朱音夕⑤
ド久しぶりの更新だおらん!
作者の内容あんまし覚えてないぞコラァ!
《side:朱音夕》
突如、背後から聞こえてきた悲鳴。……聞き覚えのある声だ。それにしても、『化物』だと? 一体どういうことだ?
とっさに悲鳴が聞こえてきた方へ振り返ると……そこには、にわかに信じ難い光景が広がっていた。
「グギャッ! グギャグギャァアアアアアアッ‼︎」
「いやっ、来ないで、こっち来ないでぇええええええ⁉︎」
クラスメイトの女子、名前は……上田某だったな。別に親しい訳でもないので、下の名前は知らん。
その上田某は、地面にへたり込み、恐怖に引き攣った表情を浮かべている。
そして、彼女の視線の先に、件の『化物』とやらはいた。
緑色の肌、子供ほどの身長、醜い容貌。その手には錆び付いた刃物を持っていた。上田某をいやらしく睨め付け、今にも襲い掛かりそうな雰囲気だ。
……あれは、ゴブリンか? 雑魚モンスターの代表のような、ゴブリン?
一匹いたら三十匹いると思え、といわれるほど繁殖力が強く、他種族の女を攫って犯して孕ませるという女の敵であり、集団になって上位種がいると阿保みたいに厄介になるゴブリン?
……ははっ、これで完全に証明されてしまった訳だ。神のクソ野郎が言っていたことに、嘘偽りは皆無だと。
この世界は、変わってしまったんだ。平和な日常は、跡形もなく壊された。
化物が現れ、人を襲う世界。なるほど、ただのRPGではなく、サバイバルRPGといった理由はそこか。
これからは、魔物の脅威と隣り合わせで生きていかなくてはいけないのだろう。常に血塗れた戦いの側で、武器を手にして過ごさなくてはいけないのだろう。
なんたる理不尽、何たる悲劇。
……ならばこそ、私はどうする?
この理不尽な現実を嘆き、助けてと泣き叫ぶか? そして、誰かの助けがあるまでうずくまっているのか?
そんな風に、頭に浮かんできた選択肢を、私は鼻で笑って蹴っ飛ばした。
嘆きも助けも、私には必要ない。誰かに守ってもらわねば生きていけぬほど、弱く情けない私ではないわ!
さぁ、決意を固めろ。戦いを始める決意を。現実に、世界に抗う決意をせよ。
「シア、ターニャ。さっそく戦闘だ。いけるな?」
《はい、マスター》
《……ええ、ユウ》
私の呼び掛けに、二人が答えてくれる。ターニャの返事が遅れたのは、まだ名前のことを引きずっているからだろう。黙殺。
さて、化物相手の戦いは初めてだが、どうにかするしかないだろう。流石にこの状況下で、上田某を見捨てるという選択肢は取りにくい。
《ではマスター、契約を》
「……契約?」
《そういえば、正式な遣い手として認められるには、契約が必要だったわね。ユウ、とりあえずシアと契約してみなさい》
《おや、どういう風の吹き回しですか? ターニャなら、絶対先に契約を結びたがると思ったのですが》
《わたしとユウがちゃんと契約できるかどうかの実験台になりなさい、シア》
《どうせそんなことだと思ってましたよ! ……まぁ、このちゃらんぽらんは置いといて。マスター、これより思念で『契約の誓言』を伝えます。それを、私に意識を集中させながら読み上げてください》
おお、契約とかあれだな! いかにも特別な剣! っていう感じがする。
そう、私がワクワクしていると、頭の中に突如言葉が浮かび上がった。なるほど、これが『契約の誓言』とやらか。
私は言われた通りシアへ意識を集中し、瞳を閉じて頭に浮かんだ言葉を詠い上げる。
「『―――我、契約を望む者なり』」
一言目を口にした瞬間、私とシアの間に何か『繋がり』のようなものが出来たのを感じた。
目に見えない、紐のような……いや、どちらかといえば、『管』か。
「『汝は聖なるもの。邪悪を払いし光をその身に宿すもの』」
言葉を続けるにつれ、その『繋がり』を通して何かが私の中に入ってくる。それは、暖かく優しいもの。
陽だまりの中でまどろんでいる時に感じるような穏やかさに満ちており、同時に何事にも揺るがぬような力強さを兼ね備えていた。
