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アルク=オール・サーガ

オータムじいじのよろず店~帝都で人気のお店です~【持ち帰り放題編】

作者: 北乃ゆうひ

調子に乗っての第二弾です。

前作を読まなくても問題のない話になっておりますが、よろしければ前回の【魔石詰め放題編】もよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n8228fc/


読んで下さった方々が、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


 スールピナ帝国の帝都の商業区の外れ。

 もう少し進めば、いわゆるスラムとよばれる地区に片足を突っ込んでしまうような、そんな場所にその店はあった。


 いつからそこにあったのか――気づけばその店はそこにあり、

 いつから人気があったのか――気づけばその店は話題になっていた。


 名前を『オータムじいじのよろず店』。


 人が良さそうな、温厚そうな――そんなお髭豊かなおじいさんの描かれた看板を掲げたそのお店は、よろず店の名の通り、生活必需品から、包丁などの調理器具、探索者(シーカー)向けの探索必需品に、武器や防具、薬に、果物や野菜、食肉など、ほんとうに何でも取り扱っている店。

 しかも、何気にここの甘味などは、帝都の中でも上位に位置する味として、女性たちから絶大な支持を受けている。


 だがそれらの品揃え以上に、定期的に変わったことをすることで有名だった。



 そして、俺たちダンジョン探索チーム《瞬足の獅子(ラピーデ・レオル)》は、そんなイベントに用があった。




 俺の名前は、ノーズ=ドッグス。

 チーム《瞬足の獅子(ラピーデ・レオル)》のリーダーと斥候を兼ねている男だ。


 二刀流使いのノーズと言えば、それなりに界隈では有名なんだぜ。


 そんでチームの仲間は三人だ。


 大柄でムキムキの重戦士の男リッツ=スプリア。


 リッツとは正反対の小柄で華奢な見た目幼女で、攻撃と回復の両方を担う天才魔導師(ブレシアス)パナシェ。


 このメンツの中だとちょっと地味な――だけど、可愛い系美女であるのは間違いない――、味方の補助や敵の妨害に特化した魔導師(ブレシアス)ニコラ=セルベス。


 俺を含めたこの四人で、《瞬足の獅子(ラピーデ・レオル)》だ。



 今日、俺たちは装備の新調の為に、『オータムじいじのよろず店』にやってきている。

 だけど、ただ購入するわけじゃあない。



  【本日、スリーパルフェスタ 開催中】



 入り口の看板に書いてあるこのイベントに参加するためにやってきたのだ。


 かつて鍛冶などの職人業の地位が低かった時代。

 その地位向上に尽力し、自らも優秀な融合職人だったという偉人スリーパルに(あやか)って名付けられたこのイベントは、大量の職人素材や武具、アイテムを入手するチャンスなんだ。


 倉庫整理も兼ねてやっているというこのイベントは、年に一度の一大イベントらしく、一ヶ月以上前から大々的に宣伝して集客をしていた。


 俺たちも何度か挑戦したかったものの、どうにも機会に恵まれず、今回が初めての挑戦になる。


「チーム単位での挑戦で、一回10万ドゥース……。

 だが、話を聞く限りは10万ドゥース出しても損はないらしいからな」

「ああ。武具をメインにしつつ、探索に有用なアイテムを狙っていくとしよう」


 俺の意図を理解してくれているリッツは本当にありがたい。


「ねぇねぇパナシェちゃん。お菓子とか珍しい果物とかもあるらしいよ」

「感謝。良い情報。美味しいは正義」


 背後の女子コンビには不安しかねぇけどなッ!


