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精霊姫の宝石箱  作者: 乙原 ゆん
第ニ章 龍を祀る島

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8.王城

 王城へはそのまま向かうことになった。

 宿を出ようとしていたこともあり、荷物などもすべて持っていたため差支えはない。

 宿の入り口には、三人の武官が待機していた。


「護衛です」


 こちらが何か言う前に役人は言うが、断られた場合の脅しに呼んでいたのではないだろうか。


「念が入ったことだな」


 迅が嫌味を返す。

 だが、行くといったものをひるがえすことはなかった。

 武官と共に貴人が乗るような馬車が用意されており、王城へはそれに乗って向かった。


 町と王城周辺を隔てる壁のところへ差し掛かると、壁を穿うがち人と荷が通れるくらいの道が通してある。

 そこを衛侍が守っていた。

 許可のないものは入れないらしい。

 沙羅たちは役人が一言二言話しただけで馬車を降りることなく通される。


 壁の中は、おそらくは身分が高い者たちの家なのだろう。

 建物一軒一軒に広く土地を使ってあり、それぞれの建物は道からは見えなくなっていた。


 次第に道が上り坂になり、王城を見上げる山の裾野に入り口がある。

 そこで馬車を降りた。

 王城は昨日遠目に眺めたのと同じだ。

 近くで見る分、その大きさに圧倒される。

 崖と言ってもいいような斜面に木の柱が組まれ、建物の一部が張り出している。

 柱は赤く塗られ、山の緑と対照的だ。



 王城への入り口はその柱を回り込んだわかりにくいところにあった。


「それでは、我らの役目はここまでですので。あとは彼らに従ってください」


 崖をくり抜いた通路を通り、城の中へと入ると、内向きのことを管理するものたちに引き合わされると、役人は去っていった。

 沙羅たちは、まずは支度と言ってそれぞれに分かれて湯を浴びせられ、この国の衣装だと思われるきれいな衣に着替えさせられる。

 その間、迅と離れるのは不安だったが、「まぁまぁほほえましいことですね、大丈夫ですよ。女王陛下にお会いするのにその恰好はあんまりですから、着替えるだけです」と女官たちに言われて、従うしかなかった。


 迅だけが謁見するのだと思ったが、どうやら違うらしい。

 沙羅の支度を手伝ってくれたのは二人の女官だった。

 てきぱきと沙羅の世話をする手つきも鮮やかだ。

 衣装は短い身体の線を出す上着に、裳に似ている腰巻。

 肌ざわりからして絹だろうか。

 襟は詰まっており、袖と腰巻はふんわりと広がるような形だ。

 紫紺の瞳に黒髪の沙羅に色を合わせたのだろう、衣は薄い青色をしている。

 髪は結われ、これまた青の花を模した飾りがつけられた。

 それらの支度に数刻かかり、すべてが整ったのは日が中天にさしかかる頃だった。


「これで終わりですよ」


 仕上げとばかりに唇にわずかに紅をさされる。


「おつかれさまでした」


「ありがとうございました」


「お嬢様は素材がようございますから、私たちも楽しゅうございました」


「本当に。我が国の姫様とはまた違う趣で」


「お姫様がいらっしゃるの?」


「ええ。珠花さまと言われて、最近はよく陛下の謁見にも立ち会われるのです。

 運がよければ姫様にも拝謁できるかもしれませんね」


「では、兄君のところへお連れしましょうね」


 うすうす察していたが、迅のことを兄だと思っているのだろう。

 ここで訂正しても面倒ごとになる気がして特に訂正せず、迅のところに連れて行ってもらう。

 履物もくつを用意されていたのでそれを使うよう指示され、履き替えた。


「こちらでお待ちになっておられますよ。どうぞおはいりください」


 扉を開けると、異国の高級なしつらえよりも、まず迅の変わりように目がいった。

 足を組み、くつろいでいる姿はどこかの国の貴公子のようにも見える。

 少し伸びた赤錆の髪は後ろで一つにくくられ、衣はこちらも着替えさせられたのか、白地に紺の刺繍がほどこされたものだ。

 沙羅と似た形の服だが丈は裾まであり、その下に袴のようなものを穿いている。

 腰のあたりを帯紐でくくっており、帯剣は許されないのか剣帯のみ迅のもののようだ。

 迅は支度が整うのが早かったのか、個室に通され茶と軽食でもてなされていたようだった。

 机の上には茶器といくつかの皿が並んでいる。


「遅かったな」


 顔を上げた迅の表情が固まった。


「おかしい、ですか?」


 原因はそれしかないだろうと、おそるおそる尋ねる。


「綺麗すぎて驚いた。そういうのも似合うんだな」


「褒めて頂けてよかったですわね。それではここでお待ちくださいね」


 沙羅の分の茶やら軽食を整えるために同席していた女官がそう言ってくれるが、沙羅は思いもよらない言葉に頷くことしかできない。

 女官は一通り支度を終えると扉を閉めて退室していった。


「とりあえず、座ったらどうだ? 茶もうまいぞ」


 促され、迅の正面に用意されている椅子にぎこちなく腰かける。

 なんとなく顔を見るのが気恥ずかしく、広く開け放たれた窓のほうを眺める。


 窓の外は中庭になっているのか、木々の向こうに微かに城の屋根が見える。

 庭には南方の植物が多く、葉は大振りで色とりどりの花が咲き乱れている。

 見られることを意識して、丁寧に作られている庭だ。

 室内外で虫よけの香が焚かれ、花の蜜の匂いとともに香ってくる。

 ひとまず心を落ち着け、用意された軽食に手を伸ばすことにした。


 迅が言うように、軽食もだが、茶もおいしい。

 沙羅が軽食を食べ終わり、しばらくして謁見の準備が整ったと迎えが来た。

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