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精霊姫の宝石箱  作者: 乙原 ゆん
第ニ章 龍を祀る島

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20.宰相

 沙羅と迅、青桐は再び山頂に戻ってきていた。


 山頂は昼間とは印象を変えている。

 満月が辺りを照らし、世界を白く染めていた。

 風は冷たく、秋めいた気配が強く漂い、何もない岩ばかりの様相を幻想的に変えている。

 星は降るほどに輝き、眼下には町に灯る明かりがちらほらと見えている。

 このような時でなければ感嘆の声を上げ、美しい光景を堪能しただろう。


 だが今はそれらをゆっくりと眺める余裕はなかった。

 飛涛らは既に山頂へきており何事か支度をしているため、見つからないよう岩陰に身を隠しながら近づく。

 どうやら飛涛だけではなく、宰相も来ているようだ。

 十人程の屈強な男たちを連れている。

 王女の姿を探すが、肝心の王女の姿は男たちが陰になって確認できない。

 青桐はそのことに苛立っているようだが、迅に押しとどめられなんとか飛び出さずにいる。

 もう少し様子を見るようだ。


「宰相殿たちは何をしているのだろう?

 王女殿下はご無事か早く確かめたい。それだけなのだが。」


「あいつらが邪魔だな」


「あの程度の人数なら、私一人でなんとかする。何故押しとどめる」


「まぁ待てよ。あんたが戦ってる間に王女を連れて逃げられたらどうするんだ」


「くそっ」


 そうしているうちに男たちが移動し、岩場の端、沙羅たちがいる場所から男たちを挟んで反対側に横たわる王女の姿が一瞬見えた。

 男らの陰になっており見えなかっただけで、宰相、飛涛を含め男たちの注意は既に王女にはないらしく、王女は一人横たわっている。

 男たちが中央での作業に集中している様子を見て、青桐が飛び出そうとするのを押しとどめていた迅も、音をたてないように王女の倒れている場所へと回り込むことを決めた。王女を保護し、そのまま離脱するという計画でいくようだ。

 王女の倒れている場所にあと数十歩というところで、我慢の限界だったのであろう青桐が駆けだした。

 血相を変えて王女へと近づくと抱きかかえた。


珠花しゅか様っ」


 沙羅たちも青桐に遅れて駆け寄る。


「おい、急げ」


「わかっているが、手にお怪我をされている。せめて止血だけでも」


 言われて、王女が手首から血を流しているのに気が付いた。


「王女殿下にこのようなお怪我を負わせるなど」


 青桐が何度か小声で呼びかけるが王女に意識は戻らない。

 怒りながらも的確な手際で青桐が血止めを行い、意識がない王女を抱えなおす。

 そうしている間に、宰相らも沙羅たちのことに気が付いたのだろう。

 即座に男たちのほとんどが沙羅たちを囲む。


「これはこれは。犯罪者どもがこそこそと」


「なにを!

 お前たちが殿下をかどわかしたのだろう。

 しかも玉体を傷つけるなど許されると思っているのか!」


「偉業をなすのに少々の犠牲はつきものだ。

 少し王族の血が必要だったので頂いたまで。

 そなたたちはこれから国を救う私の代わりに罪を背負うのだ。嬉しかろう?」


「どういうことだ?」


 宰相の言葉に、青桐が問う。


「この国は翠魔石の輸出に依存している。

 だが、島のほとんどは神域として立ち入りを禁止され、翠魔石の採掘に携わるものも居ない。

 なら、一体どうやって我らは翠魔石を手に入れていると思う?」


「それは、翠魔石が魔石であるゆえ採掘法も特異で王族が管理しているのではないのか?」


「王族と国の要職につく数名を除いてそう教育されているだけだ。

 全てを知るのは限られたもので、王族が流通を管理している。

 今まで疑問に思ったことはないのか?

 私もこの位についた時に真実を知らされて驚いたよ」


「なに?」


「驚くことなかれ。

 王族に翠魔石を与えているのはこの島で祀られている神龍だそうだ」


「神龍様、が?」


 以前女王から聞いた通りの事実に、沙羅と迅には驚きはないが、初めて聞いた青桐は予想外の返答に戸惑っているようだ。


「だがそれも、神を騙るものが我らを騙しているだけだとしたら?

 王家は我らに恵みを授けない神龍に最後まですがるつもりみたいだが、神を騙るものを信じて滅びの道を進むなど愚か者のすることだ」


「おい、宰相の言葉に耳を貸すな」


 宰相が何をしようとしているか想像もつかないが、よくないことであるのは確かだろう。迅は巻き込まれないうちに離脱したいと焦っているようだ。周囲を見渡し、男たちの立ち位置を確認している。


「宰相殿は確信を持たれているようだが、何か確信があるのか?」


 青桐は揺れているようで、迅の言葉をあえて無視して宰相に問う。


「昔、そこにいる飛涛がまだ小さい頃神域に迷い込んだことがあったのだ。

 当時は心配したが、なんと、無事帰ってきただけではなく翠魔石を持って帰ってきのだ。

 しかも聞けば、そこらに落ちていたという。

 その時から疑問を抱いていた。

 そして宰相の位に就き、王家に神龍が翠魔石を授けていると聞き、疑問は確信に変わった。

 神を名乗る何者かは、島を不当に占拠するだけではなく、そこで採れる魔石を授け物として王家に与えているだけではないのか、と」


「ならば、宰相殿がしようとしているのは」


「そう。この島を私の手で神龍という呪縛から開放する。

 今までにもいろんな方法で試したが、残念ながら神龍を退けるほどの効果はなかった。

 やはり、この国を生まれ変わらせるには神龍を騙るものとの契約を解くのが一番早いらしい。

 本来は息子とそこの王女が婚姻を結んだ後に事を起こすつもりだったが、どうやら陛下はそちらの男の方を気にいられているようだし、少々予定を早めることとした」


 突然知らされた真実に青桐は動揺している。


「つまり、ここ数年、神龍が姿を現さなくなったのは、宰相殿が何かしていたから、ということか?」


 迅の問いにも宰相は鷹揚に頷く。


「契約は破棄されるには至らなかったが、不快な存在を退けるには役に立ったようだな」


 そこで、宰相の背後で何やら作業を進めていた飛涛が宰相へと囁く。


「どうやら最後の準備に移るようだ。

 お主たちには王女誘拐と玉体を傷つけた罪などを引き受けてもらう。

 万が一にも生き残ることができれば、そこで私が偉業を為すのを眺めるがよい。

 お前たち!

 死んでも構わん。むしろ口を開けない方が都合が良い。

 やってしまえ!」


 言葉と共に沙羅たちを囲んでいた男たちが襲いかかる。

 迅と青桐は抜刀した。

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