「とりあえず行くぞ」


 店の前でダラダラだべってても仕方がないので、俺は入り口のドアを開けて中へと入る。


 ――カラン、カラン


 ドアに付けられている小さな鐘が鳴ると、店の奥から人魚(マーメイア)のミツさんがやってきて、迎えてくれた。


「ノーズさんたち、いらっしゃいませ」


 今回のイベントは初めてだけど、お店自体はちょくちょく利用しているので、店員のミツさんとは顔なじみになっている。


「スリーパルフェスタ、参加したいんだけど」

「はい! ご案内しますね!」


 良い笑顔でミツさんはうなずき、こちらへどうぞと先導を始めてくれた。


 どことなく機嫌良さそうに揺れているミツさんの背ビレを眺めている間に、目的地にたどり着いたようだ。


「こちらが会場の倉庫となります」


 ミツさんが示す倉庫は、一見すると、良くある店の倉庫のように見える。やや広めではあると思うけど。


「推測。リーダー。この店はやはり――」

「パナシェ、それ以上言わなくていいぞ。俺もそう思ってたし」


 俺の横へやってきて小声で囁いてくるパナシェにそう返すと、彼女はコクコクとうなずいた。


 どうにも一般的には、店主が空属性の術者故に空間操作を用いて店の内装を広大化してると思われているが、それはちょっと眉唾だろうというのが俺の考えだ。


 むしろ、俺とパナシェは、店主がダンジョンマスターで、この店は商店型ダンジョンなのだと考えた方がしっくりくる。


 もっとも、それを口にする理由はないので、俺もパナシェも心の(うち)に留めておくけど。


 商店型ダンジョンって何だよ――というツッコミはこの際、脇に置いておくとする。


「ここにある武具や道具を好き勝手集めていいの?」

「少し違いますね」


 ニコラの問いに、ミツさんは首を横に振った。


「皆さんは今回が初めての挑戦でしたね。

 では、最初から説明をさせて頂きますね」


 ニコリと笑って、ミツさんが説明をしてくれる。



 スリーパルフェスタ――通称、商品持ち帰り放題。


 参加者は手で持てる範囲で、好きなモノを好きなだけ抱えて良い。

 ただし、商品を壊したり傷つけたりした時点でチャレンジは終了だ。


 持って帰りたい商品には、裏面がベタ付いた紙――シールというものを張り付けなければならない。

 張り付けた商品は、持ち運び中に落としてはいけない。


 果物や野菜、食肉、調理済み品等の食料品はその場で食べてはならない。

 これらはシールを張り付ける必要はないが、手にした時点で、持ち運び対象となるので注意すること。


 職人向けの素材の多くも食料品と同じく手にしたら持ち運び対象となるので注意。

 持ち運び対象になる商品などは、各エリアで一覧の看板があるそうなので、これは気をつけないといけないな。


 商品はこの倉庫エリアのみならず、倉庫エリアから転移陣でつながっている各種自然エリアにもあるそうで――そこに生えている植物や、採掘品なども持ち帰り可能対象らしい。


 ずいぶんと豪気なことをしているもんだ。


「詰め放題イベントと異なり、持ち帰りイベントは精算カウンターまでお持ちになったモノのみが持ち帰り対象となります。

 落としたり壊したり等でチャレンジが失敗した場合も、カウンターへ帰って来て頂きます。その間に落としたモノ等は、持ち帰り対象から外れますのでご注意ください」


 確かに詰め放題の場合は、チャレンジに失敗しても、落としたモノ含めて、それまで詰め込んだ分は持ち帰れるもんな。


 当たり前だが、収納系の魔技(アーツ)魔導(ブレス)の使用は禁止だそうだ。


「つーわけで、お前ら気をつけろよ。

 特にパナシェ。その辺にある果物とか、勝手に食うなよ?」

「…………」


 軽く睨んでみると、パナシェはついーっと目を逸らしやがる。


「食・う・な・よッ!」


 その顔面を両手で押さえつけ、目をのぞき込みながら一字一句しっかりと伝える。

 一応、パナシェはうなずいているものの、口は明らかに尖っていた。


 とりあえず、手を離して解放してから、俺はニコラへと向き直る。


「ニコラ……パナシェの手綱、頼むな」

「はーい。まかせて~」


 手をヒラヒラやりながらの間延びした返事に、いい知れない不安を覚え、俺は思わずリッツの肩に寄りかかった。


「どうしよう……不安しかねぇんだけど……」

「そうは言っても、ノーズ。チャレンジはするのだろう?」

「そうなんだけどさ……」


 小さく嘆息して、俺は気を取り直す。


 そうだ。ダンジョン探索において、こいつらほど信頼できる仲間はいない。きっと今回だって、ノリはともかく、始まればちゃんとやってくれるはずだ!

