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精霊姫の宝石箱  作者: 乙原 ゆん
第四章 比翼

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10.園遊会3

 精霊が降り立った璃桜のもとに人が殺到している。

 璃桜は一人一人と話をするようで、庭に降り丁寧に対話していた。


 話しかけることのできる身分の者以外も、精霊をつれている璃桜を一目見ようと遠巻きにしている。

 精霊は璃桜が一人目と話し始めてすぐに鳥の姿に代わっていた。

 今は璃桜の肩に乗っている。


 沙羅と迅、喬はそれを遠巻きに見ていた。

 他の国の使節と話をしていた瑞東国の使節の雲恵と目が合った。

 瑞東国以外の国の使節も式典に呼ばれていたようだ。

 雲恵はそのまま話していた相手に黙礼すると沙羅に寄った。


「姫様におかれましては、ご機嫌麗しく」


「ご機嫌よう」


 そうしている間に迅の方には将軍が話したそうに近づいてきた。

 喬はと見れば、儀式の準備などを共に進めていた神官が様子を伺っていた。

 また後で合流しようと話し、一旦別行動を取ることにする。

 

 雲恵は沙羅に改めて礼をとる。


「この度のこと、誠におめでとうございます。

 こちらの国に長く滞在させて頂いているという以外に取柄はありませんが、最大限便宜を図らせていただきます」


「ありがとう。

 頼りにしています」


「私としてはこうして公に姫様とお呼びすることができるようになり、大変うれしいです」

 帝からも姫様が不自由なく過ごすよう配慮せよと言われています。

 お役目が決まられましたら、また必要なものも出てきましょう。

 その時はまた声をおかけください」


 雲恵がちらりと迅の方を見やったので、沙羅も頷く。

 まだ今後迅がどういう仕事をすることになるのか決まっていない。

 璃桜は沙羅と迅の莱紅国らいこうこくへの伝手や沙羅の瑞東国とのつながりを生かし、外交的な仕事を振りたいと考えているようだが、武官たちからはいずれは我らの上に立ってほしいと希望が出ているそうだ。

 迅を軍部に近づけることに懸念の声もあがったが、それらの声は迅の名誉のために璃桜が一笑に付した。


 ――王位を欲していたならば、即位の際に迅は何故私を助けたのか、と。


 璃桜の信頼は嬉しいことだが、結果、迅の引き合いが増え、改めて今後が吟味されることになった。

 雲恵とはその後少し瑞東国のことなど話をした後、まだ他の人に挨拶があるというので見送った。


 迅たちがどこにいるかと探すために辺りを見渡すと、見たことのある美丈夫がいた。

 名は、確か星藍せいらん

 漢廊かんろうの町の楼閣で寛元から紹介を受けたのを覚えている。

 寛元は王城に伝手があるといっていたが、彼も呼ばれていたようだ。

 星藍の方も沙羅に気づいたようで近寄ってくる。


「ご機嫌よう」


「ご機嫌よう、星藍殿」


 沙羅が同じ言葉を挨拶に返すと、星藍は嬉しそうにはにかんだ。

 西国風の装いは変わっていないが、いつか会った時よりもより高級感のある装いだ。

 一級品と一目見てわかる布を使い、華やかな蔓草の刺繍が一面にほどこされている。

 深い藍色の髪は今日も結われ、繊細な銀細工が頭上で揺れていた。


「まさか覚えていて頂けるとは光栄です。

 ところで、珍しいお召し物ですね。

 姫君によくお似合いです」


 言葉遣いなどから沙羅が瑞東国の姫にあたると知っているようだが、あえてなのだろう、星藍は漢廊で会ったことには触れず、沙羅の衣装に興味を示した。


「ありがとうございます。

 故郷の瑞東国のものです」


「そうなのですね。

 あまりものを知らず、お恥ずかしい。

 しかしこのような繊細な染物があるのですね。

 こちらのことを色々勉強していたつもりですが、まだ知らないものはたくさんありますね」


「ご興味があられるのでしたら、後で国から参っている使節に伝えておきましょう」


「ありがとうございます。

 私は布なども扱うもので、つい興味が抑えきれず。

 ご無礼と思われていないとよいのですが」


「私も故郷のものを褒められて嬉しく思います」


 沙羅の返答に、星藍は嬉し気に続けた。


「寛大なお言葉に感謝いたします。

 ところで、姫君のたくさんのご活躍についても耳に致しました。

 尊いお力で、この国の精霊様を癒し慰められたとか」


 星藍の銀色の瞳が一瞬、真っすぐに沙羅を射貫いた。

 だがすぐにそれは霧散し、穏やかな色に覆い隠される。


「実は我が国にも同じような方がいらっしゃるのですよ。

 あなたのような方を、故郷では精霊姫と呼んでいます」


 沙羅は星藍が何を言いたいか意図がつかめず、問い返す。


「星藍殿の故郷ですか?」


「ええ。砂漠を超えた先にある、精霊を愛し精霊に愛される国です。

 こちらよりはるかに気候など厳しいのですが、夜になると星が降るように輝いてそれはもう見事なのです」


「よい国なのでしょうね」


「はい」


 当たり障りのない返しをする沙羅に、星藍は笑顔で頷いた。


「機会があれば我が国にも姫君をお招きいたしたいと思うのですが――。

 しかしそれは、きっと難しいことなのでしょうね」


 星藍が自分で言うように、沙羅が砂漠を超えて星藍の故郷に行くことはおそらくはないだろう。

 そう思うがそのまま答えるわけにもいかず、沙羅は曖昧に笑うことで答えなかった。

 星藍も気にすることなく続ける。


「それでは、本日はお話しできて光栄でした。

 今日こうしてお話しできたことは生涯の思い出に致します。

 私どもは、この後こちらの国の北を回り、国に帰る予定です。

 しばらくはこちらを離れますが、一年ほどで戻ってまいります。

 珍しい品なども持って参る予定ですので、戻りましたらお目通りを許していただけると嬉しいです」


「周りのものと話してから決めることになると思いますが、覚えておきましょう」


 しっかりと今後の営業をする星藍に、沙羅も確約はせず、出来る範囲での回答にとどめる。

 しかしそれで十分のようで、星藍は礼をして立ち去った。

 その後迅たちと再び合流し、園遊会は何事もなく終わった。

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