東雲曙⑩
更新だおらぁん!!
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感想とかも、どんどん書いてくれると嬉しいぞ!!
《side:東雲曙》
ひとみのステータスを見て、思わず絶句。彼女のとても少女らしい可憐な容姿とは裏腹に、その内容はどこまでも脳筋だった。
筋力と耐久が高く、敏捷と知力が低い。どんな職業が向いてるかといわれたら、『バンデッド』とか『ヘヴィソルジャー』とかその辺りが妥当だろう。間違っても、魔法使いには向いていないステータスだ。
うーん、このステータスとやらは、一体何を基準に決められているのだろうか?
ちらりとひとみの体に視線を向ける。
細いよなぁ。それでいて、出るところはしっかり出ていて……って、そうじゃない。肉体性能がそのままステータスに反映されているわけではないということを確認したかっただけだ。他意はない。
さて……ひとみにどうアドバイスしたモノか。はっきりと『物理で殴る脳筋系がぴったりだぜ!』みたくいったら、流石のひとみも怒るだろうし……。
「ふぇ!? ぇえええええええええ!? な、なにこのステータス!? レベル7なのに数値高すぎだし、スキルも称号もいっぱいあるし……。す、すごすぎなの……」
俺が頭を悩ませていると、驚きをたっぷりと含んだひとみの声が聞こえてきた。……ああ、そうか。俺のステータスって神ガチャと《始まりのプレイヤー》のせいで阿保みたいな感じになってるんだった。
多分、ひとみのステータスが、平均的なレベル1のステータスなのだろう。それと比べてしまうと、俺のステータスって……ゲームなら間違いなく『チート』扱いされるだろうな。
まぁ、チートならチートでも構わない。力があるということは、それだけ死ににくいということだからな。
……というか、初っ端からネームドモンスターとかブッ込んでくるバランス崩壊ゲーだし、プレイヤー側も少しくらいぶっ壊れじゃないとやっていけない。
……こういう、現実世界にファンタジーが侵食してくる系は、ネット小説なんかでよく読んでいた。そして例にもれず、自分がこういう状況になったら、みたいな妄想を繰り広げていたんだ。
だから、思う。……初バトルは、ゴブリンかスライムが良かった、と。
俺の初めてが、あんな野郎だったことに遠い目をしていると、ちょんちょんと制服の裾を引っ張られた。我に返ってそちらを見ると、不思議そうな顔をしたひとみがこてんと小首を傾げていた。
「曙くん、どうかしたの? 何か、考え事?」
「いや、ままならない現実についてちょっとな……。で、なんだ?」
「うん、えっとね。今、ステータスから職業を選択する部分を開いたんだけど、いっぱいあり過ぎてどれにすればいいか分からないの」
「ふむ……ああ、こちらからも確認できた。確かにいっぱいあるよな」
「うん……ちなみに、曙くんの『魔導戦技師』って職業は選択肢に出てこなかったけど、どうやってなったの?」
「ガチャ」
「……ふぇ?」
「最速スタートの報酬のガチャの景品でなった。神ガチャ……まぁ、平たく言えば確定で最高レアが出るガチャなんだがな。色々とチート性能な景品を貰ったうちの一つに、キャラメイク権ってのがあってな。それを使った結果、こんな立派なチートキャラに」
「……なんかよく分からないけど、ズルい」
「まぁ、早期購入者特典のようなモノだ。ようは、早い者勝ちってことだな。それでなんだが、ひとみに合いそうな職業は……ステータスを見る限り、『戦士』系当だな」
「……うう、なんとなく分かってたけどぉ……」
俺がバッサリ残酷な現実を告げると、ひとみはしょぼくれた声で嘆き、ガックリと肩を落とした。
ある程度RPG系のゲームに触れたことのあるひとみなら、自分のステータスがどんな職業に適しているのか大体予想が付くだろう。
けれど、女子が『貴女は物理で戦うことに向いています』と言われて嬉しいだろうか? 否、そんなはずはない。そこんところをフォローしたいのだが……。
うん、言葉が出てこない。しょぼくれるひとみを前にして、何を言っていいのかまるで分からない。
「気にするな」? 本当に気にしている人に対して、そんな軽い言葉は通用しない。
「まぁ、こんなこともあるさ。前向きに行こう」? 上に同じ。言葉が軽い。
「力強い女の子っていいよね」? うん、心にもないセリフにもほどがあるので却下。というか、誉め言葉でも何でもねぇよ。只の煽りだよ。
「狼狽えるな。それもまた、貴様に架せられた宿命というもの……」って! だから厨二病は帰れ! 二度と戻ってくるな!
