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東雲曙⑥

よし、ひと段落したから今日のテスト勉強する。

《side:東雲曙》




 こいつら、どうしよう。


 こいつらと言うのは、俺の方を、いろんな感情がごちゃ混ぜになった瞳で見つめるクラスメイト共のことだ。


 視線に込められた感情は、疑念が半分、恐怖が半分の半分。残りは助かったことへの安堵とかその辺だ。


 そして……わずかだが、縋るような色が見て取れる。言葉には出さないが、何かを期待するような、そんな感情が見え隠れしていた。


 まぁ、その『何か』が分からないほど俺も鈍感じゃない。こいつらは、未だに不明なことばかりのこのゲームを、何とかしてほしいと願っているのだ。


 俺がこいつらを助けるような行動をとったのが原因か……いやほんと、血の雨が降るのが見たくなかっただけなんだがな。


 その視線を受けた俺は、ため息を吐き、天を仰いだ。どうしたもんかなぁ……。


 ……………あー、うん。とりあえず、放置で。グズールを倒したことでレベルアップしたし、ステータスを確認しながら考えるとしよう。


 ステータスを見るときに杖は邪魔になるので、ヴァイスシュテルンに「お疲れ様」と声を掛け、待機状態にする。それと一緒に戦闘衣も解除され、元の制服姿に戻った。


 ヴァイスシュテルンの待機状態は、銀色をしたペンにしか見えない。そのうえ、胸ポケットに差し込んでおけるので取り出すときもすぐという優れものだ。


 さてそれでは……ステータスオープン。




============================


【名前】:東雲曙 

【性別】:男

【年齢】:16

【状態】:正常

【Lv】7

【JOB】:『魔導戦技師』

【HP】900/900

【MP】4300/4300

【筋力】90

【耐久】90

【敏捷】100

【知力】430

【精神】430 

【器用】190

【スキル】:《魔導戦技Lv3》《魔導砲Lv1》《超人体質(カリスマ)》《万象把握》《魔法強化Lv1》《魔力消費軽減Lv1》

【称号】:《始まりのプレイヤー》《一方的な戦い(ワンサイドゲーム)》《巨敵殺し(ジャイアントキリング)》《要人(メインキャスト)

【装備】:魔導杖『純白の光星(ヴァイスシュテルン)』、戦闘衣『夜闇を纏うもの(ナハトリステム)

【ポイント】:500

【ポイント利用】

【特殊】:『ネームドモンスター討伐報酬』


============================




 ほうほう……………え、なんかステータスすごい伸びてるんだが? 


 知力と精神の伸びがいいのは、職業的に考えて妥当。むしろ、その二つ以外はどうでもいいような職業だからな、『魔導戦技師』。


 そのため、筋力と耐久はほぼ捨てステとなっていたはずだ。レベルアップでの上昇値もゴミのようで……こんなレベルが六つ上がった程度で元の値の三倍になるとかあり合えない。


 どうして……と、考えたところで、あることを思い出す。そう、称号欄の《始まりのプレイヤー》の存在だ。


 ステータスにレベル×10のボーナスを与えるこの称号の仕業というわけか。なるほどな。ということは、今は全ステータスに70加算されているということに……すさまじいな、《始まりのプレイヤー》。


 そして、なんか増えている称号が三つ。これも確認しておこう。



============================


一方的な戦い(ワンサイドゲーム)

 戦闘開始から、HPにダメージを受けるまでの間、ステータスに上昇補正。


巨敵殺し(ジャイアントキリング)

 自分よりレベルの高い相手に与えるダメージが増える。


要人(メインキャスト)

 適正保持者。


============================




 まぁ、《一方的な戦い(ワンサイドゲーム)》と《巨敵殺し(ジャイアントキリング)》はそのまんまって感じの効果だな。今後も有効活用させてもらおう。


 ……問題はこいつだ、《要人(メインキャスト)》。


 なんだこの説明は。『適正保持者』? 一体俺が何の適正を持っているっていうんだ。


 現状が『終わりなき終焉(エンドレス・エンド)』というゲームであることを考えると、この『メインキャスト』っていうのがどうにも引っかかるが……駄目だな、情報が無さすぎる。


 ……頭の片隅にはとどめておくが、あまり考えないようにしておこう。情報が無い状態で考えすぎると、変な思い込みが生まれてあまりよろしくないからな。


 後は【特殊】にある報酬だが……何々、『大鬼のモーニングスター』? ふむ、筋力と耐久にボーナスの付く特殊武器か……正直、いらんな。俺には相棒(ヴァイスシュテルン)がいればそれで十分だ。


