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精霊姫の宝石箱  作者: 乙原 ゆん
第四章 比翼

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8.園遊会1

褒賞の儀

 沙羅と迅の結婚については瑞東国の使節も交えて幾度も話し合いが行われた。

 瑞東国へも早馬が出され、慶黄国としてひとまず今後どのようにすすめていくのがよいか速やかに決められていく。

 沙羅の結婚は最終的には瑞東国の帝の裁可が必要となるが、それでも沙羅を迎えるにあたり迅をどう遇するのか、継承権などの問題を解決しておかなければならなかった。

 決まったことも、瑞東国から戻った後に決めなければいけないことも残っているが、ひとまず今度の園遊会では迅と沙羅の身分についておおやけにすることとなった。


 園遊会当日。

 沙羅は瑞東国の正装を着ていた。

 紫紺色の瞳に合わせた濃い紺色の地に、白、金、朱色などの色鮮やかな花が描かれている晴れ着で、帯は白地に金が織り混ざっている。

 清楚さと可憐さが際立つ装いだった。

 支度ができたところで、迅の来訪が告げられる。

 会場となる正殿まで喬と三人で向かうことになっていたが、先に沙羅を迎えに来たようだ。


 このように華やかな格好をするのはいつぶりだろうか。

 沙羅は少し気恥ずかしく思いながら迅の前に出る。


「きれいだ――沙羅に、よく似合っている」


 眩しいものを見るようなそんな眼差しで、どこか照れた様子も見えるのに、真っすぐに言葉にされ沙羅も照れる。

 迅はというと、慶黄国で王族にしか許されない色と形の衣を身にまとっていた。

 深緋色の装束は迅の髪色とよく合い、堂々とした佇まいは王族然として見える。

 婚約を結ぶのは瑞東国の帝の許可を得てからとなるため、今回の衣装は色を合わせたりはしていないが、飾り紐などは同じ形になるよう調整していた。


「喬を迎えに行くか」


 短い距離であるが、自然と手をつないでいた。

 喬も準備が終わっていたらしく、女官に取次ぎを頼むとすぐに出てきた。

 白地に豪華な刺繍が入った礼服である。

 迅と婚約を結ぶことについて喬にも話してあったが、まだ公にしていいことではないため黙っていてもらうようにお願いしていた。


「二人とも、そうしていると本当に王族なんだって感じがするね」


「どういう意味だよ」


「少なくとも、お忍びのお嬢様とその下僕には見えない」


「――、そういう話をしたこともあったな」


 いつだったか、出会ってすぐの頃の会話が懐かしい。

 あれから、まだ一年経っていないというのが信じられないくらいだ。



  *  *  *



 春の盛りだった。

 晴天に恵まれ、日差しに温められた風が花の薫りを運んでくる。

 正殿の中には貴族たちが呼ばれており、そこで先に式典が行われることになっていた。


 外の前庭には招待された者のうち貴族位がないものたちが並んでおり、式典が終わり次第全員がそちらに移動する。

 既に到着している貴族たちに注目されながら、女官の先導のもと沙羅たちも正殿に入り璃桜の登場を待つ。

 正殿の中は璃桜と共に現れるであろう精霊についての期待が高まっていた。


 重厚な音色の銅鑼が鳴り、まもなく。鳥の姿の精霊を肩に乗せた璃桜が現われ壇上に着席した。

 沙羅たちは璃桜の肩に止まる鳥が精霊と知っているが、立ち並ぶ貴族たちに向けて特に説明はない。

 既に璃桜のもとに現れた精霊が鳥の姿を好むことは広まっているようで、驚いた様子の者はごく少数だった。

 事前に聞いていた通り、官吏により一人ひとり功績があった者たちの名が読み上げられ、璃桜の名による褒美が与えられていく。

 最後にとうとう喬たちの番となった。


「喬殿、貴殿はその限りない英知により、陛下の即位、及び今回の精霊の召喚に尽力された。

 位を授けようというものも多かったが、貴殿は他国でも様々な活躍をしていると聞く。

 どうやら我が国のみに引き留めることはできぬようだ。

 故にいついかなる時もこの王城への立ち入りを許し、また陛下への直言を許す」


 上位貴族にしか与えられない王城への自由な立ち入り、及び発言の自由を無位の者に授けることに、驚く声は多い。

 その破格の扱いを気にした様子もなく喬はひざまずく。


「謹んで拝領いたします」


 璃桜が許しを与え、喬が下がる。

 次は沙羅の番だ。


「瑞東国沙羅姫」


 喬と同じように前に出てひざまずく。

 他国の名前が出たことに興味深そうな視線が多い。


「他国の姫でありながら、我が国の命運を分ける重大な事態に力を惜しまず助力して頂き、陛下は誠に感謝されている。

 この国での滞在、不便のなきよう計らうとの仰せである。

 また今回の褒賞については希望通り瑞東国の帝と調整を行っている。

 近日、良き話ができるだろう」


「かしこまりました」


 この場で詳細を話すことをしない異例の対応も喬の後では印象が薄いようで、他国の姫だからと特に気にするものはいないようだった。


「王兄、紅耶こうや殿」


 官吏の声に、前に出てひざまずく迅にほぼすべての貴族が注目した。


「王族としての義務を果たさず断わりなく国を出奔した罪はあるものの、陛下の即位、及び精霊の召喚に際して果たした功績は誠に大きい。

 罪は罪であるが、出奔後に得た縁故により、既に二度この国は救われている。

 ゆえに罪は問わぬと結論された。

 陛下は特別に直接紅耶殿の希望を聞きたいとのこと。

 遠慮なく申せ」


 迅は璃桜より年上の異母兄である。

 先王の弑逆にも璃桜とともに関わっており、何かが違えば王位についていたかもしれないと多くの者が知っていた。

 また、二代前の王、迅と璃桜の父に迅の容貌が近いことから、迅を王へと推す派閥も水面下には存在しる。

 迅の希望は、その内容によりこの先璃桜の治世に与える影響が大きい。

 位や財貨を望むのならば、それはのちのち王位をめぐって璃桜と対立する可能性もあると多くの者が思うだろう。

 正殿の中は迅の発言を待ち静まり返った。


「恐れながら、私はこの身の継承権を返上し、名を『迅』と改めたく思います」


 明らかに璃桜に臣下として仕える意思を見せた迅に、貴族たちがざわめく。

 それを横目に官吏は璃桜の指示を仰ぎ、答えを告げた。


「どちらについても陛下は許すと仰せだ。

 迅殿の継承権は消失するが王族籍はそのまま残される。

 今後もよく仕えよ」


「ありがたき幸せです」


 迅が王位につく気がないことに残念そうな顔をしているものもいるが、迅と仲を深めていた武官などは、迅が正式に王族として戻ることに喜びを抑えきれない顔をしている。

 褒賞の儀はつつがなく終わった。

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