表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
経験値貯蓄でのんびり傷心旅行 ~勇者と恋人に追放された戦士の無自覚ざまぁ~  作者: 徳川レモン
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/241

17話 戦士達の遺跡探索3


 白い眷獣の卵に魔力を流し込む。

 水を吸い込む布のように急速に浸透していく感覚があった。


 よーし、早く目覚めろ。


 ――六十秒経過。


 ――五分経過。


 ――十五分経過。


「長い! どれだけ吸い取るつもりだよ!」

「永い時を休眠していましたし、元々大量の魔力を保有していた生き物なのだと思いますよ」

「フルにするには時間がかかるってことか」


 マリアンヌ達をみれば、二人はせっせとマジックストレージに遺物を収納していた。


 なんだかお嬢様を顎で使っている様な気がして申し訳ない。

 もちろんウララに対しても同じ感情だ。


 俺の視線に気が付いたマリアンヌは、汚れた手で汗を拭いにっこり笑顔となる。


「気にされないでくださいませ。こう見えてわたくし、このような作業は大好きですの。むしろ様々な遺物にもっと触れたいくらいですわ」

「ふふ、お嬢様は骨董品がお好きでしたね」

「きっとお父様に似たのね。これらを持ち帰ったら卒倒しまわすわよ」


 心配なさそうだ。

 二人とも楽しそうだしな。


 しかし、いつまでかかるんだこの魔力注入。


 よーし、出力を上げて一気にフルにしてみるか。


 俺は膨大な魔力を卵へ放つ。

 あまりの濃さに卵の表面は陽炎のように歪む。


「すごい魔力……まるで水の中にいるみたい……」


 カエデが冷や汗を流して呟く。


 次第に卵の吸収量は落ち始め、ようやくストップする。


 流し込んだ魔力量は総量のおよそ三割。

 

