朱音夕③
更新だおらん!
遅くなってスマン!
ゲームに置いて、気になったものはとにかく調べるが吉だ。画面越しなら『!』みたいなアイコンが表示されるアレである。
何らかのイベントフラグかもしれないし、アイテムが手に入るかもしれない。ちょっとしたワクワク感と、多大な警戒を胸に、ステータスの【特殊】をタップする。
開かれる新しいウィンドウ。表示されたメッセージ。
……それを読んだ私は、このステータスが物理的に破壊不可能な代物であることを、身を以て体験することになった。
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題:やぁ、惜しかったね!
本文:ハローハロー! ないすとみーとぅー! 神でっす!
いきなりのメッセージごめんね、驚いた? びっくりした? はっはー、そんな感じに驚いてる君たちを見るのがボクの楽しみだから、盛大に驚いてくれると嬉しいよ!
さて、とりあえず最速行動プレイヤー……に、あと一歩届かなかった朱音夕ちゃん! 残念でした! あとゼロコンマゼロゼロゼロ一秒早ければ、最速行動プレイヤーとして豪華な特典がもらえたのにね~。いやー、ボクのお気に入り一号に決定した男の子の方が、キミよりゼロコンマゼロゼロゼロ一秒判断力に優れていたってことだね! 流石、ボクのお気に入りクン!
まぁ、最速行動プレイヤーにはなれなかったけど、キミの行動が早かったのは事実。というわけで、ゲーム攻略に役立つアイテムの入った初心者応援アイテムセットと、強力な武器を手に入れることのできる特殊武器選択チケットを二枚プレゼント! これを使ってゲーム攻略を頑張ってね!
……ところで、もうちょっとで最速行動プレイヤーの特典を手に入れることが出来たって知ってどう思った? いや、こういう時は違う言い方をするんだっけ? えっと……ねぇねぇ、今どんな気持ち? ねぇ、今どんな気持ち?
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……………………ふむ。
メッセージを読み終わった私は、ベンチから立ち上がり、ぐっと腰を下ろして、右拳を脇の下へ。
すぅ、と息を吸い込み、止める。
そこで、一旦停止。一瞬だけ訪れる静寂。
そして―――
「―――――ハァッ!!!」
腰を捻り、上体の運動で生み出したエネルギーを伝えた右拳を、裂帛の気合と共に打ち放った。
ドンッッッ!!!
拳を撃ち出すまでの一連の動き、気合のタイミング、そして対象を絶対に破壊してやろうという意志。
心技体が見事にそろった会心の一撃が、メッセージが表示されているウィンドウに突き刺さった。
……しかし、
「チッ、微動だにせずか」
ムカつくメッセージが書かれたウィンドウは、私の拳を素知らぬ顔で受け止めていた。ウィンドウを通して、神とやらが鼻で笑ったのが見えた気がした。
……完全に被害妄想だが、容易に想像がつく分だいぶ腹が立った。もう一発くらい殴っておこう。えいっ。
「……さて、このメッセージは置いておくとして……問題は、これからどうするかだな」
私の拳(これでも武術を嗜んでいるので、人を悶絶させるくらいの威力はある)を二発喰らっても微動だにしなかったメッセージウィンドウを消し、ステータス画面に戻したものを眺めながら、私はそう独り言ちた。
……クラスメイトたちはまだ混乱から立ち直っていないらしい。なら、さっきの私の奇行も見られていなかったはず。そうであることを切に願う。
ぶんぶんと頭を振って思考を戻す。
これからどうするか。それを議題に脳内会議を決行すると、まず真っ先に出た意見は、『あいつとの合流』だった。
あいつ……私の幼馴染であり、弟分である東雲曙のことだ。日常能力皆無のあいつだが、こういう状況では、そこらで混乱しているやつらよりよっぽど役に立つ。
それに……神のメッセージに書かれてた『お気に入りクン』。私より先にこのゲームに参加し、まんまと特典をかっさらっていったコイツ……多分、曙だ。
何の確証もないがな。ただ、私の幼馴染としての勘がそう告げているというだけ。だがこの勘、あんまり発動しない代わりに、その精度はなかなかのモノ。きっと外れてないはずだ。
……しかし、曙の癖に私を出し抜くとか生意気だな。それに、弟分に負けたというのがどうにも悔しい。
ここは、このゲームを奴よりも早く進め、再会した時にどうにかこうにかマウントをとるしかないようだな……!
そんなことを思いつつ、私は【特殊】のところにあるもう一つの項目を開いた。初心者応援アイテムセットと、特殊武器選択チケットだ。
初心者応援アイテムセットは何が入っているか分からないので兎も角、特殊武器選択チケットの方はかなり重要度が高い。
強制参加させられたこの『終わりなき終焉』というゲームのジャンルはサバイバルRPG。ということは、まず間違いなく『戦闘』が発生すると思われる。ステータスの表記も、戦闘がメインのRPGのモノだからな。
私はRPGをやる時、どちらかといえばステータスを重要視するタイプなのだが……強い武器と言うのは、育てなくてはいけないステータスと違って、即戦力になる。ひいては、攻略への絶対的なアドバンテージとなるのだ。
レベル一の時に棍棒しか持っていない勇者と、レベル一で最強装備に身を包んだ勇者。さて、レベル99になるのはどちらが先でしょう? というわけである。
というわけで、さっそくこの特殊装備選択チケットを使うとしよう。
画面をタップし、チケットの使用を選択。新たな画面が現れ、そこには武器の名前がずらぁーーーーっと並んでいた。
それに目を通した感想。
うむ、どれもこれも曙が好きそうな感じの武器だらけだな!
そして、私の琴線にこれでもかと触れてくるラインナップでもあるな!!
……曙のオタク知識の源泉は基本私なので、曙の趣味=私の趣味というわけなのだ。
ああそうだよ。私も厨二病治ってない高校二年生だよ。なんか文句あるか!
……コホン。少し取り乱した。意識を元に戻そう。
「……しかし、分かるのは名前だけなのか。性能が分からないとなると、選ぶのが途端に難しく…………………ん?」
ぴたり、と。私の視線が二つ並んだある武器の名のところで止まった。
その名前をじぃと眺める私は、無意識にふむ、と頷き……。
「……………はっ!? 私は何を…………うん?」
《初めまして、我がマスターよ! これからよろしくお願いします!!》
《くすくす。これまた随分と可愛らしい契約者様ね。まぁ、よろしくお願いするわ》
―――――気が付けば、両手に一本ずつ、剣が握られていた。
読んでくれた人、ありがとう!
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ソロ神官もよろしくね!
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