朱音夕②
更新だおらん!
その声が聞こえてきたのは、丁度、私が体育の授業で山登りを決行している時だった。
……体育の授業で山昇り、という部分には突っ込んでくれるなよ? 私だっておかしいと思ってるんだ。
何故、この学校で山登りなんていう狂気の授業が行われているのか。その理由は至極単純、学校の敷地内に、学校の持ち物である『山』があるからだ。
バカでかい敷地と、由緒正しい一族や大企業などが理事にいるこの学園だが、まさか学園の隣にある山まで私物としていたとは……その話を聞いたときは、思わず大声を上げて驚いてしまった。
学校指定のジャージに身を包み、クラスメイトと一緒にひーこらいいながら山を登る。まぁ、標高400メートルくらいの山なので、そこまで過酷な道中、というわけでもない。道もしっかりと整備されているしな。
体力づくりを目的とされたこの山登り。一般生徒からは不評の嵐なのだが、伝統ということで各学期に二三度行われる。……クソ、古くさい伝統などさっさと捨て去ってしまえばいいのに。ルールがあり、他者と鎬を削る戦いができるスポーツとは違い、山登りはただの自己鍛錬。面白みもクソもない。
なので、生徒たちは思い思いのおしゃべりや、しりとりなどの簡単なゲームで気を紛らわすのだが……。
「コラァ!! お前らッ!! 授業中になにをしとるかッ! 真面目にやれいッ!!」
……チッ。
おっと、思わず舌打ちをしてしまった。だが、それくらいイライラしているんだ。
生徒の見張りという名目で、体育科の教師が付いてきているのだが、私たちのクラスを担当するこの教師はとにかく口うるさい。しかも、自分にとって気に入らないことがあると、馬鹿みたいに喚き散らすという生粋のクソ教師だ。死ねばいいのに。
そして、今現在、そいつは私たちの後ろを付いてきている。……電動自転車に乗って。
そこまで急ではないとはいえ、生徒は上り坂を延々と昇っているんだぞ? なのに教師であるお前がなんでそんな風に楽をしているんだ。ふざけるんじゃないッ!! 今すぐに降りろ! そしてお前だけ裸足で歩け! 砂利まみれの道を歩いて足の裏が血塗れになるといいッ!!
……と、叫んでやりたいが、そうするとさらに面倒臭いことになるのでやらない。極力体育教師の姿を視界に入れないようにしながら、黙々と足を動かす。
「……チッ、坂口のヤロー、偉そうに言いやがって……」
「自分だけ楽してる癖に……何様のつもりよ」
「死ねばいいのに……今すぐ崖にでも落ちて死ねばいいのに……」
周りのクラスメイト達も、小声で体育教師への呪詛を吐き出している。恨みつらみだけで人が殺せるのなら、あの体育教師の命はすでになかっただろう。
しかし、ウザい体育教師にどれだけ呪詛を吐いたところで、この状況が楽になるわけでもなし。結局は黙々と足を動かすことしか出来んのだ。
そう、真に恨むべきは、こんな伝統を作りやがった過去の学校関係者ども……!!
そんな風に、負の感情を原動力にしたのが良かったのか、私たちは予定よりも早く山頂に到着した。
山頂部はちょっとした広場になっており、隅っこの高くなっている場所には、展望台があり、そこからは海が一望できる。
私はその展望台に立ち、良く晴れた青空と、太陽の光を反射し白く輝く海を見つめる。うむ、吹き付ける風が火照った肌に心地よいな。
ここからの景色は中々に見事なもので、私のお気に入りだったりする。こうして眺めていると疲れも取れてくるような……。
「よし、じゃあお前ら、十分間の休憩の後、下山するぞ!」
……体育教師の声ですべてが台無しになったな。ホントアイツ死ねばいいのに……。
爽快な気分が全て吹き飛んだので、展望台に置かれているベンチにドカッと座り込む。
そして、丁度その瞬間だった。
『ハロー日本人! ご機嫌いかがかな!!』
「―――――ッ!?」
突如として頭の中に届いた、酷く不愉快な声。
脳味噌に直接響く声という初体験に混乱する思考を無理やりねじ伏せ、私はその声に耳を傾けた。
私の直感が告げている。この言葉は、聞き漏らしてはいけないモノだと。
大人のものなのか子供のものなのか、男か女か、そんな区別が一切つかない声は、酷く聞き取りにくいが、必死に内容を理解する。
声が話す内容は、とてもじゃないが信じられないような……しかし、この脳味噌を直接侵す声のことを考えると、信じざるを得ないモノだった。
ファンタジーにようこそ。ゲーム。プレイヤー。『終わりなき終焉』。魔物。スキル。レベル。
随分と聞き覚えのある単語だ。あまりに表に出してはいないが、オタク趣味にどっぷり嵌っている私からしたら、この後の展開が手に取るように予想できるぞ。
これはアレだろう? 『現実世界にファンタジーが侵略してきたんだが、どうすればいいだろうか?』的な展開。なお、ラノベの長文タイトル風にしたのはなんとなくだ。他意はない。
いやしかしそんなはずは……だが、最初から『ありえない』と決めつけて動くのではなく、『あるかもしれない』と考えておいた方がいいだろう。何も無くても、自分の考えすぎだったで片が付く。逆に、何の備えもなしに超常現象に放り込まれる方が恐ろしい。
そうしているうちに、話すべきことはすべて話し終えたのか、頭の中で響いていた声は消え去った。
クラスメイトたちの方を確認すると、彼らも困惑や混乱を表情に浮かべ、あたりを見渡したり近くの者と顔を見合わせたりしている。
ふむ、あの声は私にだけ聞こえた幻聴ではないことがこれで確認できた。となると、信憑性はさらに高まるな……。
まぁ、何にせよ。まずは「ステータス・オープン」だな。ゲーム開始と同時にそう叫んで見事なスタートダッシュを決めてやろうじゃないか。
さぁ、いつでも来るがいい……!
――――――――『終わりなき終焉』、起動します。
「ステータス・オープン!」
無機質な声が頭に響いた瞬間、私は高らかに叫びを上げた。周りがぎょっとした反応を見せるが、そんなものに構っている暇はない。
さて……これが、ステータスか。
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【名前】:朱音夕
【性別】:女
【年齢】:17
【状態】:正常
【Lv】1
【JOB】:第一職業を選択してください
【HP】125/125
【MP】100/100
【筋力】15
【耐久】10
【敏捷】15
【知力】10
【精神】10
【器用】10
【スキル】:初期スキルを選択してください
【称号】:なし
【装備】:なし
【ポイント】:100
【ポイント利用】
【特殊】:神からのメッセージ&プレゼントがあります→『題:やぁ、惜しかったね!』『題:高速スタートダッシュ特典! 初心者応援アイテムパック&特殊武器選択チケット×2』
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まんまゲームではないか! というツッコミはいったん脇に置いておいて……なんだ、この神からのメッセージとやらは?
評価点が1000を超えてる!? すげぇ!?
皆、読んでくれてありがとう。感想や評価も待ってます。