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精霊姫の宝石箱  作者: 乙原 ゆん
第三章 慶黄国

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10.頑珪

 天幕の外に出たものの、場所が足りないということで結局野営地の外まで足を運んだ。

 その途中、連れだって歩く寛元、頑珪がんけい宗栄そうえいが珍しかったのか、野営地に残っている隊商のほとんどの者たちが見物に着いてきてしまった。

 一方、当事者の二人は周りの喧騒を気にしていないようだ。


「得物は?」


 頑珪の問いに、迅が腰の直刀を示す。


「これで行く。あいにく、普段使ってるのは痛みが酷かったんで今鍛冶屋に頼んでいるところだ」


「ならこれを使え」


 鞘のついた偃月刀を頑珪が放る。

 迅は目を丸くしながら受け取った。


「いいのか?」


「あくまで貸すだけだ。それに、昔と同じ刀の方が成長がわかりやすい」


 にやりと笑う頑珪に、迅も笑みを返す。


「なら、しっかり成長を認めてもらわないとな」


「楽しみにしている。

 さて、勝敗の決め方だが、どちらかが刀から手を放すか、負けを認めるまで、でいいな?」


「ああ。いいぜ」


 二人の準備ができたのを見ると、自然と観衆も静かになった。

 寛元が合図を出し、静かに手合わせは始まった。



  *  *  *



「大分やるようになったな」


「無意味にほっつき歩いてたわけじゃないからな」


 何合かの打ち合いの後、頑珪が迅に話しかける。

 体格が大きな頑珪から繰り出される一撃を受けるのは危険だ。

 迅は頑珪の一刀一刀を丁寧にかわしながら、適宜反撃している。


「加減する必要もなさそうだし、本気で行くぞ」


 そういい置くと、頑珪の動きが激しくなり、鋭さが増した。

 迅はそれを危なげなくいなしながら、それでも直接刀を受けることはしない。


「随分弱腰じゃねぇか」


 あざけるように頑珪が言うが、迅は涼しい顔だ。


「っち。つまらねぇな。昔のお前ならすぐ噛みついてきたもんだが」


 挑発に乗ってこない迅が、頑珪は面白くないようだ。


「そうそう餓鬼のまんまでいられないもんだろ」


「たしかにな。

 だが、ただ逃げるだけだと俺がつまらん。

 折角の機会なんだ。しっかと付き合えや」


 頑珪が獰猛に笑った。

 そして、一旦迅から距離を取ると、勢いをつけ、一撃を放つ。

 体格の大きな頑珪から速度を付けて繰り出されるのはまさに渾身の一撃。

 迅はそれをまた受け流すのかと思いきや、今度はその場で刀を受け止めた。

 観衆がどよめく。

 力の拮抗はわずかの間だった。

 徐々に迅が押し返す力が強くなり、目を丸くした頑珪が迅から距離を置いた。


「まじかよ」


 そして大声で笑いだす。

 ひとしきり笑った頑珪に迅が宣言する。


「今度は俺から行くぞ」


 飛びかかってくる迅の刃を、頑珪は危うげなく受け止めた。

 しばらくは力が拮抗していたようだ。

 だが、頑珪の顔が徐々に苦し気に歪む。

 よく見ると、わずかずつではあるが迅の力に頑珪の足が土にめり込んでいっている。


「強くなったな」


 ぽつり、と頑珪が言う。


「ああ、守るものができたんでな」


「そうか」


 そのやり取りの後、頑珪が迅から距離を置くと声を張り上げた。


「俺の負けだ」


 勝手な宣言に迅が文句をつける。


「なんだよ。勝ちを譲ろうってか」


「ちげぇよ。腕試しはもう十分ってこった。

 道中、頼りにさせてもらうぜ」


 頑珪が力強く迅の背を叩くが、迅はよろめきもしなかった。

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