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精霊姫の宝石箱  作者: 乙原 ゆん
第四章 比翼

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12.出立

 だいぶ日は高くなっていた。

 予定通り、王城を出入りする人に紛れて外に出る。

 さすがに王城から護衛や星藍と共に出発するのは目立つので、落ち合う場所を決めていた。


 待ち合わせ場所に到着すると、既に彼らは来ていた。

 迅も星藍の隊商が目に入ると一瞬難しい顔をしていたが、一緒にいる兵たちを見て、表情を緩めた。

 璃桜がつけてくれた護衛の兵たちだ。

 あちらも沙羅たちに気が付いたようで、星藍が前に出てくる。


「この度は、このようなお話を頂き大変光栄に思っています」


 にこりと笑顔を浮かべて礼をする星藍に、迅は簡潔に告げる。


「普通に話してくれ。

 身分を隠す意味がなくなる」


「わかりました。

 お言葉通り、過度な言葉遣いはやめましょう。

 しかしあなた方は客先からお預かりした大事なお客様です。

 私どもが共にいる間は不自由はおかけいたしませんので、どうぞゆっくりお過ごしください」


「わかった」


 礼をする星藍に迅は短く返す。

 そして、迅は星藍から少し離れた位置に立つまだ若い男をみた。

 迅よりも年上に見えるが、それでも三十代くらいだろうか。

 沙羅は彼と迅が王城で共に訓練していた姿を見たことがあった。

 兵士の鎧ではなく、以前寛元の隊商に居た時に見たような護衛が着るような装備をしている。


あるじより、瑞東国国境までお送りするよう言いつかっています」


浩軒こうけんたちが来てくれて心強い。

 よろしく頼む」


 慶黄国の北側は異民族と時々戦闘になることもあり、治安が良いわけではない。

 挨拶を交わした後は、どういう行程で行くつもりなのか簡易な地図を見ながら迅と星藍、浩軒とで打ち合わせている。

 それが終わると沙羅たちは馬車に案内され、出発となった。



  *  *  *



 事前に迅と喬に警戒を促されていたことにより沙羅も身構えていたが、意外なことに星藍たちとの移動は快適だった。

 星藍たちの隊商は全員が騎馬を持ち、王城から遣わされている護衛も全員が馬を連れてきていた。

 他の荷も荷車に乗せられており、自然と移動は馬車の速度にあわせたものとなった。


 昼間に移動距離を稼いだ分、夜は日が暮れる前に通りがかりの途中の町で食堂付きの宿で休むことができた。

 まだ旅が始まって一日目だが、ほぼ宿を利用した旅になるという。

 途中野宿も挟むことはあるそうだが、それは山越えをする時だけのようだ。


 星藍、浩軒と沙羅たち三人が同じ卓についている。

 他の者は何名かに分かれ交代で食事をとるようだ。


「もうけているようだな」


 出された食事に手を付け、迅が星藍にいう。


「皆馬を持っているからですか?」


 星藍が首を傾げながら言う。


「それもあるが、装備にも金をかけていると見える。

 隊の者たちもかなり練度が高そうだ」


 迅の言葉に星藍が嬉し気に頷く。


「精鋭をつれてきていますからね。

 それに、馬については儲けているというよりは、最低限馬がおらねば仕事にならないからでしょうか」


 星藍は言葉を足す。


「私どもは砂漠を超えて商売を行います。

 こちらで長居をする時間も取れないので、移動速度を重視しているのです。

 ならばこそ、このような仕事を頂くことができましたし、算盤は弾いていますよ」


「どんなものを扱ってるんだ」


「あちらで人気なのは何といっても絹ですね。

 こちらではあちらから持ってきた銀器や金器、酒などが多いですが、一番は香木でしょうか」


「香木? あの高級品か」


 香木といえば一切れの木片にその何倍もの金が積まれるという。


「王城にも卸しているのですよ」


「へぇ」


「ご入用の際はお声をおかけください」


「機会があればな」


「ところで、ぶしつけなことをお伺いさせていただいてもよろしいでしょうか」


 改まって問う星藍に、迅は不審げな様子を見せながらも続きを促す。


「なんだ?」


「何故、あなた様は元のお立場へと戻ることを決められたのですか」


「そうだな……」


 迅は言葉を吟味するように考え込むと、口を開いた。


「向き合わねば、俺が前に進めなかったから、だろうか」


「以前の選択を後悔されているのですか?」


 涼やかな声だが、星藍が迅を見つめる眼差しに一瞬鋭さが混じるのを沙羅は見た。


「後悔、か。

 少し違うな。あの時は、あの選択が俺の精一杯だった。

 今は、あの時嫌で仕方なかったもの、そういうものを含めたすべてが俺を作ってきたんだと思えるようになった。

 ただ、俺がそうして回り道していたから、弟に色々背負わせてしまった。

 だから、せめてその荷を分かち合いたいと思っている」


「あなた様は精霊と契約をされていると伺っています。

 この国でのお立場だけでなく、大きなお力をお持ちだ。

 力ある者の責務、というのでしょうか。

 そのお力をより広く人のために役立てようとは思われていないのですか?」


「確かに俺は精霊と契約していて、望めば精霊に力を借りることはできる。

 必要ならば力を借りることに否はないが人の世のことは、基本的には自分の力で対処していくべきなんじゃないかと思ってる。

 つい頼っちまうがな。

 だから、弟たちが俺にどういう役割を期待してるのかは知らんが、俺は俺に出来る形であんたのいう責務を果たしていこうと思っているよ」


「左様、ですか」


 星藍はどう考えているのか読み取れない笑顔のまま頷き、礼を言う。

 その後は特に当たらい障りのない会話をして食事は終わった。

次回も予定通り来週月曜に更新予定です

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