ。
なぜかニーナがそわそわしている気がしたのでどうしたのか聞いてみると、「えっと、ちょっとお手洗いに…」と恥ずかしそうに言った。
もう何年も冒険者をしているので野外で用を足すことに抵抗はないのだろうが、さすがに見渡しのいい平野でするのは恥ずかしくてできないだろう。
「ああ、すまない。ここらへん一帯は絶対に安全だ。スケルトンも今は動かない。俺たちから離れても大丈夫だ。」
「あ、ありがとうございます。」
そういうとニーナは少し離れたところにある岩陰に小走りで走って行った。その隙にロイとウィルもニーナとは反対を向いて連れションしていた。
戻ってきた三人はアイテムボックスから干し肉を取り出しかじっている。それを見ながらルシフは話を始めた。
「三人ともだいぶレベルがあがったようだな。ずいぶんらくになってきたんじゃないか?」
「はい、戦っているとたまに急に力が湧いてくる時があって、疲れがふきとぶんです。そうじゃないとこんな長時間戦っていられなかったかもしれません。」
「それがレベルアップの瞬間だ。そしてこれから説明するのは“職業”についてだ。」
「職業というと、戦士とか魔法使いとかですか?」
「そうだ。だが正確にはそんなおおざっぱな分類ではなく、もっと細かくわかれている。例えば回復士に関して言えば、聖女、修道士、巫女、僧侶、治療士、治療術師、神官、白魔法使い、中には闇司祭なんてものまである。これ以外にもまだあるだろう。中にはその職業につくために特別な条件が必要なものも多い。」
「そ、そんなに色々分かれているなんて知りませんでした。あたしはいったいなんの職業なんでしょうか…。」
回復士の例えを聞いて自分の職業がわからないというニーナ。
「それなんだが、アイテムボックスの時と同じような感じなんだが、自分のことを調べるようなイメージをしながら“ステータス”と念じてみてくれ。」
そう聞くと三人とも目を閉じて黙り込んだ。
アイテムボックスの時と違い、今度は三人ともすぐに「よくわからないけどできました!」と言ってきた。
(やはりシステムは誰にでも機能しているようだな。)
「よくやった。自分の職業はそれで確認できるはずだ。ちなみに自分のレベルや能力値も数値化して見れるはずだ。」
「ほんとだ!俺は戦士(片手剣使い)でレベルは23だ!」
「僕は弓兵(弓使い)と弓兵(短剣)のふたつでレベルは22だって!」
「あ、あたしは治療術師だったみたいで、レベルは24でした。」
三人とも思った通りの職業を所持していた。レベルは今までニーナが一番低かっただろうに、最後の数時間で追い抜いてしまったようだ。
「なるほど、わかった。ちなみに職業についてだが、一人でいくつもの職業をもつことができる。条件のない職業ならおそらくなりたいと思うだけで獲得できるだろう。ただ実は獲得しただけでは何の意味もない。それぞれに職業レベルというものがあるはずだが、その職業レベルというものをあげることで新たな魔法やスキル、特性を得ることができるからだ。」
三人は自分のステータスを確認しながら理解しようと一生懸命のようだ。
「それぞれの職業にはレベルの上限があって、例えば魔導士の職業の限界レベルは20だが、魔導士を限界レベルまであげると大魔導士の職業を獲得できたりもする。」
「難しいですね…」
「種類は多いが、理解すれば単純だ。極端にいうと、いろんな職業を1レベルずつ育てることもできれば、一つの職業をひたすら育ててより高位の職業を獲得していくこともできる。」
「なるほど。」
「ちなみに職業レベルは自分のレベルと同じだけしか獲得できない。自分のレベルが1あがるごとに職業レベルをあげるためのポイントも1獲得できる。つまり、何が言いたいかというとやはり自分自身のレベルをあげることが大事ということだ。」
「わかりました!」
「ああ、大事なことと言えば、職業レベルは一度上げると下げることはできない。なりたい職業のイメージが固まってないうちは考えなしに職業レベルはあげないほうがいいかもれん。ポイントを残しておけばいつでも上げたいときに上げられるはずだ。」
「えっと…すでに片手剣上げちゃいました…。でも20まで上げたら聖騎士(片手剣)って職業を獲得できたんで結果オーライです。」
ロイがそういって残念なのか嬉しいのかわからない顔をしていた。
「あの…聖女のなり方ってわかりますか?」
ニーナは聖女になりたいらしい。
「悪いが俺も知らない。おそらくなにかの上位職か、特定の条件があるだろうとしか。」
「そうですか…あたしはもうちょっと職業レベルについては考えてみることにします。」
「うーん、僕もとりあえず保留かな…。しっかり考えなきゃ。」
職業はあげてしまえば戻せないときいて、三人とも悩んでいるようだ。
実はかつてプレイヤーたちは“転職”と言ってポイントを振りなおしたりしていたのだが、そのためには神々から“ギフト”として贈られる特別なアイテムが必要だったり、神々の世界のアイテム“課金チケット”を使う必要があったため、現在では不可能に近いだろう。
「焦る必要はないさ。さて、そろそろスケルトン討伐を再開しようか。」