 一つ目の卵でこれだ、二つ目はどれだけ吸われることやら。


「目覚めたみたいですね」

「あとは血を垂らすだけか」


 ナイフを取り出し指先に押し込む。


「あれ?」


 切っ先が刺さらない。

 いくら押し込んでも皮膚が傷つかないのだ。


 結構、質の良いナイフだったと思ったんだが。


 仕方がないので剣を抜いて指先を切った。


 さすがは聖剣、切れ味抜群だ。


 ぽと、ぽと。


 卵に血が滴り、次の瞬間には吸い込まれて消えていた。


 ぶしゅぅうううう。


 卵から蒸気のようなものが放出。

 果物の皮を剥くように弾力のある殻が、頭頂部から六枚に分かれて開いた。


 中にあったのは粘液に覆われた何か。


 ソレはぶるりと体を震わせ、ぱちりと目を開く。


 白く丸い物体。表面は短い毛に覆われ、ガラス玉のような青い一つ目が周囲を観察する。

 敏感に動いていたその目はすぐに俺に固定された。


「え? 浮いた?」


 生まれた眷獣はふわりと浮き上がる。

 それからしきりに俺の周りを浮遊して観察を続けた。


「可愛いですね! これが眷獣ですか!」

「よくわからん生き物だな」


 見た目は生きたクッションのようだ。


「こっちにおいで、洗ってあげるから」

「きゅい?」

「鳴いた!?」


 カエデは気にした様子もなく、白い玉を水筒の水でジャバジャバ洗ってやる。

 それからタオルを取り出し表面を拭えば、ますますクッションにしか見えなくなった。


「見てください、この子座れますよ!」


 白い玉はカエデの重量を難なく支え浮いている。


 ぐにょん。


 すると形を僅かに変えて楕円形に変った。


「もしかすると人や物を乗せることに特化した眷獣なのかもな」

「ご主人様、この子に名前を付けましょうよ」

「それもそうだな。じゃあパン太というのはどうだ」

「素敵な名前ですね! 賛成です!」


 見た目が白いパンに似ているのでそう名付けた。


 パン太は気に入ったのか「きゅい!」と鳴く。


「トール様、こちらは終わりましたわ。あら、なんだか可愛い生き物がいますわね」

「眷獣のパン太です。ほら、マリアンヌさんとウララさんにご挨拶しなさい」

「きゅい」


 三人はパン太に夢中だ。

 あれだけ可愛ければちやほやされるのも仕方がない。


 俺はもう一つの卵を布に包んで持ち帰ることにした。


 そろそろ帰還の時間だ。



 ◇



 屋敷に戻った俺達は遺跡でのことを伯爵に報告した。


「たった一日でこれだけの遺物を見つけたというのか! いやはや貴殿には何度も驚かされる!」


 一室に置かれた古代の品々。


 武具や薬品らしき物もあれば、普通の服や壺などどこにでもありそうな物もある。

 中には宝石や貴金属などの一目でお宝だと分かる品もあった。


 けど、一番のお宝は眷獣だったように思う。


 伯爵によれば、現在確認されている眷獣の卵で孵化しているものは少数らしい。

 未だ目覚めず保管され続けている物がほとんどだとか。


 今回発見できたのは僥倖だった。


「ご主人様、これが全ての品のリストです」

「ありがとう」


 鑑定が終わったカエデから書類を受け取る。


 この中から残す物だけを選び、あとは伯爵に売り払うつもりだ。


 のんびり旅をするにはまずは豊富な資金が必要だからな。

 それにもしもの為に貯蓄もしておきたい。

 金さえあれば大体のことは穏便に済むものだ。


 ふむ、いくつか回復薬があるみたいだな。


 ハイポーション、ハイポーション、エリクサー、最上級解毒薬、身体強化薬、エリクサー、最上級解呪薬、ハイポーション、精力増強薬、ハイポーション、魔力増強薬……などが主のようだ。


「エリクサー!?」


 目玉が飛び出るほど驚いた。


 あの超稀少な万能回復薬が二本もあるなんて。


 まてまて、最上級解毒薬や最上級解呪薬もかなり貴重だぞ。

 そもそもハイポーションだって高額で取引されている。


 伯爵は肩をすくめて手を広げて見せる。


「さすがにエリクサーはこちらでは買えないな。王都にでも行けば買い取る者もいるだろうが」

「豪商や貴族なら?」

「ああ、彼らなら大金をぽんっと出すだろう。お勧めはオークションだな」


 どこかで聞いたことがある。

 王都には貴族や豪商だけが入れるオークション会場があるらしいと。


 そこでは物、生き物、情報、全てが金で取引される。


 恐らくエリクサーならかなりの値がつくはず。


 なかなか興味がひかれるな。

 王都に行った際はぜひ探してみるとしよう。


 俺は薬品を主に残し、あとは伯爵に売り渡すことにした。


 で、手に入れたのがこれらだ。


・エリクサー×2

・ハイポーション×10

・最上級解毒薬×6

・最上級解呪薬×5

・高品質シャンプー&リンス×30

・高品質大型リュック×2

・フード付き外套(斬刺熱寒耐性あり)×2


 そして、手に入れた金額が五億。


 生まれて初めて金貨よりも上の白金貨ってのを見たよ。

 しかもそれが小さな山を作っててさ。

 人は力もあって金もあると妙な自信ができるようだ。


 ちなみに例の卵は売っていない。


 やっぱなにが生まれるのか見てみたいし。

 能力によっては重宝できるかもしれないからな。


「きゅう!」

「待つのですわパン太さん!」

「お嬢様、そのようなお姿で外に出ては!」


 部屋の外の廊下をパン太が通り過ぎる。

 と思えば、すぐに引き返してきて俺の方へと飛んでくる。


 遅れて素っ裸のマリアンヌが飛び込んでくる。


「ここにいましたのね。さぁ、しっかり洗ってあげますわよ」

「きゅぅう」

「きちんと石鹸で綺麗にすれば、もっとふわふわになれますのよ。さぁこちらに来るのですわ」


 俺の背後に隠れるパン太。


 ただ、俺は目のやりどころに困りつつ動けない。

 父親である伯爵も溜め息を大きく吐いた。


「マリアンヌ、あのな……その……」

「どうされましたの?」

「ご主人様! 見てはいけません!」


 カエデが突然後ろから両目を手で覆う。


 なぁカエデ、それはちょっと遅いんじゃないだろうか。

 ばっちり上から下まで見てしまったんだが。


「お嬢様! タオル、すぐにタオルを!」

「へ? きゃぁぁぁあああ!!」


 入室したウララがバスタオルでお嬢様の体を隠す。

 ようやく失態に気が付いたお嬢様は叫びながら部屋を出て行った。


 髪がしっとりしていたので湯浴みでもしていたのだろう。


 え? なぜ部屋を出て行ったのが分かるかって?

 カエデの指の隙間から覗いているからに決まっているだろう。


 思わぬタイミングでいいものが見られたな。


 今夜はよく眠れそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 卵の割れ方がエイリアンめいている…w
[気になる点] パン太っていうネーミングセンスになぜ誰も突っ込まないんだ? 危険な可能性がある生物になぜ平然と護衛は触らせているのか
[一言] いや、そんなもの見たら寝れないだろっ!?w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