朱音夕④
更新だおらん!
《マスターマスター! マスターのお名前は何と言うのですか? 私はメサイアです。この聖剣に宿る高位聖霊です!》
《わたしはタナトス。この魔剣を依り代にしている者よ。貴女の名前を教えてもらえるかしら?》
《……むっ、マスターのものではない思念ですね。何者です!》
《……そっちこそ何者よ。どうして聖霊なんてモノがこの子に語り掛けてるわけ?》
《そんなの、マスターが私のマスターだからに決まっているからじゃないですか!! マスターは私、『聖剣メサイア』の担い手たる至高のお方なのです!》
《聖剣……? なんでそんな聞くだけで身の毛がよだちそうな存在が、この子に……って、もしかしてこの子、魔剣たるわたしと、このクソ真面目そうな聖霊の宿った聖剣、両方を装備してるの!?》
《はぁ? 何を言ってるんですか、そんなはずは……って!? ほ、本当です!? どういうことですか! マスター!!》
……いや、どういうことかと聞きたいのは私の方なんだが?
なんだこれ? 一体どういう状況だ? 何がどうなればこんなよー分からんことになってしまうと言うのだ!?
……ふぅ、待て待て。落ち着け、落ち着くんだ夕。戦場では冷静な判断こそ己の命を救うと電脳少女のおじいちゃんが言っていたのを思い出せ。今は別に戦場にいるわけじゃないがな。
一体落ち着いて、何が起こっているのかを確認しよう。
まず、私は神(という名のクソ野郎)からのプレゼントである特殊装備選択チケットを使い、貰う装備を検討していた。装備は名前しか分からず詳細が不明だったので、よく考えようと思って候補を眺めていて……。
気が付いたら、両手に二本の剣が握られていた。
そして、頭の中で聞いたことのない声が二つ(両方とも可愛らしい少女のモノ)が聞こえてきて……。
…………どういうことだってばよ。
うーん、おかしい。何かがおかしい。まず、なぜ私には特殊装備選択チケットで貰える装備一覧を見ていた時から、両手に剣が収まるまでの記憶がないんだ?
いや、ないはずはない。きっとあまりのショックか何かで一時的に忘れているのだろう。ぐぬぬ……思い出せ私の脳細胞……!
必死に記憶をたどれば、徐々に失われていたメモリーが蘇ってくる。
そう、私は装備一覧を見ていて……そこに、『聖剣メサイア』と『魔剣タナトス』という二つ並んだ剣の名前を発見した。
その瞬間、私の脳裏によぎったのは……『聖剣と魔剣の二刀流って、滅茶苦茶クールじゃね?』という悪魔のささやき。
そのささやきが聞こえた瞬間、私は考えるよりも先に体が動いていた。よどみない動作で『聖剣メサイア』を選択し、続いて二枚目のチケットを使用。止まることなく『魔剣タナトス』を選んだ。
タイムラグはほぼないに等しい。そのくらい同タイミングで私の両手の上に光に包まれた何かが現れ……光がはじけ、剣の姿をとった。
その剣の柄を強く握りしめた私は……頭の中に響いた声で正気に戻った。
……なるほど、それがすべての真相だったのか…………。
「…………何をやってるんだ、私はッ!!」
《ひゃう!? ど、どうしたのですか、マスター!?》
《え、えっと……大丈夫?》
頭の中に響く二つの声が問いかけてくるが、そんなものを相手にしていられるほど、今の私に余裕はないッ!
あああああああッ!!? 何が『特殊装備選択チケットはこのゲーム攻略に置いて重要だ』だ!? どの口がそんなふざけたことをぬかした!? 私の口だよチクショウ!!
重要だっていったのは私だろ!? 何、秒で趣味に走っているんだ!? 確かに聖剣と魔剣の二刀流というのは私の厨二ソウルにクリティカルヒットだった!! それは認めよう!!
だが、それをこの場面で発揮する!? 愚かにも程があるだろう!? 今世紀最大の愚か者だと言っても過言ではないぞ!!?
ぐぁああああああああああ!? 私のバカバカバカバカバカバカバカバカバカぁ~~~~~~~~~~~!!
