東雲曙①
五話まで連続で出すからなー
《side:東雲曙》
「ステータスオープンッ!」
俺―――東雲曙は、何の迷いも躊躇いもなく、そう力強く叫んだ。今いる場所が俺の通う高校の教室で、普通に授業中とか、そんなことは関係ない。
同じ教室内にて呆然としている赤の他人や役に立たない大人がぎょっとした顔で俺の方を見ているが、死ぬほどどうでもいい。
何故かって? 理由は簡単。すぐに授業なんてしている場合じゃなくなるからだ。
十秒くらい前までどこからともなく聞こえてきた謎の声……便宜上、『神の声』と内心で呼んでいるその声によると、日本全域に魔物が出現するらしい。『終わりなき終焉』……だったか? そんな名前のゲームが始まるらしいのだ。
馬鹿らしい、そんなことがあるわけがない、きっと何かの悪戯だろう、たちの悪い冗談だ。
そう断言して、何も聞かなかったフリをするのは簡単だ。
けれど、実際現実として、『聞こえるはずのない声』が聞こえているのだ。それは紛れもない事実であり、否定しようにもできないモノ。
ならば、難しいことを考える前に、己にできることはしておくべきだろう。声の指示に従って、叫びを上げるくらい、損な行動ではない。もし何もなかったとしても、少しの間俺が変な目で見られるだけ。そんなものは日常茶飯事なので気にする必要はない。
そんな思考を十秒ほどでまとめ終わった瞬間、機械音声のようなモノが頭の中に響き渡り、『ゲーム』の開始が告げられた。
その音声が流れ終わるのとほぼ同時……というか、ちょっとフライング気味に「ステータスオープンッ!」と叫んだ訳である。
そして、どうやら俺の行動は正しかったようだ。目の前に現れた『ソレ』を見ながら、俺は自分の選択が間違っていなかったことに、まずは安堵のため息を吐いた。
……この状況は、十中八九『アレ』だろう。
となると、この後の展開がある程度予想できる。あくまである程度なので、現状把握と情報収集をしっかりと行う必要があるが……。
まずは、俺の叫びに呼応するように現れた、この半透明の板――まるでAR技術で投影された仮想ディスプレイのようなそれ――を確認しよう。
長い付き合いのシルバーフレームの眼鏡を直し、俺の眼前に浮かぶ仮想ディスプレイ―――『ステータス』を真剣に見つめる。
ステータス。直訳するなら社会的地位のことだが、今は違う。この場合は『キャラクターの能力値や装備などの情報を表示するゲームの機能』という意味だ。
今、俺の目の前にはそのステータスが表示されている。そこに書かれているのは、俺の……『東雲曙という一プレイヤーの情報』だった。
============================
【名前】:東雲曙
【性別】:男
【年齢】:16
【状態】:正常
【Lv】1
【JOB】:第一職業を選択してください
【HP】150/150
【MP】200/200
【筋力】15
【耐久】15
【敏捷】15
【知力】20
【精神】20
【器用】25
【スキル】:初期スキルを選択してください
【称号】:《始まりのプレイヤー》
【装備】:なし
【ポイント】:100
【ポイント利用】
【特殊】:神からのメッセージ&プレゼントがあります→『題:やぁ、初めまして!』『題:最速行動者特別特典! 神ガチャ十連プレゼント!』
============================
…………ふむ。
これは、なんというか……………すごく………ゲームです。
予想以上にゲームゲームしていたので、変な反応をしてしまった。と、取り合えず詳細に見ていこう……。
まず、名前や性別、年齢などの情報。見る限り間違いなんかもないようなので、問題無しだ。
レベルは安定の『1』。まだまだクソ雑魚であると思われる。
続いて『JOB』の欄だが……ここは自分で選択できるらしい。タップしてみると、色々な職業が表示された。どうやら、ステータス画面の操作方法は、スマホやタブレットと変わらないらしい。
ゲームっぽい『戦士』とか『盗賊』みたいなものから、『学生』みたいなこれでどうやって戦うんだ? みたいなのもある。この中から一つを選んで第一職業とするのだろう。第一、ということは、第二、第三の職業もあるのだろうか?
能力値は……分からんな。これが高いのか低いのか。平均値100とかだったら俺は泣く自信があるぞ。
スキル。これは数ある初期スキルの中から二つ、好きなスキルを選べるらしい。なお、『JOB』を選ぶとそれに対応したスキルが手に入るんだとか。
装備が何もないのは……俺が全裸でいるとかそういうわけじゃなくて、『武器』や『防具』、『アクセサリー』といったゲームのアイテムを装備している時だけ、ここに表示されるのだろう。
称号は……《始まりのプレイヤー》? どんな称号なのだろうか。タップしてみると詳細が出てきた。
何々……? 『最初に「終わりなき終焉」に参加したプレイヤーに与えられる称号。ステータスに「レベル×10」の補正』……か。
これはつまり、このゲームへの参加条件がステータスを開くことで、俺はこの日本で最初にステータスを確認し、ゲームに参加したプレイヤーということか。この称号は、それを讃えてのモノ……こういうの、なんかすごく嬉しい。
アイテムを買ったりすることが出来るらしいポイント。これは百だけ与えられていた。
そして最後に、一番気になった【特殊】の部分に触れてみる。
すると、パッと画面が切り替わり、神からのメッセージとプレゼントとやらだけが表示された。
今度は、『題:やぁ、初めまして!』に触れる。再度、切り替わる画面。
============================
題:やぁ、初めまして!