 よし、確認終わり。俺は、開いていたステータスを閉じた。



「……さて」



 視線をクラスメイト共に戻す。


 ……結局、ステータスチェックの間にはなんにも決まらんかった。本当に、どうしたものか。


 なんかもう、このまま「じゃあの」でもいい気がするんだが。とりあえず窮地はしのいでやったんだし、もともと大して親しいわけでもない連中だ。これ以上、何かしてやる義理は無いわけで……。



「あ、あの! 東雲くん!」



 と、俺がこいつらを見捨てる算段を立てていると、いきなりクラスメイト共の中から一人の女子生徒が立ち上がり、俺の方に駆け寄って来た。


 ……のは良いんだが、足取りがすごくおぼつかない。


 さっきまで腰を抜かしていたんだから仕方がないんだが、見てて危なっかしいというか、転びそうというか……。



「きゃっ!」



 そんなことを思っていたら、案の定。


 ものの見事に足をもつれさせ、思いっきり前に倒れそうになる女子生徒。


 あのままだと、顔面から床に……って、床には壁の破片やら瓦礫やらが散乱してるじゃないか!


 女子生徒の顔面が悲惨なことになってしまわぬよう、俺はダッと駆け寄り、倒れ伏す女子生徒と床との間に体を滑り込ませた。


 ドシン、と女子生徒の身体が俺の上に落ちてくる。


 

「ひゃぁ!?」


「……っと。大丈夫か?」



 ふぅ……。間に合ったか。危ないところだった。目の前で女子に血塗れになられるとか嫌すぎるからな。


 俺の腕の中にすっぽり収まり、目を回している女子生徒に視線を落とす。どこにも怪我はなさそうだな……ん? コイツ、最初にグズールに殺されそうになっていたヤツか?


 助けた時は気にも留めなかったが、俺は一体誰を助けたんだろうな……………げ。


 その人物の顔を確認し、それが誰なのかを分かった時点で俺は天を仰いだ。

 

 よりにもよって、コイツかよ。めんどくせぇ……。


 思わず顔をしかめてしまいそうになるのをぐっとこらえ、もう一度女子生徒へと視線を戻す。


 彼女の名は、壱埼ひとみ。


 基本的にクラスメイト連中と関わらない俺が名前を憶えている時点で察してもらえるだろうが、コイツも日向と負けず劣らずのクラスの中心人物だ。


 こげ茶色の髪はふわりと毛先にウェーブが掛かっており、ぱっちりとした瞳を長い睫毛が縁取っている。柔らかそうな頬や桜色の花弁を思わせる唇、スッと通った鼻梁など、パーツ一つ一つが恐ろしく整っており、なおかつ絶妙なバランスで配置されている。


 俺の上に乗っかっている体は、どこもかしこも華奢で、受け止めた時に彼女の背中へ回した腕に少しでも力を籠めれば、それだけで容易く手折ることが出来てしまいそうだった。


 それでいて、柔らかいところは信じられないほどに柔らかいのだから、異性の体と言うのは本当に不思議なものだ。……どこが、とかは言わんぞ? 鳩尾あたりに押し付けられてる二つの感触とか、別に意識していないからな?


 容姿、スタイルと共に整い過ぎているくらいに整っている美少女な彼女は、外見が良いだけでなく、その内面も優れている。


 成績優秀、態度良好、天真爛漫、才色兼備……まぁ、人に彼女の評価を聞けば、そんな言葉が返ってくるんじゃないだろうか?


 人当たりがよければ面倒見もいい彼女は、結構真面目に『天使』とか『女神』とか『聖女』とか呼ばれていて、非公式のファンクラブ(学園男子の半分が入っているとか)があるらしい。


 で、なんで壱埼を受け止めたことがめんどくさいかと言うと……クラスどころか、学園のアイドルである彼女と、こんな……壱埼が俺を押し倒しているようにも、縋りついてきているようにも見える体勢をとっているとだな…………。