内心で絶叫を上げた私は、そのまま流れる様にベンチの上で「orz」。口で「ずーん……」という効果音を再現するのも忘れない。
「……………………しにたい」
《ッ!? ほ、本当にどうしたんですかマスター!? 自己紹介もせずに自刃とかやめてくださぁいっ!》
《な、何か落ち込むようなことでもあったのかしら……? ほ、ほら、大丈夫よ。何が原因で落ち込んでるのかは分からないけど、きっと大丈夫》
《……おい黒いの。なんですかその適当な励ましは。励ますのならもっと真剣にやりなさい!!》
《うるさいわね白いの。どうして落ち込んでるのかも分からないのに、正確な励ましなんてできるわけないじゃない。そんなことも分からないの?》
《むかっ! ふんっ、そんなのマスターのことを真に思っている私なら楽勝です。見てないさい! マスター! えっと……………………………………………………げ、元気出してください!》
《…………》
《…………な、なんですか黒いの。言いたことがあるならはっきり言いなさい》
《あら、いいの? じゃあ遠慮なく…………このポンコツ》
《うぐッ!?》
「……お前ら、私の頭の中でコントを繰り広げるのはやめろ」
《マスター!》
《落ち込むのはもういいの?》
頭の中でアレだけキャンキャン騒がれたら、そりゃ暗い気持ちも吹っ飛ぶわ。というか、励ますなり慰めるなりするならしっかりとやってくれ。中途半端が一番傷つくんだぞ?
そうは言いつつも、多大な精神ダメージから少しだけ復活した私は、よっこらせと「orz」状態から普通にベンチに座り直した。そして、両手の剣を視線の高さまで上げ、刀身へとささやきかけた。
「ああ、だいぶ落ち着いた。えっと……メサイアにタナトス? で、いいのか?」
《はい! 貴女の剣、災厄払いし救世の聖霊たる私が宿った『高位聖霊武具』のメサイアです。よろしくお願いしますね、マスター!》
《ええ。貴女の剣、死をもたらす冥府の女王の人格が籠められし『意志ある武器』のタナトスよ。末永くよろしく》
白い剣―――メサイアは、元気いっぱいな感じに。
黒い剣―――タナトスは、語尾にハートマークがつきそうな感じで。
二人……いや二本? の剣は自己紹介をしてくれた。うむ、ならば私も返さねばならないな。えっと、こういう時はどんなセリフで返せばよいのだ?
自己紹介の文面を考えること三秒。早すぎる? はっ、オタク特有の高速思考を嘗めるなよ?
「私はお前たちの使い手となった朱音夕だ。武器の使い手としては良くて中級者といったところだが、お前らの主として相応しい存在になれるように努力しよう。これからよろしく頼むよ」
《朱音夕……それが、マスターのお名前なのですね。とてもいい名だと思います》
《ふふっ、契約者様はユウって名前なのね。可愛らしい容姿にお似合いの、可愛らしい名前だわ》
む……な、名前を褒められるなどそう無いから、なんというかその……て、照れるな。
《あっ、ユウったら赤くなってる。可愛いって言われて照れてるのかしら?》
「ぐっ……。か、からかうのはよせ!」
《恥ずかしがらなくてもいいじゃない? ユウの名前はユウにピッタリだと思うもの。ねぇ、白いのもそう思うわよね?》
《……マスターをからかうなとかちゃんと敬えとか言いたいことはたくさんありますが、名前がよくお似合いだということには全面的に同意します》
「うぐぐ……」
な、なんだこの褒め殺し!? 聖剣と魔剣にのマスターになると、こんな特典が付いてくるというのか!? ……って、んな訳ないか。この二本がこういう性格というだけなのだろう。
……しかし、こうやられっぱなしというのも腹立たしい。ここは反撃に一つ……こいつらにも、愛称のようなモノを付けてやろうじゃないか。
二人とも女の子のようだし、可愛らしい感じがよかろうからなぁ。今のメサイアとタナトスというのは少々硬すぎる。
ふむ(思考中)……………………おおッ! いい愛称を思いついたぞ!
よしではさっそく、この二人に……。
「……ふむ、まぁそこまで言われれば悪い気はしないな。名前を褒められるというのは、こそばゆくも嬉しいものだ。……そのお礼といってはアレだが、二人の呼び方を私が考えてもいいか?」
《呼び方……ですか? 別に構いませんが……》
《あらあら、ユウはどんなニックネームを付けてくれるのかしら?》
ふっふっふ……そんなに余裕をぶっこいていてもいいのか? いいんだな……後悔しても知らんぞ?
さぁ、食らうがいい! 私の考えた愛称を……!
