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失恋

「あーあ、暗い顔して。また失恋でもしたの?」

「何だよ、藪から棒に。そんなに落ち込んで見えたかな」

「顔に縦線が入ってるわよ。あんたのそういうとこ、ほんとにわっかりやすいよね。それで、何があったの?」

「うん、まあ、なんていうか。君の言う通りだよ」

「え?」

「さっき言ってたじゃないか」

「フラれたの?」

「うん」

「あちゃー……。本当にそうだとは思わなかったんだ。ごめんね」

「……案外やさしいところもあるんだね」

「まあ失恋は誰にでも辛いからね」

「そうだね。本当に辛い。こんなにしんどかったっけ?」

「あんたとは一年前もこんなような会話した気がするけどね……」

「あれ? そうだった?」

「ほら、その程度よ。どうせ今回もすぐ忘れるわ」

「俺、もしかして節操ない?」

(はた)から見てるとね。好きな人コロコロ変わって」

「うわー、嫌なやつだな俺」

「ほんと。恋愛に関してはなかなかのクソヤローだよ。誰も気づいてないけど。まあ、でも、一回一回本気で恋してるってのもわかってんだけどね」

「余計に節操なくね?」

「まーね。私の方がよっぽど一途だと思う」

「へえ。そういや俺ばっかりでそっちの恋愛話聞いたことないよね」

「うん。でも話すようなことはないんだよね」

「失恋話とかはないの? 俺を慰めるためにも」

「何であんたを慰めるために自腹切らないといけないの」

「えー、いいじゃんちょっとくらい」

「はあ……。失恋っていうか私の場合そもそも土俵に立ててないとかいうか」

「それはそれで辛いな。友達としてしか見られてないってこと?」

「そんな感じ。だからある意味ずっと失恋してる。でも失恋ってなんだろうね? 想いを秘めたままなら失恋はしないのかな」

「うーん、そうだね……。やっぱり告白してはじめて失恋はある気がする……実感として。ちゃんと言うべきこと言って、それでダメだったら本当に救いようがないというか。もしかしたら、みたいなのも全部なくなって現実を受け止めるしかないというか」

「あんたが言うと説得力あるね」

「ありがと。うれしくないけど」

「告白ってさ、真実を打ち明けることじゃん。罪の告白でも、恋心の告白でも、他にもいろいろあるけど。全部真実を告白してるじゃん」

「まあそうだね」

「その真実ってやつはさ、多分、それがおおやけになってしまったが最後、それを知る前のようにはもう生きれないようなことを言うと思うんだよね。今まで隠されてきたけど、その覆いを剥いでしまったら、見て見ぬ振りはできないようなこと。

 恋愛も一緒でさ、怖いんだよ。みすみす真実を告白して、今までのことが全部変わってしまうのが」

「うーん、なるほどねえ……」

「まあ、あんたにはこのいじらしい乙女心がわからないか」

「そうだねえ、正直あんまり実感としてはわからないかも。言ってることは理解できるし、そうなんだろうとも思うんだけど」

「そうよね……期待した私がアホだったわ」

「でも、真実ってさ、いつか暴かれなきゃいけない気がするよね」

「?」

「ていうか、真実の方が、知られることを望んでいるというか。

 つまり、(いびつ)だってことでしょ? 真実が隠されたまま動いてる世界は」

「まあ、そういうことかもね」

「だから然るべきときに、その真実が明らかになるべきそのときに、しっかりと伝えればいいんじゃないかな。どんな結果になろうとも」

「……それってどんなときかな?」

「そんなこと俺にはわからん」

「はあ、肝心なところで役に立たないぜ」

「でも、お前がもし失恋したとしても、俺が慰めてあげるから心配するな」

「それをあんたが言うか……」

「え?」

「なんでもない。じゃあ私そろそろバイトだから行くわ」

「おう、がんばれよ」

「はいよ。じゃあまた」

「じゃあな」

 あーあ、今日も伝え損なったな。でも、いいや。今まで隠してきたこの気持ちの初お披露目は、ちゃんとした舞台を用意しなくちゃ。

 それがどんなときかはわからないけど。もう少し待ってみよう。良きにつけ悪しきにつけ、その一言で世界は変わってしまうのだから。

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