朱音夕⑥
久しぶりの投稿だおらん!
《side:朱音夕》
上田某―――もとい、上田京子(やっと思い出した)をゴブリンから助けた私は、彼女から他のクラスメイトについて聞いていた。
と言うのも、私がステータスチェックやシアとターニャとのやり取りをしている最中に、クラスメイトたちは山頂の広場からいなくなってしまったらしいのだ。
突如現れたゴブリンから逃げるために、散り散りになったそうなのだが……少し、迂闊が過ぎるのではなかろうか? 何が起きたのか分からないうちに、逃げ場の限定される山の中に入るのはいかがなものかと。
実際に戦ってみた感じ、ゴブリン程度ならステータス無しでも倒せそうだった。複数人で囲めば余裕だと思う。……まぁ、それをただの学生に求めるのは酷だろう。私のように、武道経験があったりするヤツは少数派だろうし。
さて、これからどうしたものか……。
《マスター、ここは散り散りになったクラスメイトたちを助けに行きましょう! きっと彼らはとても困っているはず、見捨てることはできません!》
《あら、そんな弱っちいのなんて放っておいて、ユウが強くなれる様に魔物狩りをしましょう? さっきの小鬼程度でも、まだまだレベルの低いユウならいい経験値になるわよ》
《……ターニャは、困っている人を見捨てると言うのですか?》
《小鬼一匹を恐れて逃げ出すような連中よ? 足手惑いにしかならないわ》
《足手惑いとか、そういう問題ではありません! 救える命があるのなら、救うべきです!》
《そんないい子ちゃんな意見は聞いてないわ。ユウの安全が先決よ?》
《むっ……た、確かにそうですが……》
シアはクラスメイト達の救出、ターニャはレベル上げを優先か……。個人的には、ターニャの意見を推したいところだ。
クラスメイトと言っても、別に特別仲が良い相手がいたわけでもなし。曙ほど没交渉ではないが、私も他者とあまり関わり合いになりたくないタイプの人間だ。
そのせいか、私のことを『高嶺の花』だとか『孤高の令嬢』とか呼ぶ輩がいるのだが……まぁ、主観的にも客観的にも私は美少女だからな。そう呼びたくなるのも分からなくはない。……なんだ、なんか文句でもあるのか?
それはさておき、今私がやるべきは、己の生存確率を上げるためにレベルを上げること。そして、曙と合流することだ。
クラスメイトたちの救出は、両方の妨げになる。レベル上げは一人の方が効率的だし、曙と合流するときに余計なのがぞろぞろといたら、アイツは嫌がるに違いない。
……それじゃあ、ターニャの言う通りに見捨てるかぁ? 私はそれで一向にかまわんのだが……曙がなぁ。
アイツが大勢を引き連れてくるのを嫌がるのは明白だ。だからといってクラスメイト達を見捨てると、『助けられる人を助けなかった』ということになるだろう?
曙は、それが一番嫌いだからなぁ。憎んでいると言っても過言じゃない。普段人と関わろうとしないのも、それの裏返しのようなものだし……。
うぬぬ……。クラスメイトを助けるのは面倒だ。面倒だが……それで曙にわずかでも嫌悪感を抱かれるのは素直に嫌だな。
物分かりのいいアイツのことだし、私が見捨てるという選択をしたところで、表だって責めたりはしないはずだ。むしろ、その通りだと賛同してくれるだろう。
けど、自覚できない心の深い部分には、私がしたことに対しての悪感情が生まれるだろう。本人にもしっかりとした認識はないだろうが、確実に好感度は下がる。
…………うん、助けようか。クラスメイト。
「上田さん、ちょっといいだろうか?」
「え、あ、うん。何かな?」
私が話しかけると、上田はどこか恥ずかしそうにもじもじしながら答えた。
まぁ、この歳になって人前であんなに大泣きするなんて、そうそうないことだからな。恥ずかしく思っても仕方がないか。気にしないであげよう。
「とりあえず、今から山を下りながらクラスの皆をできるだけ回収していこうと思う。化物の徘徊する山を隅々まで探索している余裕はないから、あくまで下山を優先したい」
「……そう、だね。あんなのがいっぱいいるなら、長くいればいるだけ危険だもんね」
「理解が早くて助かる。それでなんだが……上田さんや、ちと『ステータスオープン』と言ってみてはくれんかね?」
「いいけど……なにその変な口調」