 俺はそう信じてるッ!


 …………………………そう信じたい………………。



「では、ノーズさん。こちらをどうぞ」

「これは?」


 ミツさんが手渡してきたのは、握り拳ほどの水晶だ。


 中には【60】と数字が浮かんでおり、その周囲には六つの火が漂っている。


「チャレンジ開始と同時に、ゆっくりと中の火が消えていきます。全ての火が消えると、中央の数字一つ減り、再び六つの火が灯ります」


 その説明に、リッツが小さくうなずいた。


「制限時間か」

「はい。中央の数字が0になった時点でチャレンジ終了なので、戻ってきて頂きます。その際の、ルールは落下等と同じです」


 あまりのんびりもしてられないワケか。

 どこかで、妥協した厳選が必要になるかもしれないな。


「また、これが0になる前にカウンターへ戻って頂いた場合、残り時間が多いほど、チャレンジ料金が割り引かれますので、ご利用ください」

「…………」


 俺たち四人は顔を見合わせた。

 これは、なかなか難しいぞ。


「提案。時間による割引は無視」

「そうだな。勝手が分からない状態では、なにが最善かも分からないからな」


 パナシェの提案に、リッツもうなずく。


「残ってたらラッキーくらいがちょうどいいか」

「そうだね。残り時間を気にするのは次回のチャレンジでってコトで」


 俺とニコラもそれに賛成した。


「では、倉庫中央の地面に描かれた輪の中へどうぞ。

 そこでチャレンジと唱えますと、チャレンジ開始となります」


 言われるがままに、その場所へと移動し、全員が準備できたのを確認してから、俺はチャレンジと口にする。


 すると、手の中の水晶に書かれて文字が黒から赤へと変化した。


「さて、いくぞッ!」


 気合いを入れて、俺たちは持ち帰り放題を堪能するべく足を踏み出した。



 ――と、言ってもまずは、このふつうの倉庫エリアを見渡すことから始めた。


「ねぇねぇ、ノーズ」

「どうした? ニコラ」

「気になるコトがあるんだけれども」

「ああ」

「……剣も槍も斧も……鞘とかカバーとか、付いてないよね?」


 言われて、俺とリッツは周囲にある刃物系の武器を確認する。

 確かに、どれにも鞘のようなものはない。


「ミツさん。これ、鞘とかは?」


 思わず訊ねると、ミツさんはとても良い笑顔で答えてくれた。


「がんばって持って帰ってきてくださいね」

「まじか……」


 抜き身の刃物を、抜き身のまま持ち運べ――と。


「どうするリッツ?」

「どうすると言われてもな」


 俺とリッツは、剣を欲しいと思っているのだが、切れ味の良すぎる剣とか持ち運びが些か怖い。

 欲張って大量に抱えると、その刃で体を傷つけてしまいそうだ。


 血とか付けたら、チャレンジ終了になっちまいそうだしなぁ……。


「提案。まずは大盾を選ぶことを推奨」

「大盾?」

「是。装備としての用途は不問。形状を重視。水平型ないし器に出来る形状ほど(よし)。軽量ならなお(よし)


 俺とリッツが首を傾げていると、ニコラがパンパンと手を叩く。


「二人とも、とりあえずそれっぽいの用意したら?