と、脳内で慰めの言葉を考えるも、思いつくのは役に立たないセリフばかり。……神ガチャで、《対人術》みたいなスキルが出てほしかったと、今、切に思う。
けれど、ここで落ち込むひとみに対して何も言わずにいて、何が彼女の友人か。何か、何か言葉を――――!
「……ひとみ。その、なんだ。…………うん、可愛い女の子が実はバリバリの物理系って、ギャップがあっていいと思うぞ?」
「なんの慰めにもなってないのっ!」
――――ダメでした。
ぷんすか! と怒るひとみを何とかなだめ、落ち着いたところで話を戻す。
「――――俺は、ひとみが付くべき職業は、ステータスに合ったものがいいと思う」
俺が真剣な声音でそう言うと、ひとみもきゅっと表情を引き締め、真面目に話を聞く体勢になった。
そんなひとみの目をまっすぐ見つめながら、俺は俺の考えを述べる。
「まぁ、単純な話だ。ひとみが戦士職に付くのと魔法職に付くのとじゃ、その後の実力に圧倒的な差が出る。もちろん、前者の方が強くなることが出来る。……ここまでは良いな?」
「うん」
「俺にも分からないことだらけのこのゲームだが、一つだけ確かなことがある。それは、『強くならなければ生きていけない』ということだ」
「……うん」
「だから、とりあえずひとみには、より強い力を手に入れることのできる選択をしてもらいたい。……俺から言えるのはここまでだ。あとは、自分で考えてくれ」
俺の言葉を最後まで聞いたひとみは、そっと俯き、沈黙した。深く深く思考に沈んでいるのか、ピクリともしない。
それだけ真剣に考えてくれているということなのだろう。俺の言葉を聞いて、ひとみがそうしてくれたという事実を、とても嬉しく思う。
これで、ひとみがどんな選択をしたとしても、俺はそれを尊重しよう。
そう心に決めて、俺は考え込むひとみを静かに見守り続けた。
そして……。
「……うん、決めた」
約五分。それがひとみが考え込んでいた時間だった。それが長いのか短いのか。それは、本人にしか分からないことだろう。
さっと顔を上げたひとみは、強い意志を讃えた瞳を輝かせ、俺をまっすぐに見つめた。
その視線を受けて、俺は言葉を促すように小さくうなずく。
ひとみの桜色の唇が今、ゆっくりと開かれる。
「わたしは、自分のステータスに合った職業を選ぶよ。それで、戦って、力を付けて、死なないようにして……いつか、曙くんを守れるくらいに強くなりたいな」
そう言って、ひとみは淡く微笑んだ。その笑顔を見て、俺は思わず息を詰まらせた。
……俺を守れるように、ね。なるほど、そう来たか。
どうやらひとみは、俺が考えているよりもずっと強かったらしい。
俺を見るひとみの目には、確かな決意があった。戦うことも、強くなることも、このゲームを生き抜くことも。それらすべてをやりぬいてやるんだという、強い決意。
それは決して蛮勇ではないはずだ。なぜならひとみは、一度、グズールという明確な危機に晒されている。
あの時、この教室内に俺が残っていなかったら、ひとみは間違いなく死んでいた。一番近くで、直接その殺意を受けたひとみは、そのことをこの場の誰よりも理解しているはずだ。
ひとみは、このゲームが命がけなことくらい、とっくの昔に分かっている。それでも、戦い強くなることを選択し、それどころか友人を守ることを目標にしている。
これは、明確に強さだ。ステータスの高さやチートなスキルなんて関係ない、心の強さ。