「『我は汝に誓う。その力を持て、正義を成し、平和を守ることを。邪悪混沌を打ち倒し、秩序を布くことを』」
言葉が最後に近づくと、『繋がり』から流れ込んでくる何かも多くなり、やがて、私の全身を満たしていく。
『何か』が流れ込んでくるたびに、私は私の力―――身体能力、五感、体内で渦巻く未知の力―――が、強化されていくのを、はっきりと自覚していた。
……さぁ、次が最後の一言だ。
「『我が名は夕。汝との契約を求む者。救世の聖剣よ、今こそその威光を世界に知らしめよ!』」
《ええ、我がマスター! ここに契約は結ばれました。これより、名実と共に、私はマスターの剣です!》
シアの嬉しそうな声と共に、私の中に流れ込んできた力の奔流が、シアを握る手の甲に集まっていく。
「く、うぅ……!」
熱を帯びるほどに大きな力がそこに集まっているのが分かる。だが、ここでシアを手放すわけにはいかない。
焼けつくような熱に耐えて、耐えて、耐えて―――そして、ふっと熱が収まった。
慌ててシアを握る手の甲を眼前に翳す。そこには……。
「なっ……こ、これは……!」
《はい、契約完了ですマスター! 手の甲にそれを示す紋章が……》
「令○!? 令○じゃないか!? よもや、私にマスター資格があろうとは……」
《は、はい? れ、令○?》
私の手の甲には、真紅で描かれた紋章……剣と盾が交差した様子をかっこよくデフォルメした感じの紋章が浮かび上がっていた。
これは間違いなく令○ですね。分かります。これを使って槍使いを自害させるという人でなし行為をするのか……。
《マスター!? 違いますからね!? それは契約が結ばれた証、聖剣メサイアの正式な担い手になったことを示す……いわば、私とマスターの結婚指輪みたいなものです!》
《何適当なことを言ってるのよ。その紋章があると、シアの能力を十全に使える様になるってだけじゃない》
《き、気分的には結婚指輪のようなものなのです! 別にいいじゃないですか!!》
《はいはい、そうね。――――じゃあ、ユウ。今度はわたしとつながりましょう?》
「言い回しが気になるが……分かった。では、こいターニャ」
《ふふっ♪ はーい》
先ほどと同じように、頭の中に言葉が浮かんでくる。
今さっきシアと契約した時と同じように、今度はターニャへと意識を集中させ、頭に思い浮かんだ言葉を、高らかに詠い上げる。
「『我、契約を望む者なり。汝は死そのもの。万物に訪れる絶対の終わりを司る冥府の女王。我は汝に誓う。その力を持て、世界に破滅をもたらさんことを。無慈悲なる終焉の運命をまき散らすことを』」
……なんというか、さっきシアに誓ったことと真逆のことを誓ってるんだが、これはありなのだろうか? まぁ、この契約がケルトのゲッシュ並の効力を持っていないことを祈るしかないな。
「『我が名は夕。汝との契約を求む者。死滅の魔剣よ、悍ましき恐怖を世界に齎せ』!」
《ええ、了解したわ。これで、ユウはわたしの契約者となりました。末永くよろしくね?》
ターニャの弾んだ声が脳裏に響き、彼女を握る手の甲に熱を感じる。数瞬の間それに耐え、熱が収まるとそこには紋章が刻まれている。
シアのとはデザインが違うんだな。これは、剣に茨が巻き付いているといったところか? どっちにしろカッコいいからOK。なんの問題もない。
両手の甲に刻まれた異なる紋章を眺めていると、頭の中に二人の者ではない声が響く。
――――――――条件の達成を確認。称号《聖剣の契約者》を入手しました。
――――――――条件の達成を確認。称号《魔剣の契約者》を入手しました。
――――――――条件の達成を確認。称号《聖魔の担い手》を入手しました。
――――――――条件の達成を確認。職業『聖魔剣姫』の選択が可能になしました。
響くアナウンス。その内容に、図らずも笑みを浮かべてしまう。
これは……私の時代が来ているのではないか?