 考えてる時間、無駄じゃない?」

「それもそうか」


 俺とリッツはうなずくと、適当なのを見繕い、パナシェに見せる。


「どっちが良いんだ?」


 俺が選んだのは大型のトータスシールドだ。

 名前の通りモンスターの甲羅から作られた盾だ。俺が手にしてるのは特殊なモンスターの甲羅を使っているので、かなり軽い。

 とはいえ、いくら軽かろうと、スピードを重視して手数で押すのが得意な俺には、無用の長物なんだけど。


 リッツが選んだのは、かなり大型のタワーシールドだ。

 フェザーメタルという丈夫ながら、羽のように軽いとされる金属で作られたもの。

 めっちゃくちゃデカい盾で、長方形のその盾は、大柄のリッツが構えても頭の先とつま先くらいしか外に出ない。


「選択。二人で持つならこっち」


 二人で持つ――という言葉に俺とリッツは首を傾げるが、パナシェはタワーシールドを指さした。


 それからパナシェが言う通りに、俺は盾の上、リッツは盾の下側を持ち、ひっくり返した。

 タワーシールドはやや反っているので、ひっくり返すと内側がやや窪む。


「成功。以後、これを器に使う」


 そう言って、パナシェは手近なナイフを一つ手にすると、盾の内側に乗せた。


「なるほど」


 確かにこれなら、気をつければ刃で手を傷つける心配はなさそうだ。

 俺もリッツも槍や斧は使わない。剣だけ選べばそれでいいだろう。


 とはいえ、こんな大きな盾を二人で持ちながらというのは些か大変なので、まだ一人でも問題ない量の現状はリッツが一人で持つことになった。


 俺用とリッツ用で、剣を六本ほど選んで盾に入れる。

 ニコラとパナシェにナイフは要らないかと聞いたら要らないと言われたので、ひとまず倉庫エリアの探索は終わりだ。


 近くにあった転移陣へと乗って、次のエリアへと移動する。



 次のエリアは――


「提案。早急に次のエリアへの移動を希望」

「あたしも~……それがいい~……」


 女性陣二人の不満も分かる。

 何せやってきたのは、溶岩流れる洞窟エリアだ。


「クソ暑いな」

「オレもとっとと次に行きたい」


 リッツも二人に賛成するので、俺もそれで良いとうなずき、次のエリアへ向かう転移陣を探すことにする。


「お店の中のはずなのに、ふつうに探索してる気分になるね~」

「本当にな」


 ニコラの言葉にうなずきながら、周囲を見渡す。

 すると、看板が設置してあり、順路と書かれていた。


「この看板通りに進めばいいみたいだぞ」


 俺がそれを指さすと、三人はほっとしたような顔をした。


「でもさ~、こんな暑いところに何を保管してるのかな~?」


 のんびりと口にするニコラに、パナシェが少しだけ道を外れたあと、何かの鉱石を持ってきた。


 仄かに赤く光るそれは――


「解答。ホットストーンに代表される、熱を帯びた鉱石。あるいはそれらを用いた武具や、火の魔石を用いた道具など」


 そう説明して、ホットストーンを盾の中へ入れる。


 説明の為に手にしたけど、ルール上、その辺に投げるワケにはいかなくなって、やむを得ず入れたな、パナシェ(こいつ)……。


 ――それはさておき。


「まぁそれ以外にもあるんだけどな」


 俺はそう言って、ちょっと道を外れたところの台に突き刺さってる剣を示す。


「名工カンパリオスの鍛えたと言われる、常に炎を湛え続ける炎熱の剣――フレイムブランド。何でこんなとこにあるのか知らないけど、あれ本物だぞ」


 ダンジョン内でも良く使用する鑑定能力を使って見た結果だから、間違ってないはずだ。


 鑑定結果に――


  名工カンパリオスの鍛えたげたブランドシリーズの一つ。

  試作型フレイムブランドMk-Ⅱ-Sk(ちょっと失敗作)