「……そうか。凄いな、ひとみは」
その強さを間近で見せつけられた俺の口からは、自然とそんな言葉が漏れていた。
「本当に、凄い」
「そ、そんなことないよ? こうやって決めることが出来たのだって、曙くんが色々教えてくれたおかげだし……」
「いや、ひとみならたとえ一人でも大丈夫だったはずだ。俺の力なんて、本当に微々たるものでしかない。……ひとみは、凄い。心から、そう思う」
「あ、あうあう……えっと、その…………あ、ありがとうございます……」
俺が言葉を重ねると、ひとみは真っ赤になって俯いてしまった。つい今まで、カッコいいといえるような凛々しさを見せていた分、そんな仕草がとても可憐に映った。微笑ましい気持ちがあふれ、頬が緩むのが我慢できない。
しかし、俺は随分とひとみを気に入っているらしい。つい数十分前まで赤の他人として扱っていたとは思えない入れ込みようだ。
あれは、いつだったか。あの人にこう言われたのは。
――――お前は、無愛想で没交渉ですぐ壁を作って自分の世界に入り込んで他人をまるで信じない。
――――……けどな、それはお前がその相手を『他人』だと認識している場合の話だ。
――――相手がお前にとって『他人』じゃなくなった時、お前はそいつに対して、アホみたいに甘くなるんだ。優しいとか親切を通り越して、甘く、な。
――――それが悪いとは言わん。だが、時に度が過ぎることがある。……それには、注意しておけ。
呆れた顔でそう言うあの人の顔が、今でも鮮明に思い出せた。
俺よりも俺のことを理解している節があるあの人が言うのなら、それは間違いない俺の評価なのだろう。俺は、一度懐に入れた相手に対して、とことん甘くなってしまうらしい。
今、ひとみを見ていて湧き上がってくる思いと、この数十分で彼女に対して抱いた思い。
それらを考えてみると、なるほど、やはりあの人の言うことは正しかったようだ。
俺は、こんな俺の友人になってくれたひとみを、俺なんかを守りたいと言ってくれたこの少女を……何が何でも、失いたくないと、思っている。
だから、悪い。そう、想像の中のあの人に謝る。
本当は、真っ先にあの人の元に行く予定だった。けれど、予定変更だ。
――――俺が、ひとみのそばを離れても大丈夫と思えるようになるまで、貴女のところに行くことはできません。
――――殺しても死なないような貴女なら、大丈夫だと信じています。
あの人が俺のことを俺以上に理解しているように、俺もあの人のことなら大抵なんでも理解している。
あの人がこの状況でどうするかなんて、手を取るように分かる。どうせ、喜々として攻略を進めているに違いない。心は強くとも、力的には弱いひとみと違って、あの人は心も力も常人とはけた外れに強い。実は人間じゃないんじゃないかってくらい、強い。
そう、あの人に聞かれたら冗談抜きで殺されそうなことを思いながら、俺は意識を思考から引き上げる。
さぁ、ひとみを失いたくないと決めたのなら、やるべきことはいくらでもある。できることから一つずつやって行こう。
まずは……未だに赤い顔で俯いているひとみを、復活させるところからだな。そう思い、ひとみに掛ける言葉を頭に思い浮かべる。
思考を完全に切り替える直前、最後に、ちらりと窓の外を見て、心の中であの人にエールを送った。
――――頑張れ、『夕』。
はい、ここで一度『東雲曙』は区切りです。
次回『朱音夕』。乞うご期待っ!