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精霊姫の宝石箱  作者: 乙原 ゆん
第四章 比翼

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7.執務室

 精霊の降臨から十日。

 沙羅は迅と共に褒賞の件で璃桜の執務室へと呼ばれていた。

 本来ならもう少し早くに話を聞かれるはずだったのだが、精霊の降臨により璃桜の周囲が騒がしくなり予定が遅れていた。

 喬は事前に褒賞については話をしてあったそうで、先に王家に伝わる門外不出の書物などを見せてもらっている。


 侍従の取次の後、しばらくの間があり璃桜の執務室に入室を許可された。

 精霊の姿を一目見たいと些細な用で璃桜へ面会を求める者が激増したため、面会の手続きが厳重になっていると事前に聞いていた。

 大々的に園遊会を行うと決めたことで、なんとかそれらの者を落ち着けたという。

 園遊会では今回の褒賞も行われるため、沙羅たちも出席する予定だ。


 執務室はよく日差しの入る広い部屋で、素晴らしい彫刻がなされた調度が置かれていた。

 璃桜が書き物を行っている机の側には精霊のため、美しく装飾された止まり木も用意されている。

 精霊はほとんどの時間を鳥の姿で過ごしているそうだ。

 今は璃桜の肩に乗っていた。


 書き物をしていた璃桜が顔を上げた。


「お呼びするのが遅くなって申し訳ありません。

 今度の褒賞のことで事前に希望をお伺いしておこうと思いまして。

 何かございますか?」


 璃桜の言葉に、沙羅は迅と共に跪く。


「この度の褒美として、どうか私と沙羅の結婚をお許しください」


 迅の発言が意外だったようで、璃桜は目を瞬く。


「沙羅殿は?」


「私も同じ気持ちです。

 どうかお願いいたします」


「沙羅殿も望まれているのなら、それはよろしいのですが――」


 璃桜はこの願いを想定していなかったのだろう。

 咄嗟に返事ができずにいる。

 沙羅も一度考えたように、迅と沙羅の結婚にまつわる問題が思い浮かんでいるはずだ。

 言葉を失くす璃桜に迅が続ける。


「陛下が今、思いつかれたと思うご懸念については私も考えました。

 しかし、たとえ国を出ることになっても、添い遂げるならば沙羅がいいのです」

 

 今まで黙って様子を見ていた精霊が問う。


「何が問題なのかさっぱりわからん。私にもわかるように説明しろ」


 璃桜が言葉を選びながら言う。


「お二人の立場が問題なのです。

 伏せられていますが、迅殿は私の異母兄、沙羅殿は瑞東国の姫というのは噂にもなっています。

 おそらくは王城中の者にその認識はあるでしょう。

 だからこそ、迅殿と沙羅殿が結婚されると、周りの者が迅殿は瑞東国の後ろ盾を得て王位を狙っていると思うものが出るかもしれません。

 それに、私の王位に反対している者が彼を王へと推し、国が割れる危険性などもあるでしょうか」


 希望には添いたいがどうすべきかと悩む風の璃桜に、精霊が言う。


「人はそのようなことすら争いの種とするのか」


 そして迅を見ながら鼻で笑った。


「お前、私の庇護下にあるというのに他の精霊と契約をしておるだろう。

 それでこの国の王にするなど、私は許さん」


「そうなの、ですか……?」


 精霊の言葉が意外だったのだろう。

 驚いた様子を見せる璃桜に、精霊は不満そうだ。


「私は璃桜を見込んでこちらに来たのだぞ。

 王家の者だからとそう安々と手を貸すわけではない。

 この者が兄だからと言って、だからなんだというのだ。

 璃桜に文句があるやつはそのようなこと言えぬようにしてやってもよいというのに」


 精霊の言葉を受け、璃桜の頬が染まった。

 だが、真面目な顔は崩さぬまま精霊に向き合う。


「そうまで言ってくださるのは嬉しいことですが、王として認めてもらえれば徐々に不満も減っていくと思います。

 ですのでご不快であると思いますが、しばらくはお目こぼしください。

 しかし、精霊様に今度のお披露目でもそのように言って頂けるのであれば、迅殿と沙羅殿の結婚の件、調整はできるでしょう。

 お二人には今後、色々と難しいことを頼むかもしれませんが」


「結婚をご許可いただけるのであれば、どうなろうと不服はありません」


「沙羅殿のご家族へは?」


「陛下にお許しいただけるのであれば、沙羅の従兄上――瑞東国の帝には、今度の宴が終わったら挨拶に行こうと思っています」


 迅の言葉に璃桜が頷く。


「沙羅殿は故郷を突然出ることになったと伺っています。

 一度帰郷された方が彼の地の帝もご安心なさるでしょうね。

 こちらからも国として使者を出しますが、一緒に向かわれますか?

 少し出立までに時間がかかるかもしれませんが」


 沙羅は迅を伺うと、迅も沙羅を見ていた。

 お互い目で会話し迅が答える。

 

「いえ、それには及びません。

 旅には慣れておりますし、沙羅にもあちらの国でゆっくり過ごす時間があってもよいかと思います」


「わかりました。

 この国の王として、お二人の行く末を心から祝福したいと思います」


 璃桜が言葉を切り、迅と沙羅を見つめる。


「個人的には、兄上にはこの王城しろへ戻ってもらおうと思っていましたが……。

 しかし現実的に考えて、それは難しいのでしょうね。

 沙羅殿あねうえ。兄上のこと、どうかお願い致します」

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