 ――そう出るのだから。



 ……なんか、表示の結果がアレな気もするけどさ。


「欲しいの?」


 ニコラに問われて、俺とリッツは少し顔を見合わせる。


 それから、二人して首を横に振った。


「まぁ手に入れて、別の店に売れば良い値が付くだろうけど……」

「フレイムブランドって言えば、特殊な鞘に入れないと常に発し続ける熱で、鞘が溶けるらしいしなぁ」


 要するに持ち運び手段がないわけだ。

 レアな装備ではあるけど、持ち運べないし、使いどころが難しいのであれば狙う気はない。


 何より――


「あの武器、このイベントだとトラップだ。

 鞘無しって時点で、持ち運びが面倒くさいぞ」

「リッツの言うとおりだ。他の商品傷つけたらアウトなのに、常に熱と炎を発してる剣なんぞ持ち歩けるかよってな」


 先月の魔石の詰め放題に使われてるエリアとか思い返してみると、森林エリアだったしな。

 このイベントにもあそこが使われてるなら、あんな剣を持って歩けないぞ。


 ニコラとパナシェが納得したところで、棚の設置されてる場所へとやってこれた。


 すぐ近くに転移陣も見える。


「ノーズ。フレイムタンだ。

 人間には造れないと言われる特殊武器が、こんな無造作に山ほど置かれているのが信じられないが……」

「まったくだ。だが誰が持ってても有用だしな。四本は確保しておく」


 呪文一つで、切っ先から小さな火球を放つナイフだ。

 魔素(ルーマ)を必要とせず使える為、魔導術(ブレス)が使えない俺やリッツはもちろん、魔素(ルーマ)が尽きたニコラやパナシェも使用できるというのは大きい。


 本当は四つ以上欲しいが、フレイムタンだけで盾を埋めてしまっても意味がないしな。


「ねぇねぇ、パナシェ。これ……」

「是。フレイムボアの毛で編まれたローブ」


 二人は確認しあうと、躊躇うことなく自分のサイズのモノを手にした。

 耐熱・耐刃性の高さはもちろん、保温効果も高く、寒い場所では重宝するローブだ。


 耐刃性が高いとはいえ、刃物の入った盾に入れるのは怖いということで、二人はローブを自分の手で持っていくことにしたらしい。


 俺は二人に絶対落とさないようにと注意して、俺たちは次のエリアに向かうのだった。



 そのあとも、どうなってるんだってくらい不思議なエリアが続く。



 白い砂浜の海岸で、鍾乳石の洞窟に棚が置いてあったり、


 溶岩地帯があるならあるだろうな――と想定していた通りの、氷の洞窟があったり、


 入り口で特殊な松明を受け取らないと中の様子が分からない暗闇があったり、

 

 逆に眩しすぎるので、周辺に闇を放つ松明を手にしてするむ場所があったり、


 空に浮かぶ小島連なる場所だったり……


 


