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精霊姫の宝石箱  作者: 乙原 ゆん
第ニ章 龍を祀る島

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16.山頂

 沙羅と迅、青桐は王城すらも見下ろす山の上に来ていた。


 迅の言葉が青桐を経由して王女に伝わった結果だ。

 婿候補とはいえ、さすがに何の関係もない者に、王家と神龍の契約内容は教えてもらえなかった。

 契約の証についても、心当たりはないという返答だった。

 言葉の通りに契約の証そのものが存在しないのか、誤魔化されているだけか、判断はできなかった。

 だが、代わりに王家の始祖と神龍が契約を交わしたと言われている場所に青桐が案内するということになった。

 王女はさすがに軽々しく外出はできないということで、青桐が案内することになったと聞いている。


「ここがそうなのか?」


 何もないではないか、という言葉こそ出なかったが、迅の態度が言外に語っていた。

 確かに、山の頂上には特出したものは何もない。

 ほこらがあるわけでもなく、岩がいくつか転がっているだけだ。

 辺りを見回してみても、海側の眺めはいいが、その反対側、島の内陸側にはもっと高い山々が連なっている。


「王女殿下はそう言われていた。

 あと、あまり斜面の反対側へは入らぬように。

 そちら側は神龍様の聖域になる」


 青桐の言葉に迅はうめき声を発して後ずさった。

 海に落ち、はぐれた沙羅を迎えに来てくれた際、かなりの苦労があったと聞いている。

 それが思い出されたのだろう。


「本当に、何もないのですね」


 沙羅も辺りを見渡して、思わず迅が言わなかった言葉を口に出してしまった。

 何もないからこそ許可が下りたのかもしれないが。

 でも、もっと何かがあるのだと思っていた。


「神域との境になるからな。

 王城の背後にもなるし、立ち入りが許されることの方が珍しい。

 それで、満足したか?」


 青桐も王女に命じられたからこそ案内したが、本音では早く王女の元へ戻りたいのだろう。

 迅が何か気になることはないかと視線で問うてきたが、沙羅も特に気になることはないので首を横に振る。


「そうだな。何もないようだし、戻るとするか」


 山自体もそんなに高くはなく、この場所まで王城から一刻ほど歩いただけで到着している。

 帰りはもう少し早いかもしれない。


「では、」


 青桐がいいかけたところで、何かの気配を感じた。

 迅が素早く沙羅の傍により、剣に手をかけている。

 青桐の方を見ると、彼にも感じられたようで彼もまた剣に手をかけていた。


「このような場所に人の子が来るとは珍しい。

 だが探しておったところなので手間が省けたな」


 声がしたかと思うと、空中から沙羅の前に緑色の髪に金の瞳を持つ男が現れた。

 特徴的な話し方に人ではありえない髪の色、先日沙羅に仙木を治癒させた精霊だった。

 今にも抜刀しそうな迅を、精霊の男は気にも止めていないようだ。


「あなたは」


「沙羅、知っているのか」


 迅は警戒した様子で沙羅に問いかける。


「この間お会いした神龍様の眷属の精霊よ」


「そうか」


 沙羅の答えに、迅は頷くが警戒した姿勢を崩さない。

 青桐の方は精霊と聞いてただただ驚いているようだ。


「神龍様の眷属の精霊殿が、どのような御用でしょう」


 様子からして神域の近くに立ち入ったから、という理由ではないだろう。


「対価を約束していたろう。

 準備ができたから持ってきたまでのこと。

 ほれ。これよ」


 そう言って差し出されたのは、見たことがないほど大きな魔石だった。


「もらってもいいの?」


「そのために持ってきたのだ。

 人の子らの間ではこれが重宝されるのだろう。

 いらぬのか?」


「いただくわ」


 沙羅は精霊に近づくと、両手で魔石を受け取った。


「これで貸し借りはなしだ。今は傍におらぬようだが、文句ばかり言っておった水の精霊にもよろしく伝えておくがよい」


「わかったわ」


 そして要件は終わったとばかりに去ろうとする精霊に、沙羅は安堵した。

 今回もまた難題が持ち込まれたらどうしようかと内心では心配だった。


「待ってくれ。聞きたいことがある」


 だが、青桐の方はそうではなかったようだ。


「お前は?」


 精霊は不快気に青桐の方を向いた。


「私は名を青桐という。

 精霊殿には誠に失礼ながら、王家に仕える者として問う。

 神龍様は今、どこにおられるのだ。

 それに、王家と結ばれた約定が果たされていない理由を聞きたい」


「何故それを縁もゆかりもない人の子に教えねばならぬのだ」


「神龍様が何故お隠れになられたのか、私たちは全くわからないのだ。

 神龍様にお戻りいただくのに、何か協力できることがあるかもしれない」


 その言葉に、精霊は口の端を皮肉気に歪めた。


「何が協力だ。

 神龍様がお隠れになられたのはそなたら人の子のせいであるというのに。

 どこにいるかわからない?

 そうであろうな。

 私にさえわからぬことが凡庸な人の子らにわかるはずもない。

 しかも、約定が果たされない理由を教えてほしいだと。

 よくもそのようなことが言えたものだ。

 神龍様との約定を拒んでおいて、それでよく約定が果たされると思えるものだな。

 全く、私には理解ができぬ。

 私には話すことなどない。

 人の子をこの地に暮らすことを許した神龍様に免じて今回は見逃してやる。

 次はないぞ」


 そう言って、現われた時と同じく、唐突に精霊は消えた。


 精霊の言葉はどういう意味だろうか。

 誰も一言も話さない、重苦しい空気のまま、王城まで下山した。

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