すぐさまステータスを開き、第一職業を『聖魔剣姫』に決定。その職業に合いそうなスキルを見繕って、私というプレイヤーを完成させる。
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【名前】:朱音夕
【性別】:女
【年齢】:17
【状態】:正常
【Lv】1
【JOB】:『聖魔剣姫』
【HP】275/275
【MP】200/200
【筋力】30
【耐久】15
【敏捷】30
【知力】20
【精神】20
【器用】10
【スキル】:《聖剣技Lv1》《魔剣技Lv1》《二刀流Lv1》《筋力強化Lv1》《敏捷強化Lv1》《錬気Lv1》
【称号】:《聖剣の契約者》《魔剣の契約者》《聖魔の担い手》
【装備】:聖剣『メサイア』、魔剣『タナトス』
【ポイント】:100
【ポイント利用】
【特殊】:
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これが、私のステータス……うん、上出来だ。
さて、上田某はまだ生きているか? ……おお、凄い形相だが普通に逃げれているじゃないか。綺麗なストライド走法だ。
彼女は確か陸上部だったか? ……それもあるだろうが、ゴブリンの足が遅いと言うのもあるな。五十メートル走が十二秒ほどかかりそうな感じだ。
くくっ、さぁて。初戦の相手としてはちと物足りない気もするが……油断大敵。獅子は兎を狩るのにも全霊を賭すというしな。
「シア、ターニャ。行くぞ!」
《ええ、あんな魔物なんざマスターの敵じゃありません! やってしまいましょう!》
《野蛮な小鬼如き、華麗に優雅に屠って見せなさいな。ユウなら簡単よ?》
二人からの激励を受けた私は、二刀をしっかりと握りしめ、地面を強く蹴った。
ぐんっ! と、自分の予想よりもはるかに強い力が働き、私は風と化した。
一瞬で過ぎ去る景色。二~三十メートルはあった私とゴブリンとの間の距離はあっという間にゼロになった。
「グギャッ!?」
「驚いているところ悪いが―――死ね」
接近した私に気が付いたゴブリンが慌てた様子で迎撃態勢をとるが、私が振るった斬閃二つがその矮躯を斬り裂く方が圧倒的に速かった。
斜めに十字を描くように振るわれたシアとターニャにより、ゴブリンの頭部は四等分され、血潮と脳漿をまき散らした。
ゴブリンの血は青緑糸なのか……。汚っ。
ゴブリンはその場にばたりと倒れ、頭部がぐちゃぐちゃになったまま少しの間痙攣し……そのまま動かなくなった。
「……ふむ」
ゴブリンの死体を見下ろし、シアとターニャについた血液をピッピッと払い飛ばしながら、一人ごちる。
……なんというか、あっけないにもほどが無いだろうか?