 浮遊島エリアの転移陣にたどり着いた時に、俺は思わず叫ぶ。


「いや、これもう完全にダンジョンだろッ!」


 いくつかのエリアはそこで武具を探さずにとっと次のエリアへと移動したので、時間の余裕はまだまだあるのが救いっちゃ救いだ。


「モンスターがいないだけで、まさにな……」


 リッツも疲れた様子でうめく。

 もっとも、リッツが疲れているのは、盾の上に乗った各種武具の重量の問題もあるんだろうけどさ。


「リッツ、そろそろ手を貸すか?」

「いや。まだ大丈夫だ。肉体より精神的な疲労の方が大きい」

「わかる~」

「肯定。疲労困憊」


 倉庫である以上、利用者が死なないような設備はあるのだろうけれど、こうも頻繁に環境が変わるのは結構シンドいモンがある。


「ほら、パナシェ。立て。次のエリアに行くぞ」

「拒否。疲労困憊」

「次のエリア次第じゃ背負ってやるから、立ってくれ」

「……了」


 嫌々ながらも立ってくれたパナシェに俺は小さく安堵して、次のエリアへと進んだ。


 そうして、転移した先は森林エリアだ。


「なんていうか、安心するな」

「わかる」

「何の特殊性もない森林ってほんと、落ち着く~」

「指摘。よろず店の倉庫に森林があるコト自体が特殊」


「「「そうでした」」」


 パナシェの指摘に、俺たちは思わずうなだれる。

 どうにも感覚がマヒしちまってるようである。


 ともあれ、まずは物色だ。


「ここは木製装備が多いのか?」

「そうみたいだけど、ただの木製じゃなさそうだ」


 手近な木刀を手にとって、試し斬りようの人形を切りつけた。


「だって斬れるんだぜ、これ。ふつうに……」

「ノーズ、それ。一本欲しい」

「あいよ。俺の分も入れるぞ」


 リッツがうなずくのを確認してから、俺は盾の中へと木刀を二本……


「どう入れればいいんだ、これ」

「オレは触れないからな。パズルは任せるぞ。

 ただし……こっちに向けて崩れるようなのは勘弁しろよ」

「そんな恐ろしいコトにならねぇように気をつけるさ」


 色んなモノを入れすぎてこんもりしてる盾の中に、どうやって木刀を置くか考えていると、視界に赤いモノが通り過ぎていく。


「あん?」


 訝しんでいると、その赤いモノは、盾の上に乗っかっているモノの隙間に綺麗に収まった。


「……リンゴ?」


 飛んできた方向を見ると、浮遊の魔導術(ブレス)で浮かびあがり、棚エリアの近くの木になっているリンゴをもいでいるパナシェの姿がある。


「ぱーなーしぇーッ!!」

「失態。気づかれた」

「気づかないわけがねぇだろうがッ!!」


 こちらへ向かってリンゴを二つ投げ、すぐに着地すると逃げ出した。

 飛んでくるリンゴは、風の魔導術の影響でも受けているのか、不自然な軌道で空中を駆けて、盾の上の隙間に綺麗に収まる。


「あいつは……」

「まぁこれが崩れなかったんだ、いいじゃないか」

「リッツ。甘やかしすぎるのも良くないぞ思うぞ」


 嘆息しながら、俺はどうにかこうにか、二本の木刀を隙間にねじ込んだ。

 リンゴの収まり方がヒントになったのが少しばかりシャクではあるが。


「しかし、さすがに限界かなぁ……」


 盾の上で積みあがったアイテムを見ながら、俺はうめく。


「木刀と同じ素材の木製の胸当てとか、少し興味があったが……」

「んー……しゃーない。リッツの欲しいそれは俺が担いでいくよ」

「悪いな」


 重量よりも置き場所がない胸当ては、俺が手で持つことにする。


魔技(アーム)による身体強化はまだ持ちそうか?」

「問題ない。制限時間内ならいけるさ」


 そんなやりとりをしていると、ニコラが木製の杖を手に駆け寄ってくる。

 見た目はただの樫の杖みたいだけど、あれも何か特殊性を持っているんだろう。


「リ~ッツ! これも置かせてッ!」

「……どこにだ?」

「ん~……」


 盾の上の状態を見て、ニコラはむむむむ~っと唸る。


「杖一本くらいなら手で持てるだろ? ここが止め時として、退こうかと思ってるんだが」

「そうだね~……うん。仕方ないけど、そうするッ!」


 ニコラがそれに納得してくれたようなので、俺たちは次のエリアへ行く転移陣ではなく、倉庫へと戻る転移陣を探すことにした。


「そういえば、パナシェは?」


 周囲を見渡すとその姿がなく、三人で首を傾げる。


「お~い、パナシェ~! そろそろ行くぞ~! どこだ~!」


 すると、やや離れた場所から返事が返ってきた。


「応答。ここにいる」


 声のした方に俺たちが視線をむけると、一抱えほどある皿の上に、大量のお菓子を乗せたパナシェがそこにいた。


「リンゴに続いておまえはぁぁぁぁぁ――……ッ!?」


 俺が思わず頭を抱えると――いや、手に持ってる胸当てが邪魔で実際に頭を触ることはできないんだけど――、パナシェがひどく真面目な顔で見上げてきた。


「なんだよ?」

「要望。リーダー。少ししゃがんで」

「?」


 言われた通り俺がしゃがむと、手に持っていた皿を俺の持っている胸当ての上に乗せて来やがったッ!