「気にするな、ちょっとした冗談だ」
訝し気な顔をする上田。うん、ちょっと曙と接している時のノリが出てしまったな。
「ふふっ、あんまりお話したことなかったけど、朱音さんって結構面白いんだね」
「そんなことはない。ほら、どうでもいいからさっさとしてくれ」
「ふふふ、はーい。えっと、ステータスオープン? だったっ…………ぅえええええええええええええ!!? な、ナニコレ!?」
「その様子だと、無事にステータスを得れたようだな。それの意味は分かるか?」
「え、えっと、弟がやってるゲームで見たことある……かも?」
「ということは、詳しくは分からないということだな。了解した。まずは項目ごとの意味を……」
と、いう感じで上田にステータスの説明をする。
彼女にステータスを取得させたのは、その方が生存率が上がるから。それと、もう一つやってほしいことがあったからだ。
「……と、いうわけだ。大体分かったか?」
「う、うん」
「それは結構。それでなんだが、上田さんにはついて欲しい職業と、覚えてほしいスキルがある。それがあるとないとだと、この後の安全性が俄然違ってくるからな。自分で選びたい気持ちがあるかもしれないが、ここは我慢してほしい」
「うん、わたしじゃよく分からないことばっかだし、朱音さんの言うことに従うよ」
上田は、そう素直に頷いてくれた。うむ、話が早くて助かるな。
「それで、わたしは何て職業とスキルを選べばいいの?」
「職業は『斥候』もしくは『盗賊』。スキルは『気配察知』と『気配遮断』の二つだ」
まぁ、ここまで言えば、ネットゲームなんかを嗜んでいる者には分かるだろう。彼女には斥候役……というか、敵の接近や逃げたクラスメイトたちを感知する役目をしてもらおうと考えたのだ。
正直な話、ゴブリン相手なら私が負けることはほぼありえない。さっき一匹屠った上での判断だが、たぶん百匹前後ならそこそこの余裕を持って倒せるだろう。千匹とかなると流石にきつい。
しかしそれは、ゴブリンと真正面から戦った場合の話。不意打ちとかされたら一発でガメオベラということも十二分にあり得る。
てなわけで、丁度良い人手である上田に周囲の警戒及び助けられる人の探察をしてもらおう、というわけだ。『気配遮断』はまぁ、私が戦っている時には、気配を殺して隠れていてもらおうという魂胆である。
タダで守って貰えるとでも? ふん、ご生憎様、私はそんなに優しくないんだ。
まぁ、魔物に勝てると言ってもゴブリンオンリーの話。ゴブリン以外の魔物と遭遇していないので、確実なことは言えないがな。ドラゴンとか出てきたら一巻の終わりである。なので、偉そうなことはあまり言えないのだがな。
「えっと、朱音さん。とりあえず、言われた通りにしてみたんだけど……?」
「そうか。それで、スキルの具合はどうだ?」
「えっとね、なんていうんだろう? こう、頭の中に自然と……『ナニカがいる!』っていうのが浮かんでくるんだよね。これがスキルの効果……なのかな?」
「ふむ……その『ナニカがいる』という感覚は、どのくらいの広さがある?」
「うーん、五十メートルくらい? あれ? なんかパッと浮かんだよ?」
「――了解した。では、下山を始めるとしよう。上田さんはスキルで周囲を警戒しつつ、反応が範囲に入ったら教えてくれ。とりあえずまっすぐ下山するが……君のスキルの範囲に入ったクラスメイトは、積極的に助けようか」
「……範囲外の人たちは?」
「その者が君の命より重いなら、そちらを優先するといい」
「あはは……そっか」
そういうと、上田は無理矢理な笑みをうかべて見せた。まぁ、大方仲のいい友人でもいるんだろう。――私には関係ない話だがな。
「では、行くとしようか。目指すは――とりあえず、学園だ」
「う、うん!」
《よぉし! どこまでもついていきますからね、マスター!!》
《というか、わたしたちはどう足掻いてもついていくことになるじゃない。剣だもの》
《こ、こう言うのは雰囲気が大事なんです!》
《はいはい、そうねそうね》
《~~~~~~~! た、ターニャぁ!!》
《ふふふふふ、シアってば面白ーい》
……はぁ、まったく。
シア、ターニャ。気負わないのはいいが、流石に力を抜きすぎだぞ? なんか覚悟完了! みたいな顔になってる上田を見習ってくれ。
読んでくれてありがとうな!!