壱話
私には母がいた。いや、母しかいなかった。父は働いている時に事故で死んでしまった。所謂、母子家庭と言うやつだ。私には母しかいなかったのに、母も死んでしまった。私が高校生になって、過労死だった。
そして、すぐに私は高校生活すらまともに過ごせなくなった。お金がなかったのだ。しばらくして、高校を辞めようとした日にとある人が私に声をかけてくれた。
「どうしたんだい?」
私はこの人が信用出来なくて、黙っているとそれを察したのかただ笑ってこう言った。
「良かったら私の下で働く気はないかい?もし働くならば明日この時間にこの場所に来てくれ」
あの人はそう言って去っていった。次の日私はずっと考えていた。騙されるのではないか、良いように利用されるのではないかと。そして、私は何故か吹っ切れた。もういいや、もしそうだったらそれまでだ、と。
私は約束の場所に行くとあの人がいた。
「働く気になったのかい?」
「はい!働かせてください!」
「じゃあ、ついて来なさい」
あの人は私を車に乗せてどこかに向かっていた。着いた場所はカジノと呼ばれる場所だった。
裏から入ると私は「はい」と紙袋を渡された。中を見るとメイド服が入ってた。
「さて、君にはこれを着てディーラーをやってもらおうと思う。辞めたければ辞めていい。辞めるなら私が他に仕事を見繕ってあげよう。」
と言われたが。私はここで断るのは気が引けたのでここで働くことにした。
あの人からはいろんなルールや技術を教えて貰った。
そして、しばらくすると私は無敗になった。
そして、最強のディーラーになった。金も沢山ある。
だけど、なんだろう。欲しかった金が沢山あるのに。頬に何かが伝う。拭うと涙だった。不思議と涙が溢れてくる。
そうだ、金があっても、もう、私には家族がいない。
泣いているとあの人が私を抱きしめてくれた。そして、頭を撫でてくれた。
「家族がいないのが寂しいかい?」
私は頷く。
「良かったら、私の娘にならないかい?」
私は顔を上げあの人の顔を見る。
「私に妻がいて、息子もいる。1人、娘が増えただけじゃ変わらないよ。もしかしたら賑やかになるかもしれないね」
私は泣きながら感謝をした。そして、途中で泣き疲れて寝てしまったようだ。
「さぁ、起きて」
起こされるとそこは車の中でどこかの家に止まっているみたいだ
「着いたよ。ここが新しい家だよ。みんなにはもう伝えてあるから」
私は車から出て、恐る恐る家のドアを開けると声がした。
「おかえり」
それはもう、聞けるとは思っていなかった。言葉だった。私はまた涙が溢れてきた。
「ただいま」