いや、命がけのゲームである以上、生命の危機に陥ることなく、それどころか無傷で初の戦いに勝利できたことは普通に喜ばしいことだ。
けどなぁ……結構意気込んでたわりに、この程度だったのかと思うと……ううむ、どうにも釈然とせんな。
《おお! 流石ですマスター! はじめて私を振るったとは思えぬ見事な太刀筋でした!》
《まぁ、相手が弱すぎたってのもあるわね。それでも、初戦闘としては上出来よ、ユウ》
「そうか? まぁ、そう言われて悪い気はしない。だが、慢心はせずに行こう。慢心とは毒だからな。この世の財宝を全て所持している最強の王でさえ、慢心すると負けるからな」
まぁ、あの金ぴかは慢心という弱点でもなければ絶対に勝てないからなぁ……。
おっと、こんなことを考えている場合ではないな。ゴブリンに追いかけられていた上田某はっと……。
「朱音さん!」
「おっと」
上田某を探すべく視線を巡らそうとした私の腰に、当の本人が抱き着いてくる。彼女は顔をくしゃくしゃに歪め、ボロボロと涙を流していた。
だいぶ勢いの付いた抱き着きだったが、少しふらつく程度で済んだのは間違いなくステータスの恩恵だろう。でなければ、私よりもニ十センチほど背の高い上田某の突進に耐えられるはずがないからな。
あと、私よりもニ十センチほど背が高いといったが、これは別に上田某の背が特別高いというわけではない。彼女の身長は平均よりも少し上くらいであろう。
要するに、私の背が低いのだ。具体的には140センチ。
…………チビと言ったやつは、人体の急所に容赦のない拳を叩き込んでくれよう。おまけにシアとターニャでの一撃もくれてやる。
……こほん。それはさておき。
私に抱き着いたまま、えぐえぐ言っている上田某。取り合えず、彼女には立ち直って貰おう。
そっと上田某の頭に手を乗せ、ゆったりしたペースでぽんぽんと撫でる。
「大丈夫だったか、上田さん」
「う゛んっ! 朱音ざんが……ぐすっ。た、だずげてくれだおかげで……」
「分かった分かった。無理に話さなくてもいい。貴女を襲った化物は私が倒した。幸いなことに今、この広場に敵はいない。……怖かったな。泣きたいのなら、思いっきり泣くといい」
「あかねざん……! うぅ……うわぁあああああああああああああああん!! ごわかった……! ぐすっ……えぐっ……こわがったよぅ……!」
「当然だ。あんなのに追いかけられたら、誰だって怖い」
「わだっ、わたし……しんじゃうかとっ……! だって、ぶきもってた……! あれできられるとこそうぞうしちゃって……! もう、だめだっておもって……!」
「……すまなかったな。もう少し早く助けに入るべきだったな」
「うう゛ん! あかねざんはわるぐない……! ちゃんと、たすけてくれだ……! ……ありがとう。ほんとうにっ……! ありがどうっ!!」
「……どういたしまして。もう、大丈夫だから。安心してほしい。もし、また化物が出てきても、私が守るから」
「うぅ……わぁあああああああああああああああああああああんっ! うわぁああああああああああああああああああああああんっ!!」
泣きじゃくる上田某を、なだめ、慰め、心安らかになるような言葉を掛けてやる。
なんというか、これが化物を前にして、その脅威にさらされた者がする一般的な反応なんだろう。
私のように、自ら武器をとり、恐怖や畏怖といった可愛らしい感情を投げ捨て、戦いに身を投じようとしている者の方が、よっぽどおかしいのだ。
けれど、私はそれを悪いとは思わない。それでいいと……それが良いと思っている。
守られること良しとせず、脅威から逃げることを斬り捨て、戦い立ち向かうことを選んだ。
そんな私であるからこそ、アイツの姉分としてやっていけるのだ。
……そうだな。こんな世界になってしまったからこそ、今私が上田某にしたような『誰かを守る』という行為は、大切なモノなんだと思う。
自分のことだけでなく、他者を守れるくらい強くなる。それを、当面の目標にしよう。目標があった方が、身も心も引き締まるからな。
だれかを。そして、何よりもあいつを……曙を守れるようになる。
私はそれを胸の奥底に刻み込んだ。これが、この世界での私の生き方の指針となる。
「うわぁああああああああああああああああああああああん! びぇええええええええええええええええええええんっ!!」
上田某の泣き声が響く中、私は割と重要なことを胸の奥で決めていたのだった。
読んでくれた人、本当にありがとうございます!
ソロ神官もよろしくです。
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