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精霊姫の宝石箱  作者: 乙原 ゆん
第三章 慶黄国

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16.離脱

 迅が連れていかれてから、そう時間をおかず沙羅は一つの決断を下した。

 既に馬車は村に向けて出発していたので、喬に話をするのは村に着いてからだ。

 ひとまずは杏に断り、そう多くはない荷をまとめる。

 その様子に感じるものがあったのだろう。

 杏は何も言わずに沙羅の自由にさせてくれた。

 村に着くと杏に今までの礼を言い、喬を探す。

 辺りは既に暗くなっているが、教えてもらった喬に割り当てられた天幕に彼がいたために、探し回る必要はなかった。


「どうしたんだい?」


「お願いがあってきたの」


「私にできることかな?」


 喬はどこか面白がるように沙羅に問う。


「迅を連れ戻しに、王都へ行こうと思うの。

 だから、できれば喬も一緒に来てほしい」


「そんなこと。

 もちろん、お安い御用さ。

 それに私は沙羅の従兄殿からもくれぐれもと頼まれているからね。

 断られてもついていくよ」


 沙羅にとっては喬を誘うのは勇気が必要なことだったが、喬にとってはそうでもなかったようだ。

 喬の返事にほっとして、沙羅も肩の力を抜く。


「ありがとう」


「それで、すぐに発つの?」


「寛元さんに挨拶をしてから、明日の朝、発ちたいと思うの」


「わかった」


 そう言うと喬は手早く荷をまとめて、寛元のところへと向かう。

 寛元との面会はすぐには実現が難しいかもしれないと思っていたが、そう待たされることなく面会を許可された。

 喬も共に来ているが、主に話をするのは沙羅だ。


「お時間を取って頂いてありがとうございます」


「先の森の中では沙羅にも世話になった。

 少しの時間くらい問題ない」


 礼を言う沙羅に、寛元は鷹揚に答える。


「迅を追い、喬と共に王都へ向かおうと思います」


「だめだ」


 単刀直入に沙羅が隊商を離れ王都を目指すことを告げると、寛元は間を置かずに沙羅の提案を拒否した。

 一考の余地もないようだった。


「ですが、迅の身が危ういことは百もご承知のはずです」


 沙羅の言葉に寛元は頷く。


「そんなことはわかっている。

 だが、喬と沙羅の二人が行ってどうなるというのだ?」


 その言葉に、沙羅は正直に答える。


「私に何ができるか、正直それはわかりません。

 ですが、傍に居れば迅が必要な時に手を差し伸べることができます。

 以前、私はそうやって迅に救われました。

 なので、今度は私の番だと思うのです」


「そうか。

 その気持ちはわかる。

 だが、今の王都は危険だ。

 だから、迅も私に二人のことを頼んだのだと思う。

 私も仕事を放りだして迅のところへ行きたいのはやまやまだが、それは許されない。

 だが、一旦この辺りの荷を届けたら、すぐにでも王都へ登る予定だ。

 それまで待っていてほしい」


 寛元は沙羅の気持ちを否定はしないが、結論は変わらないようだ。

 寛元の言い分はわかる。

 だが、それでも、沙羅には迅をすぐに追いかけた方が良い思うのだ。

 迅が何事もなく帰ってくる可能性もあるが、それまでに何かがある可能性も否定できない。


「申し訳ありません。

 それまで待つことはできません。

 私は一刻も早く、迅のもとへと行きたいと思います。

 今までお世話になりました」


 深く頭を下げると、沈黙が落ちる。

 沙羅がそのままの姿勢でいると、寛元がため息を吐いた。


「私も迅が心配でならないのは二人と同じなんだ。

 だが、だからといって二人を危険に放りこむような真似もしたくない。

 喬は、沙羅をとめないのか?」


「私は沙羅の手助けをするのが仕事のようなものですから」


 寛元のあきらめの混じった声に、喬はほほ笑みながら答えにもなっていないことを答え、寛元は天を仰いだ。

 できれば寛元には納得してほしいが、沙羅も寛元の同意が得られなければ、このまま黙って隊商を抜け王都へと向かうつもりでいる。

 なぜか沙羅が迅の元へ向かうことに罪悪感のようなものを抱いているように見える寛元に、沙羅は告げる。


「私の意思で、迅のもとへ行こうと思ったのです。

 寛元さんのために王都へいくわけではありません」


「わかっているが、君を利用してしまうような気がするのだよ」


 寛元の声は苦渋に満ちている。

 おそらく寛元には寛元の葛藤があるのだろう。

 どういえば寛元は納得するだろう。

 寛元が黙り、沙羅が考え込んだことで、沈黙が落ちる。

 そこへ、喬が告げる。


「寛元さんが反対しても、結局は抜け出して王都へ向かうでしょう。

 そして私たちにはそれだけの能力もある。

 なら、ここで引き留めるより、王都で私たちが困らないよう、誰か信頼できる人を教えて頂けるとありがたいと思うのですが」


 その言葉に、寛元は再度、諦めたように深く息を吐いた。


「わかった。

 私にはどうあっても引き留めることはできないのだな。

 喬の言う通り、そちらの方が建設的なのだろう。

 何かあったら二人が頼ることのできるよう、王都の伝手に手紙を書くからそれを持っていきなさい。

 それと、南部の都市に行けば王都への馬車で定期便が出ている。

 歩いて向かうよりは早くつけるだろうから利用すると良い」


「ありがとうございます」


 沙羅は喬と共に、再度寛元に深く頭を下げた。

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