「おいッ!」

「警告。落ちる」

「……ッ!」


 咄嗟、傾いた皿を押さえた。

 押さえたけど、体勢が不自然すぎてつらい。


「……ニコラ。立ち上がる手伝いを頼む」

「う、うん……。大変だね」

「お前に手綱を頼んだはずなんだが……」

「だって一緒に杖を見てると思ってたんだよ~」


 途中までは一緒にいたらしい。

 ただ、ニコラが杖選びに集中しだした辺りでスキを見て、居なくなったようだ。


 ニコラに皿を押さえてもらいながら、胸当ての持ち方を変えて、皿と一緒に押さえられるようにしてから立ち上がる。


「さんきゅ、ニコラ」

「非力でお手伝い出来なくてゴメンね~」

「気にするな。適材適所だろ」


 立ち上がって一息付いた時、何故か俺の背後から声が聞こえてきた。


「警告。リーダー。背中の衝撃注意」

「は?」


 意味が分からないものの、背中から何かが来るのだということだけは理解できたので、何が来てもバランスを崩さないように覚悟を決める。


 瞬間――


「ぐ……ッ!」


 確かに、何かが背中にぶつかったような衝撃が走った。

 加えて背中に何か重いモノがへばりついているような――


「何が……?」

「返答。背負ってくれる約束」

「……そうかよ」


 どうやらパナシェが背中にくっついているようだった。


「ノーズ、平気?」

「まぁあとはカウンターへ行くだけだしな」


 嘆息して、俺は身体強化の魔技(ルーマ)を使う。


「リッツほど長続きしなくても、そのくらいの時間なら問題ない」

「ならいいけど」

「どうせパナシェは離れるつもりもないだろうしな」

「是」


 ほらな――と、ニコラに苦笑を向けると、彼女も苦笑を返してくれる。

 その顔にちょっとした癒しを覚える。


 俺がニコラの顔にほんわかしていると、リッツが俺たちを呼ぶ。


「ノーズ! ニコラッ! 倉庫への転移陣はここの小道の先みたいだぞ」


 こちらがダラダラしている間に、リッツは帰り道を探しておいてくれたようだ。


「分かった」

「今行きま~す」

「不満。名前を呼ばれなかった」


 そりゃあ、お前が俺の背中にいるからだろ――とは敢えて言わずに、俺たちはリッツの元へと歩き出した。


 倉庫へ帰る為の小道の途中――


「おい、パナシェ」

「何?」

「背中に乗っかるのはいいんだが、マントのフードを引っ張るな。苦しい」

「否定。引っ張ってない」

「そうなのか?」


 俺は首を傾げる。

 だが、フードが引っ張られているように首を圧迫してるんだが……。


「えーっと、ノーズ」

「どうしたニコラ?」

「……確かにパナシェちゃんはフードを引っ張ってないけど……」


 言って良いのか迷うようなニコラに、俺は頭痛を覚えながら、先を促した。


「むしろ、ちゃんと報告を頼む」


 そう言えば、ニコラは一つうなずいて、答えてくれる。


「パナシェちゃんが、脇に生えてる木の実をもいではフードに入れてるみたい……」

「……おう。パナシェ。テメェは俺のフードに何を入れてる?」

「解。リンドアの実」

「おいコラ! 何でリンドアを入れやがったッ!?」

「解。美味」

「味の話はしてねぇよッ、リンドアの汁が乾くとミルクの腐ったような臭いになるだろうがって話をしてんだよッ!」

「否定。わたしは困らない」

「そりゃあなッ! 俺のフードが臭くなるだけだからなッ!」


 やいのやいのとパナシェと言い争いをしているうちに、転移陣へとたどり着く。


「なんか……無性に疲れた……」

「パナシェちゃんの相手、ご苦労様」

「……おう」


 そうして、転移し、ようやく倉庫へと戻ってくる。


 そこからカウンターへ向かう途中、ふと思ってリッツに訊ねた。


「そういや、重量はともかく、バランスは大丈夫だったか?