本文:ハローハロー! ないすとみーとぅー! 神でっす!
============================
…………冒頭の部分ですでに画面を閉じたくなったが、ぐっと我慢。神の声の主……神がこんなちゃらんぽらんな感じだということは、あの一方的で独創的な宣言にて分かり切っていたことだ。
さて、続きを読もう。……読みたくないが、読もう。
============================
とりあえず、最速行動者に選ばれたことにオメデトウと言っておくね!
いやぁ、それにしてもゲーム開始ゼロコンマゼロゼロ一秒でステータスチェックするプレイヤーがいるとは思わなかったよ! 君、未来予知能力でも持ってるのかな? ……って、そんなわけないか。矮小で愚鈍な人間如きがそんな能力を持ってるはずないもんね!
まぁ、そんなことはさておき、最速行動者にて《始まりのプレイヤー》の称号を手に入れた君には、ご褒美があります!
それが、このメッセージと同時に送られてるはずの『最速行動者特別特典! 神ガチャ十連プレゼント!』だよ! どんどんぱふぱふー!!
これは、ポイントを消費することでランダムにアイテムやスキルが手に入る『ガチャ』! その中でも特別オブ特別な神仕様の『神ガチャ』を十連できるウルトラスーパーなプレゼントなんだよ! 『神ガチャ』は、君に分かりやすくいうと、『確定で最高レアがでるガチャ』ってところかな? アイテム、スキル、どちらも最高のモノがそろってるよ!
どう? すごい? すごいでしょ!! ふっふーん、涙を流して歓喜してもいいんだよ? なんなら、五体投地付でやってくれると嬉しいな!!
============================
誰がするか……! けど、ガチャはありがとうございます……!! 確定最高レアとかなんだそれは……!! 天国か!!!
ただいま、俺の中で神への好感度が急上昇中である。確定ガチャくれるとか神サママジ神サマ……! もう信者になってもいいレベルだ。
……喜び過ぎじゃあないかって? ははっ、確定ガチャの魅力が分からぬとは貴様、ソシャゲを嗜んでおらんな?
ソシャゲのガチャってもんはなァ……! 消費者から金をむしり取るための罠なんだよォ……!! 次々と魅力的なキャラ出しやがって今畜生……! 金が…………足りない……ッ!!
何が出るか分からないのがガチャの魅力だとか言うヤツがいるかもしれないが、それだけは無いと断言させてもらおう。ギャンブルを楽しんでいるんじゃないんだ。欲しいモノが欲しいからガチャを回すんだよ。そこんとこを理解しろ。
しかし、ポイントを消費することでガチャができるのか…………使い込んでしまわぬように注意せねば。
とっ、まだ続きがあるようだ。メッセージを下にスクロールっと。
============================
『神ガチャ』を有効活用して、このゲームを頑張ってクリアしてほしいな。せっかく頑張って作ったのに、クリア人数ゼロじゃつまんないからねー。
今のところクリア候補として有力そうなのは、君と、君のゼロコンマゼロゼロゼロ一秒後にステータスを開いた女の子かな?
まぁ、とにかく頑張ってよ! 僕は君を応援してるよ。神はえこひいきだって平気でするからね。お気に入りの子が活躍するのを見たら、そりゃあ投げ銭でも投資でもしたくなるってもんよ。
だから、期待してるよ? 僕のお気に入り一号、東雲曙クン。
なお、このメッセージは読み終えた後、自動的に爆発するよ!
============================
……と、メッセージはそれだけだった。なお、案の定爆発はしなかったが、反射的に回避行動をとってしまい教室にいた連中に変な目で見られた。……何事もなかったかのように席に戻る。
なんで最後に余計なことをするんだ神は。コイツ絶対に『悪戯の神』とか『傍迷惑の神』とかそんな感じだろう。
けどまぁ、『神ガチャ』十連くれたから許す。というか、これだけで大抵のことは許せてしまう。……単純すぎやしないか、俺。
さて、このメッセージで気になったところは……特にないな。しいて言うなら、神のお気に入りになったってところか?
これはつまり、神が俺のことを気に入っているうちは何の実害もないが、気に食わなかったり期待外れの行動を取ると、「いーらない」される可能性がある。この場合の「いーらない」は「(俺の命)いーらない」という意味だ。
これは、行動に注意しないとな。後は……うん、もういいな。俺のゼロコンマゼロゼロゼロ一秒後にステータスを開いた女の子って言うのは、きっとあの人のことだろうから、気にする必要はない。
画面の左上にある戻るボタンに触れ、ステータスを最初の画面に変えた俺は、座っている椅子の背もたれに背を預け、顎に手を当てた。
では……これからのことを考えようか。
読んでくれてありがとなー。めっちゃ嬉しいでー。