「「「「「東雲ェ……ッ! 貴様ァ……ッ!!」」」」」



 こうなるわけである。


 血涙を流しそうな男子連中から、グズールをも凌ぐのではないかと思われるほど濃密な殺気が放たれる。その矛先は、言うまでもなく俺だ。


 ですよねー。今の俺の状況、分かりやすい裏山シチュだもんな。分かるよその気持ち。


 壱埼は……まだ混乱中か。このまま強引に押しのけるわけにもいかないし、とりあえず声をかけてみよう。



「おい、壱埼」



 「きゅ~」といった感じで目を回しっぱなしだった壱埼を正気に戻そうと、名前を呼んでみる。


 一度の声かけで気が付いたくれたようで、ぐるぐるしていた壱埼の瞳に正気の色が戻った。



「ふぇ……東雲、くん?」


「ああ、東雲だ。気が付いたか?」


「あれ、私、なんで……」


「こけた衝撃で、一時的に混乱したんだろ。それより、そろそろ自分がどんな状況にあるか確認してくれ」


「私の、状況…………ッ!!!???」



 ボンッ! という音が聞こえてきそうな勢いで、壱埼は赤面した。ようやく自分が男の腕の中にいることを自覚してくれたようだ。



「え? え? こ、これっ……!? なっ……ええええええええええええええええ!?」


「あー、うん。驚くのも分かるが、耳元で叫ぶな」


「あっ、ごめんね? ……じゃなくて! こ、ここここの状況は一体何なのぉ!?」


「腰が抜けていたくせにいきなり歩こうとした壱埼。案の定転ぶ壱埼。顔面から床ダイブしそうだった壱埼。そこになんとか間に合った俺。……オーケイ?」


「…………はうぅ……。ごめいわくをおかけしました……」



 わたわたと慌てる壱埼に、こうなるまでの短い一幕を簡潔に説明した。すると今度は、顔どころか耳や首まで真っ赤にして縮こまった。コロコロと表情が変わる、面白いヤツだ。


 だが、人の体の上でごそごそするのはやめてもらいたい。重くはないが、いろいろと感触が分かってしまって困る。



「壱埼、恥ずかしがるのは構わんが、先に俺の上から降りてくれるか? 地味に体を支えてる腕がきつくなってきた」


「え、あ、うん。ごめんね? 重かったよね……」


「いや、重くはなかったな。腕が痛いのは体勢の問題だ。壱埼が謝る必要はない。……というか、真面目に軽いな。まるで重さを感じないぞ?」


「そ、そうかな? えへへ……」


「ああ、そうか。ステータスのおかげで俺の筋力が上がってるのか。道理で……」


「…………むぅ」



 俺が人一人分の体重を支えてもケロリとしていた理由にたどり着いていると、何やら壱埼がじとぉ……とした目でこちらを睨んでいた。



「ど、どうかしたか?」


「……別に! なんでも! ない!」



 あからさまになんでもなくない返事をし、やっと俺の上からどいてくれた。……本当に、コロコロと表情の変わるヤツだな……。


 まぁ、何にせよ、やっと立ち上がることが出来た。服についた埃をはたいて落とし、なんとなく不機嫌そうな壱埼を見る。



「それで、壱埼は俺に何か言いたいことがあったのか? このまま全員見捨ててさっさと行ってしまおうかと思ったが、興がそがれたし、話があるなら聞くぞ?」



 俺がそう聞くと、壱埼は「そうだった!」とでも言うように目を見開いた。そして、何かを言おうと口を開きかけ……俺の後半の言葉に、「うん?」と首を傾げた。



「えっと……東雲くん? なんか、見捨てるとか聞こえた気がするんだけど?」


「ああ、言ったな。何も問題ないだろう? 一回は助けたんだ。これ以上面倒を見る気はさらさらない。後は各自頑張ってくれ」


「えー……、東雲くん。それはちょっと冷たいと思います」


「そんなことはない。これが友人とか恋人とか、家族とかならもっと積極的に助ける。だが、クラスメイト程度の関係の相手に、これ以上何かしてやろうとは思わないだけだ」



 俺がそう切って捨てるように言うと、壱埼は悲しそうな表情を浮かべた。


 そんな顔をさせてしまったことに罪悪感を覚えないでもないが、こればかりは譲れない。


 単純な優先順位の問題だ。この状況に置いて、何が大切で何がいらないのか。その取捨選択は重要になってくる。そこを間違えてしまえば、後悔しか残らないような結果が生まれてしまう。


 今、俺が一番やらなくてならないのは、自分が死なないこと。そのために力を付けること。その次は、あの人と合流することか。


 クラスメイトの面倒を見ることなど、そもそも眼中にないのだ。


 ……自分でもどうかと思うくらい自己本位的だが、俺という人間はそういうヤツなのだ。



「まぁ、だから助けてくれとか、この状況をどうにかしてくれとか、そう言う話なら俺は無視してこの場を去る。分かったか?」



 俺がはっきりと言うと、壱埼の向こうで未だに何もできずにいるクラスメイト共がざわめき始めた。


 「そんな!」だとか「助けて置いて無責任な……」とか聞こえてくるのを、全て耳からシャットアウト。聞く耳なんざ欠片もありませんよっと。


 それを踏まえて、壱埼は何を言うのだろうか。少しだけそれを楽しみに感じながら、彼女の言葉を待つ。


 俺の前に立つ壱埼は、何か思案するように俯かせていた顔を、ふっ、と上げた。そして、強い輝きを宿した瞳を、まっすぐ俺に向けてくる。


 そして、その小さな唇が開かれ……。



「皆を見捨てるだと! ふざけるな! そんなことが許されるはずないだろ!」



 ――――割り込んできた馬鹿が、全てを台無しにした。

 

あれ……? (仮)ちゃんがめっちゃヒロインしてる……?


オカシイ……メインヒロインまだ出てきてないのに……。

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