 結構積み上げちまって不安定だったと思うんだが」

「それなんだがな……」


 リッツはやや言いづらそうに答える。


「パナシェが突っ込んできたリンゴ。あれが良い具合に噛んだ――というかハマり込んだというか――おかげで、逆にバランスが良くなったんだ」

「そうか」


 勝ち誇ったように俺の背中の上で笑みを浮かべて、親指をピッとあげるパナシェが、妙にムカつくが……まぁいい。



 俺たちは無事にカウンターへとたどり着いて、精算をする。


「こちら、通常で総額48万6千450ドゥース分ですね。

 今回のチャレンジ料は10万となります」


 俺たちは思わず顔を見合わせた。

 結構良い具合の結果じゃないだろうか。


「あのあの、ミツさん」

「はい? なんでしょうか」

「参考がてらに聞きたいんだけど、持ち帰り放題の最高金額っておいくらなんですか?」


 お。それは俺も気になるな。


 ニコラの質問に、ミツさんが笑顔で答えてくれる。


「およそ100万ドゥース相当ですね。

 もっとも大量に持ち帰ったというパターンではなく、高額のを数点というパターンでしたが」

「そうか。詰め放題と違って、対象商品の金額の振り幅が大きいからそういうコトもあるのか」

「はい。ですので、詰め放題と違ってこちらはあまり記録を残してはいないのですよ」


 それでもこうやって聞かれることが多いので、最低限の高額持ち帰りの金額だけは覚えているらしいけれど。


「そういえば、鞘とかはもらえるんですか?」


 リッツの質問に、ミツさんはうなずいた。


「もちろんです。査定中に指示をだしておきましたので、そのうち別のスタッフがここへ届けてくれるはずですよ」


 その辺りはちゃんと考えてくれているらしい。

 ちなみに、フレイムブランドみたいな剣用の鞘もちゃんと用意してあるようなので、無事にここまで持ってこれれば持ち帰れるようだ。


 食料系は脇に避けて、持ち帰った武具やアイテムについての性能や使い方、注意点などをミツさんに聞く。

 何も知らずに使うのは危ないしな。


 鑑定の魔技(ルーマ)を使えば良いんだろうけど、それとは別にちゃんとお店の人から話を聞いておくっていうのは重要だろう。


 そうこうしているうちに、鞘などが届き、刃物を片づけていっている時に、ふと気が付いた。


「……パナシェが大人しすぎる……」

「そういえば……パナシェちゃん、寝ちゃったかな?」


 俺とニコラで首を傾げていると、何やらリッツが額に手を当てて天井を仰いでいた。


「どうした、リッツ?」

「あれを見ろ、ノーズ」


 リッツが指で示す先には、ベーシュ諸島伝統の座り方――正座をしているパナシェが、ペロリと右手の親指を舐めていた。

 そのほっぺたには白い生クリームのようなものがついている。


 そして、パナシェの目の前には食料品を乗せてあったはずのトレイ。

 その周囲には、お菓子を包んであった紙などが転がっている。


「なぁパナシェ……」

「応答。やはりこの店の甘味は美味」

「聞いてねぇぇぇぇぇッ!」


 マイペースなパナシェに、俺は今日一番の叫び声をあげるのだった。



 …

 ……

 ………



『オータムじいじのよろず店』。


 人が良さそうな、温厚そうな――そんなお髭豊かなおじいさんの描かれた看板を掲げたそのお店は、よろず店の名の通り、生活必需品から、包丁などの調理器具、探索者(シーカー)向けの探索必需品に、武器や防具、薬に、果物や野菜、食肉など、ほんとうに何でも取り扱っている店。


 ……何気にここの甘味は、帝都の中でも上位に位置する味として、女性たちから絶大な支持を受けている。

 ……それはもう、帝都にくる度にパナシェがうるさいほどに……。



 ……甘味を除いても、圧倒的にお買い得な買い物ができたはずなのに、なんでこんな釈然としない気持ちになるんだよ……。



 お読み頂き、ありがとうございました。


 前回を書き上げたあとで、すぐに持ち帰り放題というアイデが浮かんだので筆を走らせてしまいました。

 その結果、ロクに間をおかずの第二弾です。


 連載としてアップしなおすか、このまま読み切りとして第二弾をアップしようか悩みましたが、読み切りでいいかな……ということで、この形に。


 第三弾があるとしたら、ここまでの速度では出てこないと思いますので。

 次があるなら、連載としてアップしなおそうかとも思います。その時はまたよろしくお願いします。


 ここまで読んで下さった皆様に、改めて最大級の感謝(ありがとう)を。では。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおっ! フレッドが歴史に名を残してる!! [気になる点] 商店型ダンジョン? 店員のミツさん? あの~店長さんのお名前、もしかしてアユムさんって言いません?w [一言] 面白かったです。…
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