「まず、メサイアは……『シア』。シアと呼ぶことにする」
《ふぇ!? し、シアですか? え、えっと……なんといいますか、とても可愛らしい感じですね? け、剣の身である私には似合わないのでは?》
「そんなことはない」
《そ、そうですか。マ、マスターが付けてくださった愛称ですからね。謹んでお受けします》
声音に恥ずかしさを滲ませながらも、素直に言うメサイア―――シア。うむ、彼女の反応はおおむね予想通りだな。
これまでの短いやり取りからでも分かるほど真面目な性格をしているシアなら、そういう恥じらい混じりの反応を見せてくれると信じていた。
実に良い! シアの可愛らしい反応が見れて(聞けて?)私は満足だ。
さて……お次は。
《ふふっ、クソ真面目な白いのにはもったいないくらい可愛い名前ね。シアちゃん?》
《う、うるさいですよ黒いの! マスターに付けてもらった名前を馬鹿にしないでください!》
「……余裕だな、タナトス。すでにお前の愛称も考えてあるのだぞ?」
面白そうな声音でシアをいじるタナトスに、私は淡々と告げる。
《そうだったわね、さぁユウ? わたしにはどんな名前を付けてくれるのかしら? 魔剣として恥ずかしくない名を期待するわ》
ふむ、とタナトスの言葉に魔剣の刀身を眺めてみる。……芸術品のように美しく、そしてどこか妖しい雰囲気のある剣だな。黒いオーラを纏っているし、厨二ソウルをちっくちっく刺激してくれやがる。
一目見た評価は、綺麗カッコいい……。そんなタナトスに付ける愛称は……これだ。
「うむ、お前の愛称は『ターニャ』だ。これからはターニャと呼ぶからな。そのつもりでおれ」
《……まって、なんでわたしをじっくり眺めた結果がそうなるの!? もっとカッコいい名前があるでしょう!!》
「ふっふっふ、かっこいいのは確かだ。だが、中に宿るお前はどちらかといえば可愛い系だと私は思っているからの。ゆえに、タナトスからとってターニャ。うむ、我ながら素晴らしいネーミングセンスだな」
《あ、あううぅ……ユ、ユウのいじわる!》
「はっはっは、なんとでも言うといい。だが、残念だったな。お前がターニャと呼ばれるのはすでに決定事項なのだよ! 慣れぬというなら、慣れるまで何度でも呼んでやるとしよう。ターニャ、ターニャターニャターニャ。ターニャ可愛いよターニャ」
《………………分かったわよぅ》
消え入りそうな声で、そう答えるタナトス―――いや、ターニャ。
羞恥の感情が多大にこもった声は、とても耳に心地よかった。
……ふふふ、ふははははは、はーっはっはっはっはっは!!
私の、完全勝利!!
《……なんですか。結局黒いのも可愛い名前になったんじゃありませんか》
《なによ、笑いたいなら笑えばいいじゃない》
《いえ、いい名前だと思いますよ。ターニャ》
《あうううっ!? し、シアまでその名前でよぶわけ!?》
《ええ当然です。マスターがお決めになった呼名なのですから、それで呼ぶに決まっています》
《ぐぬぅ、このクソ真面目め……!》
《今回はターニャのその適当極まりない性格が招いた事態。要するに自業自得ですね。ざまぁみろ》
《あー! 今確実に喧嘩を売ったわね! いいわよ、言い値で買うわよッ!?》
《ふっ、上等です。ターニャなんかよりも、この私、シアの方が優れていると証明してあげましょう!》
《はっ! 頭が固いだけのシアなんかより、わたしの方がすごいに決まってるでしょー? 考えるまでもないわっ!!》
……こやつら、いちいち喧嘩しないと気が済まんのか。
いやまぁ、聖剣と魔剣だし、気が合わないのもなんとなく分かるのだが……正直、ちょっとうるさい。頭の中で声がガンガン響くのだ、片頭痛になりそう。
とりあえず、何とかして二人を静かにさせなければな……。
「おい、二人とも。ちとうるさいぞ? それ以上騒ぐのなら……」
ええと、剣に対する脅しってどうすれば……あ、そうだ。
「……騒ぐのなら、別の武器を装備するぞ?」
《ッ!? そ、それはダメです! 見捨てないでマスター!?》
《ごめんなさいごめんなさい!! ちゃんと謝るから、それはいやぁ!?》
……お、おう。なんかすごい効き目あったな。想像以上過ぎる。二人の声が、とんでもなく必死だった。そんなに嫌なのか、私が別の武器を使うの。
……となると、私はこの二本を使うことが決定したということか? 再選択は不可能で、これからの装備変更も無理……呪いの装備かな? 教会いかなきゃ……。
「……ごほん、とりあえず。話すなとは言わんが、すぐに言い争うのはやめろ。頭の中がガンガンして敵わん。よいな?」
《《はいっ!!》》
おお、いつになくいい返事だったな。感心感心。今度からもこの手で行くとするか。
……さて、二人の呼名も決まったことだ。とりあえず、この二人の能力とかを確認するか。
さっそくステータスを開いて……と、しようとしたその時だった。
「キャァアアアアアアアアッ!!? ば、化物ぉおおおおおおおおっ!?」
そんな絶叫が、私の耳に届いた。
聖剣ちゃんと魔剣ちゃんのやり取りが楽しすぎて文字数が多くなった。話を進めねば……!
感想とか評価とか、ブックマークとか本当にありがとう! 凄く嬉しいですっ!!
「ソロ神官」もよろしくね!!
https://ncode.syosetu.com/n8107ec/